勇者「女魔王との結婚生活」 1/7

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勇者「魔王ー、冷蔵庫の中が空だぞ」

女魔王「そうか……では買い出しにいかんとな」

勇者「俺も行くよ。少し武器も見ていきたいし」

女魔王「お前の生まれた地だからとここに住んでいるが……武器も防具も品揃えは悪いぞ」

女魔王「これでは我の配下一人も倒せん」

勇者「もう世界は平和なんだしさ、魔物の領域に足を踏み入れなければ丸腰でも平気だよ」

女魔王「しかし人間との協定を守るやつらだろうか」

勇者「おいトップ。お前が言うな」ハァ

カランコロン

店主『いらっしゃい』

店主「あっ勇者様! ようこそ武器屋へっ!」

女魔王「ひのきのぼうにこんぼう……相変わらずの品揃えだな」

店主「ひっ、まっ魔王……様」ガタガタ

女魔王「そうかしこまるな……今はこの村の基本台帳にも載っている一村民だ」

店主「は、はい……」

女魔王「どうだ? なにかめぼしいものはあったのか??」

勇者「うーん」

勇者「じゃあひのきのぼうを二つ」

店主「あ、ありがとうございます!」ニッ

勇者「行くか」

女魔王「……ひのきのぼうなんてなにに使うのだ?」

勇者「なに、大したことじゃない」

女魔王「そうか……」

女魔王「では次は食料の買い出しだな」ニコ

勇者「肉ばかりじゃなく、付け野菜にやくそうもな……」ハァ

女魔王「おおがらすの肉……」フム

勇者「やっぱり手下が食料にされるのは抵抗あるだろう」

女魔王「いや、こちらも人間を食ってるし……弱肉強食だ。こいつらも文句はないだろう」

勇者「モンスターってさ、人間よりも純粋な感じがするよ。お前らを見てると」

女魔王「そうか? まあ、人間の近所付き合いも大変だと聞いていたが……存外、相談に乗ってくれると言うし、上っ面だけでも親切じゃないか」シャリ

勇者「おい、精算前にガップリン食うなよ」

女魔王「こいつも人間に食われるよりは我の血肉になるほうが喜ぶだろう」

勇者「いや、精算前だからだって」

女魔王「おぉ、あそこにあるのはキングレオの毛皮」

勇者「……財布と相談する事も覚えてくれよー」タラ

女魔王「これは見事なモノだな」ナデ

勇者「もう一度聞くが、手下がこういう風に扱われるのは……」

女魔王「何度も言わせるな。負けた者が悪い、それだけだ」

女魔王「床に敷こうか、コートにしようか……」

勇者「防御力はそんなに高くなさそうだな……」

女魔王「これだから戦闘馬鹿は」ハァ

女魔王「"身だしなみ"は大事なものだ。ギガンテスでも知っている」

勇者「あの一枚布は身だしなみだったのか……」

『あら、綺麗な毛皮……』

女魔王「む?」

女賢者「あら……」

女魔王「ほう……久しいな、小娘」

女賢者「魔王さんこそ……幸せそうで羨ましいです」ニコ

女魔王「そう見えるか?」フフ

ダキ

勇者「おいおい……人前だぞ」

女賢者「……相変わらず、モンスターは欲求に忠実なようですね」クス

勇者「人の妻をモンスター呼ばわりするな」

コツン

女賢者「ぃたっ」

女賢者「……勇者様のコレ、久しぶりですね」エヘ

勇者「そうか? 旅が終わってから日もたつし、そうかもしれないな」

女魔王「まあいい、モンスター呼ばわりは不問に帰す」

女魔王「たしかにお前ら人間からすれば、我も魔物の一人だろう」

女魔王「行くぞ、勇者」

勇者「毛皮は良いのか?」

女魔王「良い。今度ルーラで王都にでも行く」

勇者「……ここで毛皮を買っていた方が安くすんだかもな」ハハ

勇者「でもな魔王」

勇者「マモノはマモノでも、お前は魔者だからな。人間に近いんだ」

女魔王「……そうか」

女魔王「人間に近いというのが我らにとってなんの救いにもならぬがな」フッ

勇者「で、ルイーダの酒場で呑む。と」

女魔王「酒は良いな。人間が作っても魔物が作ってもこんなに妖しく、美味だ」コク…

勇者「昼間の事は気にするなよ」

女魔王「なんのことだ?」

勇者「……気にしてないなら良いんだが」

女魔王「あんなもの、気にする労力が惜しい」ゴク

勇者「相変わらずザルだな」ゴク…ゴク

女魔王「貴様もな……」

女魔王「どうだ、久方ぶりの"平和的戦闘"は」ニヤ

勇者「……よし、良いだろう」

勇者「先に潰れた方の負けだからな」

女魔王「よし。私が勝ったら明日はキングレオの毛皮を買いに行くぞ」ゴクッ

勇者「気にしてるんじゃないか……」クス

『あれは……』

――…

ゴクッゴク… ゴクゴクゴクゴク……ゴックンゴックン…ゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴクゴク

女魔王「ほれ、次を持ってまいれ」ニコニコ

勇者「こっちもだ」ヒック

女魔王「おや……」

女魔王「少し顔が赤いぞ勇者」ニィ

勇者「お前も……顔には出さないが、ニコニコニコニコと……酔いが回ってきてる証拠だぞ」ゴク

『こんちゃっす!』

女魔王「ー?」ゴクッ

勇者「? ……よう、女武闘家」ゴクゴク

女武闘家「久しぶりの再開でも飲むのはやめないんスね」クス

女武闘家「呑み比べなら私も混ぜていだだきたいなと……」ニコ

勇者「構わんぞ」

女魔王「それで、貴様が勝った時はなにを所望するのだ?」

勇者「?」

女魔王「こいつはこう見えて狡猾な女だぞ勇者……魔王の勘だ」

女武闘家「……いやいやまっさかぁ!」ハハハ

勇者「女武闘家が賢かったら女賢者に口喧嘩で一度も勝てないなんていう事態にはならないと思うな」

女武闘家「それは言わないでくださいよ勇者様」カァ

女武闘家「それで、もし私が勝った時にはですが……」

女魔王「……」

女武闘家「一日、勇者様をお借りしたいなぁ……と」チラ

勇者「俺を? 用事があるならいつでも付き合うぞ」

女武闘家「ということは勇者様はOKという事ですね」ニコ

女魔王「……いいだろう」

女武闘家「本当っ!? やった!」パアァッ

女魔王「サービスだ。貴様は、勇者と二人の合計で私にかかってこい」ニィ

女武闘家「それは……勝負になりませんよ?」

――…

女魔王「よしっ次!」グビッグビッ

女武闘家「も、もうらめ……」グデングデン

勇者「っくしょう……次は剣で勝負だ…」ヒック

女魔王「いいだろう。かかってこいかかってこい」ニコニコ

女魔王「今宵は楽しかった。小娘Bのおかげだな」ハッハ

勇者「高笑いがここまで様になるお人もいないだろうよ……」ヒック

女武闘家「小娘Bって呼びゅなあ……」クラァ~

女魔王「……女武闘家よ」

女武闘家「ふぇ?」

女魔王「遺恨は必ず残るだろうが、これからは仲良くしてほしい」

スッ

女武闘家「……共存、でしょ。頭の悪い私でも知ってるんらから」ヒック

ギュッ

女魔王「我は頭が良い人間は嫌いじゃ無いぞ」フフ

女武闘家「それはどうもっす~」ニコ

――…

勇者「千鳥足で帰っていったが……大丈夫か? あいつ」

女魔王「問題無い。あやつは強いからな」クス

勇者「……魔王は少し変わったな」

女魔王「そうか? 貴様がそう思うならそうなのだろう」ニコ

――…

女魔王「スライム分が足りない」

勇者「藪から棒になにを言い出すんだ?」

女魔王「この村に来てからスライムの姿を一目たりとも見たことが無いのだ」ウズ

勇者「スライムなんて村の外に行けば……ああ、今は魔物領に移ってるのか」

勇者「で、その"スライム分"ていうのはなんだ? 栄養素かなにかか??」

女魔王「食うかバカたれが」

女魔王「スライムは愛玩魔物。魔王族に古くから伝わる伝統じゃ」

勇者「へぇ……」

勇者「…………スライムナイトは?」

女魔王「あやつは……スライムも楽しんでいるようだから例外で乗っても良い事にしている」

勇者「なるほど…」

勇者「……じゃあ、結婚してから初めての魔物領旅行と洒落込むか」

女魔王「おぉっ、それは素晴らしい名案だぞ勇者」ニコッ

勇者「着替えは済んだかー?」

女魔王「あと5分待ってくれ」

――…

勇者「良いかー?」

女魔王「あと5分……」

勇者「女の支度が遅いのは人も魔王も一緒か……」ハハ

――…

勇者「少し買い物を足してから翔ぶから待っていてくれ」

女魔王「了解だ」

ヒソヒソ

女魔王「む?」

ヒソヒソ…

村民A『ひとから聞いた話なんだけどよ……』

村民B『ほうほう』

村民A『勇者様は魔王と結婚することで魔物を実質的に支配下に置き、人間に平和をもたらす。そのために女魔王と一緒になったんだとさ』

村民B『へぇ~勇者様は賢い御方だ』ハァ~

女魔王「……」

女魔王「……くだらぬ、所詮は噂話だ」フワァ

勇者「あくびなんてしてないで。ルーラで翔ぶぞ、捕まれ」

女魔王「……ああ」

ギュッ

勇者「……べつに抱きつかなくても良いんだが」タラ

【魔物領】

女魔王「やはりここは空気が美味いな」フゥ

勇者「空気というより障気、といった濁りがかったソレだな」

女魔王「……なあ、勇者。こちらで暮らすというのは……」

勇者「どこで暮らすかはお前が越してくる前に話し合っただろう。お前も納得してくれたはずだ」

女魔王「住んでみて今一度確認できた」

女魔王「人間は――穢れている」

勇者「前にも言ったけど、魔物の方がよっぽど純粋だと思う。それは確かにそうだろう」

勇者「でも 女魔王「勇者にとっては守るべき大切なもの、だろう?」

勇者「ああ……すまない」

女魔王「謝るな。今のは我の落ち度だ」

女魔王「魔物領というだけあって、景観も素晴らしい」ニコニコ

勇者「一面、死骸と血にまみれている景色だけどな」アセ

女魔王「……おや」

ピョン、ピョン

女魔王「おおスライム!」

女魔王「向こうにはベス! メタルにキングも!!」パアァッ

女魔王「すまぬ勇者っ、しばし待っていてくれ!」ニッ

タッタッタ

勇者「いってらっしゃい」ヒラヒラ

勇者「俺は……少し探検するか」

ヒソヒソ

勇者「ん?」

ヒソヒソ

魔物A『知ってるか? 魔王様が勇者と結婚した理由』

魔物B『ほうほう』

魔物A『魔王様が産む子は決して人間などではない、魔物の子だろう。最強である勇者の子さえ産めばその時点で勇者は用済みというワケさ』

魔物B『なるほど、確かにあの二人の子なら優秀な魔王の跡継ぎになってくれるだろう』クックック

勇者「……」

勇者「…………そうか」

勇者「子作り……その発想は無かった」

勇者「感謝する。道ゆく魔物たちよ」

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