魔王「!?」
竜「なんの音だ!?」
娘のいた場所。
壁が粉々に粉砕されていた。
竜「娘はどこに行った!?」
竜子「な、なんていったらいいんだろう……」
竜「な、何かあったのか?」
竜子「こんな運命を背負わせた神許すまじ! って……ものすごい勢いで出て行っちゃった……」
竜「神!? なんの話!?」
魔王「神……まさか、神の住む山に?」
竜「おそらく」
魔王「厄介ですね……捜索隊を向かわせるにも、あの山では」
竜「私が向かおう」
魔王「いかに竜さんとはいえ、あの山は……」
竜「かつて私の祖先はあの山を登頂し、神に挑んだと言う。
登っていれば会うだろうし、私なら大丈夫だ」
神の住む山
万年雪に覆われたその山頂には神が住むと言われ、人間・魔族を問わず多くの者たちが頂を目指し、しかしたどり着いたものは竜族の祖先だけだったと言う……
娘「勢いで山頂に来てしまいましたが……
神なんていませんね」
だけだったという
娘「ああむなしい……そもそも神様にあって何をしたかったんでしょう……」
娘「万年雪で寒いし、思わず裸足とタオルなんて軽装で出てきちゃったし……」
娘「帰ろ……」
神「待て……」
娘「?」キョロキョロ
娘「!」
娘「竜さん!」
バサバサ!
竜「……登りきっているとは思わなかったぞ」
娘「よかった……ちょうど足がしもやけになってきてたんです」ヨジヨジ
竜「……」
娘「はー、あったか」
竜「……」
バサバサ
神「……」
魔王「勇者さんも見つかったことです、さっそく会談に備えたミーティングを行いましょうか」
僧侶「戦士の説得はまだできてないけど、時間の問題だわ」
竜「……娘……勇者の姿が見えないが?」
魔王「ああ、こういう話は無理でしょうから外に」
僧侶「あの子にはカンペでも渡しておけば大丈夫」
魔王「本番でも、勇者さんはなるべく立ったまま終るようにシナリオを考えなければ」
竜「……」
竜「まあそうだな」
竜子「シャー!」
娘「シャー!」
戦士「五歳の竜と張り合うなよお前」
3ヵ月後。
竜「時間がかかったな」バッサバッサ
全員、竜の背に乗って移動中。
魔王「しょうがありません、魔族、それも竜さんや私を領内に入れたくは無いでしょう」
娘「でも二人だけ、っていうのも危ないですよね」
戦士「ふん、一人で万軍に匹敵する竜将軍だ。ちょっと気が変わればどんな被が」ガツン!
僧侶「黙ってなさいな。その万軍を打ち破ったときさえ人を殺さなかったのよ?」
戦士「……フン」
娘「いまさらですけど、この兜とか着けてなきゃ駄目ですか?」
僧侶「『勇者』として出席してもらわなきゃ困るのよ」
娘「重いからあんまり好きじゃないんですよね」
僧侶「あんた高く売れそうだからってもらった直後に質屋に入れようとしたわよね?」
娘「ええ、昔からの知り合いで……騎士団の紋章付きだろうと買い取ってくれますよ」
僧侶「質屋に勇者の鎧が置いてあったら盗賊に殺されたとか思われるでしょうが」
戦士「(そう言って止めなかったらホントに売ってたからなコイツ……)」
王都郊外
剥き出しの大地に、不自然に舗装された場所
竜「あそこか」
娘「あれ、会談って外でやるんですか?」
竜「私が入れる建物などないだろう」
魔王「それに、竜さんが街の上を飛ぶのは住民のショックが大きいですからね」
竜「……やはり、私より人間サイズの魔人を付き添いにした方がよかったのではないか?」
魔王「魔族、と言うものを手っ取り早く印象付けるには、やはり竜さんが一番でしょう」
竜「まあ、そうかもしれないが……」
魔王「しかし物々しい……」
戦士「(この距離で様子がわかるのか)」
僧侶「魔王と竜将軍となれば、兵を置くのも……」
魔王「……竜さん、予定変更です。あそこより離れた……あの木の辺りに下りましょう。
ゆっくりお願いしますよ」
竜「……わかった」
トン。
竜「どうするんだ?」
魔王「待ちましょう、向こうから声をかけてくるのをね」
僧侶「……不穏ね」
戦士「私が話を聞いてくる」
僧侶「やめなさい」
戦士「……この国の騎士団には知り合いが多い」
僧侶「この二人が人間を極力刺激しないようにしてるのがわからないの?」
戦士「……」
魔王「戦士さん、兵士の方が来たときはお話をお願いします」
戦士「あ、ああ」
兵士たち「」ガッシャガッシャ
娘「……なんか多いですね」
戦士「止まれ!」
兵士たち「」ピタ!
戦士「降伏勧告の使者として、魔王自らが来た!
彼らは人間の奴隷化や略奪、無差別な殺戮を望んではいない! 今すぐ武器をその場に置き、使者に対する礼節ある行動を願う!」
娘「(よく舌をかみませんね)」
僧侶「(あれでも元騎士団長よ? まあ竜将軍に騎士団壊滅させられてクビになったけど)」
騎士「申し訳ありません、それが……」
戦士「?」
騎士「先日、ある国が魔族によって……消滅したのです」
魔王「!」
騎士「」チラ
竜「……?」
騎士「その魔族は、巨大な竜だった、と」
竜「! な、なんだと!?」
騎士「ひ……」
竜「その国の名は!?」
娘「落ち着いてください!」
竜「だが!」
魔王「……間違いないのですか?」
騎士「」ビク!
魔王「……(恐怖で萎縮してしまっている……)」
僧侶「竜、というのは間違いないの? 竜将軍はここ数ヶ月、私たちと共にいたわ」
騎士「……黒い鱗に大きな翼を持った竜だった、と」
魔王「(竜の特徴はほとんどがそんなもののはずだが……大きさは?)」
僧侶「大きさは?」
騎士「聞いた話では……その、竜将軍ほどだと」
竜「どこのく」
僧侶「どこの国が滅ぼされたの?」
騎士「……コーソアドの国です」
竜「!」
騎士「とにかく、こちらとしては今回のことの事実がわからない限りは、魔王領の方との会談はとてもできない状況だと……」
先ほどの場所からさらに離れた。
戦士「どういうことだ……?」
僧侶「……魔族すべてが魔王領に属しているわけではないわ」
戦士「それはわかっている!
だが、小競り合いこそあれ国に属さぬ魔族が大規模な破壊を行ったことは無かったぞ!!」
魔王「……竜さん、心あたりが?」
竜「……」
僧侶「コーソアドは、昔竜を神と祭っていたと聞くけど」
戦士「私も聞いたことがある。かつて火山噴火で国が溶岩流に飲まれそうになったとき、巨大な竜が立ちふさがり国を守ったと」
竜「……」
娘「……」
魔王「戦士さん、
部下ではないあなたに頼むのは気が引けるのですが、あの国の兵士たちから話を聞いてきてもらえますか?」
戦士「わかった」
魔王「私は勇者さんと変装し、街で聞き込みをしながら、今日の宿を探します」
戦士「……町に行くつもりか?」
魔王「これでも、人間の町に行くのは一度や二度ではないんですよ
ぱっと見は少し色黒の人間ですから
それに、今回の件がどれだけ人間に影響を与えたのかをこの目で見たい」
娘「なんで私も?」
魔王「一応の保険です。
私が何かのきっかけで町で暴れだしてもあなたが止めればいい、と言うことです」
戦士「……ずいぶんと皮肉ってくれるな」
魔王「ふふ、半分冗談ですが、私に見張り無く町を歩いて欲しくはないでしょう?」
戦士「……」
僧侶「私は?」
魔王「僧侶さんは竜さんと外にいてください」
僧侶「(見張りってことね、竜将軍の)」
竜「……」
街。
娘「じゃあ、ギルドか酒場にいる冒険者さんから話でも」
魔王「いえ、私が知りたいのは一般人の反応なのです」
娘「? でも通行人に片っ端から声をかけるのは不審ですよ?」
魔王「まあ、任せてください」
娘「……」
娘「ちょっと離れて歩いてください、と言われましたが……なんでしょう?」
ドン!
女「きゃあ!」 紙袋から食べ物がバラバラ!
魔王「あ、も、申し訳ない!」ヒョイヒョイ…………コッソリトグシャ!
魔王「あ、ああ……このリンゴやパンはもう駄目ですね……」
女「す、すいません、私も不注意で……」
魔王「是非弁償させてください……買い直さなければ……あ、荷物も持ちましょう」
女「え、いえそんな……」
魔王「」キラーン
女「」ドキーン
娘「」!?
魔王「実は私、この辺りには不慣れなもので……買い物ついでに、道を教えていただけると助かるのですが」
女「あ、え、ええ……」