魔王「夢と現実、お前の選択はどっちだ」 3/8

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(外から)魔物「姫さま、報告することがあります」

??「報告?そんなのパパにしなさいよ。私に言ってどうするの?」

魔物「先程、勇者が牢屋から脱出してこの辺りに逃げ込みました」

??「…」

勇者「!!」

??「……へー」

勇者「(不味い。このままだと…どうすれば…!)」

勇者「(そういえば、さっき姫さまとか言ったな。まさかあの魔王の娘?)」

勇者「(いっそこいつを人質にして逃げきるか?)」

勇者「(いや、馬鹿な。そんなことしては勇者としての俺のプライドが…)」

魔娘「話はわかったわ。パパが気づく前にさっさと見つけて戻しておきなさい」

魔物「はっ、それでですが…」

魔娘「…あんた、まさか私の部屋にその勇者か何かが入ってきたかも知れないとか言うつもりじゃないでしょうね」

魔娘「私の部屋のドアにその手の垢の一つでも付けてみなさい。パパに言って一番苦しい方法で殺してあげるから」

魔物「ひぃっ!し、失礼しました!」

勇者「!!」

勇者「お前…なんで」

魔娘「あんたが勇者なの?」

勇者「……ああ、そうだ」

魔娘「…ぷっ」

勇者「なっ!」

魔娘「なっさけないわね。勇者のくせに負けを認めずに逃げ出すなんて」

魔娘「元々だとパパに負けた時点であんたは屍なのよ?」

魔娘「それがせっかく自分の弱さを恨む時間を残してあげたというのに…」

魔娘「人間ってほんと恩知らずなんだから」

勇者「なっ、ふざけるな」

魔娘「言っておくけど。私に指一本でも触れようとしてみなさい」

魔娘「私がここで叫ぶと、直ぐに十人以上は魔物たちが集まって来るから」

魔娘「武器もないのにそんな状況になったら、どうなるのかしらね」

勇者「ぐぬぬ…」

勇者「ところで、どういうつもりだ」

魔娘「は?」

勇者「お前、魔王の娘なんだろ。何故俺を助けた」

魔娘「暇だったからね」

勇者「は?」

魔娘「ねぇ、何か面白いことないの?」

魔娘「あんた、勇者だったら面白いエピソードの一つや二つぐらい持ってるわよね」

勇者「…俺にお前の話し相手になれってことか」

魔娘「だってこの城にいる魔物たちは皆つまんないんだもの」

魔娘「ぶさいくだし…女の魔物も皆うざいし、まともな奴らが居ないわ」

魔娘「その上に、パパに心配性だから外にもろくに出してくれないし」

魔娘「だから暇なのよ」

魔娘「あんたは少なくとも外の豚どもよりは面白そうだし」

魔娘「だから助けたのよ」

勇者「……」

魔娘「…何よ、黙りこんで、なんか喋りなさいよ」

勇者「俺は勇者なんだぞ。お前の父の敵だ」

勇者「悠長に話なんてできると思うのか?」

カーカー

魔娘「…やっぱ人呼んだ方がいい?」

勇者「呼ぶのは別に構わんが、それまで自分が無事だろうとは思わないことだな」

魔娘「え、ちょっ!」

魔娘「な、なにする気よ!いきなり押し倒して」

魔娘「ま、まさか…!」

勇者「喋るな」

魔娘「ひっ!」

勇者「……ちぇ…もうダメか」

勇者「!」

魔王「貴方様、移動魔法の準備が出来ました」

勇者「外からの動きは」

魔王「判りません。でも、もう時間もあまりないはずです」

勇者「…そうだな」

勇者「取り敢えず、どこにでも逃げよう」

魔王「はい」

魔王「場所は、後で魔法を追跡されても時間が稼げるように、ランダムにしておきました」

魔王「こっちにもリスクはありますけど、こんな状況だとどうなっても仕方がありません」

勇者「わかった」

ドーン!!

>>勇者と魔王を探せ!

勇者「!あれは…王の声?」

勇者「自らここに来たのか」

魔王「貴方様」

勇者「あ、始めてくれ」

魔王「はい、魔方陣、発動させます」

勇者「ここは…どこだ?」

魔王「わかりません」

魔王「取り敢えず移動する場所を周り50kmから100kmぐらいに限定させたのですが」

魔王「どこかの砦…?それとも…」

勇者「外は森のようだな」

勇者「…恐らくここは山で旅人が休んでいけるように作った小屋みたいな感じだろ」

勇者「当たりを引いたな」

魔王「…しばらくは安心できますね」クルッ

勇者「魔王!大丈夫か」

魔王「だ、大丈夫です。ちょっと…疲れちゃっただけ…です」

勇者「無理をさせたな…済まん。俺のせいだ」

魔王「貴方様のせいでは…ありません」

勇者「……休んでおけ」

魔王「では…少しだけ……」

魔王「……」

勇者「……」

勇者「そこにあるんだろ」

鴉「ククク、気づいていたか」

勇者「やっぱ俺をつきまわってるんだな」

勇者「どうやって付いてきた

鴉「お前にかかった呪いの一種…かもな」

鴉「それとも、ここが夢であるからこそ、こうして難もなく移動魔法を使ったお前に付いてきたのかもしれん…」

勇者「これもお前の仕業か」

鴉「悠長に悩んでいるだけではつまらないだろ」

鴉「少し緊迫感があった方が、お前も決めやすいと思ってな」

鴉「だが、この状況の原因はお前にあるぞ」

勇者「…そうだな」

勇者「魔王と結婚するために、俺は王の娘、つまり姫君の求婚を断った」

勇者「それとさっきの話が混じったら、王も俺を殺さずには一晩も安心して眠れないだろう」

鴉「そういうことだ」

カーカー

勇者「!」

魔娘「あ、起きた」

魔娘「なにあんた、急に押し倒したかと思えば急に倒れちゃうし」

魔娘「そんな病気なの」

勇者「病気…か。ある意味そうかも知れんな」

魔娘「…何なわけ?」

勇者「俺にも分からん」

勇者「ひとまず考えよう」

勇者「向こうでは魔王に子供、こっちは俺が魔王に負けて逃げている…」

勇者「……待て」

勇者「お前、なんで誰も呼ばなかった」

勇者「俺が寝てる間、誰か呼べたはずだろ」

魔娘「い、言ったでしょ?私は暇なのよ。せっかくの玩具をこのままパパに渡しちゃうわけないでしょ」

勇者「…そうだ。そもそも魔王に娘なんておかしいだろ」

魔娘「……」ベシッ

勇者「痛っ!なにすんだ、おい!」

魔娘「いきなり人の存在否定しないでくれる」

魔娘「何なのよ。あんた、最悪」

勇者「…はぁ…結局どっちも夢とははっきり言えない」

魔娘「夢?」

勇者「取り敢えず、その場でそこが現実であることに集中しよう。そしたら何かわかるかもしれない」

魔娘「ちょっと、それどういうこと?」

勇者「貴様は知らなくて良い」

魔娘「…ちゃんと言ってくれないと人呼ぶわよ」

カーカー

勇者「っ…」

魔娘「あ、ちょっと、寝ないでよ!起きなさいってば!」

勇者「こっちが現実…こっちが現実…」

勇者「はっ!」

魔王「……」スー

勇者「…こっちが現実だ」

勇者「いや…それとも…」

勇者「もう早くどっちかを決めないと、両方とも危うくなってしまう」

勇者「早く決めなければ……」

魔王「……う…ん…」

魔王「貴方様…?」

勇者「あ、魔王…まだ寝てもいいんだぞ」

魔王「……」

魔王「今日の貴方様は、なんだか少し変です」

魔王「このことじゃなく、別にことについて悩んでいるように見受けられます」

魔王「何をお悩みか、私に言ってはくれませんか」

勇者「べ、別に悩み事なんて…」

魔王「………」

勇者「…わ、わかった。話す、話すからそんな悲しい目で見ないでくれ」

勇者「というわけなんだ…」

魔王「…夢と現実…どっちがどっちか見分けがつかないなんて」

魔王「一体誰がそんなことを…」

勇者「分からない。王の所の魔法使いの仕業かもな」

魔王「それで、向こうに行く時は鴉の鳴き声がするのでしたね」

勇者「ああ、俺にしか聞こえなかったようだが……」

魔王「………」

勇者「…ごめん」

魔王「構いません。一番混乱しているのは勇者さまなはずですから」

魔王「ですが……私にとっては、貴方様と今までの記憶」

魔王「例え今追われてる身だとしても、私にとってはこれだけが現実で、私が知っている全てです」

魔王「少し…寂しいとは思います」

魔王「やはり、こっちが夢かも知れないと思っていらっしゃってるのですか?」

勇者「そんなわけでは…!」

勇者「…でも、あっちに行くとまたあっちの世界が鮮明すぎて、また否定できなくなってしまう」

勇者「こっちでもそれは同じだ」

勇者「俺には、どっちも現実のように感じるんだ」

魔王「しかし、現実が二つであるはずはありません」

魔王「どちらかは夢、どちらは現実です」

勇者「…その通りだけど…」

魔王「………」

魔王「貴方様」

魔王「ここに居てくださいませ」

魔王「ここで、私と一緒に現実に立ち向かってください」

魔王「貴方様が居たからこそ、私は今まで頑張って来れたのです」

魔王「貴方様が居なければ、私は今までこんな幸せを味わうことなく、ただただ破壊と殺戮ばかりをしていました」

魔王「なのに貴方様に出会って、貴方様に負けて、貴方様の妻になって、貴方様の子を身篭って」

魔王「この全ての幸せ…全部貴方様が居たから得られたのです」

魔王「そして、今この瞬間だって、私は貴方様が居るならそれで良いです」

魔王「貴方様の側ならどんな場所だって一緒に行けます」

魔王「だから…どうか私を夢だと…幻だとは思わないでください」

勇者「……魔王…」

勇者「…わかった」

魔王「!」

勇者「俺だって、魔王とのこの幸せだった日々を、幻だとは思いたくない」

勇者「こんな幸せを味わって…それが夢だったというのなら」

勇者「僕はきっと壊れてしまうだろう」

カーカー

勇者「っ…」

魔王「…貴方様」

勇者「……魔王」

勇者「あっ」

魔娘「…そろそろあんたに馬鹿にされるのも嫌になってきたわ」

勇者「……魔王…」

勇者「…おい、ここに剣はないか」

魔娘「は?あんた馬鹿」

魔娘「あるとしてもあんたにやるわけ…」

勇者「良いから渡せ!」

魔娘「嫌よ!ってか静かにしなさい。パパにバレたらどうするのよ」

勇者「バレて上等だ。どの道ここで死ぬことには変わらないから」

魔娘「死ぬ?!」

魔娘「ちょっと待ちなさい。何いきなり死ぬとか言ってんの?」

勇者「早く、あの鴉がまた鳴く前に…」

魔娘「ちょっと落ち着きなさいって!」ベシッ

勇者「へぶっ!」

魔娘「あんた何?いきなりご乱心になったの?」

魔娘「あんた勇者でしょ?最後まで人間のために戦わなきゃなんないでしょ?」

魔娘「なのに何自決しようとしてるわけ?」

勇者「………」

魔娘「さっきなんか一人でぶつぶつ言ってたのも気になるし」

魔娘「ちょっと言ってみなさいよ」

勇者「……誰が魔王の娘なんかに…」

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