男「え?」
女僧侶「……」
男「ごめん。いま何て?」
女僧侶「勇者様に……プロポーズ、されました」
男「え……そ……そう……なのか……」
女僧侶「うん。きみには、言っておこうと思ったの」
男「……」
男「また急な話…だね」
女僧侶「ううん。実は魔王討伐の前から、言われてたの。帰ったら、結婚してくれないかって」
男「そうなのか?こっちに帰ってきてから、そんな話一言も」
女僧侶「返事は保留してたんだ。私も突然でビックリしてたし、お付き合いをしてたわけでもなかったし」
女僧侶「でも、つい昨日、また申し込まれて」
男「いきなり結婚を申し込んだってこと?お互いのこと何にも知らないんじゃ」
女僧侶「でも、ずっと一緒に旅はしてたから。……そうだね、いまのは間違いかもしれない」
女僧侶「もしかしたら知らない間にそんな感じだったかも……うん。たぶん、そうだと思う」
男「……受けるの?」
女僧侶「うん。受けようと思う」
男「!」
女僧侶「勇者様はお父様を亡くされて、とってもつらそうだった。できる限り、支えてあげたいんだ」
男「そ、そうか……そりゃあ、また…」
男「…おめでとう……」
女僧侶「……ありがとう。ごめんね、きみには一番最初に言いたかったんだ」
男「は、はは…。そっか、うん。そうだな…幼馴染だもんな、俺ら」
女僧侶「うん」
男「す、すげえよ!勇者様の伴侶か!」
男「参ったな、世界を救った二人が結婚か……こりゃ国をあげての大騒ぎになるだろうな」
女僧侶「……そうだね」
男「おめでとう。お前みたいな幼馴染がいて、ホントに誇らしいよ」
女僧侶「ありがとう。ふふ…きみならそう言うと思ってた」
女僧侶「それじゃあ、私は教会に帰るね」
男「お、おう。またな」
女僧侶「うん。またね」タタタ
男(……)
男(そうか……結婚するのか、あいつ)
男(あいつが……)
~15年前~
青年「今日からこの村に越してきました。よろしくお願いします。こっちが、娘です」
幼馴染「……」ギュッ
父「やあ、よろしく!友人が増えて嬉しいよ。ほら男も挨拶しろ」
男「……」ギュッ
青年「どうやらお互い人見知りなようですね」クスッ
父「まったくで」ハハッ
父「おい。挨拶はちゃんとしなさい、ほら」
青年「お前も、ほら」
幼馴染「ん……」
男「……」
幼馴染「……こ、こんにちわ……」
男「…………」
幼馴染「…………」
男「……よろしくな」
幼馴染「!は、はい!」
父「よしよし。素敵な彼女ができて良かったなあ」ナデナデ
男「うぅ///」ナデナデ
~14年前~
男「うりゃあああ!」バシャーン
幼馴染「きゃああ///」バシャーン
青年「おーい。二人とも!あんまり水辺で騒ぐなよ、気をつけて」
青年「1年は早いな。子どももあっという間に仲良くなる」
父「幼ちゃんは良い娘だ。子どもが少ないこの村ではいいお友達だよ」
父「何より優しい娘だ」
青年「はははっ。ありがとう。誰に似たのか、死んだ妻かな。男親としてはこれからが心配だけど」
父「うちも家内に似れば良かったんだがなあ。どうも粗雑で」
青年「男の子はあれぐらいがちょうどいいよ」
男「うりゃああ!」モミモミモミ
幼馴染「あ、あ!あん!やあ、やめてえぇえ///」
青年「ごらああああ!!うちの娘になにしてやがんだああああ!」
<ギャー
<キャー
父「はっはっは。お互い妻を持たないと苦労するね」ハハッ
~13年前~
男「とーさん頑張れ!」
幼馴染「あうう……お、お父さん!頑張って!」ドキドキ
青年「だ、そうだ。そろそろ訓練も終わりにしよう、お昼も食べないといけないしね」チャキ
父「っ」チャキ
青年「はっ!」キン!
父「ぐっ!」ギィン!、カラン
青年「勝負ありだな」
男「あー……」
幼馴染「えへっ」ニコニコ
男「……」モミモミモミモミ
幼馴染「あっ!やああ!あん!お、お父さん助けてぇええ」
青年「やめんかごらあ!」
男「」ビクッ
幼馴染「ふぇえ…」
青年「まったく…もうちょっと女の子の扱い方を頼むよ」
父「い、いや~。悪い悪い……それにしたって本当に強いな、お前は」
父「前から不思議だったんだが、どこかで剣の訓練を積んでたんじゃないか?」
青年「ははっ。買いかぶりだよ」
父「まあ、おかげで俺もこうして教えてもらえるんだけど」
父「……最近は魔物の動きもますます活発化してきたからな。やはり自衛くらいはできるようにならんと」
青年「……そうだな」
父「よっしゃ、昼飯くったらもう一度だ」
青年「ああ」
~12年前~
魔物A「ぐるるる」
青年「ぜあっ!」ズバッ
魔物A「ぎゃあああ――」
魔物B「きしゃあああ!」
青年「まだいたか!」キンッ
魔物B「ぐるる」
魔物C「ぎししし…」
青年「……」
青年「……」チャキ
魔物「「きしゃああ!」」
青年「…ハヤブサ斬り」
キン!ジャキィィィン!
――ギャアアアア……ドサドサッ
青年「ふぅ」チンッ
父「………」ゴクリ
男「……」
幼馴染「お父さああん!」ガバッ
幼馴染「うぇええん……」
青年「なに泣いてるんだ。あんな魔物に父さんが負けるわけないだろ」
幼馴染「だってぇええ…」ブワッ
青年「だあ!鼻水!!」
男(すっげー……)
男(幼のお父さん…めちゃくちゃ強い……)
父「だ、大丈夫か…青年」
青年「問題ないよ」
父「お前、本当に何者なんだ?あんな技…とてもそこらの剣士とは思えないな」
青年「……」
父「……お前が話したくないならいい。ともかく、ありがとう!おかげで村は助かったよ」
青年「くっくっ。とても隅で震えていた男のセリフとは思えないな」
父「う、うるせー!強すぎんだろいまの!!」
青年「はっはっ。まだ鍛練が足りないんだよ」
父「ぐぬぬ」
青年(……)
青年(……確かに、いまの魔物……これまでとは格が違った)
青年(やはり魔王……本格的に動き出したか……しかし……)グッ
―――
――
男(幼のとこ行こうかな……っと)タタタ
男(ん?)
『……です』
男(何だろ、話声が…)コソッ
兵士「やっと、見つけましたよ」
青年「………」
男(おじさん?……なにしてるんだろ)
兵士「どうかお戻りになってください。魔物の勢いはもはやとどまるところを知りません」
兵士「あなた様がお戻りになれば兵たちの士気もあがるはずです」
男(……兵隊、さん?)
青年「ぼくは、戻らない。この村で静かに娘と暮らしたいんだ。どうか邪魔しないでくれ」
兵士「しかし!!」
青年「……頼む。妻を亡くしたぼくの気持ちは、きみも知ってるだろう」
兵士「奥様は残念でした。だが今は国が滅びるかどうかの瀬戸際なのです!」
男(……?)
青年「……もう娘を一人にしたくないんだ。妻は魔物に殺されて……」
青年「……あのとき、ぼくが家にいればあんなことにはならなかった」
青年「あのときの娘の顔……きみは、見てないからそんなことを言えるんだ」
青年「泣くでもなく、怒るでもなく……ただただ呆然として、まるで死人のようだった」
青年「この村に来て、ようやく以前みたく笑うようになった」
青年「もうあいつには……二度とあんな顔して欲しくないんだ」
兵士「…………」
青年「帰ってくれ」
兵士「…また、来ます」ザッ
青年「…………」
青年「……」
青年「男。そこにいるんだろう」
男(!?な、なんで)ビクッ
青年「いまの話は、誰にも言うな。もちろん幼にも」
男「……おじさん」スッ
青年「頼む」
男「……うん」
青年「ありがとう。そうだ、きみは剣を学びたいそうだね。幼から聞いたよ」
男「あ……でも、お父さんからは『まだ早い』って」
青年「あいつらしいな」
青年「だがこの先、世界はどんどん魔物が勢力を増していくはずだ」
青年「早いうちに剣を学んで損はない。どうだ?今の話を黙っててくれるなら、代わりに剣を教えよう。もちろんこっそりね」
男「!ほ、ほんと!?」
青年「ああ」
男「ありがとう、おじさん!」
青年「よし。……なら今日はもう行くんだ。幼と遊ぶつもりだったんだろ?」
男「うん」
青年「なら剣は明日からにしよう。毎日…そうだね、昼すぎから一時間ほど教えてあげるよ。明日また来るといい」
男「うん!!ホントにありがとうおじさん!!」
男(やった……やったあ!)
男(おじさんから剣を教えてもらえる!)
男(……でも)
男(何だったのかな…)
男(さっきのは……)
男(ま、いいか)
~11年前~
父「……最近は……魔物のせいかな。作物もすっかり育たなくなってきてる」
青年「王もそこは考慮してくれている。無理な税の徴収もない」
父「そりゃそうだが……このままじゃ、食料も底をついちまう」
父「隣の村も魔物に襲われたらしいし……弱ったよ」
青年「………ああ」
男「お父さんたち、ずいぶん話しこんでる」
幼馴染「うん……みんな、つらそう……」
男「魔王のせい?」
幼馴染「わかんない。でも……お父さん、最近つらそうなんだ。すごく悩んでるみたい」
幼馴染「それに最近、剣をよく振ってるの」
幼馴染「……どうしたんだろう。少し、怖いよ」
男(……)
男「大丈夫だよ。お前には俺も、その…ついてるし」
幼馴染「え…あ///」
男「お、おう。だから安心しろ」
幼馴染「……う、うん//」