勇者「国から任命を受け勇者として旅に出ようとした矢先、他の勇者が戦争を終わらせたとのことでお役御免となった」
勇者「どうせだからちょっとだけ出た報奨金で昔からの夢だった自分の店を持つことにした」
勇者「結局借金まみれだけど今日も元気に行こうと思います」
僧侶「勇者さーん、注文入りましたー」
勇者「なんだ、客いたのか」
僧侶「いたのか、じゃないですよ。お客さんに聞こえますからそういうこと言うのやめてください」
勇者「人がいること自体珍しいからね、こんな田舎の店」
勇者「で、注文は?」
僧侶「魚介パスタ3つです」
勇者「あいよー」
勇者(こんな場所に出向くなんてどんな客だ?顔くらいは見とくか)チラ
黒髪少女「碌なランチメニュー無いですね」
金髪少女「他のお客さんがいない割にはちょっと汚いですし」
眼帯少女「……自分で作った方がマシなものが出てこないことを祈る」
僧侶「」
勇者「」イラッ
僧侶「さ、さっきの聞こえてたんじゃないですか」ヒソヒソ
勇者「あぁ、何故か3人ともこっちを見ながらニヤニヤしてるから多分聞こえてたんだろう」
勇者「俺はおそらく試されている!あの3人はこんな店の料理の味になんぞ初めから期待はしていない!」
勇者「客席に無関心だったここの店主はどんなものを作るのかと!」
勇者「見せてやるよ、俺の味を!」
僧侶「どうでもいいですけど早く作ってください。そしてあの3人が笑っているのはあなたの後ろにあるテレビのバラエティ見てるからです」
勇者「さて、魚介パスタだったな」
勇者「近場に海があるから魚介類は仕入れやすいんだよなぁ」
――――――
―――
―
勇者「お待たせいたしました、魚介パスタ3つです」
黒髪少女「思ってたよりは早かったですね」
勇者「そりゃもう作り慣れてますから」
黒髪少女「そうでしょうね、メニューにパスタしかないんですから」
僧侶「……」
勇者「……」
眼帯少女「……味、無難」ズルズル
金髪少女「くどくなくて私は好きですけど」
黒髪少女「いい味なのは魚介だけですね、麺が若干固いです。ひょっとして作り置きですか?」
勇者「いや、そんな」
金髪少女「あー、味付けが薄いんですね。私が好きなわけです」
眼帯少女「」ズルズルズルズル
黒髪少女「すみません、コーヒーお願いします、濃いめの」
金髪少女「あ、私もお願いします」
僧侶「は、はい……」
僧侶「ど、どうぞ」
黒髪少女「どうも」ズズ
黒髪少女「あ、おいしい」
金髪少女「ホントだ、おいしい」
僧侶「本当ですか?ありがとうございます!」
黒髪少女「ブレンドですね、いい豆を使ってちょうどいい配分で出来上がってますね」
僧侶「はい!自信作なんです!おかわりもありますのでどうぞ!」
黒髪少女「ふふ、ありがとうございます」
勇者「畜生……畜生……」
眼帯少女「……元気だせ」ズルズルズルズルズル
――――――
―――
―
黒髪少女「またコーヒーを飲みに来ますね」
僧侶「はい!ぜひまた!」
金髪少女「パスタ以外もあればよかったんですけどね」
眼帯少女「……無難、また食べてもいい」
勇者「ありがとうございましたぁーーーーーーー!」
勇者「なんだよあの黒髪!ケチばっかりつけやがって」
僧侶「いや、事実だったじゃないですか」
僧侶「あとメニュー増やしましょうよ。パスタだけじゃ無理がありますって」
勇者「わかってるけどさ、俺あんまり料理得意じゃないんだよね」
僧侶「身もふたもないこと言わないでください」
勇者「そりゃ昔から店を持つのは夢だったけど、なかなかうまくいかないもんだよ」
僧侶「まともに料理が作れるようになってからそういうことを言ってください」
勇者「お前はコーヒー褒められてたじゃないか」
僧侶「愛情いっぱい込めて作ってますからね」フフン
勇者「同じ豆使えば誰が作っても同じだろうに」
僧侶「そんなことないですよ!もう……」
僧侶「そういえば……」
勇者「ん?」
僧侶「昔、私に作ってくれましたよね?すごくおいしい卵焼き」
勇者「あぁ……そんなことあったな」
僧侶「作らないんですか?ああいうのを出せばさっきみたいな事は言われないと思うんですけど」
勇者「ん……あれな、死んだ母さんが残したレシピ使ったんだ」
僧侶「……使わせてもらえばいいじゃないですか」
勇者「俺にそんな資格無いよ。さ、食器洗おうか」
僧侶「勇者さん……」
――――――
―――
―
勇者「洗う食器少なすぎてすぐ終わってしまった」
僧侶「でしょうね、暇です」
カランカラン
仮面男「失礼する、まだ開いているか?」
鎧少女「ギリギリ昼だな、まだランチはやってるか?」
勇者「なんかスゴイの来た」
勇者「え、なに?あの人たちなんで鎧着込んでるの?近場で戦争でもあったの?」
僧侶「勇者さん、やめてください。聞こえてます」
仮面男「あー……すまない、この格好では場違いだな、失礼する」
鎧少女「お、おいちょっと待て!さっき空から見たが飯屋がここくらいしか無かったんだぞ!?」
僧侶(空って……)
鎧少女「またしばらく飯をお預けされるハメになるんだったら無理してでもここで食べさせてもらった方がいいだろ」
仮面男「だけど……あぁすまない、こんな恰好だが食事させてもらってはダメだろうか?」
勇者「あ、いや、ダメとは言ってないよ!ほら座って座って」
仮面男「助かるよ」
鎧少女「あー、戦いの後だったから疲れたー」
僧侶(どこかで戦ってたんだ)
――――――
―――
―
僧侶「注文はこれですね」スッ
勇者「えぇっとカルボナーラとたらこパスタっと……」
僧侶「……勇者さん勇者さん」ボソボソ
勇者「どしたの?」
僧侶「あの二人明らかに怪しいですよ、空から見たとか戦ってたとか言ってましたし」
勇者「あれを一目見て怪しいと思わない奴なんていないだろう」
勇者「俺は別に客を選ばないから関係ないけど」
僧侶「でも武器持ってる時点で……」
勇者「外には魔物がいるんだ、護身用で持つのは珍しいことじゃないだろ?」
勇者「それに見た目はああだけどさっきの物腰から悪い人ではないって思うけど」
僧侶「ですけど……あ」
仮面男「そういえば、さっき仕留めた奴の遺留品どうしたんだ?ちゃんと持ってきたかい?」
鎧少女「もちろんだ、殺した証拠が必要なんだ。奴の首を持ってきて店の前に置いてある」
仮面男「奴の身に着けていたものでもよかっただろうに……さすがに首はどうかと思うよ」
鎧少女「お前が綺麗に切り落としたからな、持ちやすかったし」
仮面男「ハハ、女神のやることとは思えないね」
鎧少女「戦いの女神はお前が思っているより残忍だよ」
僧侶「」
勇者「」
勇者「前言撤回する、ヤバイ」
僧侶「下手なもの出すと殺されるかもしれません……あぁ神様」
勇者「ちょっと本気出す、俺まだ死にたくないし」
僧侶「コーヒー出してきます、もちろんサービスで」
――――――
―――
―
勇者「お、おま、おまたせし、しました」
仮面男「ああ、ありがとう」
鎧少女「あー、すきっ腹にコーヒーはまずかったか、腹の調子が」
僧侶「まずっ!?も、ももももうしわけございません!!」
鎧少女「?いや、怒ってるわけじゃないからいいよ、おいしかったしな」ニコ
僧侶「きょ、恐縮です」
僧侶(怖い、この笑顔が怖い)
仮面男「……ふむ」
鎧少女「んー……ん?」
勇者「い、いか、いかかがががでしょうか?」
仮面男「……私はまぁ……キミは?」
鎧少女「不味い」
勇者(即答!?)
僧侶(あぁ神様神様神様)
仮面男「キミは舌が肥えているからだろう。私はこれより酷いものを食べてきたから平気だ」
勇者(やめて!遠まわしに貶さないで!直球も嫌だけど!)
鎧少女「食えないレベルではないが……なんだろうな、"不味い"というよりは"美味しくない"だな」
仮面男「そうか……うん、そうだね。私もそう思うよ」
僧侶「え?」
勇者「……」
鎧少女「お前今はっきり美味しくないって肯定したろ」
仮面男「あ゛」
鎧少女「まぁそれはどうでもいい、出されたものは全部食べきるぞ」
仮面男「どうでもいいって……すみません、私も変な事を言ってしま……」
僧侶「も、おもももも申し訳ございません!この身も心もあなた様方に捧げますので彼の、彼の命だけは!!」ドゲザー
僧侶「どうかどうかお許しを!悪気があったわけじゃないんです!私が、私がしっかりしていればあああ!」
仮面男「なにこれ」
鎧少女「スマン、飯食ってるから黙ってくれないか」
僧侶「はい!」
勇者(美味しくない……か)
――――――
―――
―
鎧少女「何かおかしいと思ったら、なんだ、さっきの話を聞いてたのか」
僧侶「申し訳ございませんでした」フカブカ
仮面男「いや、私たちも紛らわしい言い方をしていたね」
鎧少女「ああ、近くの村が魔物被害にあっててな。それで魔物狩りの帰り道だったってだけだ」
勇者「話から察するに、あんた達は飛べるみたいだけどどうして空路で行かなかったんだ?」
勇者「飛べばすぐに村まで行けるのに。正直徒歩だとちょっと遠いぞ」
鎧少女「飛べるのは私だけ。軽装の鎧でも重いものは重いし、何よりコイツを置いてく訳にはいかんだろう」
仮面男「そういうことだね」
僧侶「帰り道に二人並んで帰るなんて素敵ですね勇者さん!」
勇者「魔物狩りした後だけどな」
鎧少女「ふふ、いつまでたっても旦那と仲がいいのはいい事だ」
僧侶「え……え?ご夫婦なんですか?」
鎧少女「ああ、もう結婚して18年目になる」
僧侶(年下だと思ってた、この人いくつなんだろう)
鎧少女「お前たちは違うのか?」
僧侶「ち、ちちちち違いますよ!まだ……」
鎧少女「まだ、ねぇ?」ニヤニヤ
ヤンヤヤンヤ……
勇者(ガールズトーク始めちゃったよ)
仮面男「ところで……キミ、あー……勇者君?」
勇者「何か?」
仮面男「勇者と言う名前なのかな?それとも役職かい?」
勇者「役職。もう戦争も終わってるし国の近辺に悪徳魔王もいないから報奨金だけもらってのんびりしてる」
勇者「小さい国だったし、政治的な事もあっただろう。とりあえず代表で選出しておこうってだけのお飾り」
仮面男「悪く言えば戦地へ送り出される人柱……だね」
勇者「そ、名前だけの勇者。実力も無いし経験もない」
仮面男「……」
勇者「それだけ?そろそろ皿片づけるけどいいか?」
仮面男「キミは嫌ではなかったのか?それを引き受ける事は」
勇者「……お国のトップから直々に名指しされたんだ、嫌でも断れるわけないだろ?」
勇者「身寄りのない奴から見た目的に当たり障りのない奴を選んで決められたらしいが……」
勇者「結局、旅立つ前に戦争も終わったんだ、これだけで金が貰えたんだから儲けもんだよ」
仮面男「結果的に得をしたわけか、なるほどね」
勇者「話逸れたな、皿片づけるぞ」
仮面男「ああ、ありがとう。美味しくはなかったが楽しかったよ」
勇者「」