魔将「……ハハハハハ…血だ…血が……我を満たす…潤す……癒える…!」
魔将「温かい……温かいぞ、貴様の臓物の温かさ、柔らかさ、脈動!全てを感じるぞ、フハハハハ!!ハハハハハハ!!!」
魔将「昔も、今も!貴様は本当に変わらぬな…ちっとも変わってはおらんなぁぁ、―― その女を庇って、我に殺されるところ!!全く変わっておらぬぞ!!」
魔将「なあ、聖騎士!!我の腕に腹を貫かれ、溢れ出る貴様の血は、まるで滝の如しよ!ハーッハッハッハッハー!!」
盗賊「……ゴボッ!!げぼ、……っ………」ビチャビチャ
僧侶「いっ、」
僧侶「いやああああああああああ!!!!」
盗賊「ッ」ドサッ
僧侶「いやああああ!!ああああああああーっっ!!!」
僧侶「盗賊さん!!盗賊さん、盗賊さん盗賊さん!!いやあああっ!!」ガクガク
魔将「フハハハハハ!!昔も!今も!!これからも!!貴様を殺すのは我だ!!貴様は我の食糧だ、フハーッハハハーッ!!」
僧侶「――」プツッ
僧侶「………せ」
魔将「フハハ……、…む…?」
僧侶「………かえせ」グッ
僧侶「返せッ!!!」
僧侶「その肉は盗賊さんのだ!その血は盗賊さんのだ!!返せ!返せよ!!!」
僧侶「お前なんかに!一欠片も、一滴も、くれてやるものか!!返せ!盗賊さんの肉を!血を返せえええぇッッ!!!」ブォンッ!!
魔将「ぬ!?ぬうっ!!ぐ…!!?」ゴッ! ドゴ! ガツッ!!
魔将「な…なんだ、これは…!?こんな…小娘の力とは思えぬ……!どんどん、打つ強さが増してゆく!?」ガンッ! バコッ!
僧侶「うわあああああああ!!!」
僧侶「お前が!お前が!!お前が奪ったから!!お前があああぁぁ!!」
僧侶「肉を返せ!血を返せ!!盗賊さんを返せぇぇぇぇ!!!」
魔将「こ!こいつ!!」バシッ
僧侶「ぎゃっ!!」ガツッ
僧侶「げほっ!……ゆ…ゆるさない…許さない、許さない、許さない!!お前だけは許さない!!!」
僧侶「お前だけは、絶対に!!許さないぃッ!!!」ゴアッ!!
魔将「…!!そのメイスか…!まるで黒い炎が吹き出しているかのような……我への怒りや憎しみを、力と変えているのか!!」
僧侶「うわあああああああ!!!」ドッ!!
魔将「ぐおっ…!!」ドフッ
僧侶「ああああああ!!!」ガン! ガン!! ガンッ!!
僧侶「お前が!お前が殺したんだ!!返せよ!!盗賊さんを返せえぇ!!」ガンッ!! -- バキャッ!
魔将「ぐふっ…!メイスの、柄が折れたか……うぐ!!」ゴツッ!!
魔将「す、素手で!この我が!小娘ごときの素手で!!顔を殴られる、など…!!」ゴツ! バキッ!!
僧侶「うわあああああああーッッッ!!!」
魔将「(口に刺さっている短剣が…喉奥にめり込む!!)」ズグッ! ズブ!
魔将「なんたる、屈辱…!!この、我が……貴様ごときにぃぃぃぃ!!!」
グジャッ!!
僧侶「――……っはあ!はあ!!はあ…!!」
僧侶「う…うっ、う……うわあああん!!」
僧侶「返して…返してよおっ……!!盗賊さんの肉も、血も、命も……!盗賊さんを、返してよぉぉ…!!」
僧侶「うっうっ…うっ……、…」
僧侶「…だいじょうぶ…大丈夫、まだ、間に合う……」
僧侶「元に戻せば、大丈夫……」フラッ
僧侶「…盗賊さん…盗賊さん、盗賊さん」
盗賊「………、……」ゴポッ
僧侶「大丈夫…すぐ、戻してあげます、から…お肉も、血も、集めて、きましたから、ね?ねっ?」
僧侶「だから、大丈夫…大丈夫ですよ、元に戻せば、だいじょう、ぶ……?」ペタッ…
盗賊「………」ナデ ナデ
僧侶「…う、動いちゃ、だめ…!頭、な、撫でて、くれるの、嬉しいけど……今は、うごかないで…!」
盗賊「……、…、………」
僧侶「っあ……?」
盗賊「………」ニッ
―― "僧侶"。
僧侶「……ああああ……あああっ…!!う゛ああああああーっ!!!」
―― ピカッ…
宝玉『…なんてこった……あたし達の時よりも、魔力が多かった…あの一撃で死ななかったなんて……』
宝玉『魔王は、更に力を増しているの…?運命は、覆せないの…!』
僧侶「……っ、だれ…?」
宝玉『…ここだよ。あたしはここにいる。宝玉の中に、封じられた……』
魔導師『あたしは魔導師。あんたの昔の姿。遠く遠く…遥か昔の姿……』
僧侶「…!?宝玉から……人の姿が…武道家さんみたいな、……でも、赤い…亡霊…?」
魔導師『ごめん…あんなに強くなっていたなんて、知らなかったの。守ってやれなかった…あたしは……また聖騎士を守れなかったんだね』
魔導師『守りたくて……転生をも選んだのに…こんな、事って…!』
僧侶「な…なに……?何を、言っているの…?」
魔導師『…あたしは、あんたの昔の姿よ。あたし達は…あたしと聖騎士、シスター、そして勇者は、神託を受けて、魔王討伐に向かったんだ』
魔導師『昔、遥か昔の事だよ。…魔王とその配下、四天王と対峙し、対決し……そして、あたし達は負けた』
魔導師『あたし達のダメージも大きくて。最初に、みんなを癒せるシスターが殺された。次に、あたし達の盾になって、聖騎士が殺された』
魔導師『残ったあたしと勇者は、からくも魔王を追い詰めたけど……あたし達も…もう辛くて、…辛くて……』
魔導師『魔王は取り引きを持ちかけてきた。あたしはそれを飲んだ、次こそ聖騎士を守りたいって、癒したいって思ったから、取り引きに応じたよ』
魔導師『そして、勇者も……勇者は……取り引きを、突っぱねた。魔王を倒さず、明日に希望を託さず』
魔導師『勇者は、世界の破滅を望んだ』
魔導師『あたし達は…魔王に、負けたんだ』
僧侶「………そんな」
魔導師『何故、勇者がそんな事を願ったかわからない。でも、取り引きの時に、勇者はこう言ったよ』
魔導師『こんな世界、いらない』
魔導師『そう勇者が破滅を願った事で、絶望の力で、魔王を少しだけ回復させてしまった』
魔導師『あたし達の力は奪われ、宝玉に閉じ込められた。そして抜け殻だけが転生してしまったんだ。それが今のあんた達だよ』
僧侶「………」
魔導師『まあ…回復したといっても、微量ではあったから、魔王もそのまま眠りについたようだが』
魔導師『最近になって力を回復し、甦った。あんなにも…配下に強大な力を与えられる余裕まで持って』
魔導師『神はかつて魔王を追い詰めた、あたし達の抜け殻を探し、神託を与え、あたし達の力を得るべく導いたようだが…』
魔導師『……結局…ダメだった、ね……』
魔導師『あんた達、青の宝玉を持っているだろ?』
僧侶「……はい…と、盗賊さんが、……持って、ます」
魔導師『青の宝玉には、聖騎士が閉じ込められてんだ。…こんな時に、すまないけど…彼に会わせちゃくれない、かな』
僧侶「………」ゴソゴソ スッ
魔導師『ありがとう』
魔導師『…やっと会えた……ごめんね、あんたにばかり、傷を負わせて…痛かったろ』
魔導師『聖騎士……あの魔将に殺られたから、より魔の力に飲まれてんだね。自分が自分だとわかっていない…消えかかっている』
魔導師『ごめんね……あんたを守れなくて、癒せなくて、ごめんね。あたし……シスターが羨ましかったよ…あたしは、あんたの剣になるより……あんたの盾に、薬に…なりたかったよ…』
僧侶「………」
魔導師『……言ったように、今のあんた達は抜け殻だ。けれど、あたし達を受け入れれば、力を得る事ができる。あんたなら、すべての回復呪文を使えるようになるだろう』
僧侶「!! じゃ、じゃあ……盗賊さんを、生き返らせる…蘇生呪文も……!?」
魔導師『ああ。……さあ、どうする?あんたは、あたしを受け入れてくれる?』
僧侶「それは!それは勿論、………、……いえ、やっぱり…いいです。このままで……」
魔導師『なっ…?』
僧侶「………」
チュッ…
魔導師『! おや、まあ…』
僧侶「…へへ……盗賊さんと、キス、しちゃった…」
僧侶「………でも、よく…キスは、果実の味とか、いうけれど……あれ、嘘、だったんですねえ」
僧侶「だって、血の味でしたもん」
魔導師『………』
魔導師『………そう、だね。…あたしの時も、血の味だったよ』
~封印の塔・外~
賢者「………」ソワソワ
研究者「少し落ち着け。さっきから塔の入口前でウロウロとして。茶でも飲め」
賢者「イモリの黒焼き茶だろ?いらないよ…このゲテモノ好きめ」
賢者「…2人とも大丈夫かねぇ……やっぱり、こっそりと付いていけば良かったかな…」ウロウロ
研究者「保護者気取りも結構だが、過保護なのはどうかと思う」
研究者「保護者なら、成長を見守る事を第一にすべきだ。可愛い子は谷に突き落とせ、と言うし」
賢者「混ぜちゃいけないものを混ぜるから、爆発するんだよ。お前はさあ…」
研究者「………?」
研究者「……なんだ?あれは……塔の最上階に、光が…」
研究者「………天使……?」
~封印の塔・最上階~
僧侶「盗賊さんは、私を信じてくれている」
僧侶「だから私も自分を信じます」
僧侶「いつか、使えるようになる。回復呪文が使えるようになる」
僧侶「溜まっているツケを返さなきゃ」
僧侶「それが……今なんだ!!」カッ
魔導師『―― この、力は…!』
僧侶「私なら、できる!私が盗賊さんを助ける!」
僧侶「私が盗賊さんを守る!祈りを捧げて……神様のような、奇跡を…神様の代行として、奇跡を」
僧侶「……私が、起こすんだ!!」
僧侶「神様…お願いします。志半ばに倒れた、この者に……再び立ち上がる力を、勇気を、お与えください!!」
パアアァァッ!!
魔導師『……!!抜け殻の、あんたが…蘇生呪文を……!?』
魔導師『………もしかして、あんた達なら…きっと……』
『私は、みんなを守る力を得た』
『だが、自らその力を捨てる事を選んだ』
『みんなを守りたい。けれど、それ以上に、たった一人を守りたいと思ってしまった時から。欲を生んだ時から、私としての私は、弱くなったのだろう』
『私は、自由が欲しかった』
『掟や使命感に縛られず、たった一人を守れるだけの、自由が欲しかった。博愛ではなく、たった一人を愛せる自由を。彼女の傍へ飛べる翼が欲しかった』
『だから…魔王に屈してしまった』
『しかし君は私よりも強い。自由である事を選択し、それを得た君なら、きっとやれる』
『魔将の呪いは私が引き受けよう。さあ…行きたまえ。幸運を手に、自由になったその身体で、……彼女を守り、勇者達を救い、魔王を倒してくれ!』
・・・・・
・・・
・・
~数週間後~
賢者「待たせたな、やっとお前の墓を立てられたよ。居心地はどうだ?」
賢者「…こんな事になるなんて、思わなかった。ってのが、本音だけどな……」
賢者「………」
ドゴォォン!!
研究者「げほっ!!ごほ!!おかしいな……分量は合っていたはずなんだが…材料が足らないのか…?」ガラガラ
賢者「相変わらずだな、お前は。こっちは感傷に浸ってんの~、静かにしてくんない?」
研究者「お前が体験したという、妖精の移動呪文の話をもう一度聞かせろ。いや…それよりも、実際に見て確かめた方が早いか?」
賢者「おい、まず俺の話を聞けよ?」
研究者「………墓か」
研究者「言ったろ、保護者気取りも結構だが、過保護なのはどうかと思う、って」
研究者「なあ?……武道家ちゃん…」
墓碑【武道家、ここに眠る】
賢者「……お前の言う通りだな。格好つけてばかりで、意地を張っていたから、自意識過剰だったから……」
賢者「でも、だーいじょぶだー。彼女は俺の事を見守ってくれているしな。この指輪がそれを教えてくれるのさ」
研究者「…俺は魔法武具にも興味があって、」
賢者「この指輪を対象にしたら、すっごい怒るからね」
研究者「それで?旅立つのは今日だったか」
賢者「ああ。長年の夢と目標だった悟りの書を探しにいく。今度こそ見つけて、武道家に自慢してやるんだ」
僧侶「賢者さーん…!旅の支度、整いましたあー!!」
賢者「おーう、ありがとうねーお嬢ちゃん。じゃ、行ってくるよ。俺のいない間、墓の手入れはよろしく頼んだぜ」
研究者「わかってる。……友人直々の頼みを無下にする程、冷たくもないんだぜ、俺は」
賢者「それじゃあ行きますかー。と言っても、俺は途中の港でお別れだけどな。今も聖騎士の王国にいる、勇者とやらに会ってみたくもあるが……船の時間もあるし」
僧侶「途中まででも、ご一緒できるのは嬉しいですよう!さあ、行きましょ!」
賢者「あ、お嬢ちゃん、いきなり走り出すと、転……」
僧侶「きゃあ!!」ステーン!
賢者「…転ぶよー、と言いたかったが、ハハ、間に合わなかったなー」
「ぐがっ!?」ゴン!!
―― 盗賊に かいしんのいちげき !
賢者「おお盗賊よ、死んでしまうとは情けな~い、マジ格好悪~い、信じられなぁ~い」
盗賊「死んでねえッ!!つーか何しやがる、このクソアマァッ!!メイスを吹っ飛ばしやがって!!」
僧侶「す、す、すみませんすみません~!!わわ私、ドジで!でも新しいメイスも重たくて……!」
盗賊「ごちゃごちゃ抜かすな!!うぜーんだよ!……いいから早く治せ、コブになっちまう!」
僧侶「は、は、はいぃっ!!回復魔法!……あ、あれ?」
盗賊「…おい、何も起きないんだが」
僧侶「すみません、すみません!私、落ちこぼれだから……まだ安定してないみたいで…!あっ、で、でも、盗賊さんが私の頭を撫で撫でしてくれたら、なんかできる気がするな~…なんて」
盗賊「よーし、撫でてやろう」ゴン! ゴンゴンゴン!!
僧侶「撫でると殴るは全然違う気が!!!つ…ついに、4連発……」ヨロヨロ
賢者「はいはい、夫婦漫才はそこまでにして、そろそろ行くよ~」
盗賊「誰が夫婦だ!!こんな使えねーバカクソアマ!!」
僧侶「盗賊さんの方がバカですよう!オタンコナスぅ!!」
・・・
「………!!君達は…まさか……、………そうか。やっと、やっと会えたのか…」
「もう、遅刻だよ、遅刻ー!……えへへ、僕達も気づいていなかったから、おあいこだけど…」
・・・
僧侶「勇者様達と…」
盗賊「合流できた!」
【おしまい】
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