魔王「夢と現実、お前の選択はどっちだ」 4/8

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魔娘「…」ベシッ、ベシッ

勇者「いて!いてぇって!話すから殴るのやめろ!」

勇者「…てなわけで…」

魔娘「………」

魔娘「でここが夢だと思ったわけ」

勇者「そうだ」

魔娘「あんた馬鹿でしょ」

勇者「なっ!」

魔娘「だってあんたをはめる罠なら、夢であなたをそっちに誘って現実で死なせるに決まってんじゃない!」

魔娘「むしろ向こうであんなこと言った時点で、もうあっちが夢よ」

魔娘「ここが夢だなんてありえないわ」

勇者「貴様はそう簡単に言えるだろ。でも俺はほんとにわからねーんだよ」

魔娘「分からないから自分の心行くまま楽な方を選んだわけ?」

魔娘「こっちはもう負けたし詰んだから、パパが女の世界でキャッキャウフフして過ごすって?」

魔娘「誰よ、こんなのを勇者に選んだヘタレ人間は」

勇者「……」

勇者「…結局一緒じゃないか」

勇者「あっちではあっちが現実だというし。こっちはこっちで現実だと思っている」

勇者「だからもっと紛らわしいんだよ」

勇者「しかも、ころころと世界が変わるせいでどっちももう絶体絶命」

勇者「もう運に任せてどっちかを選ぶしかない」

魔娘「…だったらこっち選びなさいよ」

勇者「…は?」

魔娘「こっち選んだら、私がパパに勝てるようにしてあげる」

勇者「!!」

勇者「でも、お前は…」

魔娘「さっきあんた、私が魔王の娘というのがありえないって言ったでしょ」

魔娘「それ、あながち嘘じゃないわ」

魔娘「私は、魔王の本当の娘じゃない」

勇者「…どういうことだ」

魔娘「魔王はいつも魔族の中で一番強い者がならなければならないから」

魔娘「小さい時から魔力に素質があったら魔王にさせるのよ」

魔娘「私も小さい時に魔王の気に入ってこの城に閉じ込められた」

魔娘「酷いと思わない?」

魔娘「誰も魔王がなりたいなんて言ってないのよ」

魔娘「なのに小さい頃からこの城に閉じ込めて、一度も外に出たこともない」

勇者「一度も!?」

魔娘「しかも、パパは魔族に対してもいい魔王じゃないわ」

魔娘「あんたを殺して、人間どもを滅亡させたら次は魔族たちに自分の欲望をぶつけるでしょうね」

魔娘「パパが強いから誰も文句言わないけど、いざとなったらクーデターでもなんでも起きるわよ」

勇者「…そして、お前は時代魔王候補」

勇者「お前が動いたら、一緒に反旗を起こす連中もあるだろうってことか?」

魔娘「確信はできないけど、でもそうでなければ私をこんな長く孤立させる意味がないわ」

魔娘「この年だともっと魔力増強のための修行でも勉強でもさせるはずだわ」

魔娘「私が自分を越えるのを恐れているのよ。パパは…」

魔娘「でも、私だけじゃやっぱ怖いから、今まで黙って居たの」

勇者「……」

魔娘「でも、勇者あんたさえ手伝ってくれたら、あんたと強力して、パパを倒すことを可能かもしれない」

魔娘「あんただって、このまま勇者が負けて人類が滅亡しましたって終わりは嫌でしょ?」

魔娘「だったら、私に協力しなさい」

魔娘「あっちの『夢』なんて捨てて、私のところに来なさい」

勇者「……魔王を倒せる…」

魔娘「そうよ。私が魔王になったら人間たちにももう手をつけないって約束する」

魔娘「だから、私に手を貸しなさい」

魔娘「そ、そして、あんたさえ良ければ……」

カー…カー…

勇者「うーっ」

魔娘「あ、ちょっと、寝ないでよ。今大事なこと言おうとしてるのに」

魔娘「いいわね!絶対あっちから戻ってくるのよ!」

勇者「!」

魔王「貴方様!」

勇者「………」

勇者「…ごめん……死ねなかった」

魔王「あ……」

勇者「…俺は……やっぱりどっちも見捨てることができない」

勇者「あの世界では、俺が居ないと人類はきっと滅亡する」

勇者「それだけじゃなくて、あの魔王を放っておいたら魔族だってどうなるか分からない」

勇者「そして…この世界に俺が居ないと…」

勇者「お前とその子は……」

魔王「……貴方様…」

勇者「……」

勇者「うああああああ゛!!!」

ドーン<<壁を殴る音

ドーン!

ドーン!

勇者「!!なんだ、この音は…」

魔王「念のために張っておいた結界が割られています」

魔王「まさかこんな早く付けてくるなんて…!」

勇者「…俺が時間を稼ぐ、お前はまた次の魔法を準備してくれ」

魔王「無茶です!相手ももう勇者さまだからって手加減は致しません」

魔王「また急に眠ったりなんてすれば勇者さまは…」

勇者「俺は勇者だ!」

勇者「…俺は何かを壊すことは苦手だ」

勇者「俺にできることは、何もかも守ること」

勇者「それだけだ」

勇者「どっちも…守ってみせる」

がちゃ

勇者「…」

王「姿を表したか、人類の裏切り者め」

王「この場で葬ってくれる」

勇者「お前を交わる事ばなんてもうない」

勇者「俺の妻と子を怪我そうとした罪」

勇者「自分の欲望と身の安全に人類をかけるこの傲慢さ」

勇者「タダで済むとは思うな」

王「ほざけ」

王「皆の者、あいつを殺せ!」

王「もはやあんな者、勇者と呼ぶにも及ばん!」

王「あの人間の異端者を殺せ!」

勇者「…参る」

勇者「はぁーーっ!!」

兵士たち「」ペチャッ

勇者「はぁ…はぁ……」

カーカー

勇者「うっ…くっ」

王「ふ、ふふふ、もう疲れきたのか」

勇者「…ほざけ…まだまだだ(クソ、数だけは揃えて来やがって…)」

勇者「(あの鴉の声さえなければまだまだやれるのに…)」

勇者「(このまま倒れては魔王を守れない…)

勇者「魔王……済まん……」

勇者「…!」

魔娘「勇者!」

勇者「……ダメだ」

魔娘「勇者?」

勇者「おい!鴉!どこにある!もう一度鳴け!」

勇者「でないと魔王が…魔王が…!!」

魔娘「落ち着いて!大きい声を出すと周りにバレちゃ……」

がちゃ

魔王「!勇者、余の娘に何をしている!」

魔娘「!パパ!」

魔王「己ー!!」

勇者「ぐあっ!!」

魔娘「勇者!」

魔王「野郎どもが…腑抜けて勇者を逃しおって」

魔王「貴様…もう公開処刑などどうでも良い!」

魔王「ここでこいつを殺してやる」

勇者「う…ぅぅ……」

魔娘「待って、パパ!」

魔王「何だ、魔娘。これは俺の仕事だ。お前は口を挟むな!」

魔娘「…そんな勝手にやっちゃっても言い訳?」

魔王「何ぃ」

魔娘「私、知ってるんだから、最近パパに逆らう魔物たちが多くて困ってるんでしょ」

魔娘「だから勇者の公開処刑で魔族たちの不満を鎮めようとしてたんじゃない」

魔娘「いいのかしら、こんな所で殺しちゃっても」

魔王「………」

魔王「確かに、その通りだな」

魔王「こいつはまた牢屋に突っ込んでおく」

魔王「だが魔娘。今回のこと、ただで見逃すわけにはいかないぞ」

魔娘「……分かってるわ」

魔王「…ふん」

魔王「おい、こいつを牢屋に運べ!」

魔娘「私がするわ。あんたら私の部屋に足跡一つでもつけたら全部丸焼きにしてやるわよ」

勇者「……」

魔娘「…勇者…」

牢屋

勇者「……うっ」

魔娘「気づいた?」

勇者「……お前…」

魔娘「ごめん、もう私もこれ以上あなたを助けることはできないわ」

魔娘「……これ、この牢屋の鍵よ」

魔娘「深夜、一度だけ牢屋の番を入れ替える時があるから、その時こっそりコレを使って逃げなさい」

勇者「…どうして……ここまで……」

魔娘「………」

魔娘「私もわからないわ」

魔娘「でも…あなたに生きていて欲しい」

魔娘「それだけよ」

勇者「……」

鴉「どっちも絶望的だな」

勇者「…失せろ」

鴉「もうどっちを選んでも、どっちも失うかも知れない」

勇者「黙れ……」

鴉「勇者、人間の希望を背負って生きる人間よ。お前はその荷を担うには弱すぎた」

鴉「いや、その荷を一人で背負える人間なんてこの世に存在しない」

鴉「最初からお前の冒険は、不可能なものだったんだ」

鴉「勇者の冒険は、ここで終わるのだ」

鴉「勇者が魔王に勝つという伝説は、永遠に『夢』物語になるだろう」

勇者「ゆ……め…」

カーカー

勇者「そうなって……たまる…か…」

勇者「勇者は…守るんだ……」

勇者「それが何であろうが……」

勇者「守ってみせるんだ」

勇者「…!」

勇者「ここは…!」

魔王「……貴方…様」

勇者「!」

勇者「魔王!」

魔王「……はぁ……はぁ…」

勇者「からだが…そんなになるまで…俺を……」

勇者「一体どれだけ…」

魔王「貴方様との日々、このまま失うわけにはいきませんから」

勇者「……」

王「ふん!大した夫婦愛だな」

王「だが、一人が二人になった所でこの大軍の前では無力」

王「この誰も知らぬ森の中を貴様らの墓場にしてやろう!」

勇者「魔王、休んでろ」

勇者「ここは俺が引き受けた」

勇者「勇者は!」ペチャッ!

勇者「人を守るからこそ勇者なんだ!」ペチャッ!

勇者「守るべき者を持った勇者は負けるわけには行かない!」ペチャッ!

勇者「貴様のような自分の欲望しか知らない連中に俺の戦いが分かるか!」ぐちゃ

勇者「貴様らに俺の大切なものたちを奪われてたまるものか1」ぐちゃっ!

勇者「魔王を殺したいなら俺から先に殺せ!」

勇者「うおおおお!!!」

王「ば、馬鹿な……」

王「あんなにあった軍隊が……壊滅だと」

王「たかが人間一人に…!」

勇者「勇者を甘く見るな」

王「ひぃっ!」

勇者「勇者を魔王を倒すために居るんじゃない」

勇者「人を守るから勇者なんだよ」

勇者「そしてお前は…俺が守るべき存在を貶めた」

勇者「貴様はもう俺に守られる者ではない」

王「ま、待て!」

王「俺を殺したら、魔王の命はないぞ!」

勇者「!」

魔王「……あなた…さま」

勇者「魔王!」

勇者「貴様、魔王になにをした!」

王「く、くくく、なーに、私がお前たちを相手するに、ただの軍で来たと思うのか?」

王「お前が倒れている間、お前を庇って戦っていた魔王は」

王「何度か猛毒を塗った剣や矢に掠ったのだ」

勇者「!!」

王「私が持ってきた解毒剤がなければ、魔王は助からない」

勇者「……!」

勇者「その薬を出せ!でないと」

王「そう強く出ていいのかな」

王「私が死ねば、薬も得られないぞ」

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