魔王「なに?!勇者がまだハジマリの村にいるだと?!」 1/10

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側近「はい。報告によるとそのようです」

魔王「何故だ?!何故、勇者はまだそのような場所にいる?!」

側近「魔王様、落ち着いて下さい」

魔王「落ち着いていられるか!10年だぞ!」

魔王「勇者が旅に出て、もう10年が経つ!なのにどうして、勇者はハジマリの村からでない!!」

側近「ハジマリの村は魔界からも距離が遠く、比較的平和な村と聞きます」

側近「勇者はそこが気に入り、魔王退治とかどうでもよくなったんじゃないですか?」

魔王「そんな勇者がこの世にいる訳ないだろ!!」

魔王「勇者が来ない所為で、財務大臣から文句が出てる」

魔王「城の至るところに隠した宝箱の中身を使用期限が切れない様に入れ替える費用や、配備した魔物の人件費が無駄だと!」

側近「じゃあ宝箱の設置も魔物の配備もやめにしましょう。勇者はきっと来ませんよ」

側近「勇者が来なければ来なくてもいいじゃないですか?」

魔王「それはならぬ。人間界を侵略する為には勇者を倒す必要がある」

側近「しかし勇者が来ないならばどうしようも…」

魔王「ひらめいた!」

側近(嫌な予感…)

側近「何でしょうか?」

魔王「我輩みずから、勇者を説得してくる」ゴゴゴ…

側近「え?ちょっと待って下さい!魔王様!」

魔王「期待して待っておれ!」ヒュンッ

側近「あ」

側近「行ってしまわれた…」

魔王「…ここがハジマリの村か。側近から聞いた通り、平和な村だな」

魔王「お!何か良いにおいがする」

魔王「露店か…名物『魔牛串』…」

店員「お一ついかがですかー?」

魔王「」ゴクリ…

魔王「うむ、美味である」

魔王「側近はこういうものも食べさせてくれないからな。こうやって買い食いするのもたまにはいいな」モグモグ

「きゃーーー!!」

「出たー!魔牛だぞー!」

モ〝オオオオオオオオオオオ!

魔王(大きくて丸々太った魔牛達だなぁ)

魔王(あれ?もしかしてこっち向かってきてる?)

「そこのお前!逃げろー!」

「危ないぞー!!」

┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨┣¨ッ!!

魔王(しかしたかが魔牛だ。何匹いようが、この魔王に適う訳がない)

ザシュ!

??「よっと、危なかったね?」ニコッ

魔王「そなたは誰だ…?」

魔王(あれだけ居た魔牛の群れを一掃するなんて)

??「俺?俺は……」

勇者Lv100「…勇者だよ」

-酒場-

勇者Lv100「どうした?遠慮しないで飲んでよ。俺のおごりだし」

魔王「…そなた、本当に勇者なのか?」

勇者「そうなんだよ。自分でも似合わないと思うけど、勇者なんだよね」

魔王「てか、お前レベル凄い事になってるけど…どうして魔王倒しに行かないの?」

勇者「うーん。ちょっと色々あってね」

魔王「…訳とは?」

勇者「うーん…」ジロジロ

魔王「な、なんだ?」

勇者「君に言ってもどうしようもないし」

魔王「どうしようもないって」ムカッ

魔王「言ってみなきゃ分かんないだろうが!」

勇者「でも君弱そうだし…」

魔王「」ブチッ

魔王「この魔王に向かって弱そうとは何事か!!」

魔王(しまった!)

魔王(つい、勢いで名乗ってしまったではないか!)

勇者「」プルプル

魔王(くそ!まさかハジマリの村で対勇者戦になるとは!)

勇者「ぶっ…あっはははっははははははっ!」

魔王「!?」

ゲラゲラゲラゲラ

魔王(なんだ?他の奴らも笑って…)

勇者「あはははっげほっごほっ…何言ってるの?君?見かけによらず、変な冗談言うね」

魔王「なっ」

魔王「冗談じゃない!私は本当に魔王なんだ!」

勇者「あははは、うん。分かった分かった。いいよ。魔王でも」

魔王「だから本当だって!」

勇者「まあ、魔王なら強いし、頼りになるかな?訳を話すよ」

勇者「今から10年前、俺は勇者に任命されてすぐにこのハジマリの村に来た」

勇者「そしてそこでこの村の人々が時々村で暴れまわる魔牛に困っていたんだ」

勇者「そこで俺は魔牛を倒した。でもいくら倒しても倒しても魔牛が湧いて出てくるんだ」

魔王「…それで?」

勇者「出てくる魔牛を倒し続けて、今に至るんだ」

魔王「…それだけ?」

勇者「それだけ。いつの間にか他の仲間も帰っちゃって…」

勇者「俺も最近、故郷のママから手紙が来てさ。『魔王を倒す気ないなら帰っていらっしゃい』って」

魔王「……」

魔王「お前は誰だ?」

勇者「え?だから勇者って…」

魔王「勇者の仕事は村の警備か何かなのか?!」

勇者「」ビクッ

魔王「魔牛は魔界から流れてくる魔翌力に影響を受けた牛だ」

魔王「貴様が魔王を倒しに行かずに、のんきに魔牛退治ばかりしているから、魔族は領土を広げ、このハジマリの村にも影響が出ているんだ」

勇者「……」

魔王「勇者の仕事は魔王を倒す事だ。そうだろう?」

魔王(決まった!これで勇者がちゃんと魔王退治の旅に出てくれるぞ!)

勇者「…分かっていた」

勇者「だけど、ここを離れたら誰が村の人を守るんだ?」

魔王「勇者がそんな小さな事を気にするな!」

勇者「小さな事なんかじゃない!この村の人は良い人で、勇者らしくない俺にも呆れないでいてくれた」

魔王(何だこいつ?勇者の癖に面倒くさい奴)

魔王「…この村が魔牛に襲われなければよいのだな?」

勇者「?」

勇者「何をしている?」

魔王「結界を張っている」

魔王「魔牛が入れないようにする」

勇者「!」

魔王「名物はなくなるかもしれないが、よいな?」

村長「大丈夫です。必要とあれば我らも魔牛を狩りましょう」

村長「思えば、我々は勇者様に甘えてきました。勇者様には魔王を倒すという目的があったというのに」

勇者「いいえ。甘えていたのは俺の方です」

勇者「皆さんの優しさに甘えて、勇者としての自分から目をそらしていました」

村長「その…魔王さん?というお名前で、いいんでしょうか?」

魔王「うむ。そうだと言っているだろう」

村長「あなたの酒場での演説、皆心に染みました。勇者様は我々だけの勇者様ではないと」

村長「さぞ名の知れた賢者様と存じます。本当にありがとうございました」

魔王「だから魔王だって言っているだろう!」

勇者「俺からもお礼を言うよ。魔王、本当にありがとう」

魔王「…まあ、いいけど」

魔王「これで旅を始められるんだろう?」

勇者「うん。今すぐにでも。今までの遅れを取り戻したいから」

魔王「そうか」

魔王(よっし!計画通り!)

魔王「じゃあ、我輩はこれで」

ガシッ

魔王「?」

勇者「…魔王、頼みがある」

魔王「どうした勇者よ?」

勇者「俺とパーティを組んでくれ」

魔王「!!」

勇者「頼む」

魔王「…断る」

魔王(だって魔王だし)

勇者「前のパーティメンバーは俺に呆れて帰ってしまった」

魔王「じゃあまた集めればいいだろ。てか手を放せよ」ギリギリ

魔王(この馬鹿力!)

勇者「君を弱そうだと言った事は謝る。どうしても君に随行願いたい」

魔王(でもこの勇者、お人好しそうだし、同じ事を繰り返しそうだな)

魔王(いっそ申し出を受けて、ちゃんと魔界に行くまで監視した方がいいか?)

魔王「いいぞ」

勇者「いいのか?!」

村長「良かったですね。勇者様」

魔王「で、どこへ向かう予定なのだ?」

勇者「マヨイの森だよ」

魔王「マヨイの森?」

村長「ええ。その名の通り、とても入り組んだ森です」

魔王「…そこを抜けるにはどのくらいかかる?」

村長「魔物も出ますし、そうですね…一週間、長ければ二週間近くかかります」

魔王「二週間?!」

魔王「勇者」

勇者「何だ?魔王」

魔王「我輩をどうしても連れて行きたいと言うなら、今すぐ出発だ」

勇者「え?」

魔王(やる気がある内に早く進まなければ…)

勇者「マヨイの森ということだけあって、かなり迷ったが、魔物自体は大した事なかったな」

魔王「それは勇者がレベル100もあるからだろ…」

勇者「魔王も十分強いよ」

魔王(あ、何か上から目線…ムカつくな)

魔王「ところで勇者。そなたは何故素手で戦ってるんだ?」

勇者「武器はすぐに壊れるんだよ。殴ったり、切ったりするごとに、壊れるから不経済だろ?」

魔王「…もっと良い武器買えよ。この町ならもっと良い武器売ってると思うぞ」

勇者「うーん。でも疲れたし、服も汚れたし…」

勇者「一回、宿屋に行って風呂に入りたい」

魔王「いや、まず武器を買え」

勇者「でも疲れてるんだ。明日買う」

魔王「駄目だ。そなたみたいな奴は、明日になったらまた明後日。明後日になったらまた明々後日って言うんだろ!」

勇者「な!」ムカッ

勇者「決め付けだよ!」

魔王「図星だろ」

勇者「違う」

魔王「武器屋に行こう。他の装備も揃えるぞ」

勇者「でも休む事も重要だ。ノーダメージと言っても、二日も森の中を歩いていたんだ」

魔王「武器屋」

勇者「宿屋」

……ぐぅぅぅ

勇者「…お腹減った?」

魔王(我輩の腹ながら、何て空気の読めない奴め…)///

勇者「じゃあ、宿屋に行こうか」

-宿屋-

宿屋の主人「いらっしゃりませー…って、もしや、貴方様は勇者様で?!」

勇者「いかにも。俺は勇者だが?」

主人「ほ、本物で?」

勇者「本物だよ」

主人「うっうわあああん!良かった!」

主人「王から宿屋を営めと命を受け、苦節10年にして、ようやく勇者様がいらっしゃった!」

勇者「あの…」

主人「そこのアルバイト!今すぐ例のあの部屋を準備しろ!勇者様がいらっしゃって下されたんだ!」

主人「ああ、本当に感激しております。ハジマリの村から出ないと聞いておりましたが、今回はどうして旅を再開されたのでしょうか?」

勇者「この者のおかげだ」

魔王「!」

主人「こちらの方のおかげですか?」

主人「本当にありがとうございます!なんとお礼を言っていいか…うぅぅ」

魔王「大の男の癖に泣くな。それにお前が感謝する事ではない。勇者が魔王城に来なければ、我輩が困るのだ」

魔王「我輩は魔王なのだから」キリッ

主人「ぷっ…あっははははははは!!なんと、冗談もお上手なのですね」

魔王「冗談ではない!!」ムカッ

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