金髪少女「あ、普通のモーニングセットあるんですね。Aセット下さい」
眼帯少女「……もやし下さい」
黒髪少女「はぁ……マイペースもほどほどにしなさいな、あなたたち」
……
勇者(出来る限りの事はした)
勇者(この結果がどうなろうと悔いはない……が)
勇者(何度コケようが構うもんか、納得させるまで何度だって立ち向かってやるよ)
勇者「卵焼き2つ、モーニングAセット、もやし炒め、全部で来たぞ!持ってってくれ」
僧侶「はい、ただいま!」
僧侶「お待たせいたしました、卵焼きとモーニングAセットともやし炒めですね」
僧侶「ごゆっくりどうぞ」
黒髪少女(初歩的な料理はさすがに出来るようになってますか……)
黒髪少女(あの人にこの料理を食べさせてあげたいみたいですけど、はてさてどうなることやら)
僧侶「お待たせいたしました、卵焼きです……お父様、これがお兄ちゃんの全力です」
父「ああ、頂こう」
父「……」
勇者「……」
父「……母さんの味に……似ているな」
勇者「ああ、でも母さんの料理じゃない。気が付くのが遅かった、俺の味だ」
父「レシピは……」
勇者「一番信用できる奴に……あいつに預けてある。絶対見せてくれないだろ?父さんも知ってのとおり」
父「そうだな……あの子なら間違いない」
父「……」
勇者「……」
僧侶「……」
父「……」
勇者「……なんか言えよ……」
父「……ごちそうさま」
僧侶「!お父様!」
勇者「……また来い、金さえ払ってくれればいつでも、いつだって俺の料理食わせてやるよ」
父「……借金返し終わる分まで食いつぶしてやるよ、こんな店」
僧侶「あ……う、グス」
父「美味しかったよ、ありがとう」
――――――
―――
―
黒髪少女「……」
勇者「いつまで居るんだよ、そろそろ閉店したいんだけど」
黒髪少女「一度見出すとやめ時が分からないんですよね、テレビって」
勇者「なんだよそりゃ」
勇者「ほら、他の二人も寝ちまってるぞ」
黒髪少女「不思議なものですね、熱中するとその熱は中々冷めないんです、時間も忘れて」
勇者「何のことだよ……」
黒髪少女「お料理、好きですか?」
勇者「……まぁ、ほどほどには」
黒髪少女「それは重畳。この数日間、あなたにとっていい経験になったみたいですね」
勇者「数日そこそこの付き合いなのによく言うよ」
黒髪少女「人間観察ほど面白いことはありません。テレビよりもずっと……」
黒髪少女「直向きに頑張れる人は好きですよ?」
勇者「新手の説教か?前なら嫌味が飛んできたんだけどな」
黒髪少女「世事を言っただけ。楽しませてくれたお礼です」
黒髪少女「ほら、二人とも起きなさい!行きますよ」
金髪少女「んあ?ダメです、危ないですよ……さん……」
眼帯少女「!?もやし……」
勇者「ダメだなこりゃ」
黒髪少女「引きずってでも連れて帰ります」
……
黒髪少女「ありがとうございます、ご迷惑をおかけしました」
勇者「ああ、もう来るなよ」
僧侶「勇者さん!」
黒髪少女「ええ、そのつもりですので」
勇者「え、おい流石に冗談だって」
金髪少女「ごめんなさい、明日には此処を発ってしまうので」
眼帯少女「……生きていればまた会える」
黒髪少女「ま、そういうことです」
勇者「それならしょうがないな……達者でな」
黒髪少女「ええ、あなたも。末永くお幸せに」
金髪少女「天の加護を」
眼帯少女「……ありがと、美味しかったよ」
――――――
―――
―
勇者「暇だなぁ」
僧侶「暇になっちゃいましたねぇ」
勇者「せっかく料理上手くなったのに客が来ないんじゃ意味ないじゃん」
僧侶「完全に立地条件の問題ですねこれは」
勇者「こんな場所に人は来ないってか?」
僧侶「私ならまずは足を運びません」
勇者「俺もだ」
勇者「もう1か月経つんだよなぁ」
僧侶「奇妙な1週間でしたね」
勇者「妙に濃い1週間だったよ」
勇者「結局あの日を境に誰も来なくなっちまったけど」
僧侶「みなさん元気にしてるんでしょうか」
勇者「そう親しい仲ではなかったけど気にはなるよな……」
僧侶「……!?」
勇者「どうした?」
僧侶「て、テレビ!テレビ見てください!」
『昨夜未明、謎の生物が上空を飛行しているのが目撃されました』
『宙を華麗に舞う2対のその姿はまるで竜のようで、地元では天変地異の前触れとも……』
勇者「これ……あの二人か」
僧侶「ですよね」
勇者「流石伝説の生物、スケールが違うな」
僧侶「私たち、アレの接客してたんですね」
『次のニュースです』
『……国、元国王はその隣国すべての巡回を終えました』
勇者「ん?」
『"この旅路は意味のあるものだ、戦争に巻き込まれたもの、そうでないもの"』
『"戦争の中心に居た私には、そのすべてを知る義務がある"』
僧侶「この戦争って勇者さんが駆り出されそうになったアレですよね」
勇者「アレだな」
『"現勇者として、そして元王として私はまだ知らなければいけないことだらけだ"』
『"私はこれからも旅を続けるだろう……決して自分の国に帰ることも無いだろう"』
『"無責任かな?でも、新しい世代がそれを受け継いでいってくれるだろう"』
勇者(声似てるけど……まさかな)
僧侶「?勇者さん」
僧侶「今、話してる元国王の後ろに何か映りませんでしたか?」
勇者「え?何がだよ」
僧侶「なんか綺麗な女性が……女神さまみたいな」
勇者「おいおい心霊現象かよ、大体女神なんて見たことなんのか?」
僧侶「無いですけど……」
勇者「世間一般の想像が膨張していっただけで、あの人が言ってたみたいに残忍な女神ばっかりだったり」
僧侶「残忍でも綺麗かもしれないじゃないですか」
勇者「残忍の方を否定しようよ」
勇者「黒髪一行はなにしてんのかな」
僧侶「お店が忙しいんじゃないですか?同業者って言ってましたし」
僧侶「こことは大違いです」
勇者「それは悪う御座いました」
勇者「あの機械みたいなのは……」
僧侶「きっとどこかで人助けですね」
勇者「俺には楽しんで殺しをしていたようにしか見えなかったけど」
僧侶「勇者さん」
勇者「あ、気になってたんだけどさ」
僧侶「はい」
勇者「その"勇者さん"ってのはそろそろ……」
僧侶「勇者さんは勇者さんでしょ?」
勇者「まぁこんなのでも勇者を名乗らせてもらってるけどさ」
僧侶「家を出る前みたいにお兄ちゃんって呼びますか?」
勇者「それはそれでいけない臭いが」
僧侶「じゃあどうすればいいんですか?」
勇者「まぁ……できれば本名で」
僧侶「じゃあ私の事も"おい"とか"お前"じゃなくて名前で呼んでくれますか?」
勇者「そりゃもちろん」
ドンドンドン
「おーい、この店開いてないのかー」
僧侶「あ、外の準備忘れてました」
勇者「うお!ふざけんな!……まぁ、久々の客か!」
勇者「へへ、俺のパスタをお見舞いしてやるぜ」
僧侶「それはやめてください、上達してないんですから」
勇者「あいよ、それじゃあ今日も頑張りますか」
僧侶「はい!」
拝啓、天国の母さん、まだ生きている父さんへ
勇者としてお役御免となった俺は、また勇者を名乗らせてもらってます
料理への情熱を冷めさせないために日々努力を積み重ねていきたいと思います
父さんへの借金、実は国からでた報奨金がまだ残っていてそれで返せてしまえるのは内緒です
とりあえず絞りつくします、俺は前と何も変わっていないでしょうけど
いつまでも元気で行こうと思います
勇者「定食屋始めました」 おわり
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