勇者「定食屋はじめました」 6/8

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機械男「ごめんね、一般人を巻き込むつもりはなかったんだけど」

勇者「いいよ、あと俺たち微妙に一般人じゃないけど」

機械男「そうかい。それと、事後処理は僕の方でやらせてもらうから心配しないで」

機械男「はいこれ、食事代。美味しかったよ、もう会うことは無いだろうけどね」

機械男「それじゃ、さよなら……」

僧侶「あ、待ってください!」

僧侶「オレンジジュース、まだでしたよね?これをお持ちください」

機械男「タンブラーまで用意してもらって悪いね。いいのかい?持って行っても」

僧侶「どうぞ!カッコイイものを見せてくれたお礼です!」

機械男「ああ、どうもありがとう」

……

勇者「不思議な奴だったな。風のように消えちまった」

僧侶「えぇ、外にあった大きいバイクもいつの間にか消えちゃってますし」

勇者「夢でも見てたみたいだ……さて、今日は店を閉めるか」

僧侶「そうですね、明日も誰か来るかもしれないですし」

勇者「ところでさ、オレンジジュース用意するのに時間かかってたみたいだけど何してたの?」

僧侶「ああ、それはですね。あの人機械みたいだから普通のオレンジジュースよりもアレを混ぜたほうがいいんじゃないかと思いまして」

勇者「アレ?」

僧侶「はい、味覚も変でしたし多分美味しく飲めるんじゃないでしょうか?」

――――――

―――

機械男「まったく、変なとばっちりを受けたよ」

機械男「山賊潰しなんて僕の知ったことじゃないし、勘違いも甚だしい」

機械男「ま、夕ご飯にありつけたのは助かったよ。中々の味だったけどね」

機械男「体は機械だけど……中身は普通に人間なのに酷い扱い受けたな、今考えると」

機械男「どれ、運動後のオレンジジュースを頂こうかな」ゴクゴク

機械男「ブフゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥ」

[オイル入れときました、味わって飲んでくださいね!]

――――――

―――

勇者「暇だな、今日も客いないし」

僧侶「まぁ、普段はこんな感じのハズなんですけどね」

僧侶「ここ数日いろんなことがありましたしね」

勇者「数日だけなのに凄い冒険したみたいな感覚に陥ってる」

僧侶「私もですよ」

僧侶「あ、そういえばさっき宅配で何か届きましたよ?」

僧侶「大きな箱が二つ」

勇者「おお、届いたか。エアバイク」

僧侶「ホントに買ったんですか、ってかいつ買ったんですか?」

勇者「2日前、お前が帰ってきてすぐに通販でちょちょいと」

僧侶「届くの早いですね」

勇者「なんか空間魔法を得意とする魔王がその身一つで宅配業をしている会社なんだとか」

勇者「電話で頼めば2日以内に届けてくれる」

僧侶「じゃあ届けに来たあの人が魔王だったんですか」

僧侶「魔王とは名ばかりのビジネスマンですね」

勇者「魔王なんてそこらじゅうに居るご時世だからな。名乗ったもん勝ちってやつだろ」

僧侶「お代金は請求されませんでしたけどよかったんですか?」

勇者「親父の口座の引き落としになってるはず」

勇者「ありがとう、父さん」

僧侶「クズ炸裂ですね」

僧侶「家飛び出した癖に結局親の脛かじり続けるのはどうかと」

勇者「いいんだよ、甘えられるうちに甘えるんだ」

僧侶「それは世間一般で言う甘えじゃないです」

僧侶「そして勇者さん、あなた親に甘えるような歳じゃないでしょうに」

僧侶「近いうちに一回実家に帰って貰いますからね。連れ戻してこいと御達しが来たので」

勇者「あ?やだよ、そっちが来いって返事しといてよ」

僧侶「無駄にふてぶてしいですね。会ってはくださるんですね?」

勇者「あっちから来れば好きなだけ会ってやるよ」

父「その言葉にウソ偽りはないな?」ガチャ

勇者「ヒョウ!!」

僧侶「あ、お久しぶりですお父様」

勇者「ウワー、ヒサシブリダネー」

父「久しぶりだな、1年くらい会っていなかった」

僧侶「私はよく電話してたんですけどね」

勇者「はぁ!?聞いてないぞ!?」

僧侶「密に密に」

父「定期報告程度だけどな、よしよし」

僧侶「えへへ、頭撫でてもらっちゃった」

勇者「うっぜぇ」

勇者「で、何の用よ?まさか飯食いに来ただけじゃないだろ?」

父「そりゃそうだ、俺の方がお前よりマシなものが作れそうだしな」

勇者「あぁん?」

父「なんか文句でもあんのか?」

勇者「文句しかねぇよ、今俺は充実してんの!首突っ込むな!」

父「誰の金で充実出来てると思ってんの糞が!」

僧侶(そっくりだなぁ)

父「大体お前、勇者期間終了になった時に報奨金貰ったんだろ?それはどうしたんだよ」

勇者「店開くときに全部使っちまったに決まってんだろ」

父「……お前にもうウチの金は使わせないと言ったら?」

勇者「ゴメンネパパ、僕これから心を入れ替えて働くよ。だからお金頂戴?」

父「ふっっっっっっざけんなクソボケカスアホ!」

父「クズが!人間のクズが!」

勇者「うるせぇぇぇぇぇぇ!俺が勇者なんかに選ばれた時の気持ちわかってんのか!?」

勇者「家を飛び出したのは俺の勝手だ!だけど勇者に選ばれたのは不可抗力だ!」

勇者「その時父さんは何を思ってた!?何を感じてた!?」

勇者「人柱なのは知ってただろ?俺に一回も声をかけることもなかったろ!?」

勇者「俺は心細かった……なのに……!!」

父「……」

僧侶「勇者さん、心苦しいのは分かりますけどお金の問題は全く別ですよそれ」

勇者「チッ、バレたか」

僧侶「勇者さん、お父様は負い目を感じているから今まで何も言わずに勇者さんの事見守ってたんですよ?」

僧侶「現に、あなたが戦地へ送り出される事を知っていたからこそ私が使わされたんですから」

父「……」

勇者「……」

僧侶「国に背いてもいいからこっそり連れて帰ってこいって、そう言ってましたよね?」

父「覚えて無い」

僧侶「匿ってやれるだけの財力はあるって言ってたじゃないですか」

僧侶「勇者さんも、死ぬ前にお父様に謝りたいって……」

勇者「覚えて無い」

僧侶「もう……」

父「今日はもう帰る」

僧侶「あ、お父様……」

父「後日また来る。その時に俺の舌を唸らせるだけの料理を用意しろ」

勇者「!」

父「その料理次第で今後この店の事も考えてやる。母さんのレシピは使うなよ?」

父「それを伝えに来ただけだ……邪魔したな」

僧侶「お父様……」

勇者「……フン」

ガチャ

仮面男「ど、どうも」

鎧少女「凄いところに出くわしてしまったな」

父「oh......」

父「は、話を聞いていたんですか?」

鎧少女「……すまない」

仮面男「……概ね」

父「さ、さらばだ!」ダダダ

仮面男「あ、いや……悪いことをしてしまったな」

鎧少女「ただコーヒーを飲みに来ただけでこれか。なかなかハードだな」

僧侶「い、いらっしゃいませ。お見苦しいところを申し訳ありません」

勇者「……」

僧侶「勇者さん?」

勇者「よし、うやむやに出来て乗り切った」

僧侶「真正のクズがここに居た」

仮面男「……勇者……君?」

勇者「ん?何か?」

仮面男「私も人の親として、言わせてほしい」

僧侶(子供さん居たんだ)

仮面男「彼は、なにも君に無関心だったわけではないと思うんだ」

仮面男「親子なんだ、素直になれない事もあるだろう」

仮面男「わざわざ子と繋がりを持とうと自らここへ出向いたのんじゃないかな?」

仮面男「心配していたとか、不安だったとかは、本人ではないからわからないが」

仮面男「月並みな事しか言えないけれど、子を思わな親なんていないんだ。彼の気持ちを汲んでやってくれないか?」

勇者「……俺は……まぁ、そこまで怒ってる訳じゃないよ。本気で文句言える立場じゃないし」

仮面男「厚かましいことを言ってすまないね。私は、ずっと自分の子と殺し合いをしていたから、余計に深く考えてしまっていてね」

勇者「うん……んん?」

鎧少女「それは語らない約束だろ?もう和解したんだから」

仮面男「そうだったね」

僧侶(うわぁ……)

勇者(なんか、俺の問題よりも数段上のヘヴィな問題抱えてるよこの人たち)

仮面男「すまない、それじゃあコーヒーを貰おうかな」

鎧少女「そうだな、私も同じものをくれ」

僧侶「は、はい只今」

勇者「食事はいいのか?すぐに作れるけど」

仮面男「あー……うん、まぁ」

鎧少女「悪い、いらん」

勇者「さいですか……」

勇者「いや、待て諦めるな俺」

勇者「新メニューも追加してあるからそっちも目を通してくれないか?」

鎧少女「パスタ以外も作るようになったのか?」

仮面男「へぇ、それはいい傾向だね。どれだい?」

[もやし炒め始めました]

鎧少女「貴様、完全に客を舐めてるだろ」

仮面男「チョイスが明らかにおかしいでしょ」

勇者「俺の何がいけないんだ」

僧侶「本気で行けると思ってたんですか?」

勇者「いいよ、わかった、サービスだ!食え!食ってください!お願いします!!」

鎧少女「わかった!注文するから頭を下げるな馬鹿者!」

仮面男「彼、面白いね」

僧侶「よく言われます、それと同時にウザがられます」

――――――

―――

僧侶「お待たせいたしました、コーヒーともやし炒めです」

仮面男「同時に出てくるとは思わなかったよ」

鎧少女「何故私たちはこの組み合わせで頼まなければいけなかったのか」

僧侶「あ、コーヒーは食後の方がよろしいですか?失礼いたしました」ススス

仮面男「持っていかないでくれ!万が一ということもある」

勇者「万が一ってなんだよ心外だな!?」

僧侶「勇者さん、今までその万が一何回起こったと思ってるんですか?」

勇者「何回も起こったかのように言うな!そんなに起こっていない!」

鎧少女「つまり何かが起こるということだな?」

仮面男「それじゃあ……」

鎧少女「頂きます」

僧侶「……」ドキドキ

勇者「……」ドキドキ

仮面男「……杞憂に終わったね、うん、美味しいよ」

鎧少女「コンソメ入れたのか?味が効きすぎているような気もするが……美味しいよ」

勇者「いよっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁ!!ほら見ろほら見ろ!俺だってやるときはやるんだよ!ハハハハ!ざまぁないぜ!」

僧侶「ほんっとウルサイですね……でもよかった」

僧侶「お母様のレシピを使わずに、自分の味で初めて勝負。一歩踏み出せましたね」

勇者「嬉しくて嬉しくて言葉にできないくらいだぜ」

仮面男「素直に評価してここまで喜ばれるとは」

鎧少女「あいつらの中でいろいろあったんだろ?」

鎧少女「ウルサイけどまぁ、しばらく放っておいてやるか」

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