勇者「女魔王との結婚生活」 3/7

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勇者「玉座に座っているお前を見た瞬間からだよ」

女魔王「……っ」

勇者「一目惚れってやつだ。勇者が、魔王にだぜ?」

勇者「それくらい、お前は美しく、妖艶で……魅力的だった」

女魔王「……そ、そうか」カァ

勇者「機嫌、なおったか?」ナデ

女魔王「…………べつに、怒っていたわけではない……」プイ

勇者「じゃあ魔王は?」

女魔王「?」

勇者「お前は、どうして戦いの最中に告白してくるようなヤツに心を許したんだ?」

女魔王「それは……」

女魔王「あの時の貴様の仲間共の目が点になった顔といったら……」クク

勇者「おいおい、そこは触れないでくれよ……」

女魔王「ひんしにまで追いやったはずの女戦士が『えっ?』と言って起き上がったのがまた……」ククク

勇者「まあ、あれで場の雰囲気は弛んだよな、殺し合うなんて状況じゃあなくなった」ハハ

女魔王「強いていえば…」

女魔王「貴様が、強かったからだな」クス

勇者「それは……強かったら誰でも良かったのか?」

女魔王「ちがう」

女魔王「貴様だから良かったのだ……勇者」

ギュ

勇者「そ……そうか」ポリ

女魔王「我と互角にやりあえる生物を初めて目にした」

女魔王「そいつは、愚直なまでに自らの種を愛し」

女魔王「純粋すぎる精神で、我を殺しにきた」ニコ

勇者「そこ、笑うところか?」タラ

女魔王「ああ、愉快ではない…」

女魔王「……嬉しいのだ」

勇者「……勿論、戦闘前には口で説得も試みたさ」

女魔王「話し合いが通じるなら初めから大戦など起こらぬ」

女魔王「……ソイツは、我の全力の攻撃を受けても倒れず…」

女魔王「最大呪文を受けても、なお直進してくる。我から見ても十分な化物であった」

勇者「怖かった?」

女魔王「そんなハズがない」フルフル

女魔王「倒しても倒れず、殺しても死なない。無二の親友に出会ったような気分に気持ちが高揚し、えにも言えぬ幸福感にこの身は包まれていた」

勇者「確かに……魔王目線から見ても、化物だな。ソイツは」ポリ

女魔王「そうしてどちらがいつ地に伏してもおかしくはない極限状態の最中に…」

女魔王「……『惚れた』などと言われれば、驚くなという方が無理な話だ」ハハ

勇者「それで、お前はこう言ったんだ」

勇者「『いっ、一週間待て……返事は追ってする』」クス

女魔王「な、なにが面白い」カァ

女魔王「我は真面目に答えたのだ。興味が無ければ必殺呪文と一緒に返事を突き返しておったわ」

女魔王「それで……いまさら、あの時の話などをして……どういう腹持ちだ?」ジト

勇者「なに、なんてことない」

勇者「俺は……魔王、お前と一緒にいられるだけで幸せなんだ」ニッ

女魔王「っ」

勇者「お前がなにをするでもなく、俺は、お前によって既に幸せなんだ」

ナデ

女魔王「な、撫でるな……」カアァ

勇者「それで、寿命の話に戻るんだけど」ハハ

女魔王「……」ジト

勇者「そんな顔をするな、こう言ってはなんだが……俺の人生は魔王討伐のためにあった」

女魔王「……そのようだな」

勇者「しかし、それが思ったよりも早く、思いもしない最高の形でその役目を果たすこととなる」

勇者「ただ倒すだけでは今のような平和にはならなかったのかもしれない」

女魔王「……そこでひとつ良いか? 勇者」

勇者「……いいぞ」

女魔王「共存、と耳に心地良い言葉を使ってはいるが…」

女魔王「……今の段階ではただの"住み分け"だ。貴様の目指す平和とは少し違う気がするのだ」フム

勇者「俺が掲げる共存は、人間も魔物も分け隔てなく暮らしていける世界だからな……」

勇者「だがどちらもどちらともを食す状態で、理想ばかりでは……」ウーム

女魔王「まあ、今する話でも無かったか……すまぬ、話が逸れた」

勇者「逸れる大いに結構だ」ニコ

勇者「これからは指標の無い中での人生」

勇者「ただ漫然と生きるわけではなく、俺の人生だけじゃない……それこそ子孫代々に続いていくんだ」

勇者「子育てが一番のメインになるかもしれないな」

女魔王「子育てか……」

女魔王「……その子は人間として育てるのか? 魔物として育てるのか」

勇者「どちらでもないと思うな……」

勇者「俺と魔王の子供。それだけで良い、育て方はその都度産まれてくる赤ん坊に合わせていけば良いだけさ」

女魔王「随分達観しているな……なにを悟っている、それとも諦めか?」

勇者「悟っているわけでも諦めたわけでもないよ」

勇者「人生に希望を持っているだけだ」ニッ

女魔王「それは……勇者らしい生き方だ」クス

女魔王「……よかろう」

女魔王「寿命の方については、我も色々と考えておく」

勇者「変に思い込まないようにな」

女魔王「わかっておる……だが今はこうして勇者も生きているわけだ」

勇者「おう、たぶん世界一元気だぜ」ハハ

女魔王「そうだな……ではとりあえず…」

ガチャ

女魔王「……買い出しにでも行くか」クス

勇者「あー、冷蔵庫が空だな」

勇者「それじゃあルーラで……」

女魔王「待て」

女魔王「また頭をぶつけるぞ……その場で翔ぶ癖を直せ。外に移動するぞ」フゥ

勇者「天井のシミの数より多いかもなあ……頭突きの跡」ハハ

――…

女魔王「そうだ勇者」

勇者「?」

女魔王「夜の方の話なのだが」ズイ

勇者「は、はい」

女魔王「やはり精力を奪われるのは酷だろう……」

勇者「まあほどほどが一番だと思うぞ……」

女魔王「ほどほどとはどれほどだ? 50? 100??」

勇者「これくらいかな」スッ

女魔王「人差し指に中指、薬指の3本か……30回か、妥当だな」

勇者「だから人間は一本を1と数えるんだって」

勇者「3回から……まあ俺は体力もあるし、5回もすれば多いほうだろう」

女魔王「なっ……ご、5回……だと……」アゼン

女魔王「…………」モジ

勇者「ん?」

女魔王「6回じゃ……ダメ、か?」カァ

勇者「……10回でも20回でもっ」グッ

勇者「(萌え殺しが一番心臓に来る……な)」ハァ

――…

女賢者「ご懐妊ですね……」スチャ

女魔王「……そうか」ナデ

女賢者「私に診察させるなんて嫌がらせですか?」

女魔王「いやなに…」

女魔王「……これから見せるところは見せるワケだ。信頼のおける人間に視てほしいと思うのが普通だろう」ニコ

女賢者「そうですかそうですか」ハァ

勇者「実感が湧かないな……」

女魔王「嬉しいが、少し残念な部分もあるな」

勇者「?」

女魔王「これからは、あの全身が痙攣するような絶頂を味わう数も減るわけだろう」フム

勇者「ははは……人前ではそういうの言っちゃダメだからな」

女賢者「私の前も人前なんですけどっ」タラ

『すみませーん』

女賢者「はーい」

勇者「この声は……」

女戦士「賢者さん、この前お借りした……っ!」

勇者「久しぶりだな」

女戦士「ゆ、勇者様……お久しぶりですっ」ペコッ

勇者「相変わらず律義だな……」

女魔王「おや、その小娘も見覚えがあるな……」

女戦士「……魔王…」

女魔王「戦士の割りに華奢で……やたら若い…ああ」ポン

女魔王「小娘Cではないか」ニコ

女戦士「小娘Cという名ではありません……」キッ

女賢者「そうか……戦士ちゃんまだ余裕で10代半ばだもんね…うらやましい」ハァ

勇者「それで、魔法の杖なんて借りて……なにに使ったんだ?」

女戦士「は、はい……その…………ええと」ボッ

女賢者「若いわねえ……」クスッ

女戦士「実は……魔法を習っていまして」カァ

勇者「魔法……」

女戦士「魔法も修得すれば、更に勇者様に近づけるかと……」カアァ

勇者「確かに鍛錬は大事だが…」

勇者「……これからの時世、冒険に出る必要もないからそこまで強くなることもないんじゃないか?」

女戦士「でも……」

女戦士「前に、勇者様が……『俺より強くなったら…」ゴニョ

勇者「どうだ? 魔王から見て、戦士の才能は??」

女魔王「素養はあるみたいだが…」

女魔王「容姿的に、いま流行りの職業、アイドルでもやっていた方が合うぞ」

女戦士「それは貴方にそっくりそのままお返しします」ニコ

勇者「戦士……目が笑ってないぞ」ハァ

女戦士「そういえば……お二方はどうしてここに?」

勇者「ああ、すこし診察にな」

女賢者「ご懐妊です」ニコ

女戦士「っ! それはおめでた…」

女戦士「……い…ことで……」チラ

女魔王「?」たゆん

女戦士「くっ……」

女戦士「やっぱり大きいのが一番なんだ……」ブツブツ

勇者「おいおい、明るくなったり暗くなったり……忙しいやつだな」

女賢者「気をたしかにもって、戦士ちゃん」グッ

女戦士「……私たち、いや…女武闘家さんにも持ち合わせていない武器をあの女は……」

女賢者「そっ、それは言わないでよ……」ハァ

女魔王「?」たゆんたゆん

――…

女魔王「~♪」

勇者「いつになく上機嫌じゃないか」

女魔王「勇者こそ、珍しく買い物も奮発して……顔が弛んでるぞ」フフ

勇者「そ、そうか……」ニタ

女魔王「一人では成し得ない経験も、貴様と二人なら休む暇なく享受する毎日だ」

勇者「俺もだよ、楽しなあ……毎日」

女魔王「楽しい……それもそうだが…」チラ

勇者「ん?」

女魔王「幸せだなっ、それが一番当てはまる」ニコッ

勇者「……ああ」

勇者「幸せだな……」ニッ

――…

勇者「世界中からお祝いの品が届いているんだが……」

女魔王「人間からも、魔族かも……か」

勇者「人間からはベビー用品がわんさか来るし……」

女魔王「魔物達からは身体に効く薬などと……ゴールドか」

勇者「旅に出ていた頃はいつも思ったんだが、モンスターはどうしてゴールドを持っているんだ? 倒せば落とすし」

女魔王「我も末端まで詳しく把握しているワケではないからな……」

勇者「……にしても祝いの電なんだが」

『魔物から平和を末永く守ってくれる勇者様の子孫を!』

『魔物の力を確かなモノにするために強い魔王様の系譜を!』

勇者「好き勝手に言うなあ……」ハハ

女魔王「そういうものだろう。不安なのだ、皆一様に」フッ

コンコン

『ごめんくださーい』

女魔王「……客だな…」

勇者「お前は休んでろ」

ガチャッ

――…

女戦士「お久しぶりです」

女魔王「……ああ、やはりお前か」

女戦士「わかっていたんですか?」

女魔王「気配とか諸々でな……」

女戦士「……元気が無いようですが」

女魔王「……人間との出産方法の違いだ」

女魔王「我の魔力を供給して育てているからな……時期が近くなると、自然と気性も穏やかになる」クス

女魔王「見舞いにきてくれたのか」

女戦士「……その件なんですが…」

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