魔王「夢と現実、お前の選択はどっちだ」 7/8

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勇者「あ」

魔王「………」

魔王「ごめんなさい」

勇者「(こうして一緒に暮らしてまだそう長くないが、魔王の不器用さは想像以上だった)」

勇者「(『夢』の中で魔王との幸せな記憶がある分、そのギャップは激しいものだった)」

勇者「(でも、彼女を守るって約束したのだから、俺はその約束を、魔王を守る勇者になる)怪我はない?」

魔王「…ごめんなさい」

勇者「謝ってなんて言ってないよ。怪我とかない?」

魔王「…ない」

勇者「じゃあ、大丈夫だね。行ってなんかほうきとゴミ取り持ってきて」

魔王「…うん」てってって

勇者「走らない」

魔王「!…うん」おそおそ

勇者(魔王は魔族の戦いの末に独りで残されていた)

勇者(王には、魔王のことを話しては居ない)

勇者(ただ魔王城で、囚われて居た娘が一人居たので、自分が預かるとだけ言った)

勇者(王は俺を軍の名誉将軍にして、近くに居させようとしたが)

勇者(国の官位を断って、生活のためのある程度の後援金だけを願った)

勇者(……別に、夢の時のアレが気になって仕えなかったわけじゃない)

勇者(ただ、今は魔王のことだけを守るだけに俺の全てを尽くしたいと思った)

魔王「ごめんなさい」

勇者「うん?」割れた食器を掃きながら

魔王「私…何やっても下手で……」

魔王「何もちゃんと出来なくて…」

魔王「め、迷惑ばかりかけて」

勇者「…俺お前のそういうの嫌なんだよ」

魔王「」ビックリ

勇者「お前は俺の何だ」

魔王「………」

勇者「何?」

魔王「……お嫁さん」

勇者「俺はお前の何だ」

魔王「…貴方様」

勇者「いつも俺に他人行儀するのはやめろ」

勇者「お前が何をしようが、俺だけはお前の味方だ」

勇者「だから、俺にまでそう畏まるな」

魔王「……」

勇者「俺のこと嫌いか?」

魔王「!」フルフル

勇者「俺のこと怖いか」

魔王「…ううん」

勇者「じゃあ?」

魔王「……好き」

魔王「…大好き」

勇者「俺もお前のこと大好きだから」

勇者「もうそんな事言うな。分かったよな」

魔王「……うん」

勇者「食べたし、片付けたし、ちょっと散歩でもするか」

魔王「う、うん」

勇者「ああ、俺出かける準備してくるからお前は外でちょっと日でも浴びてろ」

魔王「…うん」

勇者(仕事は別にしなくても二人生活できるほどのお金が城から入ってくる)

勇者(たまに街周りの下級魔物を退治する仕事を受けるが、それも大したお金はもらわないし、というかほぼタダやってる)

勇者(大体の時間は魔王と一緒に過ごす)

勇者(あいつは俺が居ない時はどうやって生きていたかと思うぐらいに何事にも不器用だ)

勇者「よう」

魔王「……」すー

勇者「ってその間に庭のベンチ寝てるし」

魔王「……んぅ」

勇者「他のことは出来ないくせに、朝ごはんつくろうと俺より先に起きるのだけは無理にでもやるんだよなー」

勇者「疲れてるみたいだし、今日の散歩はパスにするか」

勇者「ちょっと隣座るぞー(小声)」

魔王「……」すー

勇者「……」

魔王「……」トン

勇者「肩に頭寄せてきた」

魔王「……」すー

勇者「……」

勇者「日差しがちょうど良いな」

勇者「寝るのも無理ない…」

魔王「……ん?」

魔王「…ぇ」

勇者「起きた?」

魔王「……私、どれぐらい寝た?」

勇者「一時間ちょっとさ」

魔王「……いつから、膝枕されてた?」

勇者「結構最初から」

魔王「……」///////

魔王「……もっとこうしていて良い?」

勇者「良いよ」

魔王「……えへへ」ニコッ♪

勇者「散歩に行くつもりが、昼まで寝過ごしたな」

魔王「…ごめ」

勇者「…」ジー

魔王「……気持よかったから」

勇者「まぁ、俺も一緒にねたから別に良いんだけどね…(トン)うん、なに?頭寄せてきてまだ眠い?」

魔王「ううん」

魔王「ただ貴方様にもっと寄っていたいだけ」

勇者「……そうか」

魔王「うん…嫌?」

勇者「なわけあるか」だきっ

魔王「!!」

勇者「夢じゃこういうのは出来なかったからな」膝の上に座らせる

魔王「は、恥ずかしいよ…」

勇者「いいじゃん、別に見られてるわけじゃないんだから」

魔王「……」/////

魔王「ちゅ、昼食の準備しないと」

勇者「と、それもそうだな」

魔王「あ」

勇者「何」

魔王「……パンしかない」

勇者「そっか……」

勇者「じゃあ、パンだけで適当に食べて、後は夕食の材料買いに出かけるか」

魔王「…うん」

雑貨屋

勇者「おっさん、なんか食材いいの入ってる?」

雑貨屋「おお、勇者さまとお嫁さんじゃねーか。朝見かけなくて心配したよ」

勇者「まぁ、ちょっとね」

魔王「……」///////

雑貨屋「ははっ、いやー、朝から盛んでますな」

勇者「そういうんじゃないから」

雑貨屋「それはそうと、そうだな。今日は色々入ってきてるからな。見てみなよ」

魔王「……このキャベツは?」

雑貨屋「おお、それか。やっぱ花嫁さんは目が良いな」

雑貨屋「そりゃ今度魔族の地から入ってきたキャベツだよ」

勇者「え、あっちって今開墾やってんの?」

雑貨屋「らしいな。こんな上品の野菜も入ってくるしな」

雑貨屋「しっかし、まさか魔族が滅ぶとは思わんかったな」

雑貨屋「ウチら人間にとっては良い話だけど…」

雑貨屋「なんかさ、未来俺たちもそうなるかもって思って来てな」

魔王「………」

勇者「んなことにはさせないさ」

勇者「せっかくの平和なんだ」

勇者「人間同士の戦いなんて馬鹿馬鹿しいもので壊されてたまるかってんだ」

勇者「俺の目が黒いうちにはそんなことさせないよ」

雑貨屋「はははっ、流石だな」

雑貨屋「そういう健気な勇者夫婦にはキャベツを半額にしてやる!」

勇者「えー、そこはタダって言えよ」

雑貨屋「や勘弁してって」

魔王「……へへ」

勇者「んじゃあ、買い物はこんぐらいで良いか」

魔王「……うん」

街の子A「あ、勇者のおじさんだ」

子B「ほんとだ、お嫁さんと一緒だ」

勇者「誰がおじさんだこらー!」

子C「ねえ、お姉ちゃん遊んで」

魔王「え?あ、あの……」

子D「パ○ツ何色?」バッ

魔王「きゃ、きゃーっ!隠す

子D「お、黒だ。大人だ」

魔王「い、言わないで」

勇者「てめぇら、こっちこーい!!」

子A「わー、おじさん怒った、逃げろーー!」

子D「にげろーー」

勇者「むぁあてええええ」

魔王「あ、貴方様、待って!」

スベッ

魔王「あ」

魔王「きゃうっ!」

勇者「!大丈夫か!」

魔王「うぅ…」

魔王「あ、買った食材が…」

勇者「大丈夫か。怪我は」

魔王「……」

魔王「…うぅ…」ジワッ

魔王「ふええ……ごめんなさい」

勇者「ど、どうしたんだ、痛いのか?」

子A「えー、おじさんがお嫁さん泣かした」

子B「泣かしたー」

勇者「ちょっと見せてみろ」

魔王「ふぅぅ……うぅぅぅ…」

勇者「血は出ない。掠っただけだ」

勇者「まだ痛いか」

魔王「…痛くはない」

魔王「でも……」

勇者「…」

魔王「私…やっぱり貴方様に迷惑ばかりで…」

勇者「……」

勇者「…ほら」

魔王「…え?」

勇者「おんぶしてやるから、ほら」

魔王「え、なんで…」

勇者「いいからさっさと来い」

魔王「あ、うん……」

勇者「……」

魔王「…あの、重くない?」

勇者「重くない。ってかお前もっと体重つけろ。軽すぎ」

魔王「……」

勇者「誰が見ると俺が嫁に飯もちゃんと食わせないで苦労ばかりしてるみたいじゃないか」

魔王「…が、頑張って食べろ」

勇者「うん、良し。今日魔王のご飯は大盛りだな」

魔王「え!?む、無理だよぉ」

勇者「よし、じゃあ、俺は買ってきたの片付けるから、お前はまず洗ってきな」

魔王「うん…」

勇者「……うん?なんだこの瓶」

『この前入ってきたドラゴンのアレで作った媚薬だ。俺より勇者さんちで使い所ありそうだから入れとくわ』

勇者「あのエ口オヤジ……」

勇者「こんなん使うかっての…」

魔王「何か使えないの?」

勇者「え?ああ、なんでもない、なんでもない」

魔王「…?貴方様、なんか隠してる?」

勇者「隠す?ないよ。全然そんなのないよ。それよりほら、早く夕飯の準備しないと」

魔王「……うん」

勇者「はい、いただきます」

魔王「……いただきます」

勇者「?どうしたの?」

魔王「……貴方様って、料理うまくなったなぁって」

勇者「」ギクッ

魔王「私は、最初の時から全然変わらないのに…」

勇者「まぁ……アレだ」

勇者「その…お前は、俺よりジャガイモとか綺麗に剥けるから」

魔王「…半分しか残らないのに」

勇者「それが良いんだよ!」

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