魔王「きっと今頃、あの偽王女は子犬の姿になっているだろうな」
兵士「一体どういう事ですか大臣?!」
大臣「くっ…こいつらだ!」
大臣「こいつらが王女に怪しい術をかけたのだ!」
大臣「この王女も偽物だ!」
勇者「なんて往生際の悪い…」
王女「誰が偽物ですって?」
大臣「」ビクッ
王女「おい、誰が偽物ですって?」
大臣「い、いえ…その…」
王女「よくもわたくしを犬畜生に姿を変えてくれましたね」
王女「しかも貴様のドラ息子と結婚させようとするなんて…」
王女「貴様と息子の四肢を馬車に繋げて、国中引き回して差し上げますわ」
大臣「そ、それだけは!!」
魔王(あれ?)
魔王(我輩何か間違えた?)
兵士「王女様だ…」
兵士「我々の王女様だ!帰っていらっしゃったんだ!」ウッ
兵士「王女様万歳ー!」グスグス
兵士「お帰りなさいませー」
魔王「…あれ、本当に王女?」
勇者「ああ。昔と全く変わってないよ」
-謁見の間-
王女「勇者、そして供の者。おかげで助かりましたわ」
勇者「いえ、王女様がご無事で何よりです」
王女「…力に勇気。そして畜生…いいえ、小さな生き物への慈しみの心」
王女「貴方が勇者にふさわしい事がよく分かりましたわ」
王女「アレをここに」
王女「受け取りなさい。これが勇者の剣です」
王女「貴方ならきっと魔王を退治できるでしょう」
勇者「は!ありがたき幸せでございます」
魔王「…で、質問があるんだが」
魔王「王はどこだ?」
王女「!」
勇者「なにを言っている魔王?」
勇者「王様は遠征に言っていると聞いたではないか」
魔王「馬鹿者。普通、王が戦争にかまけて、何年も国をあけるか?」
王女「…元々、あなた方に隠すつもりはありませんでした」
王女「只今、王の元へ案内いたしますわ」
-地下室-
勇者「…これは」
王女「ええ、この国の王ですわ」
勇者「しかしこの姿…まるで石造のようだ!」
魔王「…石化魔法だ」
魔王「王が前線に出ていたというのは、本当だったのだな」
王女「ええ。このおぞましい魔法は誰にも解く事ができません」
王女「しかし…魔王様とおっしゃいましたか?さぞ高名な賢者様と存じられます」
王女「どうか、わたくしの父を救って下さいましっ」ペコッ
魔王「無理だ。これはかけた術者にしか、魔法を解除できない」
王女「そんなっ?!」
魔王「もしくは術者を殺す。しかし、何千万もいる魔族の中から一人の術者を探し出す事は至難の技だ」
勇者「魔王っそれしか方法がないのか?」
魔王「…ある」
魔王「…この魔法は常に術者から、魔法をかけられている状態にある」
魔王「術者が魔法を使えないようにすればいい」
勇者「それはどういう事だ?」
王女「つまり、勇者様が魔王を倒せばよいということですの?」
魔王「うむ。魔界という地は魔翌力に溢れておる」
魔王「しかしその魔翌力を全て、己の力に換えられる者は極めて少ない」
魔王「魔界に溢れる魔翌力を、自分の力に変え、更に他の魔族に与えられる存在がいる」
魔王「それが魔王だ」
魔王「魔王は直接魔翌力を取りこめない殆どの魔族に魔翌力を与える事が出来る変圧器」
魔王「魔王を失えば、魔族は今までの様に魔法を使えなくなる」
勇者「…難しくてよく分からないが」
勇者「つまり魔王を倒せば、王様の魔法は解けるという事か?」
王女「そして他の魔族も力を失い、世界は平和になりますわ…」
勇者「分かった…俺は絶対に魔王を倒す!」
魔王(くくく、計画通り。これで勇者はかなりやる気になった)
魔王(但し、魔王城で死ぬのは我輩ではない!)
魔王(貴様だ!勇者!)
勇者「魔王」
魔王「はっはい?!」ビクッ
勇者「魔王…大変な旅路になると思うが、これからも付いて来てくれるか?」
魔王「ああ。よいぞ」
魔王(まあ、念の為、もう少し監視をしてもよいか)
勇者「これからも宜しくな!」
勇者「勇者の剣と言っても、錆びてボロボロだな」
勇者「これでは魔物の一匹を倒す前に壊れてしまいそうだ」
魔王「王女の話を聞いていたか?この勇者の剣には、水の石と火の石が必要と言っていただろう」
勇者「ああ。でも水の石か…どこかで聞いた事があるような…」
??「あ、お前もしかして勇者?」
友人「久しぶりだな。俺だよ。友人だよ」
勇者「おう、10年ぶり」
魔王「勇者、こやつは?」
勇者「こいつは友人な。俺の友人だよ。元気だったか?」
友人「元気だよ。お前、とうとう魔王退治諦めて帰って来たの?」
勇者「違う。というか、とうとうってどういう意味だよ」
友人「そりゃあ、勇者に選ばれた癖に、10年もハジマリの村にいるんだ」
友人「逃げたとか何とか言われて、お袋さんも肩身が狭そうだったぜ」
勇者「…」
友人「それより、水の石とか言ってたか?」
勇者「ああ。魔王退治に必要らしいよ」
友人「お前、忘れたのか?水の石って、俺らの故郷にある石の事だろ?」
魔王・勇者「?!」
-勇者の故郷・水の町-
勇者「ただいまママ」
ママ「まあ?どうしたの?急に帰ってきて…もしや魔王退治を諦め…」
勇者「違う。水の石という魔王退治に必要なアイテムを取りに来ただけだよ」
勇者「ついでにママの顔も見に来た」
ママ「ふふ、私はついで?」クスクス
ママ「それからそちらのお嬢さんはどちら様?」
魔王「初めまして勇者の母上。我輩は魔お…もがっ」
勇者「仲間の賢者だよ」ニコッ
ママ「良かった。貴方にもちゃんとまだ仲間がいたのね」ニコッ
-勇者の部屋-
勇者「じゃあママ。俺は賢者と話したい事があるから」
ママ「はいはい、ママは邪魔者なのね」
ママ「後は若い二人でどうぞ~」
バタン
勇者「…行ったか」
魔王「」モガモガ
勇者「…あ、口塞いでたの忘れてた」
魔王「ぷはっ!我輩を殺す気か?!」
勇者「ごめん」
魔王「何度、我輩は魔王と言っ…もがっ」
勇者「しー!」
勇者「ママに聞かれたらヤバい…」
魔王「ヤバいって?」
勇者「前に俺の祖父が勇者だったと言ったのを覚えているか?」
魔王「ああ、魔界に行ったり、行方不明になったっていう?」
勇者「ああ」
勇者「ママはその勇者の娘だ」
勇者「ママの夫。つまり俺の父親だな」
勇者「父は勇者ではなかったが、遠征軍に加わり、戦死した」
勇者「ママは魔族を…魔王を憎んでいる」
勇者「ママには冗談でも魔王と名乗るな」
魔王「…分かった」
-夜-
魔王「側近。聞こえてるか?見えてるか?」
側近『魔王様?久しぶりですな』
側近『今はどちらに?』
魔王「水の町だ」
側近『おお、魔界にぐっと近づかれましたね』
側近『そのせいか、幾分成長されたように見えますね』
魔王「え?本当か?」
側近『私が魔王様と初めて会った時の頃を思い出します』
魔王(という事は15歳くらいか…)
側近『して、勇者は今どこに?』
魔王「勇者は自分の部屋だ。我輩は客室を借りたが」
側近『大変申し訳ございません。もう一度おっしゃって頂けますか?』
魔王「勇者は自分の部屋だ」
側近『つ、つまりは魔王様がお泊りの場所は』
魔王「勇者の実家だ」
側近『?!』
側近『うら若き娘が、出会って間もない男の家に泊まるなんて…!』
魔王「誰がうら若き娘だ!第一、今まで散々同じ部屋で寝泊まりしてきたぞ!」
側近『魔王様は勇者を倒す事が目的だったはずです!』
側近『もういっそ寝首を掻かれたらいかがですか?』
魔王「馬鹿者!」
魔王「魔王が寝首を掻くなど姑息な真似ができるか!」
魔王「第一、あいつの肌は堅い!」
魔王「首に短剣を突き立てても、ビクともしない!」
魔王「見かけは成長しても、まだ魔翌力は戻らないし…」
側近(もう既に試されたのですか…)
魔王「我輩は断じて、卑怯な行為はしない!」
魔王「…それから本題だ。我輩が離れてからの魔界の状況はどうだ?」
側近『戦線は拮抗を保っていますが、魔王様が魔界にいない為、徐々に力が弱まる者が出てきました』
側近『早くお帰りになって下さい』
魔王「…あとどのくらい留守にしていても大丈夫そうだ?」
側近『半年くらいです。それ以上は我が軍が人間の軍に押され始めるでしょう」
魔王「分かった。それまでには必ず帰る」
魔王「それから国民の様子は?今年の作物の出来は?」
側近『今年は酷い凶作です。疫病により死者も多数出ています』
側近『ご言いつけ通り、国庫から作物を分け与え、疫病には医学の心得のある者を多数差し向けております』
側近『皆、魔王様に感謝しております』
魔王「…そなた達の協力があるからだ」
側近『人間界はどうですか?』
側近『悪い疫病は流行っていませんか?』
魔王「いや、たまたまそうだっただけなのかもしれないが、少なくとも道には死体は転がっていない」
側近『何と?』
魔王「食べ物も十分あるし、子供も驚くほど多い」
魔王「同じ世界とは思えないくらい、人間界は豊かだ」
魔王「魔界は力の源である魔翌力に満ちているが、何かを育てるには適さない土地だ」
魔王「国民の為に、やはり人間界を手に入れる必要がある」
側近『ええ。前回の勇者を倒した時、人間達の士気を下げる事が出来、領土を拡大する事が出来ました』
側近『そしてそのおかげで作物の生産量は増え、新生児死亡率も低下しましたね』
魔王「それでも人間界の豊かさに比べればまだまだだ…」
魔王「側近。我々魔族の為に、我輩は絶対に力を取り戻し、勇者を倒すぞ」