勇者「魔王!」
魔王「くくく、良くぞここまで来た、勇者」
魔王「まさかたかが人間一人がここまでも余を楽しませてくれるとはな」
魔王「一応聞いておこう。勇者よ。余の者となれ。さすればこの世界の半分をお前にあげよう」
勇者「断る!誰が魔王の下僕なんてなるものか!」
魔王「ふふっ、愚か者め。良いだろう。このまま余の手で葬ってくれる」
カー、カー
勇者「な、なんだ、これは。カラスの鳴き声が…」
魔王「魔王からは逃げられない、覚悟しろ!」
勇者「い、意識が…急に眠くなってき……」
勇者「はっ!」
勇者「魔王!」
勇者「どこだ!」
勇者「……居ない」
勇者「ここはどこだ?魔王の玉座の前ではない……?」
勇者「俺は…一体どうなって……」
魔王「貴方様、如何なさったのですか?」
勇者「!?」
魔王「…顔が真っ青です」
魔王「何か怖いものでも見たのですか?」
勇者「だ、誰だ、貴様は…!」
魔王「!!」
魔王「……貴方様…?」
魔王「私です…魔王です」
勇者「なっ…!!」
勇者「馬鹿な…お前はさっきと全然違うだろ…大体お前女だろ」
魔王「私は…生まれた時から女性でした」
魔王「もしかして…貴方様にはそういう趣向が…」
勇者「ねーから!」
勇者「男と寝るような性向も、魔王と寝る性向もないから!」
魔王「…!」
魔王「貴方様…一体どうなさったのですか」ジワッ
勇者「え、泣く?」アワテル
勇者「あの、すまん、泣かないでくれ」
勇者「…………ちょっと、昔夢を見ちゃってさ……頭が混乱したんだ」
魔王「……昔の夢と言いますと……もしかして、私と戦っていた頃のことですか?」
勇者「ああ、あの時、始めてお前に会った時は口では言わなかったが本当に恐ろしかったんだからな」
魔王「ふふっ、そうでしたか」
魔王「でも、それはもう過ぎたことです」
魔王「あなたは見事を私に勝ち抜きました」
魔王「それだけではなく、私の命を奪うことなく人類の勝利を宣言した」
魔王「そして、そんな貴方様に惹かれた私は、こうしてあなたの妻になった」
魔王「貴方様が見た『夢』は、もう昔のことなのです」
勇者「そう…だな」
勇者「今はお前とこうして夫婦になってるんだよな」
勇者「都から離れた村でこうして一緒に住んでいる」
勇者「最初は村人たちも怯えていたが」
勇者「今じゃすっかり馴染んできて…」
魔王「色々助けてくださいましたからね」
魔王「良い人たちです」
勇者「そうだったよな」
カー…カー…
勇者「う…ううん…」
魔王「どうなさいました」
勇者「なんか、急にまた眠……く…」
勇者「!」
勇者「何だったんだ、今のは…」
勇者「『夢』?」
勇者「俺と魔王が結婚する夢を見たのか」
勇者「なんてことだ。そんなことあるはずが……」
魔王「くくく、怖いのか、勇者!」
勇者「!魔王!」
勇者「今のは貴様の仕業だな!」
魔王「くくく、貴様のような気弱な人間ごときがここまで来たのは褒めてやろう」
魔王「だが、ここが貴様の墓場になるのだ!」
勇者「っ!!」
勇者「強い……」
魔王「魔王の前では逃げられぬ!」
勇者「いや、しかもやっぱり魔王男だろ!」
勇者「さっきの夢がなんだったのかは知らんが」
勇者「今は戦いに集中しよう」
勇者「いくぞ、魔王!」
魔王「……」キカナイ
勇者「なにっ!?」
魔王「くくく、軟弱者め」
魔王「この程度で余を倒す勇者だと?」
魔王「そんな攻撃では、余にかすり傷一つもさせられない!」
勇者「うわぁっ!」
勇者「なんて重い攻撃だ。一撃でもちゃんとくらったら致命傷だ」
魔王「良く避けたものだ。だが、いつまで持つかな」
カー…カー
勇者「っ!…また…眠く…」
勇者「気を抜いては……」
勇者「!!」
魔王「お目覚めですか、貴方様」
勇者「…ああ」
勇者「なんか、また夢見ちゃったな」
勇者「しかも…なんか魔王が男になってる」
魔王「……最近の貴方様は疲れていますからね」
魔王「今日は少し休んだ方がいいかもしれません」
魔王「今お城からお迎えの兵士が来ていますけど、今日は帰らせましょう」
勇者「頼む…今日はなんか…調子がおかしいな」
魔王「わかりました。じゃあ、そう言っておきます」
勇者「あとさ」
魔王「はい?」
勇者「俺マジであっちの趣味ないから」
勇者「…」
勇者「なんかおかしい」
勇者「さっき『夢』の中に居た時は、今ここが『夢』だと思っていた」
勇者「なのに、ここに来てはあっちの方が『夢』だと思っている」
??「くくく、気付いたか」
勇者「!お前は…さっきから気を失う度に鳴いていた鴉!」
鴉「やっと状況の異常さに気付いたようだな、勇者」
勇者「俺に何をした!」
鴉「貴様は魔王さまの呪いにかかったのだ」
勇者「呪い?」
鴉「今貴様が私の鳴き声を聞いたら眠りにつき、この世界で寝たら向こうの世界で起きて、向こうで寝たらこっちで起きる」
鴉「一つの世界はお前と魔王さまが戦っている」
鴉「もう一つの世界では、お前と魔王さまは夫婦だ」
鴉「この二つの世界のうち、一つは夢で、一つは現実だ」
勇者「!!」
鴉「このループから脱出したければ、お前はどっちかの世界で死ななければならない」
鴉「ちゃんと夢で死んだら現実で起きるだろう」
勇者「…じゃあ、もし現実で死んだら」
鴉「じゃあ、死ぬだろう。だから『現実』というのだからな」
カー…カー
勇者「うっ、また…眠気が…」
鴉「くくくっ、ちなみに貴様が眠ってる間でも両方の世界とも時間は進む」
鴉「せいぜい頑張るんだな」
鴉「二つの世界。どっちが夢か、どっちが現実か」
鴉「貴様の夢は、貴様の現実は、どっちだ」
- プロローグ - fin
勇者「…っ!」
勇者「ぐあああああああ!!!」
勇者「痛い…!」
勇者「全身が……ぁぁ!!」
側近「ふふふ、やっと目覚めたか」
勇者「!ここは牢屋か」
勇者「私を出せ!」
側近「愚かな人間だ」
側近「そう喚かずともちゃんと明日になったら出してやろう」
側近「全ての魔族と人間どもが見てる前で貴様の処刑をする時にな」
勇者「!!」
側近「その時までせいぜい大人しくしていることだな」
夢で死んだら現実で起きる。
現実で死んだら……わかるよね
勇者「待て!」
勇者「っ!」
勇者「体が傷だらけだ」
勇者「俺が寝てる間、魔王の攻撃を食らったせいだ」
勇者「道具が入った武器も道具も全て奪われている」
勇者「このまま死ぬのを待つしかないのか?」
カー…カー
勇者「っ…これは…また……」
勇者「!」
魔王「貴方様」
勇者「……魔王?」
魔王「はい?」
勇者「何故、お前が俺を真上から見つめているんだ」
勇者「後、頭がやたらと心地いいのだが」
魔王「はい、貴方様がお疲れのようでしたので、私が何か力になってあげられるものがないかと思いまして」
魔王「こうして膝枕をしている最中でございます」
勇者「……」
魔王「…余計なことだったでしょうか」
勇者「あ、いや…そんなことじゃない」
勇者「ただ、なんというか…」
勇者「気持ちいいな。魔王の膝の上って」
魔王「ふふっ、そう思ってくださって嬉しい限りです」
魔王「城には今日一日休むと伝えておきました」
魔王「今日は私とゆっくり休日を満喫してください」
勇者「ああ……」
勇者「そういえば、魔王と一緒にお出かけしたのも久しいな」
勇者「今日一緒にどこかにでも出かけるか」
魔王「ほんとですか?」
勇者「どこか良いかな」
魔王「私は貴方様と一緒ならどこでも…」
魔王「それと…貴方様の子供と三人で一緒に居れたらどこだって幸せです」サスッ
勇者「ニヶ月だな」
勇者「そろそろお腹が膨らんでくるか?」
魔王「最近、なんだか、お腹が重くなってくる気がします」
勇者「立ってるのが疲れたりはしないか?悪阻とかは」
魔王「流石にまだそこまでは…悪阻もあまりありません」
勇者「腹が大きくなったら、しばらくお城の仕事は休もう」
勇者「家事も俺がやるから、魔王は休んでると良い」
魔王「貴方様……嬉しいです」
カー…カー
勇者「……あ、また…」
魔王「ぐっすり寝てください。私がお側で見守っていますから…」
勇者「!」
魔王「やっと起きたか、ヘタレ勇者め」
勇者「魔王…!」
勇者「俺をここから出せ!もう一勝負しろ!」
魔王「馬鹿め、お前はもう余のものだ。放すわけがないだろ」
魔王「ここには貴様を笑ってやるために来たのだ」
魔王「それ程の力で余に挑むなどと、笑わせる!」
魔王「お前ごときが人間どもを代表する強者なら、これ以上人間どもを相手に手こずる必要もない」
魔王「明日貴様を処刑した後、魔王軍は全力攻勢に入る」
魔王「想像できるか?お前の死で絶望した人間どもが余の強力な魔物たちの手に殺される光景が」
魔王「助けてくれと叫ぶ声。腕と脚を千切られた痛みで醜く絶叫する様」
魔王「さぞかし滑稽であろうな」
勇者「貴様ーー!!」ガーン!!
魔王「くはははは!!!」
勇者「待て!魔王!待てっつってんだろおおお!!」
勇者「クソ!このまま終わってたまるか!」
鴉「何をそうムキになっている」
勇者「!貴様は…!」
鴉「いい方向に考えるんだ」
鴉「もしかすると、この世界が夢なのかも知れないぞ」