魔王「…ふむ、白雪姫…か」
勇者「魔王は、本当に童話とか聞いたことないのか?」
魔王「む? 童話という言葉すら知らんかったわ」
盗賊「…王子様がキスをして目覚める…素敵」
魔王「…私にとっての、王子は、勇者、お前だ」
勇者「今度もまた、何か読んでやるからな……って、今なんかすっごく嬉しいこと言わなかったか?」
魔王「なんでもないよバカ!」
盗賊「…頑張って、魔王」
魔王(うぅ…ついに盗賊にまで応援されてしまった)
魔王「…盗賊、お前も、勇者が好きなのではないのか?」
盗賊「好き。とっても好き」
魔王「なら、私のことなんか…」
盗賊「あなたとは、違う『好き』。私は、家族の愛。あなたは、恋人の愛」
魔王「ふむ…よくわからん」
盗賊「そのうち、わかる」
勇者「おーっし、そろそろ寝るぞー」
魔王「あ、あの…ゆーしゃ……」
勇者「ん?」
魔王「…ん」
勇者「…? なに唇尖らせてんだよ?」
魔王「…おやすみのちゅー」
勇者「へ?」
魔王「もうなんでもない! おやすみ!」
勇者「あ、ああ…おやすみ」
真夜中
魔王「…」
勇者「…グーグー」
魔王「まったく、口の周りヨダレまみれではないか…」
勇者「…ムニャムニャ」
魔王「…ゆーしゃ、楽しかったぞ」
魔王「これで、本当のさよならだ」
魔王「…最後に、ちゅー、したかったな…」
魔王「じゃあな、ゆーしゃ」
ガチャ
ギィ~
バタン
勇者「…まおう……ムニャムニャ」
盗賊「起きろ、勇者!」
勇者「あっ…んん?」
盗賊「あいつが、いなくなってる」
勇者「…どっかそのへん散歩してるだろう…」
盗賊「いや、これを見てくれ」
勇者「…?」
だいすきなゆうしゃえ。
やつぱりわたしわおまえといつしよにはいられそうにありません。
だいまおうとゆうしゃわいつしょにいることだけでもおかしいことなのです。
とうぞくとなかよくしてください。とうぞくにもおいしいやさいをたべさせてあげてください。
ほんをよんでくれてありがとお。
わたしのためにいつもがんばつてくれてありがとお。
だいすきです。とおくにいつてもだいすきです。
さよおなら。
勇者「…」ダッ
勇者(なんで…いなくなるんだよ?)
勇者(なにが、悪かったんだよ?)
勇者(俺にもお前にも、なにもおかしいことなんてなかったじゃないか!)
勇者(俺たちは魔王と勇者で…なにが悪い?)
勇者「魔王! 魔王ー!!」
勇者(あれが書かれたのが夜中だったとしたら…相当遠くまで行ける…!)
勇者(あいつのスピードは、とてつもない速さだ…!)
勇者「魔王! どこにいるんだ!? 魔王~!!」
魔王「はぁ…はぁ…」
魔王「ここまで…つらいとは…ガハッ!」
魔王「…」
魔王(魔界に戻らんと、生命エネルギーを吸収できない…)
魔王(結局、あの時に私とあいつの関係は、切れていたんだ…)
魔王「ゆーしゃ…ゴホッゴホッ」
魔王「…はぁ、はぁ……」
魔王「…すこし、休憩しよう」
魔王「…はぁはぁ……」
魔王「お腹、空いたなぁ…」
魔王「……残りはこれだけ…」
魔王「…我慢しろ、我慢だ」
魔王「…うぷっ…おえぇぇ…」ビチャ…
魔王「…ふふ」
魔王(ついに、血を吐いてしまったか…)
魔王「…」
魔王(すこしだけ、眠ろう)
魔王(歩いてばかりで、疲れてしまった…)
魔王「…」
魔王(……ふふ…勇者は今頃どうしてるんだろうな…)
魔王(私の手紙、ちゃんと読めたかな?)
魔王(仕方ないだろう。字を書くのは下手なんだから)
魔王「……はぁはぁ…ゴホッ」
魔王「…そろそろ、限界か…」
魔王(ここ最近、魔界には行けてなかったからな…生命エネルギーが無くて、もうダメだ)
魔王「死ぬ…のか」
魔王(私はいろんな人に、迷惑をかけた…死んで当然。当然だ…)
魔王「…ゆーしゃ…」
勇者「呼んだか?」
魔王「…」
勇者「ったく、お前、まだこんな近くにいたのかよ」
魔王「…なんで、追いかけてきた?」
勇者「こっちのセリフだ。お前、なんで勝手にいなくなった」
魔王「お前には関係ない」
勇者「とりあえず、帰るぞ」
魔王「嫌だ」
勇者「はぁ?」
魔王「もう…無理だ…ガハッ」ビチャ
勇者「おい! 大丈夫か!?」
魔王「…もう、近寄るな」
勇者「何言ってんだよ!」
魔王「もう、私は長くない。生命エネルギーがそこを尽きかけている」
勇者「生命エネルギー?」
魔王「…魔界でしかとることのできないエネルギーだ」
勇者「それじゃあ、早く魔界に…」
魔王「…それは、できない…はぁ、はぁ」
勇者「なんで!?」
魔王「私はお前を助ける時に、魔界の出入を禁じられてしまった」
勇者「!!」
魔王「…」
勇者「…なんで、なんでそんなことしちまったんだよ!?」
魔王「仕方ないだろう。あの時はお前を助けることだけで精一杯だったんだ…」
勇者「…」
魔王「お前とは、最後の最後に、本当に仲良く……なれたと思う」
勇者「…」
魔王「…………本当に、ありがとう」
勇者「そんなこと、言うなよ」
魔王「………あり………………が、と ガフッ」
勇者「魔王!」
魔王「最後…に…………さ……」
勇者「最後なんて言うな! 最後なんて…!」
魔王「……ちゅーして……欲…しい…………な」
勇者「キスか? 今はふざけてる場合じゃない!!」
魔王「ふざけて……など、いな………………い……」
魔王「ふざけ……て……な、……んか…………」
勇者「魔王!?」
勇者「おい、魔王!?」
勇者「返事しろよ!! おい!!」
勇者「…そんな…」
魔王「」
勇者「…おい、実は生きてるんだろ? 冗談だろ? 驚かそうとしてる、だけなんだろ?」
勇者「なんとか言ってくれよ! なあ!!」
勇者「魔王!!!!!」
勇者「…ああ、わかったよ、お前、白雪姫に憧れてるんだな?」
勇者「可愛いやつじゃねえか! よし、なら俺が王子様役を買って出るぜ!」
勇者「…」
チュッ
勇者「…なあ、キスしたぜ? なあ?」
勇者「ここで、白雪姫はゆっくりと起き上がるんだぞ?」
勇者「ちゃんと、白雪姫の役を、やり通せよ…!?」
勇者「なぁ…頼むから…」
勇者「……」
勇者「魔王…」
魔王「ゆーしゃ…?」
勇者「!」
勇者「魔王…!」
魔王「…ゆーしゃ」
勇者「魔王!!」ギュッ
魔王「……」
勇者「魔王! 魔王!」
魔王「いたた…あんまり、強く抱きしめるな…息苦しい…」
勇者「いや、無理だ…もう、俺、お前から離れたくない…」
魔王「…まったく、勇者は甘えん坊だな…」
勇者「…」
魔王「ゆーしゃ…さっき、私になにをしたんだ?」
勇者「な、なにもしてねぇよ…」
魔王「本当かぁ?」ニヤニヤ
勇者「あーもう!」
チュッ
魔王「!!」カァァァ
ボッカーン
勇者「うお! おい!? 魔王!?」
バチン
勇者「いてっ!!?」
魔王「い、いきなり、しゅ、することはないだ、だろ!?」
魔王「まだ、心の準備がで、できてにゃい…んだから」
勇者「…じゃあ、もう一度」
魔王「…どうぞ」
勇者「…」
チュッ
勇者:
とまあ、こんな感じで、俺は魔王を救ったわけなのだが…。
一体、なにが起こったのだろうか?
まさか、俺の勇者の血で…!? なんて、自意識過剰か。
魔王はそれからというもの、魔物を食うこともなくなり、魔界に行かなくても死ななくなった。
もしかしたら、普通の人間になったんじゃないか!?
って、こともなく、怒れば雷を発し、ありえない力で村をぶっこわした。
まったく、何回壊せば気が済むんだ?
まあ、それがこいつのいいところなんだけどな。
俺はもうこいつから離れない。どんなことがあっても、だ。
勇者「よおし! できたー!」
盗賊「うむ、素晴らしい出来だと思うぞ、勇者」
勇者「そうか?」
魔王「ふわ~…おはよう…。む、それはなんだ?」
勇者「おお、魔王。ちょっとこい」
魔王「む? なんだ?」
勇者「これ、着てみてくれ」
魔王「…? わかった」
勇者「俺が作った、俺好みの、服だ」
盗賊「まさかこんな才能を持っているとは思わなかったぞ」
勇者「ありがとさん」
勇者「まあ、結局こんなに怪我しちまったけどな…」
盗賊「その傷で作った服だ。とても素晴らしいと、私は思う」
勇者「…そうか?」
盗賊「うむ」
魔王「…着てみたけど…どうだ?」
勇者「ん……」
魔王「な、なんじゃその微妙な感想は!?」
勇者「いや、言葉にならんほど…綺麗だ。可愛いぞ」
魔王「…」カァァ
勇者「よっし、魔王。それは俺からの、プレゼントだ」
魔王「ま、まあ、着やすいし…悪くないかもな…」
勇者「なあ、魔王。結婚しようぜ」
魔王「…!」
勇者「…なんてな、お前さんにはまだ早いさ」
魔王「な ん だ と ~ ?」バリバリバリ
勇者「うわぁ!? それはさすがに死ぬ! 死ぬって!」
魔王「大きくなるまで、待っていてくれるのか?」
勇者「…ああ。もちろん」
魔王「ふん…バカ」
魔王「…大好き」
-THE END-