勇者「ありがとうございます」
女僧侶「勇者様、申し訳ありません。これは私の不徳のいたすところです」
勇者「気にしなくていい。きみの隣人なら、ぼくにとっても大切な人だ」
女僧侶「ありがとうございます……勇者様」
女僧侶「……男」
男「……」
女僧侶「なんてことをしているの?あなたは……!」
男「……っ」
男「……」
男(ああ、そっか)
男(当たり前だろ。怒られて、当たり前のことしたんじゃないか)
男(……けど……すげー、なのに)
男(悔しい……!!)
―――
――
勇者「彼女が、好きなんだね」
男「い、いきなり核心つくんですね」
勇者「こんなことまでしたんだ、察しはつくよ」
男「……はい。好きです。幼のこと、ずっと好きでした……」
男「ただ、言い出す勇気がなくて……けど!」
男「やっと勇気が出て……もちろん、勇者様には失礼なことだとわかってます」
勇者「……」
男「でも……一緒に、村に帰りたいんです」
勇者「それはぼくらが決めることじゃない。彼女が、決めることだ」
男「……はい。わかってます。だからお許し願いたいんです」
勇者「気持ちを伝えたい?」
男「はい」
勇者「とめないよ。…彼女は隣の客間だ。行ってくるといい」
男「……はい」
勇者「ぼくはここで待ってる。彼女がきみの気持ちに応えるなら、一緒に帰るといい」
男「はい」
勇者「……ただ、勘違いしないでくれ。ぼくは彼女を『その程度』と思ってるわけじゃない」
勇者「信頼してるから待つんだ」
男「……はい。行ってきます」
男「……」
……パタン
女僧侶「……」
男「幼」
男「一緒に村に帰ろう」
女僧侶「……どうして?」
男「好きだ」
女僧侶「……っ」
男「いつからかは分からない。けど、俺は……お前が好きだ」
男「ずっと一緒なのが当たり前だと思ってた」
男「そして、お前も……たぶん、同じ気持ちでいてくれると思ってた」
男「勝手に……思い込んでた」
女僧侶「……」
男「だけど、違う。いまはハッキリわかったし、伝えたいんだ!」
男「好きだ。俺と一緒に……村に、帰ってくれ」
女僧侶「………」
女僧侶「……ね、男」
男「……?」
女僧侶「覚えてる?一番やさしい魔法……あなたが、地下水道で怪我をしたときに使った魔法」
男「ああ」
女僧侶「私ね。それまで、一回もあの魔法が成功したことなかったんだ」
男「そうなのか?」
女僧侶「……うん」
女僧侶「あれは、本当に…私の最初の魔法」
女僧侶「あなただけが知ってる、私」
女僧侶「……嬉しかった。魔法を使えたこともそうだけど、何よりきみを治せたことが」
女僧侶「お父さんからの手紙が途絶えて……落ち込んでた私を元気づけようとしてくれたこと優しい気持ちがすごく嬉しかった」
女僧侶「あの魔法が使えたのはきみのおかげ」
男「……」
女僧侶「ありがとう。今の私がいるのもきみのおかげだよ」
女僧侶「そんなきみにだから淀みなく応えたい」
女僧侶「私は勇者様についていきます」
体から力が抜けていく気がした。
頭が、真白になる。
女僧侶「勇者様はとても、尊敬できるお方」
女僧侶「そしてこれからの世界には、確かに…平和の象徴が必要になる」
女僧侶「これは私個人だけの問題じゃない。昨日今日の話でもない。ずっと考えて、そう結論を出した」
男「……」
女僧侶「きみは誰より、私の気持ちをわかってくれる人。それはこの先も変わらないと思う」
女僧侶「……だけど」
女僧侶「あなたについていくわけには、いきません」
男「……」
女僧侶「今まで、ありがとう」
――さよなら
~翌日~
――勇者様、女僧侶様、ご婚約!
――世界に平和あれ!
――国に栄光あれ!
――民に、幸あれ!
……そして……
~eplogue~
男「あれ……何か足りないような気がする」
父「弁当忘れてるぞ…なんだ成長しないな、お前」
男「うるせー」
父「……今日は、幼たちの結婚式だな」
男「だね」
父「パレードは出なくていいか?」
男「やめとく。さ、んなことより畑仕事行こうぜ」
父「くっくっ。まだ時間がかかるみたいだな」
男「そりゃね」
父「……ま、仕方ないさ。何もかも上手くいくわきゃないんだ」
父「また次の恋が見つかるさ。な!」
男「……うん」
男「わかってるって」
父と歩くいつもの道。
心地よい風も吹いている。
辺りにはたくさんの麦穂が揺れていて、まるで黄金色の絨毯のようだった。
男「……」
どちらかと言えば、この1ヶ月で幼への想いはさらに強くなっていた。
もう少し早く自分の気持ちを伝えていれば、何かが違ったかもしれない。
だけど、それは過去の話。
『もし、あのとき、こうしていれば』なんて意味がない。
だから前を向くしかない
男(結婚式、か)
男「いい天気だな」
――空は確かに、晴れやかだった。
―――
――
シスターになってからは、青の僧服ばかりを身にまとっていた。
女戦士(しかしよー、僧侶のやつ綺麗だなー)ヒソヒソ
武道家(くくっ。お前も着たくなったか?)ヒソヒソ
女戦士(うるせー、相手がいねっつの)ヒソヒソ
だからかもしれない。
「白いウェディングドレスはよりいっそう映える」と神父から言われた
神父「――新郎、勇者」
神父「汝は幼馴染を妻とし、健やかなるときも病めるときも生涯を共にすることを誓いますか」
勇者「はい。誓います」
晴れやかな日。
各国の王や仲間、これまでに出会った様々な人が集まり、彼女を祝福している
神父「――新婦、幼馴染。汝は勇者を夫とし、健やかなるときも病めるときも生涯を共にすることを誓いますか」
女僧侶「……」
女僧侶「誓います」
女僧侶(今となっては……これが正しいと思える)
女僧侶(だから、私が貫き通した純潔は、今日このときより勇者様へ)
女僧侶(ねえ、男)
神父「では指輪の交換を」
女僧侶(……あなたと会えて……本当に……)
女僧侶(――良かった)
これでぼくの黒歴史はおわりです
と、いつから錯覚していた
ばん!
指輪をはめる直前。
突然、式場の扉が開かれた。
勇者「!」
女僧侶「!?」
場内の視線が、一斉にそちらへと向けられる。
「……ダメだな」
兵士長「何者だ!――衛兵は何を……」
兵士長(……ん?)
「エピローグにはまだ足りない」
女僧侶「……え?」
兵士A「捕らえろ!」
兵士長「待て!!」
兵士長「……そんな」
女僧侶「!!」
「何が足りない?お前ならわかるだろ、幼」
女僧侶「う……そ」
勇者「……何者ですか」
「またご挨拶だね。それで新郎とは恐れ入る」
「いいさ。知らないなら、教えてやる。ぼくはその娘の――」
青年「父親だ」
~epilogue~
父「畑は問題ないな」
男「実りもいいね」
父「今年は豊作だ。これなら……」
兵士長「失礼」
男「!」
男(騎兵さん?なんでまた今日この日に…)
兵士長「男くんだな」
兵士長「悪いが、私と一緒に来てもらいたい」
父「男をお連れするのですか?……まさか、こないだの件で」
兵士長「違う。その件はもはや終わったこと。これはある方のご意向である」
男「……」
男(騎兵さんが、結婚式のこの当日に?……まさか、幼の身になにか)
兵士長「案ずるな。女僧侶様の身になにかあったわけではない。いや、なかったわけではないが」
兵士長「急いでいるゆえ、馬に乗って欲しい」
男「……でも」
男(……行ったって何にもならない)
男(俺は……伝える言葉は全て伝えたんだ)
男(今さら……)
男(……なのに)
男「……わかりました」
父「いいのか?」
男「…うん。断ったらそれこそ死罪になりそうだ」
兵士長「減らず口を。……まったく、城の件といい、お前はつくづく問題を起こすのが好きなようだ」
兵士長「さあ、乗れ」
男「はい」
父「気をつけてな」
兵士長「さて、飛ばすぞ。掴まれ――はっ!」
掛け声にあわせて馬が高々と足をあげ、嘶きとともに走りだす。
父「死ぬなよ!」
兵士長「だから、そういうことではないと言っておるに……」
男「あの、いま、喋れますか?」
兵士長「問題ない」
男「何があったんですか?」
兵士長「それは自分の目で確かめよ。私が口にするにはあまりにおそれ多い」
男「……はい」
兵士長「ときに……剣聖様がおなくなりになって、どれほどになるか」
男(剣聖……?ああ、幼の親父さんのことか。そんな噂、聞いたっけか)
男「7年ほどになります」
兵士長「そうだ。7年……あの日から7年だ」
兵士長「……」