女僧侶「勇者様にプロポーズされました」 4/8

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女僧侶「いいよ、もう……部屋に行こ?」

男「だな」

父(無視された。悲しい)

男「で?」

女僧侶「え?」

男「どうなんだ、教会は」

女僧侶「うん。みんな優しくしてくれるよ。いい人たちばっかり」

男「そりゃ良かった」

女僧侶「男は?その…どうなの?か、彼女とか…できたり?」

男「うん」

女僧侶「」

男「嘘に決まってるだろ……まさかそんな固まるなんて」

女僧侶「からかわないでよ……」

男「可愛いなお前」

女僧侶「だから!からかわないでよ」

男「真面目に言ってる」

女僧侶「……」

女僧侶「ふぇっ?」

男「あー、その……ホントさ。可愛くなったと…思うよ、うん」

女僧侶「あ……えーと」

女僧侶「……あ、ありがと……」

男「……」

女僧侶「……」

女僧侶「///」ボッ

男「///」

父「あかーーん!!」ガチャッ

男「!?」女僧侶「!?」

父「ええい、なんだこの耐えられざる空気は!青春か!甘酸っぱいわ!」

女僧侶「ち、違います!」

父「ダメだぞ!父は許しません!!」

父「お前らやっぱ兄妹じゃねえ!男と女だわ!!油断も隙もねえなホント!!」

女僧侶「ちちちちち違がががが///」

女僧侶「や、やめてください、おじさん……」

父「テメェら同じ部屋じゃ寝せないからな!父は許さないから!」

女僧侶「だから違います!!!」

男(……疲れる……)

~3年前~

父「聞いたか、男」

男「何を?」

父「神託があったそうだ。ついに勇者様が誕生されたと」

男「勇者様が……?」

父「ああ。これはいよいよ魔物たちとの決着がつくかもしれないな」

父「それと、驚け。神託を受けたほか三人のお供…」

父「その一人が、幼だ」

男「!!」

父「まさかあの子が勇者様のお供になるなんてなあ」

父「……親父も素晴らしい剣士だったけど、血は争えないのかね」

男(幼が、勇者様のお供)

男「……」

男(そうか…凄いな、お前……)

男(……死ぬなよ、幼)

~2年前~

魔物A「ぐるるるる…!」

男「っ」ザンッ!

魔物A「が――」

魔物B「きしゃああ!」

男「はあっ!」ザシュ!

魔物「――」ドサッ

男「……」チンッ

男「ふぅ」

男「みんな、もういいよ」

村人「はぁ……」

父「おお……お、お前……強くなってたんだなあ」

男「訓練は欠かしてないからね」

父「それに……なんだ、剣があいつとそっくりだな」

男「おじさん?……まあ、そりゃ師匠だし」

父「えっ?あいつから剣を習ってたのか?」

男「あれ、そうか。父さんには内緒にしてたっけ」

父「悲しい」ブワッ

男「仕方ないだろ、あんときは止められてたし」

男「それにしても……魔物が入りこむなんて、ずいぶん久しぶりだ」

父「前にもまして魔物が活発化してるのもあるが…」

男(兵隊たちの周辺警備も最近はとんと薄い。…余裕がないんだろうな)

男「とりあえず、俺はまだ魔物がいないか少し村中を見て回るよ」

父「気をつけてな」

男「へーきへーき」

男(幼。いまどこだ?無事なのか?お前は……)

男(……幼)

~1年前~

女僧侶「女神ルビスの名において……」

女僧侶「……アーメン」

村長「……」

村人A「……」

村人B「……」

勇者「……」

女戦士「……」

武道家「……」

女僧侶「……皆さん、顔をおあげください。故人への優しき祈りは神に届き、その魂は天に召されました」

女僧侶「御心に導かれた彼らはまた、女神に安息を約束され、天より皆様をお守りくださることでしょう」

女僧侶「では、どうか故人のため棺に花を……」

女僧侶(……)

女僧侶(魔王に近づけば近づくほど……魔物たちは、強くなり数を増す)

女僧侶(村や街は荒れ、人は傷つき……倒れる)

女僧侶(この1年でも見慣れたりしない)

女僧侶(……つらいよ)

女(……男)

―――

――

村長「ありがとう……ございました」

村長「これで死んだみなも救われたと思います、僧侶様」

女僧侶「礼など不要です。神に使える身として当然のことですから」

村長「ありがとうございます……ありがとうございます……」

女僧侶「……」ビクッ

女僧侶「で、では……失礼いたします」

村長「はい。ありがとうございます……ありがとうございます……」

女僧侶「……」トテトテ

女僧侶「……ふぅ」

女僧侶(――また逃げた)

女僧侶(ダメ……私は僧侶なのに。乗り越えなきゃいけないのに)

女僧侶(でも、ダメ。遺族やみんなの顔を見てると……怖くなる)

女僧侶(胸が引き裂かれそう!……苦しいよ)

女僧侶(……まだ私は……未熟ですね。神父様)

勇者「女僧侶」

女僧侶「ゆ、勇者様」

勇者「村人…大丈夫か?」

女僧侶「はい。呪いも解けました。さ迷える魂は1人足りともありません」

勇者「そうじゃない」

女僧侶「はい?」

勇者「きみだよ。ひどい顔色だ」

女僧侶「え?あ――も、申し訳ありません」

勇者「謝らなくていいさ。ただ、つらかったら言ってくれ……仲間を支えることくらいできる」

女僧侶「はい。お心遣い感謝いたします……勇者様」

勇者「……ああ」

勇者「それじゃあ、そろそろ次の場所へ急ごう。女戦士が退屈してたよ」

女僧侶「はい!」

~半年前~

勇者「――帰ったら、結婚してくれないか」

女僧侶「……」

女僧侶「ふぇっ?」

勇者「はは……驚いたな。きみでも、そんな声を出すんだ」

女僧侶「――!!ま、待ってください勇者様!何を仰います!」

勇者「……魔王まで、あと少し。長かった旅ももうすぐ終わるはずだ」

勇者「ぼくらは必ず魔王に勝てる。そして国に戻ったとき……」

勇者「ぼくは、みんなの前で、きみを妻に迎えたい」

女僧侶「――!!」

女僧侶「――!!」

女僧侶「わ、私ごときを妻にだなんて」

勇者「……聞いてくれ」

勇者「魔王を倒しても、すぐに世界が平穏になることはない」

勇者「いや。あるいは魔物という存在が消えることで…もしかしたらより多くの血が流れるかもしれない」

勇者「それまで魔王が支配していた地域を、大国はこぞって奪いにくるだろう」

勇者「穏便に話し合いですめばいいが……残念ながらそれはないと思ってる」

勇者「遅かれ早かれ小競り合いが始まる。やがて戦争になるかもしれない」

女僧侶「……はい」

勇者「人々はいま魔王の攻勢で疲弊しきっている」

勇者「ようやく訪れた平和……そこにもし国々の争いなんてことになれば」

勇者「……世界はさらに混乱する」

勇者「だから人々には象徴が必要だと考えてる」

女僧侶「象徴、ですか?」

勇者「ああ」

勇者「平和の象徴だ。人々の心を支える存在」

勇者「魔王を打ち倒せば、ぼくは必ず国の政治に利用される」

女僧侶「勇者様!我が国の王は、決してそのような方では」

勇者「ああ、違う違う。そうじゃない。王を信頼しているからこそだ」

勇者「『抑止力』になると言いたかったんだ」

女僧侶「抑止力……」

勇者「魔王を倒したあと、王は『平和の象徴』としてぼくを『使ってくださる』はずだ」

勇者「国々の争いを抑えるために、ぼくは必要不可欠になる」

勇者「もちろん、きみたちも。たぶんぼくらは、ぼくらが思っている以上に人々の象徴になる」

勇者「魔王を討ち滅ぼした勇者――そして仲間たち」

勇者「混乱するであろう世界を支える存在」

勇者「……それは構わない……元よりこの身はただ、人々のために」

女僧侶「……世界を……」

女僧侶「……つまり、その存在をより強固にするものとして。……私を?」

勇者「……いや。それは、建前だよ」

女僧侶「……」

勇者「たぶん、ぼくも……疲れる」

勇者「いまはこんな聖人君子みたいなこと言ってるけど」

勇者「……疲れると思う。だから、きみにそばにいて欲しい」

女僧侶「……」

勇者「きみと旅をして、きみの優しさを知って……きみといるとホッとする」

勇者「父を亡くしたとわかったときも、ずっとそばで支えてくれた」

勇者「本音を話せる」

女僧侶「……」

勇者「きみの存在は、勇者にもぼくにも必要なんだ」

勇者「だから……結婚して欲しい」

女僧侶「――!!」

勇者「もちろん答えはすぐじゃなくていい……けど」

――この旅が終わったら。

――真剣に、考えて欲しい

――ぼくは、きみを……愛してる

~1ヶ月前~

――勇者ご一行、凱旋!

――魔王を討ち果たす!

――世界に平和あれ!

――国に栄光あれ!

――民に、幸あれ!

男「魔物がいなくなったせいかな。きっと、いい穂が育つよ」

父「ふぅむ……魔物か」

父「……幼のやつ、帰って来ないな」

男「ん?……ああ、忙しいんだろ。今は国をあげての大騒ぎだ」

男「きっと祝賀会やらなんやらで泡食ってるんだろ」

女僧侶「誰が?」

男「あはは。お前に決まって……」

父「」

男「!?」

女僧侶「ふふっ」

父「よ……幼?」

女僧侶「はい。ただいま戻りました、おじさん」

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