魔王「なに?!勇者がまだハジマリの村にいるだと?!」 8/10

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ママ「…魔王?魔族?」

勇者「ママ…違うんだ」

ママ「その子は賢者じゃなかったの?!」

ママ「魔王ってなに?!」

勇者「違うんだママ。落ち着いて」

ママ「貴方っ分かってるの?!魔族は貴方のおじいちゃんと、お父さんの仇なのよ!」

勇者「そうだけど、魔王はそうじゃないんだよ」

ママ「そうじゃないってどういう事?!」

ママ「どうしてっどうして?!!」

ママ「そいつを何処かへやって!今すぐに!」

勇者「…分かった。今すぐ出て行くよ」

ママ「!」

ママ「どうして貴方まで行くの?!」

勇者「ごめんママ。放してくれ」

ママ「どうせ貴方も殺されてしまうわ!」

ママ「魔族と一緒に行くなんてママは許しません!」

-夜-

友人「言われた通り、馬車を用意しました」

勇者「ありがとう、友人」

巫女「しかし本当に良かったんですか?お母様の事…」

勇者「いいんだ。今、寝ている内に出て行こう。帰ってきたら、誤解を解いたらいい」

勇者「きっとママも分かってくれる」

-150年前・魔界-

側近「魔王様の生まれ変わりを見つけたと思ったら…」

側近「まさか、あんな子供だったとは…」

側近「悪戯ばかりで不真面目で…」

側近「おまけに堪え性がないとくる…はぁ」

コンコン

側近「失礼します魔王様…おや?魔王様?」

側近(本を読んでいらっしゃる?まさか…真面目に勉強する気になられた?!)

側近(ようやく私の努力がむくわれたか!)

側近「魔王様、何のお勉強をされ…え?」

魔王「ん?何の用だ側近?」

側近「な、それは…」

魔王「人間界の絵本だ。見ろ。緑の木が沢山あるぞ」

魔王「人間界はこの絵本のような世界なんだろうか?」

側近「……魔王様!魔王様たる者が人間界を羨むなど…」フルフル

魔王「側近は羨ましくないのか?」

側近「そ、それは…」

魔王「見ろ。この絵本の家族の顔を。皆で仲よさげに食卓を囲んでいる」

魔王「病気や飢餓に対する不安は微塵も感じないぞ。皆、満たされている…」

魔王「もしこのような世界ならば、是非とも人間界を手に入れたいものだ」

魔王「しかし先代の魔王は人間に敗れたのだったな」

魔王「どの先生の話を聞いても、人間は魔族に劣っていると聞いたぞ」

魔王「何故、私達は何度も人間に敗れるのだ?」

側近「それは…勇者です」

魔王「勇者?あの伝説の?」

側近「ええ。魔王様が力をつけると自然と出てくる。人間の化け物です」

魔王「…化け物?」

側近「そいつは必ず、魔王様を倒しに来ます」

側近「殆どの魔族は、魔界に溢れる魔力を、直接力に変えられません」

側近「そこで魔王様が必要になります」

魔王「魔王は直接力を変えられない魔族に、魔力を与える事ができる変圧器だから?」

側近「そうです。よく覚えておいでで」

魔王「そなたから耳にタコができる程聞いたからな」

側近「そして魔王様が本来の力を発揮できるのは、魔界の中心である魔王城です」

魔王「ふむ…」

魔王「本来の力を持ってしても、魔王は勇者に勝てないのか?」

側近「いいえ。過去の歴史では何度か、魔王様が勝つ事もあります」

側近「しかし例え殺したって、また人間の中から勇者が出てきます」

魔王「…まるでゴキブリだな」

側近「ええ」

魔王「でもつまり。魔王が勇者に勝つ事は可能なのだな?」

側近「ええ。勝てばその分、人間の士気も下がり、領土も広げやすくなります」

魔王「決めた!」

魔王「私は勇者を倒す!何度だって倒してっそして…」

魔王「豊かな土地を手に入れて、魔界を誰もが羨むような世界へと変えようぞ!」

側近「魔王様…」

側近(そうか、この方もちゃんと成長されているのだな)

魔王「なんだ、側近?」

側近「ではその為には、まずお勉強から始めましょう」

魔王「えー?!」

魔王「」パチッ

魔王(ここは…)

勇者「魔王!良かった!目が覚めたか!」

魔王「勇者?ここは…」

勇者「サカイ町だよ。巫女とボスは買い出しに行ってるよ。具合はどうだい?」

魔王「大丈夫だ…迷惑をかけたようだな」

勇者「いいや。君が湖に飛び込んだのも、俺の所為だし」

魔王「サカイ町か…では準備が出来たら直ぐにでも、魔界に行こう」ムクッ

勇者「魔王。無理をするな。まだ寝ていろ」

魔王「駄目だ。行くぞ…うっ」

勇者「まだ休んでいろ」

魔王「駄目だ。そう言って、また…先延ばしにするんだろう」

勇者「またその話か」ムッ

魔王「そなたは直ぐに他の者に目移りし、本懐を忘れる」

魔王「そなたは勇者だ。他の事は気にせずに、魔王城に行く事を考えておれ」

勇者「勿論、魔王城にも行くよ。だけど魔王の体が元に戻ってからだよ」

魔王「それだ。どうして勇者の癖にそんな些細な事を気にする!」

魔王「魔王を倒す気あるのか?」

勇者「あるに決まってるだろ!」

魔王「いいや、ないね」

魔王「我輩は魔王だ」

勇者「…魔王、本当にどうしたんだ?」

魔王「そなたに魔王を殺す気はあるのか?」

勇者「勿論…いや、魔王と言ってもお前の事ではなく…」

魔王「我輩が魔族と分かった今も、そう言うのだな」スッ

ボス「やっと宿が見えた」

ボス「おい、巫女。こんなに食べ物を買ってどうするんだよ?」

巫女「勿論、魔王さんの為よ」

巫女「恐らく彼女が回復し次第、魔界に突入すると思うの」

巫女「魔王退治、さしては世界の平和の為にも、早く彼女に回復して貰わなければ」

ボス「じゃあその装備も魔王の為か?サイズも測っていないのに勝手に買っても」

巫女「ふふ、この装備は私の物よ」

巫女「教えていなかったけど、10年前、私は僧侶として勇者について行ったの」

巫女「その時はハジマリの村からいつまでも出ない勇者に、愛想をつかしてしまった」

巫女「けれど今の勇者なら大丈夫。私も今度こそ世界の平和の為に戦いたいの」

ボス「そうか」

巫女「それに私も水の石を使って自由自在に水を操れるし」

巫女「一緒に魔王退治、頑張りましょうね!ボスさん」

ボス「ああ!」

ドカーン!

ボス・巫女「?!」

勇者「いっててて…」

ボス「どうした勇者!」

魔王「……」

巫女「…まあ!魔王さん起きていても大丈夫なんですか?」

魔王「何度でも言おう。我輩は魔王だ」

魔王「そして我々は敵同士だ。勇者」

魔王「そなたに本当に魔王を倒す気があるのならば、我輩はもう監視する必要はないな」ゴゴゴ…

勇者(魔王の周りに風が?)

魔王「我輩はもう帰る」

魔王「次に会う時は魔王城だ」

魔王「さらばだ。勇者」ヒュンッ

勇者「…消えた?」

巫女「勇者、どういう事で?魔王さんが、本当に魔王なの?」

ボス「あいつが言っていた事は本当なのか?!」

勇者「…分からない」

ボス「分からない訳ないだろ!お前、ずっとあいつと一緒にいたんだろ!」

巫女「…準備を整えたら、私達も直ぐに魔界に向かいましょう」

ボス「…そうだな。魔王城に行けば、全てがはっきりする気がする」

勇者「君達、本当に魔王が…魔王と思っている訳ではないよな?」

ボス「俺だって分からないし、信じられない」

ボス「けれど…周りを見ろ」

ボス「一度の攻撃で部屋が…宿がこんな状態になるんだぜ?」

ボス「幹部クラス、もくしはそれ以上の魔族である事には変わりない」

巫女「確かめる為にも、魔王城に行く必要があるわ…良いわね。勇者」

勇者「…分かった」

-魔王城―

側近「お帰りなさいませ。魔王様」

魔王「ただいま…」

側近「勇者はどうですか?無事、魔界にはおびき出す事に成功しましたか?」

魔王「うむ。恐らく明日には魔界に足を踏み入れるだろう」

側近(意外だ。魔界に入るまで見届けて戻られるとばかり思っていたが)

側近「魔王様。お顔の色が優れませんが…何かございましたか?」

魔王「側近よ…魔族と人間の共存は可能だと思うか?」

側近「?!」

側近「どうされたんですか?!」

魔王「分かってる。先々代の魔王も共存を試みた。しかしそれは半世紀と持たなかった」

魔王「何故なら、人間は魔族より早く死ぬ。トップは簡単に入れ替わり、約束なんて反故にされる」

側近「…魔王様」

魔王「分かっているんだ。だけど…ちょっと考えただけだ」

魔王「大丈夫。我輩は、絶対にあんな腑抜けの勇者になんぞ負けない」ギリッ

魔王「次期に魔界に勇者一行が現れる。国民に注意を促せ」

側近「は!」

-魔界-

勇者「ここが…魔界?」

ボス「話には聞いていたが、酷い場所だな」

巫女「旧人間領土を過ぎたら、見渡す限りの砂漠ね」

ボス「そう。不毛の地だ」

ボス「だから魔族は人間界を欲しがるらしい」

巫女「魔族らしい勝手な言い分ね」

勇者「人間と魔族は共生できないのだろうか?」

勇者「魔界は金やダイヤが多く採れるという。条約を結んで、国と国同士の様に貿易をしたり…」

巫女「無理よ」

巫女「彼らは力を持っているし、人間にとって脅威以外の何物でもないの」

ボス「でも魔王を倒したら別だ。魔王を倒せば、魔族だって魔力を使えず、力も寿命も人間と変わらなくなる」

巫女「たとえ倒しても魔王は生まれ変わるから、また元に戻るわ。共存は無理よ」

-数日後-

ボス「行けども行けども砂漠だな」

勇者(二人とも疲れているようだ…そろそろ何処かで休まなければ)

巫女「…あ、あれは小屋じゃない?」

勇者「ああ、一先ず、あの小屋で休もう」

キイ…

勇者「お邪魔します…」

ボス「誰もいないか?」

シーン…

勇者「ああ、いないな。巫女も入ってきな」

巫女「…随分、埃っぽいわね。ボスさん、火をつけて」

ボス「おう」ボッ

勇者「…小屋と言うよりこれは家?」

巫女「見て、手紙がある。でもこれは魔族の文字かしら?」

ボス「貸してみろ」ペラ

ボス「『お父さんへ』…」

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