[もやし炒め始めました]
僧侶「勇者さん、これは違うと思います」
勇者「立派な料理じゃん、何がいけないの?」
僧侶「ここはどう考えても卵焼きが新メニューで出てくる流れだったでしょ」
僧侶「どうかしてますよ、頭ン中ひん剥いて覗いてみたいくらいですよ」
勇者「そ、そこまで言うことないだろ……ちょっとしたお茶目だよ茶目っ気」
勇者「で、ひょっとしたら朝からあの黒髪が来ると思って早起きしたのに今日に限って来ないし」
僧侶「突っ込んでほしかったんですか?」
勇者「そりゃ期待はするさ、2日間で結構お客さん来てくれたんだからな」
僧侶「期待はしても立地条件が悪すぎます」
僧侶「大体あの方達はどうも討伐以来でこの近辺に来てたみたいですし」
勇者「あー、みんなそんな感じだったなぁ」
僧侶「2日連続で討伐に来てたのでもうここら辺では狩る魔物も山賊もいないんじゃないですか」
勇者「山賊狩りってよく考えると怖いな」
僧侶「ま、期待せずに待ちましょう」
――――――
―――
―
勇者「もう夜なんだぜ」
僧侶「誰も来ないんだぜ」
勇者「平常運転に戻ったとみるべきなんだろうか」
僧侶「みなさんまた来てくださるとは言っていたので……いつとは言ってなかったですけど」
勇者「せっかくもやしの準備してたのになぁ」
勇者「今日の晩飯はもやしな」
僧侶「ブチギレますよ?」
勇者「料理作れないお前が文句を言うな」
ガチャ
僧侶「あ、誰か来ましたよ勇者さん」
勇者「閉店間際に来てんじゃねーよもう……」
勇者「いらっしゃいませー」
機械男「まだやっているかな?」
僧侶「最近まともな人間見て無いですね」
勇者「お前もとうとう口に出すようになったか」
機械男「聞こえてるよ」
機械男「まだやってるなら食事がしたんだけどいいかな?」
勇者「あー、まだ開いてますのでどうぞ」
機械男(露骨に嫌そうな顔しないでくれよね)
僧侶(勇者さん、自分も大概だということに気が付いてないんでしょうか)
勇者「席はこちらで……と、いうかお客さん。食事できるの?」
機械男「ああ、問題ないよ。それじゃあペペロンチーノ貰おうか」
僧侶「即決ですね」
勇者「もやしとか目もくれなかったよ」
勇者「さて、イカ墨みたいなミスはしないようにしないとな」
僧侶「今度やらかしたら本気でマズイですよ」
勇者「わかってるよ、しかし……」
僧侶「気になりますよね……」
勇者「身長は俺たちの半分くらい、テンガロンハット被って西部劇風なマントまで」
勇者「体は照り返すようなシルバー、そして滑らかな両手足、そこからわざとらしく繋ぐような球体関節」
勇者「深く被せられて帽子の下には薄ら笑いを浮かべる仮面のような顔」
勇者「そしてスタイリッシュに動きそうな可動範囲!まさしくロマン!!」
僧侶「好きなんですか、そういうの」
僧侶「普通に怪しさ全開ですよ!前の仮面の人と同レベルかそれ以上に!」
勇者「新型のゴーレムとかそんなんだろう」
僧侶「精霊が宿った野生のゴーレムも人造ゴーレムも単身でご飯なんて食べに来ませんよ!?」
勇者「居るんじゃない?そういうの」
勇者「もうドラゴン見た後だから基本的に驚かないよ」
僧侶「あ、それは私も同感です」
勇者「あ、茹ですぎた」
僧侶「なんで毎回茹ですぎるんですか」
勇者「前に黒髪のやつに固いとか言われたからゆで時間長めにしたんだよ」
僧侶「両極端すぎますよ、大体昨日踏ん切りついて気持ちを新たにしたんじゃないですか?」
勇者「パスタについては何も言ってなかっただろ俺」
勇者「もうパスタやめようかなぁ」
僧侶「メニュー取り下げる前に一通り違うものに差し替えてからにしてください、もやしだけになってしまいます」
機械男「……」ペラ
僧侶「勇者さん勇者さん」ヒソヒソ
勇者「なに?今忙しいんだけど」
僧侶「どの口が言いますか……」
僧侶「それよりあの人(?)……新聞読んでますけど家に新聞なんて置いてありましたっけ?」
勇者「置いてないよ、それに取ってもいない」
僧侶「ここに移り住んで1年になりますけど初めて新聞取ってないのに気が付きました」
勇者「いろいろと無関心なのなお前」
勇者「まぁこんな場所まで新聞配達してくれるかどうか怪しいし、勧誘とか来たことないし」
僧侶「ですよねー。ってことはあの人自分で新聞持ち歩いてるんでしょうか?」
勇者「わざわざこんな場所にまで持ってきて読むことは無いだろうに」
勇者「大体ここに店がなかったらいつ読むつもりだったんだよ。夕刊の時間とか過ぎてるぞ、その情報若干新しくないぞ」
機械男(聞こえてるんだけどなぁ)
勇者「へい、お待ち。持ってって」
僧侶「了解です!なんか不安ですけど」
勇者「大丈夫だって、文句は言われ慣れてるから」
僧侶「そういうのは大丈夫って言わないんですよ?そして慣れないでくださいそんなこと」
僧侶「お待たせいたしました、ペペロンチーノございます」
機械男「ありがと。あとごめんね、オレンジジュースも頂けるかな?」
僧侶「はい、かしこまりました」
僧侶(そのまま飲めるのかな?やっぱりオイルとか混ぜたほうがいいのかな?)
僧侶(あ、この人の読んでる新聞今日の日付じゃないや)
機械男(目線が気になるよこの店員)
ガチャ、ドン!!
僧侶「!?」
山賊「オラァ!こんなところに居たかクソ野郎!!」
機械男「……おやおや、生き残りが居ましたか」
僧侶「ば、蛮族!?」
機械男(蛮族?)
山賊(蛮族?)
勇者(蛮族?)
山賊「ま、まあいい。そこの機械人形!てめぇ、俺たちの縄張りをよくも荒らしてくれたな!」
機械男「機械呼ばわりしないでくれるかな?これでも人間なんだけど?」
僧侶「え?」
勇者「え?」
機械男「話が進まなくなるから黙っててくれないかな君たち」
機械男「そ・れ・に、初めに手を出してきたのはそっちじゃないかな?」
機械男「僕はただ道を歩いてただけなんだけどねぇ」
山賊「うるせぇ!どうせテメェも俺たちを潰しに来た輩だろう!」
山賊「そうじゃなきゃ集落一つ落とすなんて普通やらねぇだろ!?」
機械男「他の連中にも説明したけど信じてくれなかったから仕方ないじゃないか」
機械男「攻撃してきたそっちが悪いんだよ?僕はそんなもの、普段なら見て見ぬふりをするしね」
山賊「黙れ小童ぁぁぁぁ!!」
機械男「ナリフリ構わず突っ込んでくるか……蛮族以前に文化すら学んでいないんじゃないかい君たち?」
山賊「グエ!?」
勇者「おお!なんか手から球体出してぶつけた」
僧侶「勇者さん!早打ちですよ!早打ち!」
機械男(調子狂うなぁ)
機械男「一応、今の一発は警告」
機械男「仲間が殺されて頭に血が上ってたんだろう。見逃してあげるからとっとと消えなよ」
機械男「せっかくの食事が覚めちゃうじゃないか」
僧侶(麺はすでに少しぐでんぐでんしてますけど)
山賊「う……ぐぐ」
勇者「出て行ったか」
僧侶「あっけなかったですね」
機械男「君たちやけに冷静だね」
機械男「さて、それじゃあ頂こうかな」
僧侶「どうぞ、お召し上がりください」
機械男「ここしばらくはまともな食事にありつけなかったからね」
機械男「こういう人里離れた定食屋で食べる食事も乙なものかな……」
機械男「うん、美味しい」
僧侶「!?!?!?」
勇者「!!?」
機械男「え?」
僧侶「ゆ、勇者さん、作戦会議です」
勇者「何が起こった何が」
僧侶「わかりません、やっぱり機械の体なので味覚が我々と違うのでしょうか」
勇者「いや、ひょっとしたら俺の料理に愛情が加わって最強になったとかじゃないのか?」
僧侶「ありえません、作り方がいつもとそう変わりがありませんでしたので」
勇者「そんな……何がおかしかった?どこで間違えた!?」
機械男「僕が今食べてるのスパゲティだよね?間違いないよね!?」
僧侶「大変失礼いたしました、引き続きお食事をお楽しみください」ニコ
勇者「どうぞごゆっくり」ニコ
機械男「人間不信になりそうだよ」
ブオンブオン
機械男「……バイクのエンジン音」
勇者「こんな時間になんだ?うるさいな」
僧侶「ちょっと勘違いした暴走族が走り出すのにはまだ早い時間ですね。ちょっと見てみましょうか」
機械男「……やれやれ、懲りない奴だね」
勇者「?」
山賊「オラァ!その店ごとペシャンコにしてやるぜ!!」
僧侶「さっきの蛮族以下の人!?」
勇者「で、デカい……対巨人用ヘヴィ級超大型2輪駆動車……ベヘモス!!」
勇者「の、レプリカか。本物はそんなにデカくないし対巨人用でもないしな。カスタムしてるとしか思えん」
僧侶「妙に詳しいですね、そしてその名乗りはどう考えても今思いついただけですよね?」
機械男「それはともかく、二人とも下がっててくれるかな?巻き込まれちゃうよ」
勇者「どのみちあんなのが突っ込んで来たら店が無くなっちまうよ」
僧侶「巻き込まれてしまうのは嫌ですけど、避けても失うものが大きいですので。私たちも戦わせていただきます!」
勇者「実践経験無いけどね」
機械男「腹をくくったところ悪いけど、僕が言いたいのは爆発に巻き込まれるから下がってろって事」
勇者「へ?」
機械男「戦いは、もう始まってるんだよ」
山賊「粋がるなよ!これで終いだぁぁ死んじまえ!」
機械男「さっき君にぶつけた球体、普段なら貫通して君のお腹に大きな穴が開いてるんだけどねェ」
機械男「君の中に球体は潜航している、それは僕の制御下にある」
山賊「ぐ、ぐるじい……」
機械男「球体は回転を初め、そのまま君の体を突き破ってその大きなバイクを削り取り始める」
機械男「最後はエンジンに着火だ」
山賊「ぐぁ……」
機械男「爆発は最小限に抑えるけどね。球体は僕の手元に戻ってくる」パシッ
機械男「そして、君の命と一緒にこの球体も消滅する」
山賊「ぐあぁぁぁぁぁぁ!!」
僧侶「……勇者さん」
勇者「お、おう」
僧侶「ハードボイルドですよ!!」
勇者「結構引っ張っといてその一言!?」