女僧侶「勇者様にプロポーズされました」 5/8

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父「幼おおおおおおお!!!」ブワッ

女僧侶「きゃあ!?おじさん!ちょ、くっつかないでくださ、ひああ///」

父「んはああああ!この柔らかさは間違いなゴズン

父「」

女僧侶「はぁ…はぁ…」

男(強くなってる…)

女僧侶「全然変わってないんだから……」

男「……安心した?」

女僧侶「……うん」

男「……」

女僧侶「……」

男「お帰り、幼」

女僧侶「ただいま……男」

父「」

その日は幼を迎える大騒ぎになり、村の明かりは一時も途絶えることはなかった

そして 夜 が あけた!

―――

――

男「おい、幼。朝飯だから起き…」

ガチャッ

女僧侶「……」

男(あ……)

窓を開き、その身に朝日を受けながら。

彼女は目をつむり膝をついて、ひたすら静謐にそこに『いる』

そのとき、彼女が手にしているロザリオにふと目がいった。

本来なら輝かしい銀色にきらめいているはずの十字架だが、それは少しばかり塗装がはげ、茶色い下地が見えていた。

男「……」

男(朝の祈り……かな)

男(そっか。僧侶だったな)

男(……綺麗だ)

女僧侶「――あ」

女僧侶「男。おはよう」ニコッ

男「お、おう」

女僧侶「?どうしたの?」

男「なんでもない。朝飯、出来てるぞ」

女僧侶「うん。ありがと」

男「……あ、ああ」

女僧侶「?……変な人」クスッ

女僧侶「……」

男「……」

食事のあと。

幼と二人で、かつて彼女が住んでいた家に赴いた。

女僧侶「もっと汚れてるかと思ってた」

男「ちゃんと定期的に掃除してたからな」

女僧侶「男が?」

男「みんなが」

女僧侶「……そっか」

男「……おじさん、喜んでるだろうな」

男「実の娘が、なんたって世界を救ったんだからさ」

女僧侶「やめてよ。…きみの前では、幼馴染でいたいよ」

男「そ、そっか?なんか、ごめん」

女僧侶「あ……ううん。…私こそ変なこと言っちゃった。ごめんね」

男「……」

女僧侶「……」

男「家具も、きちんと揃えないとな」

女僧侶「え?あの、そ、それは……」

男「さすがにこの年じゃ、一緒に住むにゃ抵抗あるだろ?」

男「あとは食器とか寝具とか…ちゃんとお前が住めるようにしないとな」

女僧侶(あ……)

女僧侶「……」

男「?」

女僧侶「そうだね。でも、もうしばらくはあの家にいたいな」

女僧侶「きみたちと一緒にいたいよ」

男「そうか?お前がいいならいいけど」

女僧侶「うん」

男「んじゃ、これからもよろしくな」

女僧侶「……うん」

そして、迎えた。

今日。

――『勇者様からプロポーズされました』

――『受けようと思う』

男(幼が……結婚)

男(……考えたこともなかったな)

男(小さい頃から、ずっと一緒にいて……)

男(そりゃあ、確かに離れてた時期も長かったけど)

男(……それが、当たり前だと思ってた)

男(……そりゃそうか)

男(当たり前だ)

男(あいつ、女の子だもんな……いつかは結婚する)

男(ただ、相手が勇者様ってだけで)

男(……ははっ。勇者様の伴侶か。すげぇや)

男(……)

コンコン

男「……うん?」

父『俺だよ。今、いいか?』

男「ああ。いいよ」

父「入るぞ」

男「どうしたん?」

父「……実はさっき、幼が来てな」

男「……うん」

父「結婚するそうだな」

男「うん」

~翌日~

男「畑の様子を見てくるよ」

父「まあ、待て。俺も行くよ」

男「足はもういいの?」

父「あんなもんで延々休めるか。任せっきりにゃできんよ」

男「そうか。じゃあ行こうよ」

父「うむ。剣は持ったか?」カチャ

男「なんで剣?もういらなくね」

父「少なくなったとはいっても、まだいなくなったわけじゃないだろ」

男「ん~……そだね。じゃあ持ってくか」カチャ

父「おう」

男「……」テクテク

父「……」テクテク

父「幼、今日にも王へ報告に行くと言ってたぞ」テクテク

男「そっか」テクテク

父「……」

父「なあ、男。意地を張るのはやめたらどうだ」

男「意地なんて張ってないよ」

父「いいや。張ってる」

男「張ってないよ」

父「素直になれ」

男「うるさいな」

男「父さんが勝手に邪推してるだけだろ?」

男「あいつは……妹で、姉で、幼なじみで」

男「……大切な人だよ」

父「……」

男「ああ、わかった。言うさ。好きさ。大好きだよ。いつからか知らないけど、大好きだ」

男「……ずっと一緒なのが当たり前だって思ってた。離れてたって、帰ってくると思ってた」

男「幼だって……そう思ってくれてると、思ってた」

男「……そうさ……そう」

父「……」

男「でも今さらだ。あいつは勇者様と結婚を決めたみたいだ」

男「なら今さら伝えたって迷惑なだけだろ?

自惚れるつもりはないけど、万が一それであいつの心が揺れたら……」

男「相手は勇者様だ。俺なんかじゃ側にいる資格もないし」

男「国を相手すんのと同じさ。世界を相手にすんのと同じだよ」

男「あいつは世界を救った選ばれた人間で」

父「かぁぁぁぁぁつ!」

男「」

父「お前なんなの?グチグチグチグチ言い訳ばっかり並べやがって」

父「相手が勇者様だからとか世界を救った人間だからとか」

父「言い訳ばっかすんじゃねえぞ。お前、もし幼がただの女の子だったとしても」

父「断言してやる。お前は何も言わない」

父「伝える勇気がないだけだろうが」

男「っ」

父「ずっと、一緒にいると思ってた?」

父「じゃあ何か?幼のやつから『きみが好き』と言うのを待ってたってか?」

父「なめんな……人生なめんな!!あんないいコが一緒に住んでたこと自体が奇跡だろうが」

父「んな都合いいことばかりが人生でひょいひょいあると思うなよ!!」

父「いいか?気持ちはな、言わなきゃ伝わんねえんだよ」

父「大抵の物事はな。自分から踏み出さねえと始まらねえんだよ」

男「……っ」

父「酸っぱいわ!むずがゆいわ!青春か!」

父「恋愛なんぞ当たって砕けろ。ダメで元々、くよくよすんな」

父「だけどな、これだけは言える」

父「伝えずに終わった気持ちはな……伝えて終わった気持ちより」

父「何倍とつらいぞ」

男「う……」

父「……幼がお前のことをどう思ってるかは別にしてもだな」

父「言い訳せずに、言ってこい」

父「いいじゃねえか平民風情」

父「主人公か!!?」

父「走れや!」

父「行ってこい!!」

男「――」

父「相手は勇者様だ!気合いいれてけよ!!」

気づくと、彼は駆け出していた。

心臓が痛いほど高鳴っている。

思えばこの十数年、こんな気持ちになったことはなかった

――大抵の物事はな

――自分から踏み出さなきゃ始まらないんだ

父の言葉が、痛かった

男「はぁっ、はぁっ」

すでに夕刻。

あるいは勇者たちは報告を終え、家路についた可能性もある。

だが不思議な確信があった――『間に合った』

男「城は……あっちか!」

男「っ!」

走る。走る。

城門へ。

そして――

兵士A「止まれ!!」

兵士B「何者だ!!」

門番が立ちふさがる。

勇者以外には易々と通ること叶わぬイベント――

男「どいてくれ!」

兵士A「馬鹿なことを言うな!!」

兵士B「ここは城だ!平民がおいそれと立ち入ってよい場所ではない!」

兵士A「まして今は『勇者様たちが来ておられる』のだぞ!」

男「っ!」

腰にある鞘から、剣を引き抜く。

兵士A「キサマ…この神聖なる王の御前にて!逆賊めが!」

兵士B「切り捨ててくれる!」

男「どけよ!!」

「何の騒ぎだ」

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