勇者「定食屋はじめました」 3/8

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山賊1「やめろ……やめてくれ……」

山賊1「車ぶっ壊しただけじゃねーか!!それ以外にはなんもしてねぇ!なんも盗っちゃあいねぇ!」

山賊1「だから、許してくれ?な?頼むよ!もう……」

山賊1「もう俺一人になっちまったんだからよぉ!!」

?少女「1つ目、車をぶっ壊した」

?少女「十分犯罪じゃ、お前らの価値はその車の代金以下だ」

?少女「2つ目、それ以外なにもしてない」

?少女「した、あの娘を蹴ったではないか」

?少女「3つ目、何も盗ってはいない。が、ここで許しても反省なぞせんじゃろう」

?少女「まぁ、死ねば許してやらんこともない」

山賊1「そ、そんな……」

?少女「そして4つ目、単純に気に入らん、さようなら」

ボゥ!!

――――――

―――

勇者「……遅い」

勇者「遅い!心配だ!こんなところに居られるか!俺はこの店から出ていく!」

黒髪少女「どうぞご勝手に、店の金品がなくなっても知りませんよ」

勇者「どうせ大した額は家にはない!さらばだ!」

黒髪少女(この状況から逃げたいだけでしょうに……でも、ほんとに遅いですね、何かあったのでしょうか)

勇者「待ってろ!今迎えに行くあべぶっ!」

騎士「扉が固いな、建付け悪いんじゃねーか?……ここでよかったのか?」

僧侶「はい、ありがとうございます!ん?」

僧侶「勇者さん何寝てるんですか?」

?少女「扉開けた時にスゴイ音したのに気付かんかったのかお主ら……」

勇者「お……おかえり、遅かったじゃないか」

騎士「悪い、フラフラだが立てるか?」

勇者「毎日健康なのが取り柄だから大丈……夫」

?少女「そういうの本気で危ないから気を付けろよ」

僧侶「痛いの痛いのとんでけー」

黒髪少女「あ、それで回復するんですね」

勇者「で、この方々は何者?」

僧侶「あーそれが……」

……

勇者「なるほど、山賊ねぇ」

僧侶「ごめんなさい、車を壊してしまって……」

勇者「いいよそんなの。どうせ親父の金だし」

勇者「それよりごめんな、怖い思いさせちゃって」

勇者「今度から買い出しは二人で行こう。小回りの利くエアバイクでも買ってさ、親父の金で」

僧侶「勇者さん……」ホロリ

騎士「さっきから聞き捨てならんことを言っているがなんなんだ」

?少女「他人の家庭事情に深入りするのはよした方がよかろう」

勇者「家のもんを助けていただいて、本当ににありがとうございます!」

騎士「いいよ、討伐依頼でたまたま来てただけだし」

勇者「何かできる範囲でお礼がしたい、何でも言ってくれ」

騎士「手を握るなよ……でも人の命が助かった、その事実だけで十分だよ」フッ

?少女「腹が減った、ただ飯食わせぃ」

騎士「綺麗に締めくくろうとしてるのに茶々入れるなよ」

?少女「慈善でやっているわけじゃあないんだ、人助けでも報酬を貰わんとやっとれんじゃろ」

?少女「普通なら金持ち相手に金をふんだくるが、まぁ今は腹が減っているからただ飯で勘弁してやる」

?少女「見た感じ飲食店のようじゃが?」

勇者「ああ、それならいくらでも!腕によりをかけて作るからさ!」

勇者「これメニューだから見てくれ」

?少女「うむ!」

?少女「……」ペラ

騎士「……」ペラペラ

?少女「……?」ペラペラペラ

騎士「!?!?」ペラペラペラ

?少女「これで全部か?」

勇者「ああ!当店自慢の料理の数々だ!」

騎士「……パスタ専門店だったか」

僧侶「いえ、どこにでもある普通の定食屋です」

騎士「oh......」

?少女「……麺類の気分じゃないし金をふんだくる方針でいくかのぅ」

勇者「い、今すぐは用意できないぞ……?」

?少女「だったら他の食い物ものを出してくれ。そうじゃな、肉が食いたい、ワイバーンの肉が」

僧侶「ワイ……ありませんよそんな貴重なもの」

勇者「あるにはあるけど……」

騎士「あるの!?」

僧侶「初耳ですよ。いつ仕入れたんですか」

勇者「前の納品で個人的に……つい」

僧侶「個人的な理由でそんなもの仕入れないでください。どうせ自分でこっそり食べるつもりだったんでしょうけど」

僧侶「それなら買い出しの意味がまったくなかったじゃないですか」

勇者「ごめーんね!」

黒髪少女(うぜぇ)

騎士(おい)ヒソヒソ

?少女(ん?なんじゃ?)

騎士(あんまり困らせるようなこと言うなよ)

?少女(からかっておるだけじゃ。本気では言っておらん)

騎士(そりゃ見てたらわかるけど……ってかワイバーンってお前共食いになるんじゃねーか?)

?少女(ワシは翼竜であって飛竜ではない、それに竜の攻撃方法は牙も使う)

竜少女(竜同士で戦ってたら食ってるのと同じじゃろ)

騎士「その理屈はおかしい」

竜少女「で、その肉は出してくれるのかの?」

勇者「え、ああ、まぁパスタの具材としてなら」

竜少女「却下じゃ、ステーキが食いたい」

騎士「そのパスタへの拘りはなんなんだよ」

勇者「でも、メニューには……」

竜少女「メニューにあろうと無かろうと出せ」

竜少女「こっちは命の恩人じゃぞ?ん?」

騎士「何故そんなに前衛的なんだよ。あ、俺はイカ墨パスタで」

勇者「……」

僧侶「勇者さん、私からもお願いします」

僧侶「勇者さんがどうしてお母様のレシピを使わないのかわからないですけど」

僧侶「でも、それでも私はこの方たちにお礼がしたいんです」

僧侶「出来る事なら何でもするって言ったじゃないですか」

勇者「出来る範囲でと言ったんだけどな……」

勇者「わかった、お前がそこまで言うなら仕方ない。少し時間がかかるから待っててくれ」

僧侶「勇者さん……ありがとうございます」

騎士「俺の注文聞こえてたかな」

竜少女「腹減ったのぅ」

――――――

―――

勇者「客にはまだパスタ以外は出さないって決めてたんだけどな」

僧侶「私たちが食べる食事は普段はパスタ以外じゃないですか」

僧侶「あんまり美味しくないですけど」

勇者「自力じゃ昔お前に食べさせたやつみたいな味付けができないんだよ俺は」

勇者「いや、そうしないようにしてるのかな……」

僧侶「まだその理由も含めて話してくれないんですか?」

勇者「まだ。でもちゃんと話すから……あった、母さんのレシピ」

僧侶「うわ、分厚い」

勇者「母さんの夢でもあったんだ、定食屋」

勇者「親父と結婚する前からの。で、これがその夢の前身」

僧侶「スゴイ量……好きだったんですね、お料理」

勇者「ああ、とっても」

僧侶「さっそく見てみましょうよ!ほらステーキ探してください!」

勇者「はいはい……でもワイバーンの肉の調理法なんてあるのか?」

勇者「あった、すぐ見つかったよ」

僧侶「肉別に調理の仕方が分かれてますね」

勇者「どれだけ研究熱心だったんだよ……古代種の悪魔の肉まであるぞおい」

僧侶「お母様何者ですか」

勇者「食には一切妥協しない人だったってのははっきり覚えてるがこれは……」

僧侶「いささかやりすぎのような気もしますが、とりあえずお客さんが待ってますので早く作っちゃいましょう」

勇者「あいよ……じゃあ母さん、今回だけは使わせてもらいます!」ペコ

……

勇者「ワイバーンの肉は固いのでかなり強めに叩いて……」

勇者「素材そのものは臭いが強い……ふむふむ」

勇者「そして切れ目を入れてワインに付け込んで待つこと数時間……っておい!」

勇者「あーこれは無理だな。ワインと一緒に焼くか」

僧侶「なんか製法が怪しいですけど大丈夫ですか?」

勇者「なんとかなるだろ。ソースの方は……よし、いつもみたいに美味しくないわけじゃないな」

僧侶「自覚してるなら味付け変えてください」

勇者「案外うまく焼けるもんだな」

僧侶「フライパンがファイヤーしてますけど大丈夫なんですか?」

勇者「これでいいんだよ。あ、皿持ってきてくれ。あと盛り付けのサラダお願い」

僧侶「はい。それと、イカ墨パスタの方はいいんですか?」

勇者「あ、茹ですぎた」

勇者「まぁいいか、パスタだし」

僧侶「」

竜少女「ちょっと待たせすぎなんじゃないか?」

騎士「テレビも昼前だし面白いもんやってねぇな」

騎士(あのねーちゃんが占領してるってのもあるけど)

黒髪少女「……」

竜少女「雑誌も何もないしの、腹が減ったのと退屈なのでダブルパンチじゃ」

黒髪少女「……お勘定お願いします」

僧侶「はーい、少々お待ちください!」

僧侶「では代金はこちらでございます」

黒髪少女「ありがとう。それじゃあまた来ますね」

僧侶「はい!またいつでもいらしてください!ありがとうございます」

黒髪少女(男女2組居るところに居座り続けるのはちょっと気まずいですしね)

黒髪少女(なんだかんだで2時間くらいコーヒー飲み続けてましたし)

黒髪少女(山賊の討伐……私も請け負っていた仕事でしたけど、まぁいいでしょう)

黒髪少女(では近いうちにまた……)

――――――

―――

勇者(出来たには出来たが……)

勇者(味、やっぱり似てるなぁ)

勇者(今回は母さんのレシピ使わせてもらったけど、俺のと似てるのがなぁ)

僧侶「勇者さん、黒髪の女性の方が帰られましたよ」

勇者「やっと帰ったかあいつ、何時間居座ってんだよ」

僧侶「あ、出来たんですか?」

勇者「ああ、なかなかの力作だな。俺の実力じゃないけど」

僧侶「レシピ通り実行できるのならそれは勇者さんの腕ですよ!運びますね」

勇者「よろしく頼むよ」

僧侶「お待たせしましたー、ワイバーンのステーキとイカ墨パスタです」

騎士「お、来たか」

竜少女「いい匂いじゃぁ~早く早く!」

僧侶「はい、では熱いのでお気を付けくださいね」

騎士「ありがとう、それじゃあ食うか」

竜少女「うむ!いただきまーす!」

騎士「頂きます」ズルズル

竜少女「あむ!」ガブリ

竜少女「うぅんまぁぁい!!」

騎士「」

竜少女「これはいけるぞ!」ガツガツ

僧侶「そんなに急がなくてもお肉は逃げたりはしませんよ」

騎士「」

竜少女「これはワイン漬けかの?ヨーグルトも混ぜたようじゃな」

僧侶「そんなこともわかるんですか?」

竜少女「うむ、ワシの舌はグルメじゃからの!」

僧侶「よろしければコーヒーもいかがですか?こちらもサービスさせていただきますけど」

竜少女「ではそれも頼む、甘いのを所望するぞ!」

僧侶「ふふ、かしこまりました」

騎士「オエ」

勇者(よかった、喜んでもらえたみたいだな)

勇者(美味しいなんて言われたの久しぶりだな……客がほとんどいなかったのも原因だけど)

勇者(お客さんに喜ばれるのがこんなに嬉しいなんて、知らなかったな)

勇者(もう少し自信持ってやるべきなのかな、俺)

勇者(近いうちに話す、なんて言ったけど、もうあいつとも付き合い長いんだし)

勇者(すぐにでも全部打ち明けてもいいかな……なんて)

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