女僧侶「いいよ、もう……部屋に行こ?」
男「だな」
父(無視された。悲しい)
男「で?」
女僧侶「え?」
男「どうなんだ、教会は」
女僧侶「うん。みんな優しくしてくれるよ。いい人たちばっかり」
男「そりゃ良かった」
女僧侶「男は?その…どうなの?か、彼女とか…できたり?」
男「うん」
女僧侶「」
男「嘘に決まってるだろ……まさかそんな固まるなんて」
女僧侶「からかわないでよ……」
男「可愛いなお前」
女僧侶「だから!からかわないでよ」
男「真面目に言ってる」
女僧侶「……」
女僧侶「ふぇっ?」
男「あー、その……ホントさ。可愛くなったと…思うよ、うん」
女僧侶「あ……えーと」
女僧侶「……あ、ありがと……」
男「……」
女僧侶「……」
女僧侶「///」ボッ
男「///」
父「あかーーん!!」ガチャッ
男「!?」女僧侶「!?」
父「ええい、なんだこの耐えられざる空気は!青春か!甘酸っぱいわ!」
女僧侶「ち、違います!」
父「ダメだぞ!父は許しません!!」
父「お前らやっぱ兄妹じゃねえ!男と女だわ!!油断も隙もねえなホント!!」
女僧侶「ちちちちち違がががが///」
女僧侶「や、やめてください、おじさん……」
父「テメェら同じ部屋じゃ寝せないからな!父は許さないから!」
女僧侶「だから違います!!!」
男(……疲れる……)
~3年前~
父「聞いたか、男」
男「何を?」
父「神託があったそうだ。ついに勇者様が誕生されたと」
男「勇者様が……?」
父「ああ。これはいよいよ魔物たちとの決着がつくかもしれないな」
父「それと、驚け。神託を受けたほか三人のお供…」
父「その一人が、幼だ」
男「!!」
父「まさかあの子が勇者様のお供になるなんてなあ」
父「……親父も素晴らしい剣士だったけど、血は争えないのかね」
男(幼が、勇者様のお供)
男「……」
男(そうか…凄いな、お前……)
男(……死ぬなよ、幼)
~2年前~
魔物A「ぐるるるる…!」
男「っ」ザンッ!
魔物A「が――」
魔物B「きしゃああ!」
男「はあっ!」ザシュ!
魔物「――」ドサッ
男「……」チンッ
男「ふぅ」
男「みんな、もういいよ」
村人「はぁ……」
父「おお……お、お前……強くなってたんだなあ」
男「訓練は欠かしてないからね」
父「それに……なんだ、剣があいつとそっくりだな」
男「おじさん?……まあ、そりゃ師匠だし」
父「えっ?あいつから剣を習ってたのか?」
男「あれ、そうか。父さんには内緒にしてたっけ」
父「悲しい」ブワッ
男「仕方ないだろ、あんときは止められてたし」
男「それにしても……魔物が入りこむなんて、ずいぶん久しぶりだ」
父「前にもまして魔物が活発化してるのもあるが…」
男(兵隊たちの周辺警備も最近はとんと薄い。…余裕がないんだろうな)
男「とりあえず、俺はまだ魔物がいないか少し村中を見て回るよ」
父「気をつけてな」
男「へーきへーき」
男(幼。いまどこだ?無事なのか?お前は……)
男(……幼)
~1年前~
女僧侶「女神ルビスの名において……」
女僧侶「……アーメン」
村長「……」
村人A「……」
村人B「……」
勇者「……」
女戦士「……」
武道家「……」
女僧侶「……皆さん、顔をおあげください。故人への優しき祈りは神に届き、その魂は天に召されました」
女僧侶「御心に導かれた彼らはまた、女神に安息を約束され、天より皆様をお守りくださることでしょう」
女僧侶「では、どうか故人のため棺に花を……」
女僧侶(……)
女僧侶(魔王に近づけば近づくほど……魔物たちは、強くなり数を増す)
女僧侶(村や街は荒れ、人は傷つき……倒れる)
女僧侶(この1年でも見慣れたりしない)
女僧侶(……つらいよ)
女(……男)
―――
――
村長「ありがとう……ございました」
村長「これで死んだみなも救われたと思います、僧侶様」
女僧侶「礼など不要です。神に使える身として当然のことですから」
村長「ありがとうございます……ありがとうございます……」
女僧侶「……」ビクッ
女僧侶「で、では……失礼いたします」
村長「はい。ありがとうございます……ありがとうございます……」
女僧侶「……」トテトテ
女僧侶「……ふぅ」
女僧侶(――また逃げた)
女僧侶(ダメ……私は僧侶なのに。乗り越えなきゃいけないのに)
女僧侶(でも、ダメ。遺族やみんなの顔を見てると……怖くなる)
女僧侶(胸が引き裂かれそう!……苦しいよ)
女僧侶(……まだ私は……未熟ですね。神父様)
勇者「女僧侶」
女僧侶「ゆ、勇者様」
勇者「村人…大丈夫か?」
女僧侶「はい。呪いも解けました。さ迷える魂は1人足りともありません」
勇者「そうじゃない」
女僧侶「はい?」
勇者「きみだよ。ひどい顔色だ」
女僧侶「え?あ――も、申し訳ありません」
勇者「謝らなくていいさ。ただ、つらかったら言ってくれ……仲間を支えることくらいできる」
女僧侶「はい。お心遣い感謝いたします……勇者様」
勇者「……ああ」
勇者「それじゃあ、そろそろ次の場所へ急ごう。女戦士が退屈してたよ」
女僧侶「はい!」
~半年前~
勇者「――帰ったら、結婚してくれないか」
女僧侶「……」
女僧侶「ふぇっ?」
勇者「はは……驚いたな。きみでも、そんな声を出すんだ」
女僧侶「――!!ま、待ってください勇者様!何を仰います!」
勇者「……魔王まで、あと少し。長かった旅ももうすぐ終わるはずだ」
勇者「ぼくらは必ず魔王に勝てる。そして国に戻ったとき……」
勇者「ぼくは、みんなの前で、きみを妻に迎えたい」
女僧侶「――!!」
女僧侶「――!!」
女僧侶「わ、私ごときを妻にだなんて」
勇者「……聞いてくれ」
勇者「魔王を倒しても、すぐに世界が平穏になることはない」
勇者「いや。あるいは魔物という存在が消えることで…もしかしたらより多くの血が流れるかもしれない」
勇者「それまで魔王が支配していた地域を、大国はこぞって奪いにくるだろう」
勇者「穏便に話し合いですめばいいが……残念ながらそれはないと思ってる」
勇者「遅かれ早かれ小競り合いが始まる。やがて戦争になるかもしれない」
女僧侶「……はい」
勇者「人々はいま魔王の攻勢で疲弊しきっている」
勇者「ようやく訪れた平和……そこにもし国々の争いなんてことになれば」
勇者「……世界はさらに混乱する」
勇者「だから人々には象徴が必要だと考えてる」
女僧侶「象徴、ですか?」
勇者「ああ」
勇者「平和の象徴だ。人々の心を支える存在」
勇者「魔王を打ち倒せば、ぼくは必ず国の政治に利用される」
女僧侶「勇者様!我が国の王は、決してそのような方では」
勇者「ああ、違う違う。そうじゃない。王を信頼しているからこそだ」
勇者「『抑止力』になると言いたかったんだ」
女僧侶「抑止力……」
勇者「魔王を倒したあと、王は『平和の象徴』としてぼくを『使ってくださる』はずだ」
勇者「国々の争いを抑えるために、ぼくは必要不可欠になる」
勇者「もちろん、きみたちも。たぶんぼくらは、ぼくらが思っている以上に人々の象徴になる」
勇者「魔王を討ち滅ぼした勇者――そして仲間たち」
勇者「混乱するであろう世界を支える存在」
勇者「……それは構わない……元よりこの身はただ、人々のために」
女僧侶「……世界を……」
女僧侶「……つまり、その存在をより強固にするものとして。……私を?」
勇者「……いや。それは、建前だよ」
女僧侶「……」
勇者「たぶん、ぼくも……疲れる」
勇者「いまはこんな聖人君子みたいなこと言ってるけど」
勇者「……疲れると思う。だから、きみにそばにいて欲しい」
女僧侶「……」
勇者「きみと旅をして、きみの優しさを知って……きみといるとホッとする」
勇者「父を亡くしたとわかったときも、ずっとそばで支えてくれた」
勇者「本音を話せる」
女僧侶「……」
勇者「きみの存在は、勇者にもぼくにも必要なんだ」
勇者「だから……結婚して欲しい」
女僧侶「――!!」
勇者「もちろん答えはすぐじゃなくていい……けど」
――この旅が終わったら。
――真剣に、考えて欲しい
――ぼくは、きみを……愛してる
~1ヶ月前~
――勇者ご一行、凱旋!
――魔王を討ち果たす!
――世界に平和あれ!
――国に栄光あれ!
――民に、幸あれ!
男「魔物がいなくなったせいかな。きっと、いい穂が育つよ」
父「ふぅむ……魔物か」
父「……幼のやつ、帰って来ないな」
男「ん?……ああ、忙しいんだろ。今は国をあげての大騒ぎだ」
男「きっと祝賀会やらなんやらで泡食ってるんだろ」
女僧侶「誰が?」
男「あはは。お前に決まって……」
父「」
男「!?」
女僧侶「ふふっ」
父「よ……幼?」
女僧侶「はい。ただいま戻りました、おじさん」