魔王「なに?!勇者がまだハジマリの村にいるだと?!」 9/10

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お父さんへ

おかえりなさい。

元気ですか?ご飯はちゃんと食べていますか?

この村に、お父さんが出稼ぎに行ってから、直ぐに伝染病が広まりました。

偉い人がお薬を配ってくれて、伝染病はなくなりました。

でもお母さんもお姉ちゃんも弟も、薬を貰う前に死んでしまいました。

それから偉い人が私を王都に連れてってくれるそうです。

偉い人はおかしな事を言ってたけど、私はもう食べる物を心配しなくても良いって事だと思います。

なので私の事は心配しないで下さい。

偉い人はお父さんも歓迎してくれるそうです。

私は王都に行きます。

お父さん、この手紙を読んだら王都に来て下さい。

待ってます。

勇者「伝染病?」

巫女「でもこれは随分昔の物のようだから、今は大丈夫じゃないかしら?」

勇者「この手紙の子」

ボス「ん?」

勇者「お父さんと会えたのだろうか?」

側近「勇者がとうとう城下まで来たそうです」

魔王「そうか」

側近「宝箱の中身に使用期限を超えた物が幾つかありますが、いかがしましょう?」

魔王「…そのままでよい」

側近「え?」

魔王「多少、期限が過ぎておっても、あやつらなら大丈夫だろう」

-魔王城―

勇者「魔王城の中の魔物は、外の魔物よりも更に強い…」

勇者「かすり傷を負ってしまった…」

ボス「本当にお前は人間じゃないな」ボロボロ

巫女「ええ、本当に」ボロボロ

ボス「あれは宝箱じゃないか?」

勇者「本当だ。回復アイテムは入ってるかな?」

巫女「罠かもしれないから気をつけて」

ギイ…

勇者「これは…」

巫女「傷薬?だけど」

ボス「腐ってやがる…」

ボス「巫女、治してくれてありがとう。流石は元僧侶だぜ」

巫女「どういたしまして」

巫女「勇者はどうする?」

勇者「かすり傷だし、いいよ。舐めれば治る」

巫女「昔っから勇者は頑丈だものね」

勇者「……」

勇者(昔から…俺は昔から他の子供より頑丈だった)

勇者(周りは次期勇者とはやし立て、実際に勇者に選ばれた時にはママは涙ながらに喜んだっけ)

勇者(だけど、俺は勇者になんてなりたくなかった)

勇者(祖父や父の仇と言われても、ピンとこないかった)

勇者(でも勇者に選ばれた以上、魔王退治を断れず、旅に出た)

勇者(ハジマリの村に行った時、ただ魔牛を蹴散らしただけで、心底感謝された)

勇者(そして親しくなった村の住民達は、俺に魔王退治を強要しなかった)

勇者(祖父が魔王退治に失敗して俺が勇者になったように、俺に出来なければまた新しい勇者が出てくる)

勇者(そうしてハジマリの村に居残る俺に呆れて、パーティのメンバーは離れて行った)

-「勇者の仕事は魔王を倒す事だ。そうだろう?」-

勇者(魔王はそう言って、俺を連れ出した)

勇者(なのに、途中で投げ出して…)

勇者「…魔王、一体どこにいるんだよ」

コンコン

魔王「入れ」

側近「失礼します…魔王様?何をされているのですか?」

魔王「ちょっと調べ物だ。それより何かあったのか?」

側近「勇者どもが、魔王の間の近くまで来ております」

魔王「そうか。分かった。直ぐに準備する」

側近「では、私も配置に就きます」

魔王「…行くのか?」

側近「私は魔王様の側近ですから」

魔王「そうだな。出陣前に、そなたに一つ命令がある」

魔王「絶対に死ぬな」

側近「!」

側近「は!分かりました」

-魔王の間・入り口前-

勇者(…何だこの魔物…強い)

側近「ふはははは!勇者、息が上がっておるぞ!」

勇者「くそっ」

ボス(後ろががら明きだ)スゥ

ゴオオオオ!

側近「チッ…炎使いめ!」

勇者「覚悟しろ!魔物が!!」タタタッ

側近「」ニヤリ

バタッ

側近「うぅ…」

ぐいっ

巫女「勇者!何をしているの!」

勇者「…今の攻撃を、わざと避けなかったな?」

側近「さて、何の…事だか?」ヒュー…

勇者「あの子はどこだ?」

側近「あの子…か?直ぐ…会える、ぞ…」ガクッ

勇者「どういう意味だ!」

ボス「やめろ。勇者。そいつはもう死んでいる」

勇者「でも、こいつはあの子を、魔王を知っているようだったのに」

巫女「勇者。しっかりしなさい!貴方、やる気あるの?」

勇者「くっ」

巫女「貴方は勇者なのよ!相手が誰であれ、魔王を倒さなければいけないの」

勇者「…分かっているよ」

-魔王の間-

巫女「…寒い」

ボス「それに随分広い部屋だな」

??「思ったより、早かったな」

勇者「その声…魔王か?!」

魔王「ああ、久しぶりだな。勇者よ。よくぞここまで参った」

勇者「あの時、急にいなくなるから心配したんだぞ!」

魔王「…そうか。それよりこの部屋の前に我輩の側近がいたのだが、そやつはどうした?」

勇者「この部屋の前にいた魔物の事か?」

ボス「魔王の間の前にいた魔物は…死んだぜ」

魔王「…そうか」

魔王「側近はな。我輩が子供の頃から面倒を見てくれた」

魔王「悪さをした時はよく叱り、魔王としての道を説いてくれた。彼は…」

魔王「我輩にとって父親の様な存在だった…」

魔王「よくも殺したな…」スッ

勇者「魔王?一体何を言って…」

巫女「危ない!勇者っ避けて!!」

ドカーン!

勇者「なっ何で…魔王?」

ボス「勇者!いい加減に現実を見ろ!」

勇者「ボス、何の事だよ…」

ボス「こいつはっ正真正銘の魔王なんだ!」

勇者「?!」

ボス「俺らが倒すべき、相手なんだ!」

勇者「そんな!嘘だろ?!魔王!!」

魔王「…嘘ではないぞ」

魔王「死ね。勇者」スッ

バターンッ

タタタタタタッ…

魔王「…勇者が…逃げた?」

魔王「はあ…普通、魔王の眼前で勇者が逃げるか…」

魔王「さて…そなた達はやる気があるのか?」

巫女「くっ」

ボス「…」

魔王「…いい目だ。二人まとめてかかってこい」スゥ

勇者「はあ…はあ…」

勇者(嘘だ!魔王が…本当に魔王な筈がない!)

タタタタッ

勇者(あんなに楽しかったじゃないか!)

勇者(一緒に馬鹿な話をして笑ったり、俺が困っていたら必ず助けてくれたり…)

勇者(あれが全部全部嘘だったって言うのか?!)

『あー…マイクテスト、マイクテスト…』

『勇者?聞こえているかー?』

『そなたが逃げた所為で、ボスと巫女は死んだ』

勇者「?!」

『そなたがここから逃げれば、もっと大勢の者が死ぬぞ』

『勇者。そなたは誰も死なせたくないんだよな?』

『なら、逃げるな』

勇者「…」

カツンカツンカツン…

ギイ…バターン…

魔王「…戻って来たか」

勇者「ああ…本当にボスと巫女を殺したのか?」

魔王「何だ?死体でも見てみたいのか?」ニヤリ

魔王「代わりにこれを見せてやろう」

勇者「火の石と水の石?」

魔王「ああ、あやつらの遺品だ」

魔王「勇者よ。ボスは魔王を倒し、混血の差別撤廃」

魔王「そして愚かな事に魔族との共存を望んでいた」

魔王「絶対に不可能なのにな」クスクス

勇者「不可能なんかじゃない!」

魔王「はっ何を根拠に」

勇者「俺と君だ!」

勇者「俺も魔族とは野蛮な連中と聞いていたし、そう思い込んでいた。君に会うまでは」

魔王「…」

勇者「でも魔族だって人間と変わらない」

勇者「ここに来る途中の空き家に、手紙があったよ」

勇者「その子は家族を失い、自分もどこかに連れ去られようとしているのに、父親の心配をしていた」

勇者「そんな子が…魔族の中にもいるんだ。人間と変わらないじゃないか?」

魔王「…相変わらず甘いな」

勇者「君が…本当は魔王に操られているっていう事では…ないんだね?」

魔王「何だそれは?そなたの願望か?」

勇者「ああ、そうだよ」ジャキッ

勇者「君を倒して、本当の魔王を誘き出してやる…」

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