-ギャングのアジト・牢屋-
手下1「へぇ、これが勇者の連れか?」
手下2「なかなか可愛い顔してるじゃねぇの」
手1「黙っちゃって、怯えてるのかー?」
手2「怖いー!早く勇者様助けに来てって言ってみろよ?」
魔王「…」ツーン
手1「くっこの女!何とか言いやがれっ」
バタンッ
手下「あ…」
ボス「お前ら、何故許可なく牢に入っている?とっとと持ち場に戻れ」
手下「はっはい!」ガタガタ
魔王「…手下の教育がなっていないな」
ボス「あれだって大分マシになったんだぜ?」
ボス「そう言えばお嬢さん。名前は?」
魔王「…そなたに名乗る名前なんてない」
ボス「そうか。では質問を変えよう」
ボス「何故、魔族が勇者と一緒にいる?」
魔王「?!」
ボス「返答次第では、その可愛い顔が消し炭に変わるぜ?」
魔王「何故我輩が魔族と分かった?」
ボス「魔族は魔力を直接自らの力に変えられる魔族と、変えられない魔族がいる」
ボス「そして直接魔力を取りこめる魔族の中には、他人に分け与える事が出来る魔族がいる」
ボス「お前は他人に分け与える事が出来るタイプの魔族だ」
魔王「…」
ボス「見ろ。この炎を」
魔王「あつ…」
魔王(掌に炎がのっている?)
ボス「そう。この距離にいるだけで部屋の温度が変わるほどの高温の炎だ」
ボス「以前はこれ程ではなかった」
ボス「昨日、勇者を脅かそうと思って、横領をしていた手下に火をつけた」
ボス「しかし想像以上に燃え上がってしまった」
魔王「どういう意味だ?」
ボス「俺は魔族と人間の混血だ」
魔王「?!」
ボス「恐らくお前から魔力の供給を得て、力が倍増したんだ」
魔王「…」
ボス「驚いたか?この町は魔界になったり人間界になったりを繰り返し、この町には純粋な人間は少ない」
ボス「他人に魔力を供給できる魔族は、地位が高いと聞く」
ボス「再度問おう。お前は何の為に勇者と一緒にいる?」
魔王「そなたが知る必要はない」
ボス「……ふん。まあ、いい」
ボス「どうせ魔族も、10年も引き籠る勇者も信用ならない」
ボス「絶対に口を割らせてやる」
バタン
魔王(勇者と一緒にいるのは、勇者がちゃんと魔界に行くように監視する為だ)
魔王(…ひいては魔族の為)
魔王「ただそれだけの為だ」
-翌朝-
子供「おはようございます…あの…」ガタガタ
魔王(汚い子供)
子供「朝食です」ガタガタ
魔王「うむ。ご苦労」
子供「あの、お姉さんが魔族って本当ですか?」ガタガタ
魔王「なぜだ?」
子供「その、昨日…ボスと話しているのを聞いちゃって…」ガタガタ
魔王「本当だ」
子供「?!」
魔王(…震えている。怯えているのか?)
魔王「心配せんでも、とって食ったりはせん」
子供「あの…違うんです」ガタガタ
子供「これは、元々震えが止まらないので…これの所為で」ガタガタ
魔王(腕にカビが生えている?)
子供「魔界のカビなんです…この頃、魔族の領土が広がって…風に乗ってきたらしくて」ガタガタ
子供「お姉さんは魔族だけど、勇者様と一緒にいる正義の味方でしょ?」ガタガタ
子供「これを治せますか?」ガタガタ
魔王「治せなくはない…」
魔王「我輩は正義ではないからな。そなたを救ってやる義理はない」
子供「僕じゃないです。助けて欲しいのは妹です」ガタガタ
魔王「?」
子供「僕の妹はまだ小さくて抵抗力が弱いから、体中カビで覆われていて」ガタガタ
子供「治してくれるなら、お姉さんをここから出します」ガタガタ
魔王「それではそなたがギャングのボスに殺されるんではないか?」
子供「僕はいいんです。妹さえ助かれば」ガタガタ
魔王「…分かった。妹を連れて来い」
子供「良いんですか?!」ガタガタ
魔王「ああ…その前に」
魔王「お前の治療が先だ」
トントン
子供「失礼します…」
魔王「連れてきたか?」
子供「はい。でも…」
ぞろぞろぞろぞろ…
魔王「…なあ、そなたの妹はこんなに沢山おるのか?」
魔王「それにどう見ても男と見える者もいるが」
子供「ご、ごめんなさい…僕の腕を見たら、治して貰いたいって…」
魔王「…連れて来てしまったものは仕方がない。まず年齢の低い順に並べ」
-夜-
魔王(…かなり魔力が回復したとは言え、流石に疲れたぞ…)グッタリ
コンコン
魔王(まだいるのか?!)
魔王「今日はもう終わりだ!」
ボス「…何が終わりだ?」
魔王「…何だ。そなたか?我輩は疲れておる。そなたの相手をしている暇はないからな」
ボス「弟から話は聞いた。カビを取ってくれた事に感謝する」
魔王「弟?」
ボス「お前に朝食を運んだ子供が、俺の弟だ」
魔王「そうだったのか」
ボス「それから悪いが、お前を逃がすという約束はなしになった」
魔王「元より期待はしておらんかった」
ボス「あと、お前に良いニュースがある」
ボス「勇者から果たし状が届いた」
魔王「なに?果たし状?」
ボス「物凄い剣幕で果たし状を突き出して、お前の安否を気にしていたらしいぜ」
魔王「ふふ、あの勇者が物凄い剣幕か。何だか想像できないな」
ボス「…お前、魔族のくせに勇者と本当に仲がいいのだな」
魔王「違うっ!」
ボス「因みに今回はトランプでの勝負ではないが、お前を取り返す代わりに勇者はまた剣を賭けるらしい」
ボス「火の石は取られたまま、お前も奪え返せず、更には剣を奪われる」
ボス「くくっ勇者の悔しがる顔が目に浮かぶぜ」ニヤリ
魔王「しかし、そなたが持っていても仕方がない物ばかりではないか」
魔王「それとも、そなたが勇者になる気なのか?」
ボス「…そうかもしれない」
ボス「俺も、この町の人間も、魔族と人間の血が混じっているというだけで言われなき差別を受けてきた」
ボス「法外な税を課せられ、今よりも更に治安は悪かった。俺達は何度も国に抗議したが、一切取り合われなかった」
ボス「何故なら俺達は人間じゃないからだ」
魔王「そなた達に魔族の血が混じっているのは確かだが、そなただって、火の石がなければ魔力を扱えない」
魔王「つまりは人間と一緒じゃないか?」
ボス「国のお偉いさんや他の町の人間にとっては、魔族の血が混じっているというだけで、既に人間ではないそうだ」
ボス「ある時、火の石を手に入れてから、全てが変わった」
ボス「人間と手を組み、仲間を浚っていた奴らを殺して、生き残った奴を売ってやったよ」
魔王「それでは、そなたは同じ事をしているだけだ」
魔王「それに今は罪のない旅人を売っているということじゃないか」
ボス「分かっている。でも他に産業もないこの町で、家族を養う為にはこれくらいしか方法がないんだ」
ボス「俺は魔王を倒して、王様に約束させる。混血の者に対する差別の撤廃、そしてこの町の発展を」
魔王「無謀だ」
ボス「魔王を倒す事が?それとも差別撤廃か?」
魔王「どちらもだよ」
魔王「そんな事を考えている暇があったら、さっさと勇者に火の石を渡し、先に進ませてくれ」
ボス「俺は無謀だとは思わない。何たって、お前がいるからな」
魔王「はあ?」
ボス「ここはサカイ町だからこの程度の炎だ。魔界に入れば、周りの魔力が強まり、もっと大きな炎を扱える」
魔王「着眼点は良いが、勇者の剣は勇者にしか扱えないぞ」
ボス「いや、お前さえいれば、魔王も倒せる」
魔王(…随分と見くびられたものだな)
魔王「では、勇者と共、魔界に行けばよいではないか」
ボス「…駄目だ。10年もただハジマリの村にいたような奴を信用できない」
ボス「第一、勇者に魔王を倒す気はあるのか?」
魔王「そ、それは…」
ボス「それよりお前だ。お前も魔王を倒す事が目的なら、勇者を見限って、俺と一緒に来い」
魔王「駄目だ。そなたには無理だ。第一、我輩は魔族だぞ?信用できるのか?」
ボス「…お前なら、信用してもいい」
魔王(…どういう意味だ?)
ボス「俺はやる気も力も、勇者には劣らないつもりだ」
魔王「寝言は寝て言え。そなたなんぞ、勇者の足元にも及ばんぞ」
ボス「なら今回の勝負で俺が勇者より強いと分かったら、俺と共に来る気になるか?」
魔王「はあ?」
ボス「明日、証明してやる」
魔王「ちょっと…」
バタンっ
魔王「…行ってしまった」
-翌朝・闘技場-
魔王「今度は何で勝負するつもりだ?」
ボス「俺は火の石で、勇者は勇者の剣を使う」
魔王「そうか。そなた死ぬぞ」
ボス「お前がいれば大丈夫だ」
魔王「…」
『それでは今回も始まりました!本日の殺戮ショー!』
ワアアア!
魔王「な、何だこれは…」
ボス「ショーだ。主に他国から移送された死刑囚同士や奴隷を戦わせ、収益を得ている」
魔王「…それで、この盛り上がりか?こやつらは頭がおかしいのか?」
ボス「そうなんじゃないか?」
『それでは赤コーナー…10年もハジマリの村にいた引き籠り!臆病者と噂の…勇者だー!!』
ブゥーブゥー!!
魔王「勇者なのに、凄いヤジが…」
魔王「あ、でも勇者め…こっちに手を振ってる…余裕だな」
『そして白コーナー…カリスマ性に溢れ、この国一の炎使い…我らがボスだー!!!』
ワアアアアアアアア!!!
魔王「ボスは凄い人気だな」
『それでは試合開始前にルール確認をします』
『お互いの武器で相手を殺すまで、もしくは負けを認めるまで試合は続けられます』
『リングはありますし、場外に出る事は基本的には禁止ですが、負けにはなりません』
『それから気絶した場合も負けにはなりません』
ワアアアアアアア!
勇者「俺が勝ったら、魔王と火の石を貰う」
ボス「魔王とは?」
勇者「あの娘の事だ」
ボス「ふぅん。しかしお前は一つ、俺は二つを渡したら割に合わないじゃないか」
勇者「もし俺が負けたら勇者の剣を渡す。そして俺もお前のいう事を何でも聞こう」
ボス「へぇ。ならいいぜ」
『では…試合開始!』
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