勇者「定食屋はじめました」 7/8

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鎧少女「ご馳走様、今回は美味かったよ」

仮面男「もともとコーヒーが目的だったけどね、いい収穫だ」

勇者「あー、すみません。なんか騒いじゃって」

鎧少女「一つの事に打ち込めて喜べることはいいことだぞ?」

仮面男「あとは君のお父さんを納得させるだけだね」

僧侶「そうですよ勇者さん、それが一大イベントです」

勇者「わかってる、今回で本気で自信がついた」

仮面男「ああ……それじゃあ最後に。先輩勇者として君に一言告げようかな?」

勇者「え?」

僧侶「え?」

鎧少女(絶対その反応すると思ったよ)

勇者「言おうか言うまいか迷ってたんだけど……」

勇者「アンタの風貌、どう見ても」

僧侶「魔王ですよね」

勇者「魔王だよなぁ」

仮面男「私にも色々訳があるんだよ……あぁ、もういい、それは言われ慣れてる」

仮面男「勇者は、どんな困難にも立ち向かえる勇気ある者の事を言う」

仮面男「挫折して何度つまづいても、何度転んでも起き上がり、這い上がっていける者だ」

仮面男「一人で戦い続けることは無理かもしれない、だったら誰かを頼ればいい。勇者は万能じゃあないんだ」

勇者「誰だって万能じゃない。それに、俺は勇者ですらない。偽物の名前だ」

勇者「そんな勇敢なもんじゃないんだ……」

仮面男「常に勇敢である必要はない。きっかけさえあれば誰だって勇者になれるんだ」

鎧少女「そんなもん魔王と同じだよ。名乗ったもん勝ちだ」

仮面男「それにね……私も君と同じ、偽りの勇者だ」

勇者「……?」

仮面男「国の都合に振り回された仲間ってことさ」

勇者「アンタも……?」

仮面男「詳しく語りはしないけどね」

仮面男「君は今、お父さんに立ち向かおうとしてる」

仮面男「今までで逃げることだってできたはずだ。でもそれをしなかった、ここに店を構え続けた」

仮面男「その姿はまさしく勇者だよ」

僧侶「基本的な考えはクズですけどね」

勇者「水を差すなよ……」

仮面男「ほら、こうやって茶々入れて支えてくれる人もいる、だから大丈夫」

僧侶「えへへ」

――――――

―――

鎧少女「あいつらどう思う?」

仮面男「彼らなら上手くやれるさ、そういう目をしている」

仮面男「仮に失敗しても……まぁ、うん、なんだ」

鎧少女「そっちも容易に想像出来てしまうのが何とも言えんが……まぁいい」

鎧少女「約束の女神として、あいつらに勝利の祝福があらんことを」

仮面男「勝ち負けの問題じゃなかった気もするけど?高圧的な女神さん」

鎧少女「女神っていうのは上から目線でものを言う連中が多いんだよ、マネしただけだ」

仮面男「知ってるよ、君を一番知っているのは私だからね」

仮面男「さて、それじゃあ今回の大元凶の親玉を退治しに行きますか」

鎧少女「まさか、山賊のバックに居たのが本物の魔物だったとはな」

仮面男「今は昔とは違う。"魔物"なんて一括りにせず、本来なら種族名で呼び合い共存できるはずの時代なのに」

鎧少女「人を貶めるようなケダモノ共は全員"魔物"で十分だ」

仮面男「もうここへは立ち寄ることが無いのが心残りだが……行こうか」

鎧少女「ああ、私たちの旅路はまだまだ長いぞ」

――――――

―――

勇者「勇者かぁ……あいつは俺の事勇者って言ってくれたけど、俺、勇者になれたのかな」

僧侶「もちろん!誰だって勇者になれるって先輩勇者さんが言ってたんです!間違いありません!」

勇者「そうだな……それじゃあ、父さんを納得させて本物の勇者を名乗らせてもらいますかな!」

僧侶「名乗ったもん勝ちですね!このまま二人そろって勇者です!」

勇者「一応、父さんに食べさせたい料理はもう決まっているから、後は練習あるのみだな」

僧侶「もう変なボケはさせませんよ?……卵焼きですよね?」

勇者「ああ、勿論!あの時のリベンジだ!」

僧侶「もしここで、もやしだのパスタだのと言ってたらぶっ飛ばしてましたよ」

勇者「ふざけないのが俺の本気なのよ。あ、そうだ」

勇者「母さんのレシピはお前が預かっててくれないか?」

僧侶「はい、わかりました……大切な物なのにいいんですか?」

勇者「誘惑に負けて覗き見しそう。それにお前が持っててくれれば絶対に俺に見せるなんてことはしないだろう?」

僧侶「はい、意地でも見せませんね」

僧侶「……勇者さんはどうして私をそこまで信用してくれるんですか?」

勇者「ん?どうしてと言われても、兄妹同然に育ってきて付き合いも……実際母さんより長いな」

僧侶「でも私はもともと家の使用人です。奴隷市で売られてた子供ですよ?」

僧侶「こうやって、あたかも好意があるように勇者さんに近づいて……」

僧侶「そのうち家を乗っ取って財産全部取り上げたりしちゃうかも」

勇者「そういや財産取り上げはお前ちょくちょく口に出してたな」

僧侶「あら?口に出てました?」

勇者「嘘だよ!?少しからかっただけだよ!?ホントにそんなこと考えてたの!?」

僧侶「ええ、それも含めて色々」

勇者「お前への信頼度ガタ落ちだよ」

僧侶「……でも」

勇者「ん?」

僧侶「勇者さんが私の事信頼してくれる理由、本当に思い浮かばないんです」

僧侶「"付き合いが長い"、"兄妹同然に育った"」

僧侶「どれも違いますよね?」

勇者「そうだな、信用する前提条件ではあるけど言われれば違うんだよな」

勇者「理由は……難しいな」

勇者「難しいけど」

僧侶「難しいけど?」

勇者「ま、好きだから……かな?」

勇者「昔からずっと」

僧侶「はい、知ってます。私も好きですから」

僧侶「好きだという理由で大切な物とか財布とか簡単に握らせちゃうんですか?」

勇者「変な言い方をするなよ……」

勇者「そこは惚れた弱みってやつだ、無条件にさ」

勇者「"あ、こいつになら全部委ねてもいいかな"って思えるから」

僧侶「さ、流石に面と向かって言われると恥ずかしいですよ……」

勇者「一生の付き合いになるんだ、これからは考えを少し改めて俺を支えてくれよ」

僧侶「一生の付き合いになるなら尚更、今まで通りに接しさせてもらいます」

勇者「へいへい、厳しい妹だ事で」

僧侶「こんな頼りにならない兄の嫁になるんです。ありがたく思ってください」

勇者「んじゃ、今日はもう店閉めて買い出し行くか」

僧侶「今度は二人で、ですね」

勇者「クソ親父の金で買ったエアバイクだ、さぞ乗り心地がいいだろうなぁ」

僧侶「あぁ……クズが……」

――――――

―――

勇者「ヤバイ、2日経った」

僧侶「2日経ちましたね」

勇者「後日また来るとは言ってたけどいつ来るかわからねぇ」

僧侶「あれからいくら電話しても出てくれないんですよ……もう、お父様も意固地なんですから」

僧侶「昨日遠くから望遠鏡でこっちの様子窺ってたみたいですけど」

勇者「それは言えよ」

僧侶「てっきり気づいているものだと思ってましたが」

勇者「普段から引きこもってるからまず気が付かないのよ」

勇者「で、今日は今日で客が居るしさ」

黒髪少女「何か不都合でも?」

眼帯少女「……飯くわせー」

金髪少女「パスタはもう……いいです」

ガチャ

父「ま、待たせたな。た、たまたま近くを通りかかったから食いに来てやった」

勇者「そしてなんでこんな時に突撃してくるかねぇ」

僧侶「タイミング完全に間違えてますね」

勇者「父さん連絡くらい……」

父「こ、この店はー……オホン、客が来たのに水も出さないのか?え?」

僧侶「あ、すみません。お水はセルフサービスです」

父「あ、はい……」

勇者(なんでアンタが若干緊張してんだよ)

勇者(抜き打ちで来やがって……こっちの心臓がはち切れそうだってのに)

黒髪少女(……ふむ)

黒髪少女「オーダーお願いします」

僧侶「はい、ただいま」

黒髪少女「あら?メニュー増やしたんですね!どれも美味しそう!」ペラ

父「!」

僧侶「あ……はい!どれも当店自慢の料理ですよ!」

僧侶「特にこの……卵焼きが」

父「卵焼き……」

黒髪少女「そう……それじゃあこれを頂けますか?」

僧侶「はい!かしこまりかした!」

金髪少女「お……美味しそう?」

眼帯少女「……一体何を」

黒髪少女「空気読めよ」

父「……」

勇者「……選べよ、何でもいいよ」

父「む、そうか……」

父「では……」

父「このもやし炒めを一つ」

勇者「こんのクソ野郎があぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」

勇者「ふっざけんな!なんでそうなるんだよ!?流れが見えてなかったの!?」

僧侶「お、落ち着いてください!」

父「まぁ、そりゃ軽い冗談だ。俺もそこまで無神経じゃあないさ」

勇者「怒りで血管ぶ千切れそうだよホントに」

父「ふぅ……お前をからかうといつも落ち着く」

勇者「碌でもないことすんなよ……」

僧侶「でも勇者さんも落ち着きましたよね?」

勇者「癪だが!」

黒髪少女「ふふっ」

金髪少女「何を悟ったような表情を」

眼帯少女「……お腹減った」

父「俺も、そこの御嬢さんと同じで卵焼き、貰おうか」

僧侶「かしこまりました……ご一緒にコーヒーでもいかがですか?」

父「あぁ、貰おう。とびっきり苦いの頼むよ」

僧侶「はい!勇者さん、お願いします!」

勇者「あいよ!」

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