僧侶「勇者様と」 盗賊「合流できない」 1/11

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11

司祭「…というわけで、君には勇者の仲間である僧侶の護衛、及び勇者との合流を果たし彼の力となってもらいたい」

司祭「君もまた神の加護を受ける、勇者の仲間であると神託が降りた…それを忘れる事なく、心して任務を遂げるよう願う」

盗賊「………」

僧侶「よ、よろしくお願いしますぅぅ…」オドオド

盗賊「…なんで俺が…」

司祭「僧侶。道中気をつけて行くのだよ。くれぐれも盗賊さんの、そして勇者様のご迷惑とならぬようにな」

僧侶「は、はいぃ。頑張ります…うう、怖いけど…」

司祭「旅立つ2人に神のご加護がありますように」

盗賊「………」

盗賊「めんどくせェ…いきなり声がかかったかと思えば、それは大聖堂の司祭サマで、しかもガキのお守り、更には俺が勇者の仲間だぁ…?」

盗賊「盗みならばなんでもござれ、悪事に手どころか、この身どっぷり浸かって生きてきたこの俺が。寝耳に水の騒ぎじゃねーよ」

僧侶「わ、私…ガキじゃありません…そそ僧侶です…」

盗賊「あぁ?」ギロリ

僧侶「ひいぃ!!」ガタブル

司祭「勇者と合流し、その力となりて魔王を討ち取れば、国から報償金も出るだろう。勇者の生き方を見れば、君も自分の人生を見直せるかもしれんぞ」

盗賊「それはどうでもいいが、まあ、報償金てのは悪くない。魔王も宝を貯め込んでいるだろうしな…」

司祭「これは国から支給されたものだ。持っていきなさい」

盗賊「100ゴールド、薬草…と、それに武器か。ほう、真新しいダガーナイフ。こいつは有り難ェ」

僧侶「メ…メイス、重たいです…」ヨロヨロ

僧侶「はうっ!?」フラッ

盗賊「ぐがっ!?」ゴン!

 盗賊に かいしんのいちげき !

司祭「…おお盗賊よ、死んでしまうとは情けない……」

盗賊「死んでねえッ!!つーか何しやがる、このクソアマァッ!!」

僧侶「ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ~!!!メイスが…メイスが……!!」

司祭「大聖堂から出る前にこれとは…先行き不安すぎる…」

~大聖堂の街~

僧侶「早速薬草使っちゃいましたね…」

盗賊「誰のせいだと思ってやがる。司祭じゃねーが、この先不安で仕方ねーよ…あーあ、全く面倒なことになった」

僧侶「す、すみません…あと、メイス持ってくれて、ありがとうございます…」

盗賊「テメーに持たせたら今度こそ殺される気がするしな。さっさと勇者とやらと合流すんぞ。確か酒場に居るんだったな」

僧侶「は、はい…話によると、そうですね……」

盗賊「大聖堂のある街に酒場。神様の住む街に悪党がぞろぞろ。つくづく変な場所だよな、ここはよ」

僧侶「と…盗賊さん…は、やっぱり、そのう…暗黒街に…?」

盗賊「ああ、悪党や貧民が集う居住区の生まれだ。ったくよ、神様とやらがいるならば、何故俺達は救ってくださらねーのかねェ?」

僧侶「か…神様は…どのような方に、も、等しく……その御手を差し伸べてくださいます……と、盗賊さんも、祈りを捧げれば…救われることでしょう…」

盗賊「ケッ。どうでもいいやい、んなこたァ。祈りで腹が膨れるかよ、祈って金貨が空から降ってくんなら、いくらでもするけどな」

盗賊「明日のパンにも困るような生き方をしてきた俺達が…そんな暇も余裕もあるもんかよ。なんで俺が勇者の仲間とやらに選ばれたか、疑問でならねェな…全く…」

僧侶「き…きっと、それも…神様の試練、かと……貴方をお救いくださる試練…」

盗賊「試練だけに、そんな神様の気が知れん。そうこう言っているうちに、ついたぞ。酒場だ」

僧侶「…全っ然うまくなんか、ないですからね!」

~酒場~

盗賊「っはぁ!?マジで言ってんのか、それ!?」

店主「ああマジだ。そこのテーブルにいたんだがな、隣村に魔物が攻めてきたと情報が入って、すぐさま店を出ていったよ」

僧侶「そ、そんなあ!勇者様に置いて行かれちゃった…!」

盗賊「テメーがもたくさしてっからだ!チッ、すぐに追い駆けるぞ…隣村だったな、走りゃまだ間に合うだろう」

僧侶「わ、私、走るの遅いですぅ…!」

盗賊「知るかクソアマ!ゴニョゴニョ言っている暇があったら、とっとと走れ!」

僧侶「クソアマじゃないです、僧侶です~!うえ~ん、勇者様ぁ~!!」

盗賊「………」タタタタタ

僧侶「はあ、はあ、ふう」トテトテ

盗賊「…テメー、ふざけてんじゃねーぞ。マジに遅すぎる…歩いてんのかってレベルだ」

僧侶「す、すみません…、頑張っ、て、ますが……はあ、はあ、は、走るの……苦手で、ふう、はあ」

盗賊「大体荷物は全部俺が持ってやってんのによ、その俺より遅いって有り得ないだろうがっ!俺だってそんなに体力ねーんだぞ!?」

僧侶「すみません…すみません……ふう、ふう」

盗賊「ったく…、ん!?」

魔物「キシャー!」

僧侶「きゃー!?」

盗賊「チッ!魔物だ!!おい、クソアマ!そこから動くんじゃねーぞ!」

僧侶「は、はひぃ……というか、私クソアマじゃないです、僧侶ですぅ~!」

盗賊「どうでもいいんだよ、そんなこたぁ!うりゃあ!」ザシュ

魔物「ギギー!!」

盗賊「数は三体、残り二体……そらよっ!」ドシュ

魔物「ギァー!!」

僧侶「きゃああ!?」

盗賊「バカッ!ボケっとしてんじゃねえ!!」ザンッ

僧侶「ああ!私を、か、庇って…!盗賊さんが魔物の爪に腕を掻かれたー!!だだだ大丈夫ですか!?」

盗賊「クソ、血が…おいクソアマ、回復魔法とか使えねーのか?」

僧侶「す、すみません…!私、落ちこぼれで…まだ何も出来ないんです~!!」

盗賊「とことん使えねーなあぁテメーはよォー!!」

盗賊「ちくしょうーっ!張った張られたの博打は好きだが、自分の命をチップにするなんざ、金輪際ごめんだぜッ!!」ドシュッ

魔物「ギャアァー!!」

僧侶「か…勝った!勝ちましたよっ盗賊さん!」

盗賊「はぁ、はぁ……ケッ、ざまーみやがれってんだ…」

僧侶「あの、一旦街に戻りましょう…?血がいっぱい出てます、薬草無いですし……先程頂いたお金で薬草を買うとか…治療を受けるとか、した方が…」

盗賊「バカ、そうこうしている間にまた勇者に置いて行かれたらどうすんだ?俺はさっさと安全圏に引っ込みてーんだよ」

盗賊「勇者とやらなら、クソアマ、テメーのお守りも好き好んでやるだろうしよ。そうすりゃ俺は後方でぬくぬくしながら、報償金も楽に手に入れると…楽する為の前金と思えばどうって事ねェ、こんな傷」

僧侶「で、でも…!化膿したりしたら……」

盗賊「布できつく縛っておきゃ隣村まで持つだろ。つーかテメーが回復魔法を使えれば、問題はなかったのによ」

僧侶「す、すみません……」

盗賊「…まあ、経験を積めば、いくらなんでも覚えるだろうしな。それまでの辛抱ってこった…」

僧侶「ううう…が、頑張ります!レベ、レベルアップ、して…回復魔法を覚えますからあ~!」

 盗賊はレベルが上がった!

 僧侶はレベルが上がった!

 盗賊はレベルが上がった!

 僧侶はレベルが上がった!

・・・

盗賊「………」

僧侶「………」

盗賊「クソアマァァァ!!なんっでこれだけレベルが上がっても、ひとつも回復魔法を覚えやがらねーんだァッ!?」

僧侶「ひいいぃ!!?ごごごごめんなさいごめんなさいごめんなさいぃ!!わたっわた私、おおお落ちこぼれで~ッ!!」

盗賊「ものには限度があるだろうがァ!!ふざけんなよクソアマ、回復出来ないなんざ詐欺みてーなもんだろうが!どうすんだよ、どうすんだよコレよォ!この状況よォ!!」

僧侶「あ!あの!ひとつだけ…」

盗賊「あんっ?」

僧侶「私…私、クソアマじゃないです…僧侶ですぅ!」

盗賊「うるせえ!!回復魔法使えるようになってから寝言垂れろや、クソアマ!!」

~隣村~

盗賊「はあああぁ!?またすれ違っただとぉ!!?」

村人「は、はあ。勇者様は、魔物をすぐに退治してくださいましたが…ここから南の洞窟に、その魔物達の住処があると聞くと、そこに向かわれて……」

村人「お礼もありますし、せめて一晩でも休まれてはと、お引き留めしたのですが…礼など不要と、そのまま行かれてしまいました」

僧侶「はあ~、流石勇者様ですねえ…カッコイイです…」

盗賊「チッ!時間食いすぎたせいだ…さっさと追いかけるぞ!」

村人「貴方達は勇者様の仲間なのですね?ではどうか此方をお持ちください。何分、魔物に荒らされてしまい、こんなものしかご用意できませんが…薬草です」

僧侶「ああ!いえっすごく有り難いです…!本当に本当に有り難うございます…!と、盗賊さん!怪我の手当てをしましょう!」

村人「本当は毒消し草をお渡ししたかったのですが、この辺りの魔物はよく毒を持っておりますし…」

村人「しかし襲ってきた魔物に、毒消し草畑を潰されてしまいまして。申し訳ありません」

僧侶「いえ、とても有り難いです…!わ、私達が必ず魔物を、魔王を倒します、から!だからまた毒消し草の栽培に、打ち込めますよ…今度は安心して、平和に…!」

盗賊「回復魔法を使えないクソアマに言われても不安しかねーよ」

僧侶「ううう!」

村人「なんと…では余分に薬草をお持ちください。どうかお気をつけて…」

僧侶「有り難うございます、有り難うございます!さ、さあっ!いいい行きましょう、魔物の住処の、南の洞窟…洞窟……」ブルブル

盗賊「生まれたての子鹿みてーな足している奴が、随分偉そうに張り切り勇むじゃねーか…あー面倒くせェ」

村人「…大丈夫なんだろうか…この方達…」

~南の洞窟~

盗賊「さて、洞窟だが…いっこうに魔物が現れねーな…勇者が倒したのか?」

僧侶「」ビクビク

盗賊「暫く戦闘は勘弁願いてーしな、有り難いっちゃ有り難いが」

僧侶「」オドオド

盗賊「…つーかよ、クソアマ。俺のマントに掴まるんじゃねえ、重てーし動きにくいだろうが」

僧侶「ごめ……なさい、でも、わ、私…クソアマじゃないです…!……くっ…くっくっ、くっ……」

盗賊「何を笑ってやがる」

僧侶「違います!くっ…暗くて怖いんですう!!もぉやだあ~…早く外に出たいです…!!」

盗賊「お前なあ、勇者についていくって事は、この先こういった場所に死ぬ程入っていく事でもあるんだぞ?ぴーぴー泣いてんじゃねーよ!」

僧侶「だ!だって!だってー!!」

盗賊「だってもヘチマもあるかっ!!うるせえんだよ、クソアマ!!」

盗賊「出口か…洞窟というより地下道か。結局魔物は一匹も出なかったな。宝箱も空だったし、チッ、勇者の野郎、きっちり回収して行きやがって」

僧侶「はあぁ…やっと外に出られるんですね、良かったあ…怖かった…」

盗賊「おいクソアマ。今日は此処で一泊するぞ」

僧侶「はひぇ!?ななななんで!?なんでですか!?」

盗賊「外を見てみろ、もう日が沈む。魔物どもは夜行性だ、より凶暴化するだろうよ。そんな中をフラフラ歩いたら仲良く御陀仏だぜ?」

盗賊「先を急ぎてーが、だからって危ない橋を渡るわけにゃいかねえ。魔物のいないここは、今や良い休憩場所だ」

僧侶「でも、でもでも!洞窟は怖いです、暗いしジメジメしているし!」

盗賊「うるせえ!暗いなら火を焚きゃいいだろうが!その辺から薪木を拾ってこいっ」

僧侶「うえ~ん!勇者様ぁ~…!」

盗賊「………」

僧侶「……すぅ……すぅ……」

盗賊「…チッ、あれだけ騒いでいたのに、間抜けな面して寝やがって。臆病なのか図太いのか、どっちかにしやがれ」

盗賊「…このマントなら少しは寒さを凌げるか」パサ

僧侶「……すぴー…」

盗賊「………」

盗賊「………はあ…出だしの魔物にやられた傷から血が止まらねーな…こいつは出血毒か……」

盗賊「薬草……いや、これくらい、どうって事ねえ。いざって時の為に温存だ、俺もクソアマも戦闘職じゃねーしな…」

盗賊「大体クソアマが回復魔法を使えりゃいい話なのによ!腹立つなー、鼻にドングリ詰めてやる」キュッ

僧侶「ふが。……ふぐぐ……ひんっ!!」ポンッ!

盗賊「痛ッ!?鼻からドングリ吹き飛ばしやがって、クソアマ!」

僧侶「……すぴー…すぴー……」

盗賊「…ハハハ、間抜け面め…」

チュン チュン

僧侶「……んむ…、…ふぁ、……あ…もう朝…?」

僧侶「あれ…盗賊さんがいない…!?………?このマント、盗賊さんの?」

僧侶「…あったかいなあ…どうしよう、どこに行っちゃったんだろう、盗賊さん……盗賊さんも…私を置いて行っちゃったのか…な……」ウトウト

盗賊「いつまで寝てやがる」ゲシッ

僧侶「きゃふ!…あっ、あっあっ!と、盗賊さん!!どこに行っていたんですか!?」

盗賊「朝からうるせえんだよクソアマ。起こすんじゃなかったぜ。ほらよ、飯だ」

僧侶「あ…り、林檎だあ。採って、きて…くれたんですか?有り難うございます……」

盗賊「テメーが魔物の肉なんざ食えないとか騒ぐからだ。ったく、何にしても面倒かけやがるな、クソアマ」

僧侶「し、仕方ないじゃないですか…戒律も、ありますし……そ、それに…脂身、苦手なんです…」

盗賊「…この先、贅沢言っていられる場合じゃなくなる事もあんだ。戒律?破っちまえよ、そんなもん。祈りや戒律なんぞで腹は膨れねェ」

盗賊「魔物肉だろうが、草の根だろうが泥水だろうが……食えるもんがあるという事は、有り難ぇ事なんだ。食えるうちに食っておかなきゃダメなんだ。有り難ぇ有り難ぇって思いながら」

僧侶「………」

盗賊「だから飯を食う前は"いただきます"、食ったあとは"ごちそうさま"って言うんだ。有り難ぇって気持ちを込めてな。それが生きるって事だぜ」

僧侶「………」

盗賊「…さっさと食え、食ったらすぐ出発すっからな」モグモグ

僧侶「………!」バッ

盗賊「あ!?テメー、それは俺の魔物肉だぞ!?」

僧侶「むぐ…!」モグモグ ゴクン

僧侶「うぇ…、けほ、ご…ごちそうさま、でした……」

僧侶「………ありがとう、ございました……うぷ」

盗賊「…ふん。食えるんじゃねーか」

僧侶「えへ……が、頑張らなきゃ、ですし…私も……」

盗賊「だが、どうしてくれんだよ。俺の朝飯」ゴンッ

僧侶「!?盗賊さんが私の頭をぶった~!い、いえ!ご、ごめんなさい!あの、この林檎、どうぞ!」

盗賊「当たり前だ、クソアマが」

僧侶「あ、あと…!マント、ありがとう、ございました…すみません…掛けて、くださったんですね」

盗賊「………寝惚けたテメーが俺のマントを剥いで奪っただけだ」

僧侶「はぇ!?ほほほ本当ですか!?それ!」

盗賊「おかげで凍え死ぬかと思ったねぇ」

僧侶「ああああう……!!恥ずかしい…!ごめんなさい、ごめんなさいぃ!!」

盗賊「…チッ」

魔物「キシャー!」

盗賊「洞窟から出た途端に戦闘かい…」

僧侶「うう…怖い、ですけど…!わ、私だって!レベル上がりましたからね!お肉も、食べましたし!!パワーアップ、もりもりなんですからねっ!」

僧侶「えいっ!」

魔物「ギュ!!」ボカッ

僧侶「悔い改めて、ください!えいっ、えいっ!!メイス攻撃!」ボカ ポカ

盗賊「おー、やるじゃねーかクソアマ。その調子で頑張れや~」

僧侶「僧侶ですぅ!っというか、盗賊さんも戦ってくださいよう~!!」

盗賊「俺は今までに散々戦ったろう。バトンタッチってヤツだ。お?魔物のくせに宝石なんざ持っていやがる、生意気な」ゴソゴソ

僧侶「ふえ~ん!勇者様ぁ~、私達どんどん罪深くなっていきますう…!」

僧侶「はぁ、はぁ……や、やっと、倒せました…はぁ……や、薬草、薬草…死んじゃう…」ヘロヘロ

盗賊「よぉーし、よくやった、クソアマ。やたら時間はかかったが、頑張りに免じて、クソアマはやめてやるよ」

僧侶「はぇ?ほっ本当ですか!」

盗賊「今からクソアマじゃなくクソって呼んでやる」

僧侶「最低じゃないですか!まだクソアマの方がマシですう…!どうしてそっちを取っちゃうんですか~!」

盗賊「楽して儲ける、全く最高だな。次の街でこの宝石や魔物の皮を売ろう、幾らになるか…楽しみだぜ」ホクホク

僧侶「悪意100パーセントですぅぅ…!!あの!私、クソアマでも、クソでも、ないですからね!?僧侶です!」

盗賊「武器はいいとして、防具を一新するのもいいかもな~」

僧侶「聞いて!聞いてくださいよう、盗賊さんの、バカぁー!」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11