女僧侶「勇者様にプロポーズされました」 3/8

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幼馴染「――っ。ど、どうしてですか……!」

父「お前は、まだ13才の子どもだ。しかも預かっている身だ」

父「自立したい気持ちはわかったが、すぐに「はい」とは言えない」

父「俺にはお前が道を踏み外さないよう見守る責任がある」

幼馴染「道を踏み外すだなんて、そんなことありません!」

父「わかってる。お前が拍子でそんなことを言う子でないことはしってる」

父「他人の幸せを、心から願える子だ。きっと僧侶に向いているだろう」

父「いや。『向きすぎている』と言ってもいい。だから怖いんだ」

父「自分を犠牲にしてでも他人を救いたいと思う……思ってしまう」

父「そんなお前だから……もう少しゆっくり考えて欲しい」

父「こんな時勢だ。いったん教会に入り僧侶の道を踏み出せば、否応なく危険な道を行くことになる」

父「あるいは優しい心が、お前自身を滅ぼしてしまいかねない」

父「そんなことになれば、あいつに…顔向けできん」

幼馴染「……」

父「だからな、幼。俺にも考える時間をくれ」

父「俺が充分に考えたうえでお前を送ると決め、そのときまだ幼の決心が変わらないままなら」

父「……そのときは、笑顔で送りだしてやる」

幼馴染「おじさん……」

父「それまでは今まで通り自分で勉強するんだ。いいかい?」

幼馴染「……はい」

男(……幼)

―――

――

男「なあ~……」

幼馴染「うん?」

男「本気で教会に入るつもりなのか?」

幼馴染「本気だよ」

男「そっかー」

幼馴染「……男はどう思った?」

男「オレ?」

幼馴染「私が教会に入るの、やっぱり反対?」

男「はあ?反対するわけないじゃん」

幼馴染「え」

男「そりゃまあ、寂しくなるけど。お前が決めたことだろ」

男「いいんじゃない。オレは応援するよ」

男(止めたって聞かないだろうし)

幼馴染「……そっか」

男「おう」

男「それにああは言ってたけど、父さんだってもうわかってるさ」

男「お前の気持ちは変わんないだろうし」

男「なら、あとは父さんが覚悟を決めるだけだろ。どう決着させるかは知らないけど……」

男「ま~。知ったこっちゃねえよ。あんまり長くなるようなら勝手に出てけよ、説得はしといてやるって」アハハ

幼馴染「……」

幼馴染「……うん。あの、さ。男……」

男「お礼とか、むずがゆいからやめてくれよ」

幼馴染「ん」

幼馴染「あはっ――」

幼馴染「うん。わかった。でも勝手には出ていかないよ」

幼馴染「おじさんが良いって言ったら、行く。そこまで迷惑はかけたくないよ」

男「そっか。なら……待ってな」

男「でも、あの父さんだからな~。たぶん長いぞ。優柔不断だし」

男「1年は見といたほうがいいな」

幼馴染「待ってるよ。それくらい……だから、それまではよろしくね」

男「おう!」

~6年前~

神父「それでは、お預かりいたします」

幼馴染「……今までお世話になりました」

男「元気でな」

父「いいか、幼。寂しくなったらいつでも帰ってくるんだぞ?お前の家はうちにあるからな?いいな!?」ブワッ

男「やめろよ、みっともない……」

男(結局、幼の14才の誕生日だもんな…時間かかりすぎだろ)

幼馴染「はい。ありがとうございます。……またね、男」

男「うん。またな……あ」

男「ねえ、神父さん」

神父「はい?」

男「こいつに渡したいものがあるんだけど、教会ってそーいうの平気?」

幼馴染「!」ッ

神父「……俗世を離れ神に捧げる身なれど、愛すべき友より贈られる品を拒む理由はありませんね」

男「そうか。なら良かったよ。断られたらどうしようかなとか思ってた」

男「はい、これ」

幼馴染「これ……ロザリオ?」

男「女僧侶になるなら必要だろ?なけなしの小遣いで買ったんだぜー」

神父「まあ教会から配布されますけどね、それ」

男「なん……だと……」

幼馴染「あはっ」

幼馴染「……嬉しいよ。すごく嬉しい。絶対大切にする。……ありがとう」

男「……おう」

男「またな」

幼馴染「……またね」

~5年前~

男「武道家さん?」

武道家「うむ?」

男「あ、やっぱそうなんだ……いや、カンだったんだけど」

武道家「何か用かボウズ」

男「あのさおっちゃん…実は俺、剣を使うんだけど」

武道家「ふむ」

男「武道家さんみたいな人たちって、みんな拳で戦うけど怖くない?だって素手じゃん」

武道家「カッ!まあ確かに怖くはあるな」

武道家「しかし気を高めれば我が拳……鋼はおろかオリハルコンさえ打ち砕く」

男「おお」

武道家「……予定だ」

男「予定かよ!」

武道家「まだ修行の途中でな。まだまだ未熟……しかし、あと5年以内には完成しているはずだ」

男「そんなん完成したら、魔王倒せるんじゃないの」

武道家「ふむ?そうだな……魔王討伐か。道を極めるに必死で考えたこともなかったが……」

武道家「なるほど、悪くない考えだ。道中、我が拳の完成も早まるかもしれん」

武道家「なるほど、ガキンチョ!そうするべきか!はっはっは!」

男「俺もう15だし。ガキンチョじゃねーよ」

武道家「なに、嫌味のつもりはない。そうだな……礼をしてやるべきか」

男「なに?何かくれるの?」

武道家「いや。我が拳が完成した曉には、お前に我が拳舞を見せてやる!目の前でな!!!」

男「い、いらねえ……」

武道家「まあそう言うな!はっはっは!!」

男「ちぇっ……」

―――

――

女僧侶「……」

神父「女僧侶」

女僧侶「……神父様?」

神父「祈りの最中、すみませんね。あなたに尋ね人です」

神父「懺悔室にいらっしゃいます。ぜひあなたに聞いて欲しいことがあるそうです。行ってきなさい」

女僧侶「私…ですか?」

神父「ええ」

女僧侶「誰だろう……」

~懺悔室~

?「……」

「迷える子羊よ」

?「……はい」

「悔い改めることあらば、神に祈り懺悔なさい。神は慈悲深くあなたの罪をお許しになるでしょう」

?「……」

?「幼馴染さん。私は兵士長と言います」

「!」

兵士長「ずっと、あなたに伝えねばならないことがありました」

兵士長「許されずとも構いません。私の罪をどうか、お聞きください」

「………」

~4年前~

女僧侶「男!久しぶり!」

女僧侶「神父様からお許しが出たの。今日はゆっくり出来るよ」

男「……」

女僧侶「……えと……お、男?」

男「え?あ、ああ……」

男(2年合わないうちに……すっげー可愛くなってるような……)

男(き、気のせいだよな……ちっちゃい頃から知ってるし今さら)

男(服装のせいもあるな、うん。青いし)

男「……ひ、久しぶりだな幼」

女僧侶「ふふっ。今は僧名をもらってるから、女僧侶だよ」

男「そうなのか?悪いな……女僧侶?」

女僧侶「いいよ、幼のままで。きみからはそっちで呼んでもらいたいよ」

男「そうか……そうだな。じゃあ、幼」

女僧侶「なに?」

男「え?……いや、呼んでみただけ……すまん」

女僧侶「ふふっ。うん、わかってるよ?」

男「からかうなよ」

女僧侶「からかってないよ」

男「からかってるだろ」

女僧侶「バレた?」

男「……くくっ」

女僧侶「えへへ」

男「お帰り、幼」

女僧侶「ただいま、男」

男「ま。色々話もあるからさ、家に入って――」

ガチャッ

父「幼おぁぁお!」ガバッ

女僧侶「きゃあああ!?」

父「こいつ!こんなにおっきくなりやがって……なりやがってんはあ!」グニグニグニ

女僧侶「おじさん、やめ、ひゃああ///」グニグニグニ

男「父さん!!」

女僧侶「やああ//やめて、やめてくださいぃ///」

父(青年よー、お前の娘は立派に育ってるぞー)

男「やめろっつってんだろうが!早く離れろ!」

女僧侶「あわわわ…///」

―――

――

父「久しぶりだね、幼」

女僧侶「今さら真面目な顔したってダメです」

父「手厳しいね」クックッ

父「……お帰り、幼。立派になったな」

女僧侶「はい。まだまだ修行中の身ですけど……」

男「こっちにはいつまで?」

女僧侶「明日のお昼。それが終わったら、またしばらくは来られないかな」

男「そっか…短いんだな」

女僧侶「うん。でも、その……だから、今日はその分たくさんお話できるよ」

男「おう」

女僧侶「うん」

男「んじゃ、飯もくったし俺の部屋行こうぜ」

父「え///」

女僧侶「なな、なんでおじさんが顔赤くするんですかっ!」

父「その…大胆だなと思って」

男「いや、違うし」

女僧侶「変な勘繰りはやめてください!」

父「冗談だよ。お前ら兄妹みたいなもんだしな」

女僧侶「……そ、そうですよ。弟です」

男「え?妹だろ」

女僧侶「私がお姉ちゃんだよ。男が怪我したときも、治してあげたでしょ」

男「地下水道の話か?それなら基本オロオロしてたのお前じゃん」

女僧侶「私が姉です」

男「俺が兄だろ」

父「父です」

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