勇者「魔王倒すまで何度でも蘇る」 1/8

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王「おお、勇者……死んでしまうとはなさけない」

王「ちなみにお主の死亡数は現在……」

勇者「いや結構。自分の事ですから分かってます、これで私は216回目の復活を遂げたのですね?」

勇者「すぐに次の旅の支度へ取りかかりますので、私はこれにて失礼させていただきます……」

騎士「勇者、早く魔王を討ってくれ!これでは何の為に我々が魔王軍の攻撃を引き受けているのかわからんぞ!」

大臣「魔物どもは遂に侵略の手を広げ始めたのですぞ。北の国は既にもう落とされたとの報告が上がったのだ」

勇者「そ、そんな……」

王「勇者よ、もたもたしておる場合ではないというわけじゃ!どの様な汚い手段でも構わん、魔王をかならずや仕留め、我らの危機を救え!」

王「50Gを渡そう。旅の支度を整える為使うといい」

勇者「えっ、これは少ない……」

大臣「無理を言わないでくれ。これでも精一杯の支援だ」

大臣「いくら何度蘇れようが、早く魔王を討たねば、状況は悪くなる一方。忘れんでくれ……」

勇者「そのお言葉は既に100は聞かされました……い、行ってきます……」

「勇者だ」「あいつまた死んで戻ってきたのか」「何度目だよ!」

勇者「ひのきのぼう、それから薬草を2つ……」

商人「ん……」ポイ

勇者「あっ……投げないでくれ、もっと丁寧に……」

村人「いつなったら魔王倒せんだよ!雑魚が勇者なんて大層な称号ぶら下げてんじゃねー!」ポイ

勇者「い、石も投げないでくれ……」

ガキ「うんこ勇者!どっか行けよー!」ポイ

勇者「ううっ、すまない。すまないみんな……」

僧侶「!」

僧侶「あの方は確か」

神父「おお、神よ!この勇気ある若者へ祝福の光を」

神父「……勇者殿、やはりまたレベルが1に戻られてますな。武器や防具は?」

勇者「知ってるだろ。俺は死ぬと最初の、旅立つ前の状態へ戻されてしまうんですよ」

勇者「体だってそうだ、あの頃のまま、16歳の肉体のままなんです……」

神父「難儀しますな、勇者殿」

勇者「ありがとう神父さま。自分はそろそろ町を出ます。長居すると良い目で見られないので」

神父「気をつけなさい。村の外の魔物は年々強くなりつつある。下手を打てば」

勇者「前回も前々回も、その前も、村から出た瞬間死にましたよ……へっへっへっ……」

僧侶「あの」

勇者「え?」

僧侶「お初にお目に掛ります。私は僧侶というものでして」

神父「勇者殿、この娘は最近こちらに派遣された者でしてな」

勇者「そうなのか、俺にはどうでもいい話だ。お前何か用か……」

僧侶「あっ!いえ、用というわけでは……ただ」

勇者「それなら安易に俺へ話しかけない方が身の為だ。村人たちから何を言われるかわからんぞ」

勇者「では、行ってきます。またお世話にならない為に今度こそ魔王を倒してくる」

神父「そ、そうだな……頑張りなさい……」

勇者「頑張れって言わないでくださいよ。俺、ずっと頑張ってるんですから」

勇者「」タタタ…

神父「瞳があの頃とは変わってしまったなぁ。まるで人形だ」

僧侶「……う、うう」

「ユウシャ、ユウシャダ」ヒソヒソ

勇者(さっさと外に行こう。俺には一刻も猶予は残されていないんだ)

勇者「……」トボトボ

僧侶「お、お待ちください!!」

勇者「さっきの僧侶か……あくまで俺の忠告を聞き入れないんだな」

僧侶「勇者様、その装備と道具の少なさで外へ出られるおつもりですか!?」

僧侶「そ、それに酒場で旅のお供の方を誘ったりは?」

勇者「必要ない。俺は一人でいいんだ、その方が素早く移動できるから」

僧侶「本当に村の外は危険な状態なのですよ!今の勇者様ではスライム一匹ですら歯が立つかどうか……」

勇者「だ、黙れ!!お前は俺を笑いに来たのか!!僧侶如きが何を……!」

僧侶「違います!私はあなたを哀れと思って!」

僧侶「はっ!?」

勇者「……そうかよ。お優しい僧侶さまでいらっしゃるなぁ」

勇者「いいんだよ、俺をそんな風に思わなくてさ。俺は役立たずのゴキブリ勇者なんだからさ」

僧侶「自分を卑下なさらないでください……」

勇者「話はもういいだろう。ほら、周りがお前を変な目で見始めたぞ。さっさと帰れ」

僧侶「あっ、う……」

勇者「なーに俺にはどうせすぐ会える事になるさ。また教会のお世話になるだろうからな」

勇者「じゃあね、僧侶サマ」

僧侶「あれが勇者……あんまりすぎる……」

僧侶「……!」

スライム「ピキー!」

勇者「ひっ……」

スライムのこうげき! 勇者は7ダメージをうけた!

勇者「う、うぐえええぇぇぇ~~~っ!?」

勇者「はぁはぁ、はぁはぁ……おえぇ……!」

ドラキー「ギャオー」

勇者「ひぃ! く、来るな……来ないでくれぇ……いやだぁ……」

ドラキー「ギャー!」

勇者「嫌だあぁぁぁぁぁぁーーーーーー!!」

僧侶の攻撃! ドラキーは68ダメージをうけた! ドラキーを倒した!

勇者「へ……?」

僧侶「下っていてください 勇者様……」カチャリ

勇者「つ、強い」

魔物のむれをたおした!

僧侶はホイミをとなえた! 勇者はかいふくした!

僧侶「危ないところでしたね」

勇者「お前、何でここにいるんだよ……」

勇者「俺をどこまでコケにすりゃ済むんだよ!雑魚に強さ見せつけて優越感に浸りに来たのか!」

僧侶「いいえ、違いますよ。手助けに来たんです。言った通り村の外は危険だったでしょう?」

僧侶「勇者様、あのままではまた死んでしまうところでしたもんね?」

勇者「うるさいんだよ……手助けだ?」

勇者「仲間はいらないって俺はお前に言ったはずだ。邪魔なんだから帰れよ」

僧侶「お断りさせていただきます!」

勇者「……」トボトボ

僧侶「……」スタスタ

勇者「何度言わせる帰れ小娘!邪魔と言ったのが理解できないのか!」

僧侶「邪魔にならない自信が私にはあります。気に食わないのなら無視なさればよろしいではありませんか?」

勇者「このガキ……大体教会はどうした!職務を果たさなくていいのか!」

僧侶「えっと……確かに神父さまには黙って出て行ってしまいましたが」

僧侶「勇者様の助けとなるのなら、あの方も御許しになってくれるはず!」

勇者「だとしても俺が許さない。仲間は必要ないんだ」

勇者「いたって、無意味なんだよ……!!」

僧侶「そうでしょうか。一人よりは二人、です。人間皆助け合っていかなくてはいけませんよ」

勇者「知った気でいるなよ!!冗談じゃねぇ!!」

僧侶「ああっ、走らないでくださいよ!魔物に襲われて死んでしまいます!」

勇者「畜生ぉーっ!!」タタタ…

僧侶一人で魔物のむれをたおした! 勇者はレベル2になった!

勇者「むっ!」

僧侶「あっ、おめでとうございます。これで少しは強くなれましたね!」

僧侶「この先の戦闘もしばらくは私にお任せしてくださいな。勇者様は隠れて見ているだけ大丈夫ですから」

勇者「うるさいうるさい……僧侶のくせに……」

僧侶「くせにって何ですか。あなただって勇者のくせに!です!」

僧侶「何故あそこまで勇者様は弱いんです?正直言ってあれは戦いというよりイジメの光景でした……」

勇者「うっ!?」

僧侶「いくらレベルや装備が最初の状態へ戻るといっても、多少は武器も振れるはずかと」

僧侶「もしかして、今まで村の外へ出た時点で死にまくっていたとか」

勇者「しつれいな事を言うんじゃねぇ!!魔王城まで3度は辿り着いた!!」

僧侶「え!?それで!?」

勇者「うがァーッ!!」

勇者「別に武器がまともに振れないわけじゃない……」

僧侶「何か理由が?」

勇者「……単純に、魔物に対して恐怖心が沸いてきてて」

僧侶「それで、武器はあるにも、魔物と戦えないと?言わば魔物恐怖症ですか」

勇者「死はもう恐れてない。ただ、奴らがすごく怖い。それだけなんだ……!」

勇者「もういいだろ。こんな情けない勇者放って帰れよ。愛想も尽きてきただろ」

僧侶「いえ、むしろ守ってあげなきゃいけないと思えてきましたよ?」

勇者「ガキがぁぁぁぁ~……!!」

僧侶「少しづつ克服していきましょう?だから、戦闘は私だけに任せていただいてよろしいんですから」

僧侶「さぁ、行きましょう勇者様。次の町までどれぐらいレベルが上がるか楽しみですね~!」

勇者「何なんだよこの僧侶は……」

僧侶「やりましたね勇者様!もうレベルが5になってますよ!」

勇者「だがこれでは今の魔物たちには歯が立たないんだろう……? ていうか、魔物を見たくない」

僧侶「そ、そのようなこと言われては魔王を討てませんではありませんか」

勇者「き、今日はこの町の宿で休もう。お前は今から帰れ」

僧侶「お断りします」

勇者「うるせぇ!俺の言う通りに帰っておけ!酷い目見るぞ!」

僧侶「勇者様は何度もその酷い目を見てきたのでしょう?ならば、これぐらいヘッチャラです」

勇者「知った気になって、これだからガキは嫌いなんだ……!!」

勇者「オヤジ、一晩宿泊したい。いくらだ?」

宿屋「あなたは勇者様ではありませんか!いやぁ、一晩なら60Gで構いませんが」

勇者「何だと……」

僧侶「はい、60Gです」

宿屋「どうもー。部屋は二階のどの部屋でも構いませんぜ?」

僧侶「ですって。行きましょ、勇者様」

勇者「……あ、ああ」

僧侶「ほら、お金もないんですし、やっぱり私を連れて行った方が」

勇者「くそっ!」

僧侶「勇者様?どちらへ?」

勇者「酒場だ。これが飲まずにやっていけるか!酒だ、酒!」

僧侶「お酒って……勇者様まだ子どもじゃないですか!」

勇者「俺が?そりゃ見た目だけさ、俺は26だ。26歳!既に成人している!」

僧侶「うそ!?だ、だってどこからどう見ても10代後半ぐらいにしか……」

勇者「うるさいな……じゃあな、お前は寝るか帰りな」

僧侶「ていうかお金ないでしょう?」

勇者「……」

僧侶「わかりました。今回だけは私がお支払いしますよ」

勇者「くそぉ……くそぉ……!」

勇者「うー……酒はいい……唯一のオアシスだ~……!」

僧侶「本当に26歳?冗談のようにしか聞こえませんがねぇ……」

僧侶「だって、そうなると16の時に旅立ったとしたら、10年も時が経っているではありませんか」

勇者「……」

僧侶「あなたはこの10年間ずっと戦ってきたのですか?」

勇者「酒もっとくれ~!!酒を~!!」

僧侶「ゆ、勇者様……」

勇者「……俺がどうして勇者やってるか分かるか」

僧侶「え?」

僧侶「そ、それは血筋とか、剣の腕が凄まじいとか」

勇者「惜しい、前者が近いな。俺は昔から神のご加護とやらに守られて生きていたらしい」

勇者「それでこの不死身の体だ。何度殺されようが自分の状態だけリセットされ、元のスタート地点へ帰れる」

僧侶「は、話だけなら聞いていましたが、まさか事実だったなんて」

勇者「俺はお前がチビガキの頃から魔王暗殺の旅をしてたってわけだなぁー」

勇者「……俺はよぉ、正直死にたくて堪らないんだよ」

僧侶「そんな事仰らないでください……!」

勇者「死んでも、死んでも終わらないし、益々状況は悪化していくだけ。何度も自殺を図ったこともある」

勇者「でもさぁー……結局はスタート地点で復活してんだ、俺ー……」

僧侶「う、うう」

勇者「イヒヒヒヒヒ……へ、へへへへ、へへ……」

勇者「魔王にとって、俺は殺して殺しても向かってくる無謀なバカにしか見えないんだろうなぁ!」

勇者「しかもなんか魔物恐怖症とかなってるし、お陰で雑魚いし!」

僧侶「で、でしたらこんな旅を止めて、何処か暮らせばよいではありませんか」

僧侶「静かに何処かで。今まで頑張った分、休みましょうよ?」

勇者「俺さ、ここ10年間自棄になって魔王討伐の旅してたろ。それさ、もう俺の人生なんだよ」

勇者「正直逃げ出してもいいとは思ってる。だけど、それからする事なんて俺には何も思いつかないんだわ」

勇者「そしたらもう、腐ってくだけじゃん。しかも俺死ねないんだぜ!?周りは死んでいくけど、俺は老衰でもしなない!」

勇者「仮にまた自殺でもしたら肉体は再び16歳へ戻るんだ。気持ち悪ィよな、それってよぉ……」

僧侶「え、えっと……えっと……!」

勇者「俺は神の加護に守られてるんじゃない。呪われてんだ」

勇者「だから、この呪いが解けるか分かんないけど、俺は魔王を倒す。それだけが俺の生き甲斐なのさ」

僧侶「あんまりよ、そんなの……ひどい」

僧侶「よいしょ」

勇者「くかー……」

僧侶「勇者様、すごく軽かった。心が疲弊し切っているから体にも影響があるのかな」

僧侶「弱いとか酷いことを言ってしまったわ、私……明日ちゃんと謝らないと……!」

戦士「おい、そこの姉ちゃん。大丈夫か?男を背負ったりして」

僧侶「あ、はい!お気遣いなく!」

戦士「そう?まぁ夜道は暗いか気をつけて歩きな―――お、おい!」

戦士「その男、まさか勇者じゃねぇか!?」

僧侶「そうですけど……それが何か?」

戦士「この野郎ッ!!」グイ

勇者「いたっ!?」ドサ

僧侶「ああっ、何をするんですか!?」

戦士「てめぇ、この悪魔め!」

勇者「ひ、ひぃ……」

僧侶「暴力はやめてください!この方は勇者様なのですよ!」

戦士「それが大問題なんだよ!この男は俺の姉を殺したんだ!」

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