魔王「リングが火の海だ…良く見えないが、中では一体何が起こっているんだ?」
勇者(くそ…熱い…目を開けていられない)
勇者(闇雲に攻撃しても危険だし、観客に当たる可能性もある)
勇者(ボスは何処だ?)
勇者(それに気のせいではない。どんどん炎の温度が上がっている)
魔王(リングからこの観客席まで距離があるというのに、何て熱さだ?)
魔王「……ん?あれは!」
ボス(勇者はあそこだな…この炎の中で消し炭にならないなんて、本当に人間か?)
ボス(しかし、これを食らえば勇者と言えども)ゴオォォ
魔王「勇者!後ろだああ!!」
勇者「!」
ヒュッ
ガツンっ
ボス「しまった!火の石が…」
勇者(よし、炎が弱まった)
勇者(ボスはあそこで、投げた剣に当たって、火の石を落としたか)
たたたたっ
勇者「魔王を!返して貰う!」
ボス「?!」
-試合終了後-
魔王「思ったより、あっさり参ったって言ったな」
ボス「俺だって命が惜しいからな」
勇者「…」
魔王「良かったな、勇者。火の石を手に入れられて…」
ごちん
魔王「いっ痛い!何をする?!」
勇者「どうして大人しく俺の家で待っていなかった?」
魔王「どうして我輩がそなたのいう事を聞かなければいけない」
魔王「そなた一人では心配だ。現に勇者の剣を奪われそうになったじゃないか」
魔王(それでやる気をそがれて、やっぱり魔界に行かないと言ったら、我輩が困るのだ!)
勇者「心配なのは、俺も一緒だ」
勇者「君がいかに腕が立つかはもう分かっている」
勇者「しかし、君はまだ子供…ん?そう言えば、少し見ない間に随分背が伸びたな」
魔王「」ギクッ
魔王「成長期だからな!」
勇者「そうなのか?」
勇者「でも君にもし何かあったら、俺は…」
ボス(何だ。そういう関係だったのか)
ボス「勇者。ほら、火の石だ」
勇者「ああ」
ボス「ん?」スカッ
魔王「勇者。ちゃんと受け取れ」
勇者「いや、受け取ったつもりだけど」スカッ
勇者「あれ?」スカッ
魔王「火の石が勇者の手から逃げている?」
ボス「変だな?こんな事今までなかったのに」ヒョイ
勇者「何故だ?」
魔王「ちょっと見せてみろ」ヒョイ
魔王「あー…これ魔石だ」
勇者「魔石?」
魔王「魔族にしか触れられない石だよ」
勇者「え?」
勇者「魔族にしか触れない?」
魔王「いや、魔族の血が一定量に入った人間にも触れられる」
魔王「だからボスも触れられる」
勇者「魔王…君、本当に魔族の血が入っていたのか…?!」
魔王「だからっ我輩は魔王だと言っているだろうが!」
勇者「しかし魔石に触れないとなると、どうやって魔王を倒すんだ」
ボス「なあ、俺を連れて行ってくれないか?俺なら、火の石を扱える」
魔王「待て。勇者を嫌っていたくせに、どういう風の吹きまわしだ?」
ボス「今だって、勇者が10年もハジマリの村にこもっていたのは気に食わない」
ボス「だけど分かったんだ」
ボス「魔王を倒す事が出来るのは勇者だけだと」
ボス「聞いての通り、俺は人間と魔族の混血だ。この町には、俺の様な人間が多い」
ボス「魔王を倒した者に、王は何でも願いを叶えると言う」
ボス「俺は魔王を倒し、差別撤廃を求めたい」
勇者「君の実力は、戦った僕がよく分かる」
勇者「仲間になってくれるなら、歓迎するよ」
-水の町・水の神殿-
巫女「随分早く火の石を持って帰ってきたわね?」
巫女「何年かかかるかと思ってたけど、本気で魔王退治するつもりなのね?」
勇者「当り前だろう」
魔王「それで?どうやって水の石を探すんだ?」
巫女「古文書によると…」ペラペラ
巫女「あった。火の石を出してみて」
ボス「こうか?」
パアアアア!
勇者「何だ?何かが光っている?」
魔王「あの光っている場所に水の石が?」
巫女「そのようね」
勇者「じゃあ、ちょっと取って来るね」
魔王「え?ちょっと待て」
どぼーんっ
ごぼごぼ…
勇者(結構、深いな…)
勇者(…見えた!)
スカッ
勇者(また触れないというパターンか)
勇者(魔王なら触れるだろうか?)
勇者(魔王は…)クルッ
勇者(…いない?)
ゴボゴボゴボゴボ
勇者「ぷはっ」
ボス「お前、よく30分も潜ってられるな」
魔王「その様子じゃ、水の石は手に入らなかったのか?」
勇者「ああ、その場にあるのに手に触れられないんだ」
勇者「それから魔王。何故ついて来なかった?」
魔王「んー、この水なんか気持ち悪いんだ」
巫女「触れると気持ち悪い?おかしいわね?」
巫女「これは聖水なのに」
魔王・勇者・ボス「それだ!」
勇者「じゃあどうしよう?ボスは水に触れられるか?」
ボス「水に触る自体は問題ないが、息が続かないぜ」
魔王「なら魔法で周りに空気の膜を張ってはどうだ?」
巫女「無駄ですよ。この湖には魔法はきかないわ」
巫女「そういう魔法がかかっているから」
魔王「じゃあ古文書にはどうやって水の石をとると、書いてあるんだ?」
巫女「そうね。あった」ペラペラ
巫女「古文書によると、火の石で湖の水を枯らせると書いてあるわ」
魔王「…これだけ広く深い湖を全部?」
巫女「恐らくそういう事じゃない?」
ボス「方法はそれだけか?」
巫女「うーん」ペラペラ
巫女「そのようね」
魔王「何カ月かかると思っているんだ」
ボス「…試しにちょっとやってみるか」
-勇者の家-
ボス「疲れた…」グッタリ
魔王「大丈夫か、ボス?」
勇者「でも凄いな。水面が数センチも下がった」
魔王「本当に何カ月かかるんだか…」
魔王(このままでは魔界に戻るのが遅くなってしまう)
魔王(ボスには悪いが、頑張って貰わなければ…)
-数日後・湖-
ボス「死ぬ…」
魔王「頑張れ!回復魔法かけてやるからっ」
勇者「…あー俺も何か疲れたな」チラッ
魔王「そなたはただ見ているだけではないか。暇なら装備を充実させるなりして来い」
勇者「……」
魔王「うむ。これで大丈夫だな。頑張れボス!」
魔王(我輩の為に!)
勇者「巫女…古文書によると、水の石を取る為にどのくらいの時間がかかるんだ?」
巫女「そうですね」ペラペラ
巫女「半年…ですかね?」
勇者「は…半年…」
魔王「汗を拭いてやるぞ?」
ボス「悪いな…しかし勇者の事はいいのか?」ゼェゼェ
魔王「何がだ?」
ボス「だから……ん?勇者?」
勇者「……」
魔王「ゆ、勇者?どうしたんだ?」
魔王(勇者のくせにおっかない顔をしている…!)
たたたたたたっ
魔王「勇者?一体どうし…」
どぼーんっ
魔王「?!」
巫女「あら?今の音…もしかして勇者が飛び込んだのかしら?」
-数時間後-
魔王「巫女」
巫女「はい?」
魔王「勇者が潜ったきり、まだ上がってこないんだが」ドキドキ
巫女「そうね」
魔王「よもや溺れ死んでいる訳ではないよな?」ドキドキ
巫女「さあ?」
魔王「!!」
-水中-
ガツッガツッ
勇者(勇者の剣を突き立てても、なかなか傷がつかないな…)
勇者(この、魔法陣…)
-「どんな威力の強い魔法だって、その元を絶ってしまえば簡単に無効に出来る」-
勇者(魔王が言っていた。恐らくこの魔法陣が魔法を無効にしているんだ!)
がぼっ
勇者(しかし…そろそろ息苦しいな)
とんとん
勇者(ん、誰だ?)
勇者「?!」ゴボッ
勇者(魔王?!)ガボッ
魔王(…これは魔法を無効化する魔法陣だな。傷をつけて、魔法を無効にするつもりだったか)
魔王(ここに、突き立てれば、いい)トントン
勇者(ここか?)
魔王「」コクリ
勇者(よし、行くぞ?せーのっ…)
ざあああああ…
巫女「湖の水が減っている?」
ボス「勇者と魔王がいるぜ!良かった。無事だったか」
勇者「おーい!水の石を手に入れたぞー!」
巫女「お疲れ様」
巫女「よくも昔からの魔法を解いたわね」ゴゴゴゴ
勇者「ご、ごめん。後で元に戻すから…」
勇者「な?魔王、そなたなら…」
魔王「」フラ…
どさっ
勇者「…え?」
巫女「魔王さん?!どうしたの?しっかりして!」
ボス「聖水に浸かったからだ。こいつは湖の水に指一本触れるのも嫌がっていたから…」
巫女「ならこの場所もあまりよくないわね」
勇者「分かった。俺の家に運ぼう」
-勇者の家-
勇者「魔王の状態は?」
巫女「顔色は少しよくなったけど、まだ目を覚まさないわ」
勇者「どうして…あの子は湖に飛び込んだんだ…」
ボス「…お前がいつまでも潜っていたからだ。あいつはずっと心配して待っていてたぞ」
ボス「止めるのも聞かずに、あいつは飛び込んだ」
勇者「!」
ボス「でもこいつの自業自得だ」
勇者「ボス…どうすればいい?どうすれば魔王を助けられる?」
勇者「こういう時の魔族に対する治療法を知っているか?」
ボス「サカイ町…魔界の近くに行く必要がある」
ボス「魔界は魔力…魔族の力の源が溢れる土地だ」
勇者「それは魔王が…」
ガシャン!