僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」 10/11

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盗賊「ったく、最後に恥ずかしい事をしやがって」

僧侶「ふふっ、盗賊さんと妖精さん、まるで兄妹みたいでしたよ?」

盗賊「あんな妹、持った覚えはねーよ。バカ」

賢者「さてさて、魔法の街か~。何年ぶりだろうなあ」

僧侶「そ、そんなに長い間帰っていなかったんですか?」

賢者「まあね、若い頃旅に出たっきりだからさ。なんだっけ、魔法の街にある塔だっけ。それは多分、修行に使う封印の塔の事だろうな」

賢者「聖騎士の王国にある修行の塔と対を為す、魔法の街の封印の塔。この地のシンボルでもあるんだよ」

盗賊「塔にゃ一体何があるんだ?お宝か?」

賢者「修行に使う時は、大体修行する者の師匠が、塔の最上階に免許皆伝の証とかを置いて、途中途中に召喚獣を配置し、弟子の力を試すんだ」

賢者「けど、オッサンが街にいた頃から、見慣れない魔物が住み着き始めてねえ…塔から出てくることはないんだけど、危ないからって封鎖されたんだよなー」

盗賊「今更魔物にビビる事はねーが…何をやらされんだか、さっぱり想像つかねー」

~魔法の街・夜~

僧侶「着くまでに丸一日かかっちゃいましたね…」

賢者「うーん、懐かしいな~この魔法薬を煮込んでいるニオイ……臭っ!目にしみる!!ああ変わってない、なんにも!」

盗賊「あそこの家から、やたら煙が吹き出しているが…火事かってレベルだぞ?」

賢者「この街は大体みんなそうさ。どの家でも魔法薬を作り、実験を重ねる。魔法文明を研究し、発展させた街だからね」

ドッガァァン!!

僧侶「うわひゃあああ!!?いっいっ家が!家が爆発しましたよう~!?」

研究者「ゴホッ、ゴホッ!配分を間違えた……お?賢者じゃないか。帰ってきたのか」ガラガラ

賢者「よォ、相変わらず派手だな、お前ん家は。まあ日常、日常!ハッハッハ!」

盗賊「どんな日常だよ、ったく…長居してたら命をいくつも落としそうな街だな」

賢者「今日はもう遅いから、俺ん家に泊まっていきなよ。…まだ家があるといいんだがね~。とっくに爆発してたりしてなぁ」

・・・

盗賊「クソオヤジの家が残っていたのはいいが…スゲー散らかりすぎだろ!あちこちに本や得体の知れない瓶が転がって、歩き辛いったら無いわ!」

賢者「おかえり、風呂の湯加減どうだった?」

盗賊「クソアマの次だったからな、大分冷めていたぜ。もう一度沸かした方がいいだろう……つーか風呂にも本が積まれていたんだが。傷むぞ、あれじゃ」

賢者「置き場が無いから仕方ないんだよ。さて、それじゃあ俺もひとっ風呂浴びるとしますか」

盗賊「……おい、そのクソアマはどこに行った?」

賢者「無人だけど、教会もあるって教えたら、そこに行くって出ていったよ?」

盗賊「…どこが爆発するのかわからねーこの街で、フラフラ出歩くとか…バカ極まれりだな。チッ…迎えに行くか…」

賢者「あー、そうそう。いい機会だから、ちょっと聞きなさい、兄ちゃん」

盗賊「なんだよ?急に改まってよ」

賢者「…あのさー、兄ちゃんは、お嬢ちゃんの事、仲間とか利害関係とかそれ以上の…まあようするにだ、好きなのかな?嫌いなのかな?」

盗賊「………はあ?何べん言わせりゃわかるんだ、俺とクソアマはそんなんじゃないって……」

賢者「うーん、いや…オッサンもね~今までそうやって意地を張ったり、気持ちを押し込めたりしていたからさー。でも、あのエルフの村で漸く、素直になれたでしょ?……何もかも遅かったんだけどね」

賢者「兄ちゃんさ、人生ここぞってタイミングは逃したらダメだよ。若いからこそ、走る早さも力もあるから、通りすぎちゃう人間は多いけど」

賢者「兄ちゃんは、若い頃の俺に似ているからな。だからねぇ、なんとなく…お節介焼きたくなるんだな。…失ってからじゃ遅いって事を忘れちゃダメだよ。これから魔王と対決しようってんなら、尚更ね」

盗賊「………」

賢者「さてと。お節介はここまでだ、オッサンは風呂に入ってくるから、兄ちゃんは早くお嬢ちゃんを迎えに行ってやんなさい。もう夜遅いし」

盗賊「………ああ」

賢者「あ、そうそう」

盗賊「?」

賢者「…風呂から出たら、俺はさっき会った友人、研究者の家に行くから。キメるんなら、この家を使って構わないからさ?ご無沙汰が解消されるよう、まあ頑張んなさいよ」ニヤニヤ

盗賊「死ね!クソオヤジ!!お節介は終わったんじゃねーのかよ!!」

賢者「事が済んだら掃除と空気の入れ換えは忘れずにな、マナーだから、マナー」

盗賊「本当に死ね!!!」

盗賊「ったく、馬鹿馬鹿しい…どいつもこいつも。この俺が、あんな小便臭いガキに、あるかそんなん…」スタスタ

盗賊「………ふん、散らかり放題の街でも、花だけは綺麗に咲いてんだな」

盗賊「………」

~教会~

僧侶「………」

盗賊「おい、クソアマ。寝るんならベッドで寝やがれ、マジにだらしない女だな、お前は」

僧侶「寝ているんじゃなくって、お祈りしてるんですよう!…明日じゃないですか…塔で為すべきことを終えたら、ついに勇者様とお会いできる」

僧侶「だから、失敗のないように、神様にお願いしていたのですよ。私達をお守りください、って。魔物もいるみたい、ですから…」

盗賊「ふん。姿形の見えないもんに祈るくらいより、自分の力を信じる方がいいと思うけどな」

僧侶「私、落ちこぼれですから……で、でも、魔物が出てきても、盗賊さんの邪魔にならないよう、頑張りますからねっ!?」

盗賊「いや、お前は絶対邪魔になるし足手まといになるね」

僧侶「ううう~っ!!」

僧侶「…でも、本当に、そうなんですよねえ……私、回復魔法も使えないし…戦いだって、全然だし…」

僧侶「こんな私なのに、なんで…勇者様の仲間だって、選んじゃったんでしょう、神様は……勇者様に、ご迷惑が…かかったらと思うと」

盗賊「バーカ。今まで散々俺に迷惑をかけてきた奴が言える台詞かよ」

僧侶「うう!」

盗賊「…忘れてんじゃねーよ、バカ。今まで何度も発破かけてやっただろ、右から左に流しやがって」

盗賊「いつまでもウジウジしてんじゃねえ、鬱陶しい。…言ったろ、回復魔法だって、そのうち使えるようにならァ。テメーが頑張らないでどうすんだよ?神様とやらを信じる前に、自分を信じろよな、自分を」

僧侶「………」

僧侶「………自分……」

僧侶「…神に、己に、癒したい相手に……祈り、自覚し、捧げる…自覚……」

盗賊「……ツケも溜まってっからな?テメーが回復魔法を使えるようになったら、まとめて返せよ。今までの苦労を」

僧侶「…ずうっと使えなかったら……どうなるんですかねえ?」

盗賊「……おい」

僧侶「あ、もう落ち込んでいるわけじゃないです!…盗賊さんは、乱暴だし意地悪だけど……たくさん励ましてくれたり、憎まれ口叩いても、守ってくれたり…すっごい感謝してる、ですよ」

僧侶「でも…この先も、ずっと、ずうっと何もできなかったら……私は、辞退した方が、ためになるんじゃないかなって…」

僧侶「そうしたら、盗賊さんにも、勇者様にも、ご迷惑かからないですし……賢者さんとかに、代わってもらうとか…その方が」

盗賊「落ち込んでんだろーが、このクソアマ」ビシッ

僧侶「痛ぁ!?いきなり、でこぴんしないでくださいよう!」

盗賊「ずっと使えないとかねーよ。絶対使える。俺はツケを許した相手を逃がした事はない、必ず払ってもらうぜ」

盗賊「テメーがテメーを信じないなら、信じられるまで、代わりに俺がお前を信じてやる」

僧侶「!! と、盗賊さん」

盗賊「バカでグズでドジでノロマでマヌケで、もうひとつおまけにトラブルメーカー、ウザいわ、すぐへこむわ、ギャーギャーうるせーわ、本っ当~に!どうしようもないクソアマだが」

僧侶「…あの、励ます時は励ますだけにしてもらえないですかねぇ…」

盗賊「…お前ならやれるさ。回復魔法だろーが、なんだろうが。できるって信じてやる」

盗賊「まあ、クソアマだからな。それでもどうしてもできなかった時は…」

僧侶「………」

盗賊「………」

盗賊「俺がお前を守ってやるよ。できるまで、ずっと」

僧侶「………」

僧侶「………ずっと?」

盗賊「ああ、ずっと」

僧侶「ずっと使えなくても?」

盗賊「テメーが使えない奴なのは、俺が一番よく知っている」

僧侶「………おばあちゃんになっても、使えなくても…?」

盗賊「お前が死んでも生まれ変わってもだ」

僧侶「………!!!」

盗賊「…ケッ。テメーの面倒は、もう俺にしか見られねーだろうしな。もし、奇跡が起きたとしても、まあ…ずっと守ってやるわ」

僧侶「あ!ああああの!あのっ!!そ、そっそっそっ……それ!それって、どどどどどどういう意味なんでしょうか!!?」

盗賊「どもりすぎだ、バカ。自分で考えろよバカ」

僧侶「ででででも!!でっできれば、できれば…盗賊さんの口から、聞きたいです…!」

盗賊「ウザってーな。サービスでヒントだけやる」スッ

僧侶「…!わあ……お花の指輪…?こ、これ、盗賊さんが編んだんですか?器用なんですね…」

盗賊「まあな。気が向いたら、本物を用意してやってもいい」

僧侶「…あ……あ、あり…ありがとう、ござ、います…!!ありがとう、ございます…!!」

盗賊「ただし。勇者がテメーを叱咤する時だけは庇わないぜ。…結構厳しそうだしな、勇者は」

僧侶「ううん!大丈夫です、勇者様を落胆させるわけにはいきませんっ!!私、頑張ります!」

盗賊「俺も落胆させんなよ?…ほら、帰ぇーるぞクソアマ。少しでも体を休めねーとだしよ」

僧侶「あ、あの、あの!ひとつだけ、お願いが!」

盗賊「あぁ?ウゼーな、手短にしやがれ」

僧侶「あの、もう、クソアマはやめて、名前で呼んでもらえないでしょうか…!?ひ、浸るに浸れないですし…」

盗賊「調子に乗るな、バカが」

僧侶「ううう~!盗賊さんの方がバカぁ!!」

盗賊「…まあ、ここぞって時になら、呼んでやってもいいけどな」

~翌朝~

賢者「やあやあ若人達よ、昨晩はよく眠れたかなー?元気ですかーっ」

僧侶「はい、元気ですぅ~っ!」

盗賊「なんだこの茶番劇」

賢者「………」ニヤニヤニヤ

盗賊「そしてあのクソオヤジの目をブッ潰したい」

研究者「よう。あんたら、あの封印の塔に入るんだってな。ならこれを持っていけ」

僧侶「わっ、新しいメイスですか?盗賊さんにも短剣がありますよ!」

研究者「俺は魔法武具にも興味があってな、色々作ってんだが…丁度良いテストになりそうだし。そのメイスは祈りの力に作用して攻撃力が増すはず。短剣は斬りつけるたびに魔力を奪う効果があるはずだ」

盗賊「いちいち"はず"ってつけんな、不安が加速するんだが」

賢者「俺からはコレを、爆破魔法を詰めた魔法石だよ。投げつければ爆発するから、気をつけて使いなさいね」

僧侶「武器に、魔法石に、回復薬!これで準備万端ですねっ、ありがとうございます~!」

賢者「なあなあ兄ちゃん」

盗賊「んだよ、クソオヤジ。馴れ馴れしく肩を組むな」

賢者「お嬢ちゃん、随分ご機嫌じゃない?女は誰しも精気を吸い取る小悪魔だからなあ……うんうん、オジサン色々お察ししちゃうんだけど!帰ったら話聞かs」バゴォォン!!

研究者「…魔法石はきちんと効果が出る事が証明されたな。他の魔法も詰められるか、更に研究するとしよう」

僧侶「けっ賢者さーん!?ダメですよ盗賊さん、賢者さんに魔法石投げたら~!」

賢者「」プスプス…

盗賊「いいからさっさと行くぞクソアマ!!あとそこのクソメガネ!その色ボケクソオヤジを埋めとけ!!」

研究者「…クソメガネって俺の事か?」

賢者「お前しかいないだろ。…2人とも、気をつけていってらっしゃいねー」

~封印の塔~

僧侶「はあ、ふう……はあ、…た、高い塔ですねえ…てっぺんにまだつかないなんて…」

盗賊「…外から見たらそうでもなかったのにな。もしかすると、幻惑魔法が塔全体にかかっているのかもしれねェ。元々修行目的の塔らしいしな…」

僧侶「あ、足が……足がパンパンです…ふう、ふう…」

盗賊「まいったな、この幻惑魔法を解除しねーと、いくら登っても、まさに無駄足だぜ。一旦引き返すか…?クソオヤジに魔法解除できる道具がないか聞くとか」

僧侶「………あれ?盗賊さん…盗賊さんの荷物が、なんか光ってますよ?」

盗賊「あ?なんだ?光るようなもんなんか持ってねーぞ、俺」ゴソゴソ

盗賊「………!?…氷の洞窟から持ってきた宝玉が、光ってやがる」

僧侶「で、でもそれって確か、もう魔力反応はないって、妖精さん、言ってましたよね…?」

―― パアアアアッッ!!

盗賊「うわっ!?」

僧侶「きゃあっ!ま、眩しい……」

・・・

盗賊「な…なんだ?今のすげえ輝きは……また光らなくなっちまったぞ、この宝玉」

僧侶「うう、目がチカチカしますぅ…、…あ、あれっ?あれえ?とっ盗賊さん!てっぺんが!天井がありますよ!?」

盗賊「な!?…この宝玉が幻惑魔法を解除したのか?…謎が多いな、こいつは。まあ、今はさておき。先が見えるんだ、さっさと進んじまおう」

僧侶「あんなに階段を昇ったのに、実際は一階ぶんくらいしか進んでなかったんですねぇ…もー、この疲れをどうしてくれるんですかあ~!!」

盗賊「……最上階だ、…扉があるな、鍵は掛かって…いる。ま、俺にかかれば子供騙しってところだ」ガチャガチャ

ギイイイィィ…

盗賊「………?なんだ…?やたら広い部屋に玉座が、……誰かいるぞ」

僧侶「ね、ねえ、盗賊さん…あの、玉座の傍にある台座……宝玉が置かれていますよ?あっちは、赤い宝玉ですけど…」

魔将「………来たか!」

僧侶「きゃ!?」

魔将「ついに!ついについについに!!来たかッ!!この日をどれ程待ちわびたことか!また貴様を殺せると思うと!この魔槍に貴様の血を吸わせられるのだと思うと!!我が身が喜びに震えるぞ、―― 聖騎士よ!!」

盗賊「……は、…はあ?俺の事かよ?何言ってんだコイツ…誰と間違えてやがる」

魔将「姿は変わっても、その魂の残り香は隠せぬものよ!しかし変わらぬな、貴様らは弱者同士、身を寄せ合う。貴様は邪魔をするでないぞ、魔導師!!」

僧侶「………え?はい?わ、私?私ですか?え?私が、魔導師?」

盗賊「マジに何を言ってやがんだ、この全身鎧野郎は」

魔将「オオオオッッ!!」ズバババッ

盗賊「うお!!」

僧侶「きゃあっ!!」

魔将「ぬうっ、我の槍を避けたか……相変わらずの身のこなし!何百年経とうとも、変わらぬな!!聖騎士よ!」

盗賊「だから俺はその聖騎士じゃねーよ!!なんなんだ、テメーはぁ!!」

僧侶「あ、あんなに大きくて、太い槍なのに…軽々振り回すなんて、お化けですぅ…!」

魔将「フハハハハ!!そら、そらそらそらぁぁぁっっ!!」ブン! ブォン!!

盗賊「チッ!話を聞けよ、この野郎!!…槍相手じゃ、俺達の武器だと不利だ……懐に入るなりして、距離を詰めねーと。勿体無いが回復薬で攻撃力を上げるか…」

盗賊「おい、クソアマ!クソオヤジから貰った魔法石だ!あれを投げて隙を作れ!!」

僧侶「ま、魔法石!魔法石!!えっと、えっと!!…あった!えいっ!!」ブンッ

魔将「ぬうっ?小石か?―― ぬお!?」ズガァァン!!

魔将「ぬうう……爆薬か…?なんと小賢しい真似を、……ハッ!?」

盗賊「爆薬じゃねーよ、オッサン印の魔法石だ!!」ガキィン!

ゴトンッ

魔将「ほう、懐に入るその速さ、我の兜を剥ぐ短剣の突き上げ……衰えてはおらぬようだな、聖騎士よ…」

僧侶「ひいっ!?」

盗賊「な……なんだ、テメー…その顔……ミイラじゃねーか!!」

魔将「何を驚いておる?我が死んだのは、とうの昔。聖騎士、貴様が生まれるよりも遥か昔の事」

魔将「しかし我は甦った、亡者として!魔王様の素晴らしきお力により、我は甦ったのだ、地獄の底から!!フハハハハ素晴らしい!魔王様のお力のなんと素晴らしい事か!!」

魔将「溢れる力は抑えられぬ!我は欲する、肉を!血を!!魂を!!聖騎士、我と戦え!その血を再び魔槍に注げぇぇぃぃ!!」

僧侶「まおう?魔王…、の、仲間なんですか?貴方は……」

盗賊「何を一人で盛り上がってんだか、勘違い野郎が。…おい、クソアマ。魔法石はあといくつある?」

僧侶「え、えっと、貰ったのは全部で5つなので…残りはあと3つです」

盗賊「んじゃ、もう一発投げろ。あの勘違い野郎が槍を振った時を狙え。テメー自身が槍に当たらないよう、距離は取れよ」

盗賊「魔法石、ひとつ貰うぜ」ヒョイ

僧侶「気をつけてくださいね、盗賊さん…!」

魔将「我にその血を捧げよ、聖騎士ィィィィ!!」ドウッ!!

盗賊「御免被る、ってんだよ!!」ドゴォォン!!

魔将「小賢しい!小賢しい、小賢しい!!魔法石とやらを床に投げて、煙幕を焚いたつもりか?二度は通じぬわ!」

魔将「そこだ!!」

盗賊「ぐえッ!!」ガシッ

魔将「フフハハハ…煙に紛れ跳躍し、我の顔をその短剣で刺そうとの試みか。悪くはない、しかし力が足りなかったな」

盗賊「ぐ……!首が…折れる……!!」メキメキメキ

僧侶「盗賊さんっ!!」

盗賊「…まだ、だ…まだ待て、クソアマ」

盗賊「……おい、勘違い野郎…俺の武器が短剣だけだと、思っていたら大間違いだぜ?」

魔将「ぬうっ?」

盗賊「…ッのやろ!!」ガツッ

魔将「!! 鎧の継ぎ目に…剣を突き立ておって!」

盗賊「硬い奴は関節が弱点、てな…深く刺さらずとも、首を絞める力さえ緩みゃ、手から抜け出せんだよ!」

魔将「聖騎士ィィッ!!」

僧侶「槍を突き出した…!い、今だ!えいっ!!」ブンッ

魔将「言った筈だ、二度は効かぬ!!」バシィ

ドゴォォォンン!!

僧侶「ああッ!は、弾かれて、見当違いのところで爆発しちゃった…!!」

盗賊「だが!小さくても、隙は隙なんだよ!!うおりゃああぁっ!!!」ザグッッ!!

魔将「グワアアァァァ~ッッ!!?我の!目があぁぁっ!!」

魔将「グオォォ……こ、これは…何だ…!力が抜ける……!!刺さる短剣が、我の魔力を吸い取る…!?」

魔将「小癪なぁっ!!」ズボッ ガシャン

盗賊「あのクソメガネ、やるじゃねーか。ちゃんと機能したぜ、あの短剣」

僧侶「魔王の力……魔力を吸い取ったから、ダメージがあったんですね…!」

魔将「ヌヌウウゥ……」

魔将「魔王様より頂いた力を…このようなナマクラに奪われるとは……不覚!」

魔将「まず狙うは聖騎士にあらず……ちょこまかと目障りな貴様からであったか、魔導師…」

魔将「まず貴様を仕留め、力の半減した聖騎士を次に殺すべきであったわ!!」グオォッ!!

僧侶「えっ?き…きゃあああ!!?」

盗賊「クソアマぁっ!!」

―― ピカッッ!

魔将「ぬ!?この光は!?」ジュウウゥッ

魔将「ギャアアアア!!ひ、光が!光が、我の体を焼くぅぅっ!!?」

盗賊「…台座の、赤い宝玉が……」

僧侶「光って……、……!?」キィィーン!

僧侶「な、なに?なに?あ、あ、頭が…頭の奥が、響く…」

宝玉『…あたしができるのは、ここまでだ。早く、あいつが捨てた短剣を拾って、もう一度、あいつを刺しな!』

僧侶「だ…誰?誰なの?誰か、いるの?」

盗賊「なんだかよくわからねェが、青も赤も便利だってこたァわかった…これはチャンスだ!もう一度顔面に喰らわせてやる!」ダッ

魔将「させるかあああ!!!」

僧侶「さ、最後の魔法石ですよ!」ブンッ

ドカァァン!!

魔将「ぐ…足下に!!」グラッ

盗賊「この短剣、イイ味してんだろ?正直言うと、俺も驚いてんだがな…」

盗賊「だから、おかわりをくれてやるよ!!しっかり噛み締めろや!!」ズドゥッ!!

魔将「グボアァッ…!!」ドザァッ…

盗賊「…へっ。口ん中に突き立ててやったぜ。お粗末さん、と」

僧侶「は……はああぁ…か、勝った…?ん、ですよね……こ、怖かった」ヘナヘナ

盗賊「貰った道具がなかったら、わけのわからないまま殺されていたな。…やれやれ…こいつが塔に現れた魔物なのかね」

僧侶「…魔王に力を貰った、って言っていましたね……魔王は、ずっと昔に死んだ人も、甦らせて、配下にできるんですね…」

僧侶「そ、そういえば、さっきの声はなんだったんだろ?他にも誰かいるのかな…確か、こっちの方から…宝玉の方から…」

盗賊「…おい、勘違い野郎の傍を不用意に歩くなよ、危ねーぞ……」

魔将「 」クワァ

魔将「―― こ゛の゛程度で、我が死゛ぬ゛か゛ぁぁぁぁ!!!」

僧侶「!!? き、きゃあああああ!?」

―― ドズッッ…

ボタッ!! ボタボタッ…

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