僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」 3/11

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僧侶「…ふわあ、温か~い…気持ちいいなあ…髪も洗おうっと…」ジャブジャブ

僧侶「………」ムニィ

僧侶「………うん、ちゃんとあるもんねっ!洗濯板じゃないです!盗賊さんのバカバカ!!」

僧侶「………ぐすん」

スライム「ピキー!」ガサガサッ

僧侶「きゃ!ス、スライム!?」

スライム「ピキキー」ドボン

スライム「ピ~ピキピッキ~♪」プカプカ

僧侶「…あははっ、そっかあ、スライムさんもお風呂が好きなんだね」

僧侶「………」

スライム「ピキ~」プカプカ

僧侶「………」キュッ

スライム「ピキ!?」

僧侶「………これくらい大きくて柔らかかったらなあ……ぐすん」

スライム「ピキ~♪」デレデレ

・・・

盗賊「………」ザブザブ

盗賊「………」

衛兵「どうだ?傷の方は」

盗賊「ああ…完全とは言えないが、痛みが和らぐ。すまねェ、流れた血で湯を汚しちまった…」

衛兵「構わないよ。温泉は地下から湧き出て、土へと流れていくからな。時間を置けば、血も一緒にどこかへ流れていく」

衛兵「私としては、暫くの湯治を勧めたいが…どうしても行くのか?」

盗賊「ああ。こうしている間にも、勇者はどんどん先へ行っちまうからな…」

衛兵「そうか…オアシスの街には教会もある、そこへ無事に辿り着くよう祈ろう」

盗賊「祈りなんざいらねェよ。そんなもんで腹は膨れねーからな。それよか、無事に帰った時の山の幸料理だ。それを約束してくれた方が断然やる気が出るね」

衛兵「…ハハハ。わかったよ、必ず用意するからさ。気をつけて行くんだぞ?」

盗賊「へいへい。まあいざとなったら、あのクソアマを餌にしてトンズラするからいいんだが」

衛兵「………」

衛兵「君は素直じゃないな」

盗賊「っあ!?」

衛兵「なんでもない。さあ、私は見張りに戻るから。君は時間の許す限り浸かっていなさい」

盗賊「ちょっ!待ちやがれテメー!!何か聞き捨てならない事言っただろ!おいっ!!待てコラ!!」

盗賊「………チッ!!クソが!腹立つな、次にクソアマが寝たら鼻に小石詰めてやろう、そうしよう…」

僧侶「温泉すっごく気持ち良かったですぅ~!また来ましょうね、盗賊さんっ」ホカホカ

スライム「ピキー!」ホカホカ

盗賊「………おい、クソアマ。なんだ、その魔物」

僧侶「あ、一緒に温泉に浸かったんです、温泉友達ですよ、ねースライムさん!」

スライム「ピー、キ!」

盗賊「どうでもいいが、山に帰してやれよ。連れてはいけないからな」

僧侶「うう…そうですよねえ……また一緒に温泉入ろうね、スライムさん…」

スライム「ピッキキー」ガサガサ

衛兵「あのスライムは私達の村にもよく遊びに来るんだ、いいスライムだよ」

僧侶「へぇ~、そうなんですかあ…!だから人間に慣れていたんですね…」

衛兵「村でも人気者さ。……さあ、麓についたぞ。私が送れるのはここまでだ、村の警備に戻らねばならないからな…」

僧侶「送ってくださって、ありがとうございました…温泉も、気持ち良かった、です…!」

衛兵「この先を真っ直ぐ行けば、砂漠へ出るだろう。砂漠の中央に見える巨木を目指しなさい、それがオアシス、そして砂漠の国の目印だからね」

盗賊「何から何まで、すまねェな。世話になった」

衛兵「砂漠の昼は暑く、夜は芯まで冷える。フードをしっかり被って陽射しを避け、水が尽きる前にオアシスに行くんだ。気をつけるんだよ」

僧侶「ありがとうございました、ありがとうございました!行ってきますぅ~」

僧侶「衛兵さん、とっても親切な方でしたねえ…優しいし、強いし……素敵な人でした…」

盗賊「………」

僧侶「砂漠って、私、見たことないです。盗賊さんは、見たことありますか?」

盗賊「うるせえな、黙って歩けよクソアマ。あとマントを掴むな、邪魔だ」

僧侶「…盗賊さん、いっつもご機嫌斜めだけど……今とくに、怒ってませんか…?」

盗賊「うるせえっつってんだ!!黙ってろよ、クソアマ!!」

僧侶「あうう……」

~砂漠の入口~

馬屋「はいはい、いらっしゃい!砂漠を渡るには砂馬が一番!歩いて行ったら即ミイラ化だよ、悪いことは言わない、砂馬に乗って行きな!」

盗賊「おい、ちょっと聞きたい事があるんだが…ここに勇者が来なかったか?」

馬屋「勇者様?なんでまた」

僧侶「私達、勇者様の仲間で……勇者様と、合流しなくちゃならないんです…今、追いかけている最中、で」

馬屋「へえ~。いや、勇者様なら来たよ。砂馬を借りて砂漠の国に渡ったはずさ。うちの砂馬は利口だからね、砂漠の国に人を届けたら、ちゃんと自分で帰ってくるんだ」

馬屋「ほら、そこにいる二頭がそうさ」

僧侶「え?二頭?」

盗賊「勇者は一人じゃないのか?」

馬屋「ああ、2人組だったよ。一人が勇者様で、もう一人がその仲間だって。あれは魔法使い…さん、かな?若い男…いや、少年と、それから若い女の人だったね」

僧侶「思えば、私達…勇者様のこと、なんにも知りませんでしたね…」

盗賊「ああ、こりゃいい情報を得たな。そうか、勇者は魔法使いと一緒にいるのか…それから若い男女。似顔絵でもありゃ最高だが、まあ、これで少し探しやすくなった」

馬屋「あんた達、本当に勇者様の仲間なの?…まあいいか、で?砂馬借りる?借りない?」

盗賊「その砂馬とやらに乗れば早く砂漠の国につけるのか?」

馬屋「早いだけじゃなく、徒歩より断然安心だよ!砂漠の魔物は狂暴だからね、しかも装甲の硬いヤツばかりだから。砂馬はおとなしく優しいけど、逃げ足はどんな馬よりもとびきり早いんだ!」

盗賊「…料金はいくらだ?」

馬屋「一頭でこの値段だね」

盗賊「……ギリギリ一頭借りられるくらいだな…おい、クソアマ。俺は砂馬に乗るから、テメーは歩け」

僧侶「えええ!?むむ無理ですう!!死んじゃいますよう~!!」

馬屋「なんなら、一番体の大きな砂馬を貸してあげるよ。お嬢さんは小柄だし、その砂馬なら2人乗れるだろうから」

盗賊「いいのか?」

馬屋「ああ。うちの砂馬がどれだけ立派かと見せられれば、客足に繋がるからね。宣伝も兼ねているってことで、サービスしよう!」

僧侶「あ、ありがとうございます…!良かったぁ…こんな、熱い砂の上を歩いたら…、すぐに干からびちゃいそうだし…」

馬屋「ただ、忠告しておくよ、お客さん。今の砂漠の国はなんだかキナ臭い話を抱えていてね。下手すると余所者は捕まって牢屋に入れられてしまうから、気をつけて!」

盗賊「はあぁ?…俺なんか特にヤバいじゃねーか…一体何が起きているんだ」

馬屋「噂だけど、近々戦争が起きるんじゃないかって話なんだよね。砂漠のオアシスも年々水が少なくなっているから…領土拡大っていうのかな」

僧侶「そんな…魔王がいるって時に、なんで人間同士で、争わなきゃならないんでしょうか…」

馬屋「遠くの恐怖より、目先の問題だよ。オアシスが枯れてしまったら、孤立している砂漠の国はあっという間に壊滅だからね…」

馬屋「せめてオアシスが枯れずに済むなら、戦争も起きないだろうけどねえ…苦渋の決断ってやつだろう」

盗賊「…頭の痛くなる話は苦手だ。なんにせよ、砂漠の国には行かなきゃならねえ。ほらよ、馬の代金だ。借りていくぜ」

馬屋「ああ、はい!まいどあり!気をつけて、いい旅を!」

盗賊「…砂漠の国を助けたい、なんて言い出すなよ、クソアマ。流石にこの案件はどうしようもならねえからな」

僧侶「ううう……どうにかならないのでしょうか…」

~砂漠~

盗賊「……っ、ふう…話に聞いた以上だ…暑すぎる…馬を借りて正解だな、こんなところ、ノコノコ歩いていたらマジに干からびるぜ」

僧侶「せっかく温泉に入ったのにぃ…汗でベタベタだし、砂ぼこりで髪もバサバサです~…」

盗賊「まだ汗が出るならいい方だ、水分が枯れてない証拠だしな。ほら、クソアマ。しっかり水飲んでおけ」

僧侶「あ…ありがとう、ございます……」ゴクゴク

僧侶「(盗賊さんとひとつの水筒を飲みっこするの、やっぱり恥ずかしいな…でも、お水ももうこれだけ、だし……うう、背中もぴったり、盗賊さんの体にくっついてるし……暑さ以外で茹で上がりそうです…!)」

僧侶「……と、盗賊さん、は…お水、ちゃんと飲んでますか…?」

盗賊「飲んでいる。つーか前を向いていろ、バランス崩れんだろうが」

盗賊「……ッ!!?」ズパッ

魔物「シャアアァァッ!!」ドバァッ

僧侶「きゃー!?砂漠の中から、でっかい虫みたいなのがー!!」

盗賊「魔物か!チッ、引っ掻かれた…おいっクソアマ!しっかり捕まっていろよ、振り落とされても助けねーからな!!」バシィ

砂馬「ブヒィィンン!」

僧侶「きゃー!?きゃー!!ゆっ揺れる、あわわ、落ちちゃうぅ~!!」

魔物「キシャアアア!!」

盗賊「このッ!!」ガキィン!

盗賊「ッ痛…!マジに硬ェな、剣じゃダメージ全然与えられん」

魔物「キシャアアアァァ!!」スパパパァッ

盗賊「ぐぅ、う…ッ!!こりゃ、風の魔法かっ!?」

僧侶「とっ盗賊さん!盗賊さんが!やだ!やだ!!い、今の魔法でズタズタに!!」

盗賊「前を向いていろ、クソアマ!!バランス崩れんだよ!!」

盗賊「硬いわ、魔法を使うわ…凶悪って騒ぎじゃねーよ…!!逃げられるのか、これ」

魔物「シャシャシャァア!!」

僧侶「やだやだ!追いかけてきますぅ~!!」

盗賊「チッ!しつけぇな!!おい、クソアマ!手綱握っていろ、あいつに痛い目見せてやる」

僧侶「えええ!?むむむむむ無理!無理ですよう、あわわわわ~!!」

盗賊「握っているだけでいいんだよっ、落ち着けクソアマ!!」

盗賊「うらぁぁああ!!」ザンッ

魔物「ギギィィィィ!!!」

僧侶「や!やった!尻尾が、落ちちゃい、ましたよっ!?」

盗賊「ふんっ、関節部分は比較的柔らかかったな。弱点はそこか。もう追ってくるんじゃねえ!今度は尻尾だけじゃ済ませねーぞ!!」

魔物「ギァ~!ギシャアア!!」

盗賊「…よし、逃げていったな…やれやれ、肝が冷えたぜ……」

盗賊「はぁ…はぁ……(しかし……腕の出血毒に合わせて、魔法裂傷…流石に血を出しすぎだ……)」

僧侶「と、盗賊さん……っ、大丈夫?大丈夫ですか?」オロオロ

盗賊「(………クソアマ)」

盗賊「…前を向いていろっつったろ。テメーは本当に言うことを聞かねーなぁ……うぜえんだよ、ボケ」

僧侶「でも、だって、だって!盗賊さん、血が……血が、出てますよう…ま、また、私を庇って……なんで、なんでですかあ…」グスグス

盗賊「だから、うるせえんだよ、静かにしていろ…。かすり傷だ、薬草塗るから平気だ。……ほら、衛兵の言っていた巨木だぜ…ここが、砂漠の国…オアシスを守る街、か……」

僧侶「ほ、本当だ!ありがとう、お馬さん……いっぱい走ってくれてありがとう!街に入ったらすぐ手当てしましょうね!ねっ!」

盗賊「……いや……どうなるかな、これ…門、閉まってんじゃねーか……」

門番1「止まれぇい!!この先は誰であろうと通すわけにはいかぬ!!引き返せ!!」

僧侶「そんな!おっお願いします!街に入れてください、怪我人がいるんですっ」

門番2「ならぬ!!これは砂漠の国の王直々の命令!街に入りたくば通行許可証を提示せよ!!」

僧侶「そんなの、持ってないです…!なんで、なんで入れてくれないんですか…!」

門番1「戦争の準備故に、民達の安全を確保する為の封鎖よ。砂漠の民ならまだしも、余所者を入れるわけにはいかぬ!」

門番2「速やかに立ち去れ!抵抗するならば投獄致す!立ち去れ、立ち去れ!!」

僧侶「お願いします、お願い……!!街に入れて…盗賊さんが怪我をしているの、お願いぃ…!」

盗賊「……いい、クソアマ…もういい、行こう…」

僧侶「盗賊さん!でもっ!!」

盗賊「あの雰囲気、泣き落としなんか効かねーよ…例えここで人が行き倒れていようとも、絶対に門を開けないって、強ぇ意思……時間の無駄だ」

僧侶「でも、もう薬草が……盗賊さんの傷が」

盗賊「ここで食いついて、捕まっても仕方ねえ…勇者は、中に入れたのか……?いや、それももう、今はいいか…早く、次の街に…行けば……」

僧侶「ううう……うううっ!ごめんなさい、ごめんなさい…わ、私、が……私が、落ちこぼれじゃなくって…ま、魔法……使えていたらっ盗賊さん、助けられたのに…」グスグス

盗賊「………」

盗賊「………」ナデ ナデ

僧侶「…っ、盗賊さん……?」

盗賊「そのうち使えるようにならぁ」

盗賊「いくらお前でも…使えねークソアマでも……そのうち、回復魔法だろうが、なんだろうが。使えるようになるさ…その時まで、ツケといてやる……」

僧侶「でも!使いたいのは今なんですよう!!今使えなきゃ意味ないです…!ごめんなさい、ごめんなさい…!!」

盗賊「…うるせえなー、泣くんじゃねーよ、鬱陶しい。かすり傷だっつってんだろ…」

盗賊「どーってこたーねんだよ、こんなの……大したこと、ねんだ………よ…」フラッ

ドサッ!

僧侶「盗賊さん!?盗賊さん、盗賊さん!しっかりしてぇ!!」バッ

盗賊「………」

僧侶「盗賊さん!お願い、しっかりして!!起きてください、また馬に乗って、街に……行かなきゃ、薬草、買って…傷治せば……!!」

僧侶「盗賊さぁぁん……!」

魔物「フシャアアァ!!」

僧侶「あ…っ?そ、んな…魔物……!」

魔物「ギィィィ……」

僧侶「か…数が多い……わ、私だけじゃ無理…!」

盗賊「………」

僧侶「……う、ううん…無理じゃ、ないです!盗賊さんを守るの…!」グッ

僧侶「盗賊さんを守って、次の街に行って…盗賊さんを治すの、勇者様と合流しなきゃ……盗賊さんと一緒に!」

魔物「シャアアアア!!」バシッ

僧侶「痛ッ!!……くない、痛くない!!盗賊さんはもっと痛かった!私、守られてばっかりだ…私だって、私だって!!」カッキン!

魔物「シシャシャ……」

僧侶「っ硬い……、そ、うだ、関節だ…メイスじゃダメだ、盗賊さん、剣借りますね…!」

魔物「ッシャアアァーッッ!!」

僧侶「うわあああああ!!!」ブンッ

?「氷柱魔法!!」バキィン!

魔物「ギャアアア!!」ザクザクザク

僧侶「えっ!?」

?「喰らえ!!」

魔物「ギシャー!!」ドスドスッ

僧侶「か、関節に的確に弓矢を……だ、誰?」

男妖精「なんだ?人間がいる」

女妖精「こんなところで何をしている。街から随分離れているぞ、こっちは行き止まりだ、去れ、人間」

僧侶「エルフ…妖精?なんで砂漠に……?」

男妖精「去れ、人間」

僧侶「あの!お願いします、助けてください!怪我人がいるんです、お願いします!!」

男妖精「怪我人…?」

女妖精「……魔法裂傷は真新しいが…何だ、こいつ。こんなにも酷い毒の傷は久し振りに見たな」

男妖精「我々から奪った魔法文明を発達させたのではないのか?人間は。毒消し草を何故使わなかったのか」

女妖精「衰弱が激しい。近いうちに死ぬな、こいつ」

僧侶「そんな…!お願い、お願いお願い!!お願いしますっ助けてください!なんでもするから!!助けて!」

男妖精「知るか。我々は人間を憎んでいる。助ける義理はない」

僧侶「そんなあ……!!」

女妖精「………待て。この男、面白いものを持っているぞ。触れてみろ」

男妖精「ふむ…?これは……ほう」

僧侶「………?」

男妖精「お前もそうなのか?」

僧侶「へっ?」

男妖精「…確かに面白いな。婆様に話してみるのも良いかもしれない」

女妖精「人間。気が変わった。私達はお前達を助けよう。ついてこい」

僧侶「!! ほ、本当ですか!?ありがとうございます!!よ、良かったあ……」

男妖精「我々の里は普段、蜃気楼の向こうに隠してある。居場所を他言しないと誓え。他言したら殺す」

女妖精「貴様の目玉をくり貫き、口を縫い付け、耳に焼いた銅を流し込む」

僧侶「めちゃくちゃ怖いですう!!言いません、言いませんから…!」

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