勇者「みんなで幸せになろう」 10/10

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神竜「そのとおりだ。勇者は死なない。正確には何度でも蘇る」

勇者「だったらさ?」

神竜「……ん?」

勇者「なんで仲間は死んだのさ? 死ななくてよかったじゃん」

神竜「そうだな」

勇者「だから、生き返らせて。代わりに俺の命をあげるから」

神竜「なぜそこまで?」

勇者「俺、思ったんだ」

神竜「?」

勇者「俺を含めたみんなで幸せにはなれないなら、俺以外のみんなが幸せになればいいやって」

神竜「ほう」

勇者「だからさ、お願いだよ。一つくらい、ワガママ聞いてくれよ」

神竜「……よかろう」

勇者「やった!」

神竜「ただし、条件がある」

勇者「なに?」

神竜「私と戦え、私の気が済むまで」

勇者「弱いのに?」

しんりゅうは しゃくねつのほのおを はいた!

勇者「あついあついあついあつい」

神竜「本気を出せばお前なぞ」

勇者「よーし! やってやろうじゃん!」

勇者と 神竜の たたかいは みっかみばん つづいた!

ころすため ではなく どこか たのしむように

ひとりと いっぴきは たたかいつづけた

勇者「いっやー楽しいなあ! 殺されかける度に俺はどんどん強くなる!」

神竜「どこかの戦闘民族だな」

勇者「……なあ、もういいだろう?」

神竜「そうか。わかった」

とつじょ 神竜が まばゆいひかりを はなち

よっつの ひかりのたまを うみだした!

勇者「わお」

神竜「挨拶はいいのか? これこそが、お前の仲間達だぞ」

勇者「うーん」

神竜「はやく」

勇者「お幸せに!」

とたん ひかりのたまは いっせいに ちじょうへと おりていった

神竜「これでお前の仲間は生き返った」

勇者「どこで?」

神竜「ラダトームだ」

勇者「そうか、ありがとう。神竜」

神竜「では、お前の命をいただくぞ」

勇者「ああ、もってけ。これでもなかなかに悪くない人生だった」

神竜「お前は気持ちの良い奴だな」

勇者「竜に褒められるとか気持ち悪い。はやくやって」

神竜「では」

神竜が つぶやくとどうじ

勇者の からだがひかりにつつまれ

たかい たかい そらへ

すいこまれていった

神竜「……」

――ひとつ、聞いておこう。

――なに?

――お前の仲間が生き返った時、まずなにをすると思う。

――うーん、仲間との再会を喜ぶだろうな。

――ふっ……殊勝な奴よ。

神竜「……本当に、気持ちの良い人間であった」

こうして

勇者は

このせかい そのものから

きえた

勇者が

さいごに たくした

ねがい――

【ラダトーム】

賢者「う……ん?」

魔法使い「あ」

僧侶「え?」

盗賊「……あれ?」

それがいま

このばしょで

かたちとなった!

賢者「そ、僧侶! 僧侶か!?」

僧侶「だ、だれですか?」

賢者「俺だよ! 戦士だよ!」

僧侶「え? え?」

賢者「僧侶、たたけ!」

僧侶「やあああああああああ!」

賢者「ほらな!」

僧侶「あ……あ……」

あるものは あいするひとを だきしめて

盗賊「ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい」

あるものは ひたいから ちがでるまで あやまりつづけた

そして――

魔法使い「……勇者様」

あるものは そらをあおいで

賢者「これは、勇者の装備品?」

僧侶「なぜここに?」

盗賊「謝りたいよぅ勇者ぁ」

すこしおくれて

みんなが かれを おもう

とおい とおい そらに

かれの すがたを かさねてみては

【天上界】

神竜「どうやら一人だけ、最初にお前を思い出した人間がいたようだ」

神竜の ひとみにうつるのは

かなしそうな 魔法使いの えがお

神竜「……なかなかに悪くない人生であった、だろうな」

神竜は ひとつ わらって

どこかへと とびさった――

【エピローグ】

――アレフガルドにある、小さな村。

戦士「よーし、今日はこのくらいだな」

僧侶「お疲れさま」

 いつもいつも仲の良い、夫婦の姿。

戦士「今日は毛皮が沢山とれた」

僧侶「いつもありがとう」

戦士「なんのこれしき! もうすぐ子供が産まれるんだからな」

僧侶「頑張ってね、パパ」

 二人はついに故郷へ帰ることはできなかったが、この場所にささやかな幸せを見つけていて。

――どこかの、高原。

盗賊「はやく行こうよ姉ちゃん! おとうさんとおかあさんがどこかで――」

魔法使い「わかってるわかってる」

 緑が広がる大地を駆ける盗賊の後を、少しだけ大人っぽくなってみせた魔法使いが追う。

 二人は、盗賊の両親をさがしている。

 そしてその道すがら、勇者ロトの生涯を、語り歩く。

盗賊「あたし、全然背が伸びない!」

魔法使い「良い風ねー」

盗賊「無視すんな!」

魔法使い「あら、お花が」

盗賊「姉ちゃんには似合わない」

魔法使い「プリンあげないよ?」

盗賊「わ、わーまるで姉ちゃんに食べてもらうために咲いてる花達だー」

魔法使い「花は食べ物じゃありません」

 きっと、アレフガルドに盗賊の両親はいない。それを想って、盗賊はこっそり涙をこぼす。

 きっと、勇者には二度と会えない。出会った人々に勇者ロトの生涯を聞かせる度に、魔法使いは一滴だけ、涙を地に落とす。

 そんな二人だから、気が合ってしまい旅に出た。

魔法使い「戦士さん達は元気かなあ?」

盗賊「元気でしょ。むさっくしい戦士に戻ったんだし」

魔法使い「また、会いに行こうね」

盗賊「うん!」

 一瞬、強い風がその場を通り抜けた。

魔法使い「……あ」

盗賊「どうしたの?」

 髪を靡かせながら、魔法使いは立ち止まり、そっと忍ばせたソレを空に翳す。

 にこりと笑って。一つ、言ってみせる。

魔法使い「わかりますね? どくばり、です。はやく……会いに来てくださいね」

 途端、一陣の強い風が、ごおっとなって、空へと舞い上がった。

魔法使い「あ、逃げた。もぅっ」

盗賊「一人でなにくっちゃっべんの? キモいよ?」

魔法使い「う、うるさい」

 もう一度だけ、空を仰ぎ見て。

魔法使い「きっとですよ、きっと」

 優しい声と柔らかい笑顔をその場に残し、また、歩き出した。

――勇者の仲間が、街の人々に語る。

「勇者ロトは――」

――教会の神父が、子供達に聞かせる。

「勇者ロトは――」

――そして、遠い未来の語り部達は、彼をこう呼んだ。

「伝説の勇者、ロト」

 高原を駆ける二つの影。この場所、この時間から、勇者ロトの英雄譚は、語り継がれる――

そして でんせつが はじまった!

勇者「みんなで幸せになろう」

改め

勇者「みんなが幸せだったらそれでいいや」

【おしまい】

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