勇者「みんなで幸せになろう」 1/10

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勇者「王への挨拶は済ませた。少ないが支度金も貰った。あとは、仲間だな」

勇者は ルイーダの酒場を おとずれた

ルイーダ「いらっしゃい」

勇者「魔王討伐に協力してくれる仲間を捜してる」

ルイーダ「三人なら、すぐに紹介できるわよ」

勇者「頼む」

ルイーダ「ちょこっと待ってね」

勇者は ちょこっと まった!

ここは アリアハンのまち

ここから 勇者のぼうけんが はじまる!

戦士「お前が勇者か。よろしくな」

勇者「強そうだな、前衛は任せるぞ。よろしく」

魔法使い「レベル1ですが、よろしくお願いします」

勇者「俺もレベル1だ。一緒に頑張ろう」

僧侶「……あの、あの」

勇者「ん?」

戦士「ああ、こいつは僧侶だ。俺の幼馴染みなんだ。内気な奴だな才はあるから仲良くしてやってくれ」

僧侶「……褒められた」

勇者「うん。よろしくな」

僧侶「は、はい」

勇者「よし、じゃあ支度して、旅に出よう」

戦士「めざすは魔王だな」

勇者「ああ、魔王を倒してみんなで幸せになるんだ」

戦士「フッ」

勇者「なんだよ」

魔法使い「みんなで、というのが勇者様らしいですね」

僧侶「くすくす」

勇者「なんだよーお前ら、なんだよー」

戦士「褒めてんだよ。ほら行くぞ」

勇者「ちくしょーなんか恥ずかしいなー」

勇者は たびのなかまを えた!

そして よにんのたびが はじまった!

【町の外】

スライムAがあらわれた!

スライムBがあらわれた!

スライムCがあらわれた!

勇者「きたぞ」

戦士「町を出てさっそくか」

勇者「初戦闘、まずはみんなの力を見せてもらおうか」

戦士「よーし」

戦士の こうげき!

スライムAに 15のダメージ!

スライムAを たおした!

勇者「つよっ」

魔法使い「……では」

魔法使いは メラのじゅもんを となえた!

スライムBに 27のダメージ!

スライムBを たおした!

勇者「つよっ」

僧侶「こわいこわいこわいこわいこわい」

僧侶の こうげき!

ぽかっ!

スライムCに 1のダメージ!

勇者「よわっ」

スライムCの こうげき!

僧侶に 7のダメージ!

僧侶「いたいいたいこわいいたいホイミホイミホイミ」

僧侶は ホイミのじゅもんを 3かい となえた!

僧侶の HPが むだに かいふくした!

勇者「お、おい戦士」

戦士「あん?」

勇者「僧侶は戦いに向いてないんじゃ?」

戦士「……はっ。まあ見てろよ」

スライムCは ニヤニヤ わらっている

スライムCの れんぞくこうげき!

僧侶に――

戦士「僧侶、よけろ!」

僧侶「ッ!」

なんと 僧侶は しゅんじに スライムの はいごにまわった!

勇者「はやっ」

戦士「たたけ!」

僧侶「とおおおおおおおお!」

僧侶の こうげき!

ぽかっ!

スライムCは くだけちった!

勇者「うわっ」

戦士「な? すごいだろ?」

僧侶「ふぅ……ふぅ」

勇者たちは たたかいに しょうりした!

なんぼかの けいけんちを てにいれた!

魔法使い「どうでしたか? 勇者様」

勇者「強いな、みんな」

僧侶「……てへへ」

戦士「僧侶は命令されると異常に強くなるんだ」

勇者「面白いな」

僧侶「……た、たいしたことないです」

戦士「じゃ、次の戦闘では勇者の力を――」

勇者「ああ、先に言っておく」

戦士「?」

勇者「俺は、弱い」

戦士「……は?」

勇者「俺は、戦いが嫌いなんだ」

――なんだ、このけん。かせよ。

――あ、か、かえしてよぅ!」

――やーだね! くやしかったらとりかえしてみろよ!

――こ、このぉー!

――なんだよ、いだいなゆーしゃさまが、かよわいおれさまをなぐるのかよ?

――う、うぅ。

――げへっ、くらえ!

ぽかすか ぽかすか

――いたいよぅ。いたいよぅ。

――よわむしのうえになきむしゆーしゃ! ままのおっぱいすってろよー。

――ぐすん。ぐすん。

【夜、ある町の酒場にて】

戦士「魔法使いも僧侶も眠ったぞ」

勇者「そうか」

戦士「さあ、聞かせてもらおうか」

勇者「……なにを?」

戦士「戦いが嫌いな理由、だよ」

勇者「……嫌いなだけさ」

戦士「理由になってない」

勇者「……なんだろうな。魔物も、人間も、傷付けたくない」

戦士「あ?」

勇者「魔物もどこかから産まれてくるんだろ? なら、親がいるんだろ?」

戦士「まあ、そうだな」

勇者「悲しむじゃないか。親が」

戦士「バカだろお前」

勇者「よく言われる」

戦士「お前の云う“幸せ”ってなんだ?」

勇者「みんなが笑っている世界」

戦士「魔物が溢れかえっている今の世の中、誰も傷付けずにそんな世界が作れるとでも?」

勇者「無理だろうね」

戦士「なら魔物を倒すしかないだろう」

勇者「いやだ」

戦士「……なんなんだよお前は」

勇者「うるさい」

戦士「お前は勇者なんだろ? 英雄の息子であるお前は選ばれた――」

勇者「それだよ」

戦士「あ?」

勇者「俺、なんにもしてないよ? ただ産まれただけだよ? 親父の顔も知らないよ?」

戦士「……」

勇者「それのなにが立派なのさ。俺はただのんびり暮らしたいだけさ」

戦士「ならなぜ仲間を集めた? なぜ旅に出た?」

勇者「俺が勇者だからさ。みんなが俺に希望を託して、魔王を倒せばみんなが幸せになれるから」

戦士「でも魔物は倒したくないとか、わけわかんないな」

勇者「俺もだよ。力も無い、形だけの勇者ってなんなのかよくわからない」

戦士「だったらもうやめちまえ」

勇者「え?」

戦士「旅なんかやめとけ、お前には無理だ。アリアハンに戻って畑でも耕してこい」

勇者「……それもいいな」

戦士「――ッ!」

戦士の こうげき!

勇者は なぐられ はでに ふっとんだ!

勇者「……いってぇ」

店主「おいおい、揉め事はよしこちゃんだよ」

戦士「傷付けたくない……って言ったよな?」

勇者「は?」

戦士「お前みたいな弱虫が、魔物を傷付けられるとでも思ってんのか?」

勇者「……」

店主「ちょっと、そこの二人、聞いてる?」

戦士「なんにもできないんだろ? 弱いんだろ? さっきのスライムすら、お前には倒せない」

勇者「……どうだろうね」

戦士「思い上がるなよクソ勇者が。勇者風吹かして調子に乗ってるのはお前じゃないか」

勇者「……なに?」

店主「ちょっと、ねぇ。ねぇってば!」

戦士「俺は魔王を倒す。勇者じゃなくてもな。誰も俺には期待してないが、それでもいい」

勇者「……」

戦士「俺が魔王をサクッと片付けてやるから、弱虫な勇者様は帰ってママのおっぱいでも吸って――」

勇者の こうげき!

戦士は なぐられ ふっとんだ!

戦士「……あー、口の中切った」

店主「ああ……酒のタルが」

勇者「弱虫に殴り飛ばされてりゃ世話ないな、戦士様」

戦士「あ? 誰も傷付けたくないとか抜かしながら挑発されただけで手を出してんのは、テメェだろーが!!」

戦士の こうげき!

勇者「うるせぇうるせぇ!」

勇者の こうげき!

戦士の こうげき!

勇者の こうげき!

戦士の こうげき!

勇者の こうげき!

あわれ みせのなかは くっちゃくちゃに なった!

店主「ぐすん。やめてよぅ……もうやめてよぅ」

【翌日】

魔法使い「おはようございますー」

勇者「おはよう」

戦士「おう」

勇者「……ああ」

魔法使い「?」

戦士「あーあ、弱いとか言いながら本当は俺と同じくらい強い勇者様がいるから旅は安泰だなー」

勇者「お前が弱いだけだろう」

戦士「あん?」

勇者「あ?」

魔法使い「なにか、あったんですか?」

戦士「さー?」

勇者「さー?」

魔法使い「なんでもいいですが、僧侶ちゃんが怯えてます」

僧侶「……」

戦士「あー、わりぃ」

僧侶「……喧嘩は、ダメだよ」

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