勇者「定食屋はじめました」 4/8

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竜少女「おい、どうした?あまりにも美味しくて言葉を失ったか?」

騎士「ミズクレ、スゴクアマイ」

僧侶「はい、あまーいコーヒーお持ちしましたよ」

竜少女「おお!こっちもいい匂いじゃ」

騎士「」

勇者「あ、やべ、イカ墨になんか混ざってるっぽい」

……

騎士「なにか言うことは」

勇者「申し訳ない」

竜少女「よいではないか、どうせただ飯なんじゃし」

竜少女「それにお主もさっきは"人の命が助かっただけで十分さ フッ"とか言ってたじゃろ」

騎士「それは……そうだけど。でもこの仕打ちは」

竜少女「我慢せい、小さい男じゃの」

騎士(片や美味い料理、方やパスタのような物体)

僧侶(そりゃ文句も言いたくなりますよね)

勇者「ホント申し訳ない、弁明の機会をくれるならまともなパスタ出すから!」

騎士「もうしばらく見たくないよパスタ……」

僧侶「ですよねー」

勇者 ドゲザー

騎士「やめろ、やめて、大人のそういうの見たくない」

竜少女「そうじゃぞ!お主は何も悪くない、むしろ誇ってもいいくらいじゃ!」

騎士「は?」

竜少女「こんな美味いものを作れるんじゃ、たまたま大きく間違いが起こっただけじゃろ」

僧侶(それはどうかな!)

竜少女「料理はの、作り手で大きく味を変えるんじゃ」

竜少女「お主の料理はとても愛情が篭っておった。ただいい食材を使っただけではなく、お主の気持ちがここまで味をよくしたんじゃ」

勇者「俺の……気持ち?」

竜少女「そう。お主、さっきワシが食べているのを見て幸せそうに笑っておったじゃないか」

勇者「見られてたか」

竜少女「誰かに食べさせてやりたいと思う気持ちが一番大事なんじゃよ」

竜少女「ま、そう思えば作り甲斐もあるじゃろ」

勇者「そうか……うん、そうだよな。そんな簡単な事だったんだよな」

勇者「イカ墨にメープルシロップをビンごとぶちまけてたのだって普段やらないようなミスだし」

騎士「いい話になってる所悪いけど、小さい男と言われようが俺は絶対に許さないと思う」

僧侶「お水どうぞ」

騎士「遅いよ」

騎士「さて、そろそろ出よう。依頼所に完了の報告もしなきゃいかん」

竜少女「おっと、そうじゃったの。これで飯を食ってるんじゃから欠かしてはいかんな」

騎士「早い方が報酬も弾んでくれるだろ、それじゃあな」

竜少女「ありがとの!コーヒーも美味かったぞ!」

僧侶「ありがとうございます、またお越しください」

騎士「もうこねーよ」

竜少女「また来るのぅ!」

ガチャ

黒髪少女「よかった、まだ居た!」

勇者「うわ、あんたか。何しに来た」

黒髪少女「あなたに用はありません……事はないですけど」

黒髪少女「近くの森林で火事がありました、山火事です」

竜少女「」

騎士「」

僧侶「え!?大変じゃないですか!」

黒髪少女「ここまで火は燃え移ることはないと思いますが、一応避難の準備だけはしておいてください」

勇者「あ、ああ悪いな。おい、貴重品はすぐに持って行ける状態にするぞ」

僧侶「はいわかりました!」

黒髪少女「そしてそこの二人!!」

黒髪少女「言わなくてもわかりますよね?」ニコ

竜少女 騎士「「はい」」

勇者「あんたたちはどうするんだよ?」

黒髪少女「村の方から消防団と火消しの魔法使いが数名出動してます」

黒髪少女「私もそちらに向かい予定です」

勇者「俺も行こうか?」

黒髪少女「結構です、さすがに一般人が首を突っ込むことではありませんよ?」

黒髪少女「そ こ の 二 人 は ……もちろん一緒に来てくれますよね?冒険者さん?」

騎士「まぁ、仕方ないよな」

竜少女「まったく誰の不始末じゃ」フイ

騎士(お前のブレスだよコンチクショウ)

――――――

―――

竜少女「ふぅ、人を乗せて飛ぶのは慣れんのぅ」

騎士「お前の責任だ、これくらい我慢しろ」

騎士「消防団の連中が来る前に消火して……あと、破棄した車も完全にバラバラにしとくか」

騎士「あいつらの車が出火原因にされちゃ悪いからな」

騎士「ところで」

黒髪少女「何でしょう、こちらを見て」

騎士「あんた、なんで俺たちが原因だなんて思ったんだ?」

黒髪少女「勘ですよ、女の勘」

騎士「はぁ?」

黒髪少女「冗談です、見ればわかりますよ。人ならざる気配」

黒髪少女「職業柄そういう連中ばかり相手にしてきてましたから」

騎士「可愛い見た目して、随分過酷そうなこと語るな」

黒髪少女「お褒め頂きありがとうございます。ま、趣味も兼ねてますから」

騎士「どんな趣味だよ……でも、人間の身ですごいよそりゃ」

竜少女「?」

黒髪少女「?」

騎士「ん?なんか変な事言ったか?」

竜少女「お主、気づいとらんのか」

騎士「何が?」

黒髪少女「くっフフ……」

竜少女「今ワシの背に乗っておる者は人ではないぞ」

騎士「はい!?」

竜少女「悪魔じゃ、それも上位の強い力を持つ」

竜少女「そうじゃろ?」

黒髪少女「上位かどうかは比べる対象と遭遇したことがないのでわかりかねますが」

黒髪少女「そうですね、そんな感じです」

竜少女「これは恥ずかしいのぅ」

黒髪少女「"人の身で"……クフッ"すごいよそりゃ"……ぶっ、アーハッハッハッハ!!」

黒髪少女「なんですか?くくっ、人ではない自分がちょっと特別だと思ってたりしたんですか?」

騎士「わ、笑うなよ!」

竜少女「まぁそう笑ってやらないでくれ。こいつが人間ではなくなったはつい先日なんじゃ」

黒髪少女「あら失礼、フフッ。いえ、あまりにも長年この姿でいますオーラが漂っていたのでつい、くふっ」

竜少女「笑うな、わしもつられて笑ってしまいそうじゃ……ぶふっ」

騎士「やめて、もう恥ずかしくて顔上げられない」

――――――

―――

勇者「……」

僧侶「……」

勇者「正直ね、凄く驚いた」

僧侶「はい」

勇者「目の前で人間二人がメキメキ音を立てながらドラゴンに変身した」

僧侶「細かく言えば女の子が完全に翼竜になって、男の人が竜人みたいになってましたね」

僧侶「初めてみました、本物のドラゴン」

勇者「一生に一度見られるか見られないかの幻獣だもん、竜人とか聞いたことないし」

僧侶「……」

勇者「……山火事、大丈夫かな。店、閉めようか」

僧侶「……そうですね」

――――――

―――

勇者「片づけ終了!そっちは?」

僧侶「店内の掃除ももう終わりますよ」

勇者「そっか、それじゃあ俺は飯作るよ」

僧侶「はい、お願いします」

勇者「あとさ」

僧侶「?はい」

勇者「話したいことがあるんだ」

僧侶(真剣なまなざし!これはあれですか?結婚しよう的な?あぁ直球で結婚だなんて)

僧侶「そ、そういうのはまだ早いですよ!う、うれしいですけどね私としては!」

勇者「ん?早かったか?そろそろ話そうと思ったんだけどな俺と……」

僧侶「私の未来についてですか!?」

勇者「俺と母さんのレシピについてだよ、何言ってんだお前」

僧侶「oh yeah......」

勇者「昨日も話したと思うけどさ、昔お前に作った卵焼き。あれ母さんのレシピ見て作ったやつなんだ」

勇者「不格好な形だったけど、お前が嬉しそうに食べてくれるのを見てて俺もうれしくなっちゃってさ」

僧侶「そういえば勇者さん、あの時凄くいい笑顔でしたね」

勇者「でもあのレシピはさ、父さんが大切に保管してたものだったんだ。離婚して……母さん死んだ後だって言うのにな」

僧侶「私が使用人として雇われた時はすでにお母様は亡くなられてたんでしたね」

勇者「それで父さん大激怒。勝手に持ち出したのはまずかったみたいでな」

僧侶「あ、初耳です」

勇者「そりゃ食べさせたかった相手にそんな話できるわけないだろ?」

僧侶「食べさせたかった……」

勇者「あー、まぁそこには触れるな、恥ずかしい」

勇者「父さんはいずれは俺にレシピを渡すつもりだったみたいだけど」

勇者「母さんの形見だったし」

僧侶「勇者さんは昔はお料理作るの好きでしたよね、私が食べさせてもらったの卵焼きだけですけど」

勇者「練習ばっかりだったからなぁ。上手にはならなかったけど」

勇者「で、その中でマシだったのをお前に食べさせたわけ」

僧侶「もう、勇者さんってば!」

勇者「話が逸れまくったな」

勇者「レシピ持ち出した罰として、父さんが俺に料理を作れって言ってきたんだよ」

勇者「好き嫌いは無いから何でもいいし、いつでもいい」

勇者「自分が納得できるものができたら持って来いって」

勇者「ただし、母さんのレシピは使わずに自分の腕で作ってみろなんて言われて」

僧侶「絶望的じゃあないですか」

勇者「そこで変な突っ込みいれないで」

勇者「それで言われた通り作ったんだ、俺の腕で、俺の味で」

僧侶「パスタですか」

勇者「今の惨状を見てみろ、パスタなんて絶対に作らねぇよ」

勇者「……卵焼きだよ。結局それしか作れなかった」

勇者「レシピの内容なんて全然覚えてなかったんだけどさ、父さんにハッキリと"母さんの味に似てる"なんて言われちまってさ」

勇者「あの通りに一度作っちまったから無意識のうちに覚えてたのか」

勇者「あるいはもともと俺の作り方や味付けが母さんのものに近かったのか……どちらにせよそれが嫌だったんだ」

勇者「母さんの味の劣化でしかないからな、ひょっとしたら俺の味じゃないかもしれないんだ」

僧侶「だからワザといつもの自分の味付けではなく、そこから一歩引いたようなものに?」

勇者「そういうこと。結局ずっと模索してたんだ、比較的簡単に作れる料理で自分の料理をさ」

僧侶「……そうですか、そんなことを思ってたんですね」

勇者「あぁ、野暮ったい話になっちゃったな」

僧侶「……勇者さん」

僧侶「すっごいしょーも無いです」

勇者「語って損した気分だよ」

僧侶「今までの振りはなんだったんですか?結構私も期待してたんですけど」

勇者「俺の中では葛藤してたんだけどなぁ」

僧侶「亡くなったお母様の言いつけでこのレシピはまだ解き放つ時ではないとか」

僧侶「お父様から圧力かけられていて真の力を発揮できないとかそういうの期待してたんですけど」

勇者「そっちの方がもの凄くしょうもないぞ」

勇者「んで、その数年後に縁を切って家を飛び出してしばらく一人で暮らして」

僧侶「そういえばそんな時期もありましたね。何してたんですか」

勇者「漁業組合とか輸入会社とかにパイプ作ってた」

僧侶「うわ、生々しい」

勇者「その後、まさか国王から直々にお飾り勇者認定されて戦地へ駆り出されそうになって」

僧侶「私もその勇者パーティに志願して」

勇者「そうだったなぁ」

僧侶「勇者さんもうその頃には完全に無気力になってましたしね。私が居なきゃ何もできないんですから」

勇者「出来のいい妹だよ」

僧侶「出来の悪い兄ですね。私はそれ以上の関係を望んでるんですけどね」

勇者「それは追々」

勇者「明日は思い切って新しいメニューを出してみるよ」

僧侶「踏ん切りつきましたね」

勇者「話せば一気に楽になった、こんなもんかって感じで」

僧侶「ホントにそんなもんでしたね」

勇者「お前あの黒髪に触発でもされたのか?」

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