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女僧侶「勇者様にプロポーズされました」 8/8

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兵士長「私は剣聖様とともに討伐隊に参加していた」

兵士長「いまだかつてあの方ほど強いお方を見たことがない」

男「勇者様より?」

兵士長「私は勇者様と旅をしたわけではないから下手なことは言えない。しかしそうであって欲しいと思わせる強さはあった」

兵士長「隼の剣。そして、一太刀乱舞の瞬神技」

男「…見たことあります」

兵士長「奥方様を亡くされ傷心なされたあと、幼かった女僧侶様を連れてきみの村へ行き……」

兵士長「あの方は、しかしそれでも立ち直り、我々とともに魔王討伐へ向かってくださった」

兵士長「…本来なら、あのときに魔王討伐は終わっていたはずだった」

兵士長「しかし……しかし!!私が未熟だった!」

兵士長「あの方は……私を庇い、倒れたのだ」

男「……」

兵士長「忘れもせぬ!魔王のあの醜悪な笑みを!私は必死に逃げ出し……いつか仇討ちをと願った!!」

兵士長「そのために鍛練を積み、兵士たちを率いる立場にまでなった」

兵士長「だが勇者様たちが旅立ち、魔王は倒された。お仲間にあの方の娘さんがいたことは…まさに運命と言えるが」

兵士長「しかし!それでも我が無念は消えぬのだ!」

兵士長「なぜあの方が死んで私が生き残る!なぜ、私など庇ってしまった!!」

兵士長「私さえいなければ……平和はとっくに訪れていたはずだ」

兵士長「女僧侶様も!!!きっと!!平和なときを、ただ過ごせたのだ!」

兵士長「余計なことは考えず!!自らの気持ちに純粋に従い!!」

兵士長「世界平和など謳わず!女としての幸せを歩んでいたはずなのだ!」

兵士長「……」

男「……」

兵士長「以前、女僧侶様には全て打ち明けた。それでもあのお方は…許してくださった」

兵士長「そして、私にだけ胸のうちを明かしてくださった!」

――私には、支えてくれる大切な人がいるから。

――だから、お父さんがいなくなっても、強く生きていけます。

兵士長(……)

兵士長(女僧侶様は、悩んでおられた)

兵士長(己の信念に従うか己の気持ちを優先するか)

兵士長(ハッキリは仰らなかったが……女僧侶様は、信念に従ったのだ)

兵士長「ならば、いま」

兵士長(あの方がいらっしゃるこのときだけは!)

兵士長「私もまた己が信念を貫こう!このときこそ我が道と知れ!!」

兵士長「走れ!!」

馬はさらに早く早く。

城下町はすぐそこだった。

避難を終えた教会は、彼ら闘いの音ばかりが響いていた。

女戦士「……ぐっ」

武道家「っ……ぬう」

青年「……」

女戦士(冗談きついぜ…)

武道家(これほどの使い手が……!)

二人が呻く。

闖入者を排除しようと飛びかかった彼らは、だが青年の見えざる剣によって、壁に叩きつけられていた。

女戦士「くそっ!」ザッ

武道家「っ!!」ザッ

そして再び。

青年「……」チャキッ

結果は同じだった。

軽やかな動作から生まれた一太刀乱舞の瞬神剣が二人を弾き飛ばす。

青年「……」

立ち込める闘気。

ただ「居る」だけで放たれる圧倒的な存在感。

女戦士(この雰囲気……)

武道家(間違いない!)

勇者「二人とも、やめるんだ」

勇者(……この人は……)

勇者(ぼくと、同じだ)

女僧侶「お父さん……」

青年「……」

女僧侶「なんで、生きてるの?」

青年「その言い方ひどくないか?」

女僧侶「……」

青年「…ああ。ぼくは死んでるよ」

女僧侶「!」

青年「だが約束したはずだよ?……あの手紙で。死んでも化けて出るって」

女僧侶「そんなの理由になってない!」

青年「……」

青年「……なあ、幼」

青年「お前はそれでいいのか」

女僧侶「当たり前でしょ!何を言ってるの!」

青年「……幼」

青年「ぼくはね」

青年「お前に、普通の女の子として生きて欲しかったよ」

青年「だからあの村に引っ越して……そして」

青年「安らかに過ごして欲しいと思った」

青年「なぜぼくが、お前を置いて旅立てたか……わかるだろ?」

女僧侶「……」

青年「彼らが……いたからだ」

青年「お前を託すに信頼できる友人……そして」

青年「お前を心から笑わせてくれる、存在」

女僧侶「……」

青年「まさか、お前が僧侶になり、あまつさえ選ばれし者になるなんて」

青年「運命は皮肉だ」

青年「だが、そんなことはどうでもいい」

青年「……勇者」

勇者「はい」

青年「きみはこの娘を幸せにできるか?」

勇者「その…つもりです」

青年「そうか」

青年「いい自信だ」

青年「なら、あとは……幼が応える番だ」

女僧侶「私はもう応えたよ!だからこの場に…」

青年「おい馬鹿ムスメ」

女僧侶「」

青年「結婚に一番大事なのはなんだ」

青年「誓いの言葉を思い出せ」

青年「『生涯愛することを誓いますか』」

青年「お前の言葉には、愛が足りない。心が足りない」

青年「そして……ぼくは知らない」

青年「勇者か。…『彼』なのか。お前の愛がどこにあるのか」

青年「父として、今この場で聞かせてもらおう!」

女僧侶「――!」

そして。

もう一度、式場の扉が開く

男「……幼!」

女僧侶「!」

勇者「!!」

青年「来たか」

男「……え?」

青年「久しぶりだな、いやあ大きくなった」

男「おじさん…なんで」

青年「疑問は後回しだ」

青年「役者は揃った!さあ幼!いまこそ俺に!パパに聞かせてくれ!!」

青年「……俺は知ってる」

青年「勇者がお前と旅し、苦難の末に魔王を倒したことを」

勇者「……!」

青年「勇者がお前を心から愛していることを」

青年「……知ってるさ」

青年「男が、ずっと、お前を支えてくれたことを」

青年「……男が、お前に、本音でぶつかったことを」

男「……」

青年「……二人の男から愛されるなんて、お前は本当に幸せだな」

青年「だから、幼」

青年「全員が揃った、いまこの場で言ってくれ」

青年「お前が愛する者の、名前を」

青年「女僧侶としてではなく!『幼馴染』として!」

女僧侶「……!!」

女僧侶「……私は……勇者様と…」

勇者「……幼」

女僧侶「!勇者様…」

勇者「聞かせてくれ」

女僧侶「けど……だけど」

女僧侶「そんな……の」

男「なあ、幼」

女僧侶「…!」

男「俺はもう、言いたいことは言ったし」

男「ま、気にすんな。俺も聞きたいだけだ」

男「俺も――お前の気持ちを聞きたいよ」

女僧侶「……」

女僧侶「私……私は…」

幼馴染「……私は」

きっと、二人を愛している

道標なき苦難をともに乗り越えた者

幼いころより支えてくれた親しい者

愛を囁くに充分すぎる二人だった。

だけど。

女僧侶としてではなく。

娘として。

『幼馴染』として語れと、言われたとき――

幼馴染「……」

古い銀の十字架が、心の中で、真っ先に光り輝いた。

幼馴染「小さいときから、ずっと支えてくれた」

幼馴染「いつだって、側にいてくれた」

幼馴染「……あなたが好きで」

幼馴染「私もいつからかは分かんないけど!!ずっとずっと、好きで!」

今こそ言おう。

幼馴染「だから……私は」

世界で一番やさしい魔法。

幼馴染「――あなたが、男が……大好き!!」

幼馴染「うぅ――う、うわああああん――」ポロポロ

青年「……よく言ったな」ナデナデ

青年「きみには、悪いことをした」

勇者「……」

青年「だが、父として……娘の気持ちだけは、大切にしてやりたかった」

勇者「……いえ。なんとなく予想はしてました」クスッ

勇者「幼」

幼馴染「うっ…ぐすっ。……はぃ……」

勇者「行くんだ」

幼馴染「……」グスッ

勇者「ありがとう。大丈夫…きみの気持ちが聞けて、スッキリした部分もあるんだ」

勇者「気にしなくていいさ。ぼくは勇者だから…困難なんて、あるのが当たり前なんだ」

勇者「パーティーは解散だ」

勇者「だから、幸せに」

幼馴染「……」ズビーッ

勇者「……男くん」

男「!は、はい」

勇者「もしきみが幼を泣かすようなら、ぼくが彼女を今度こそ迎えに行くからそのつもりでね」

男「…はい」

幼馴染「ゆうじゃざま…」グスッグスッ

勇者「くっくっ。一度、こういうの言ってみたかったのかもしれないね」

男「……」

男「うん」

男「幼!」

幼馴染「!」

男「帰るぞ!村に!!」

幼馴染「……」

幼馴染「……はいっ」

純白のウェディングドレス姿のまま、愛する男のもとへ。

そして強く抱き合う二人…とは対称的に、唖然と事態を見守る二人がいた。

女戦士「なあ……私らさ」

武道家「うむ。置いてきぼりだな」

青年(幸せにな、幼)

そして青年の姿が消えた。

夢か幻想か、まるで霧散する露のように。

幼馴染「……お父さん?」

男「おじさん……」

それは女神の慈悲。

道半ばにて倒れた、かつての『勇者』の強い想いが、為した奇跡。

しかしそれは今、語られる物語ではなく――

幼馴染「…ありがとう」

今はただ、愛する二人を、祝福してほしい。

女僧侶「勇者様にプロポーズされました」

今度こそ、Fin

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