魔王「目を覚ませ、ゆーしゃ!」
勇者「はぁ?」
魔王「私の事を、早く、思い出せ!」
勇者「思い出すも何も、初対面だろ?」
魔王「そんなことはない! 私はオマエのことを知っている!」
勇者「え? そうなのか?」
魔王「あ、ああ!」
勇者「いやーこんなところまで俺の噂が広まってたのかー」
魔王「! 違う! そうではない!」
勇者「いやあ、勇者になって本当によかったぜ」
魔王「…?」
勇者「ん、どうした?」
魔王「いや、なんでもないぞ…」
勇者「そうか」
魔王「…」グスッ
勇者「ん? 泣いてるのか?」
魔王「…泣いてなど、おらんわ」
勇者「そうか」
魔王「…勇者…」
魔王「…お前は、本当に、覚えていないのか?」
勇者「ああ、まったく」
魔王「……そうか…」
魔王(何を落ち込んでるんだ私! ゆーしゃが帰って来てくれただけで、嬉しいではないか)
勇者「お前、家どこだ?」
魔王「…私はお前と一緒に住んでいるんだぞ」
勇者「はあ? 嘘つくなよー」
魔王「! 嘘ではない! ほんとーだ!」
勇者「なんだよ、お前、新手の詐欺師か? 悪いけど俺は大したもの持ってねーぞ?」
魔王「だ、誰が詐欺師だ! 勝手に決めつけるな!」
勇者「どうもうさんくさい。お前、本当に何もんだよ?」
魔王「う、うるさい! 私はお前の…」
魔王(…私は、こいつの…なんだ? 一体、なんなんだ?)
魔王「…私は…お前の…」
勇者「ほら、言えないじゃねぇか」
魔王「で、でも、私は…!」
勇者「…あれ? 財布の中身が無くなってる…」
魔王「…」
勇者「おい、返せよ」
魔王「私は、とっとらん!」
勇者「うそつくなよ! あそこにはお前しかいなかっただろう!?」
魔王「私は、なにもしてない!! うわぁぁんっ!」
勇者「…本当に、お前じゃないんだな?」
魔王「…グスッ…うん…」
勇者「…なら、信じるよ」
魔王「…信じて、くれるのか?」
勇者「お前の目を見れば、嘘をついてないことぐらいわかるさ」
魔王「…やはり、お前は、勇者だな…」
勇者「そうか?」
魔王「私の…知ってる勇者だ」
勇者「ははは、そうか。いつもの俺だけどな」
魔王「そうだな」
勇者「で? 俺達は何をしてたんだ?」
魔王「隣町に作物を届けたのだ。でも、お前が倒れて…」
勇者「え? 俺が?」
魔王「うむ…私が悪いのだ…すまない」
勇者「そうか。もう、作物は届けたのか?」
魔王「うむ。とても美味しい野菜をな!」
勇者「え、お前、野菜好きなのか?」
魔王「え?」
魔王「だって、勇者が、作ってくれたではないか」
勇者「うえーあんなまずいもんよく食えるな。すごいよ、お前」
魔王「…」
勇者「ん? どうした?」
魔王「なんだそれは!?」
勇者「はぁ? どうしたんだよ」
魔王「今すぐ謝れ! 私にじゃなく、じいさんに謝れ!」
勇者「はあ? じいさんって誰だよ?」
魔王「ふざけるな! お前が言っていたのだろう? 丹精込めて作った野菜だって、言ってたではないか!」
勇者「誰が作っても一緒だろ? そんなもん」
魔王「…」バチバチ
魔王「お前は、勇者じゃない」
勇者「はぁ? どう見たって、勇者だろ?」
魔王「お前は、勇者じゃない、そんなこと、私の知ってる勇者は言わない!」
勇者「おいおい、俺は勇者さまだぜ? お前が叶うとでも思ってるのか?」
魔王「勇者は…そんなこと、言わないと、言っている!!」ビリビリッ
勇者「やれやれ、核の違いを見せてやるよ!」
魔王(こいつは勇者の体をした、偽物だ!)
魔王(こんな勇者なら、いなくてもいい!)
魔王(私の知っている勇者がいない世界なんて…)
ゴロゴロゴロ…
勇者「ん!? なんだこの雷っ!?」
魔王「世界ごとぶっ壊してやる!」
勇者「う、うわわっ!」
魔王「…勇者、本当にお前には世話になったな」
魔王「…まあ、すでに私の知る勇者ではないがな…」
勇者「」
魔王「ふん、気絶するとは、情けない…」
魔王(魔界にはもう、帰れない。ならば、このまま果てよう。私もろとも…)
勇者「…ん?」
魔王「…さよなら、勇者」ゴロゴロゴロ…
勇者「!」
魔王「…」
勇者「おい、何やってんだ?」
魔王「…やれやれ、まだ気を失っていなかったのか…」
勇者「はあ? お前、何言ってんだよ」
勇者「それと、その雷なんだ?」
魔王「…?」
勇者「感動の再会、じゃねぇか」
魔王「!! …ゆーしゃ?」
勇者「えっと、あのな…」
魔王「会いたかったぞ~!」
死を喰らう男(なぜだ!? 魂は違う者の魂を入れたんだぞ!?)
死を喰らう男(なぜ、なぜやつの魂が…!)
勇者「あのさ、その物騒な電気のほとばしった大きな球をどうにかしてくれ。あぶなすぎる」
魔王「む? ああ、そうだった」
死を喰らう男「待て!」
死を喰らう男「契約違反だ!」
魔王「む? 何をバカなことを言っている?」
勇者「だれだ? このピエロ」
死を喰らう男「ぴ、ピエロではない! 死を喰らう男だ!」
勇者「あーあーそうかい。で、なんのようだ?」
死を喰らう男「お前の魂は確かにここに…ってあれ?」
勇者「魂? 意味分からんことを言うピエロ界を巣食う男だ」
死を喰らう男「男しかあってないぞ! …仕方ない、契約は契約だ。違反した罰、きっちりとつけてやる!」
魔王「ほほう…? 私にかなうとでも? 笑わせるな!」
MPが足りません。
魔王「ぬなー!?」
勇者「ったく、下がってろ」
魔王「し、しかし。ゆーしゃ!」
勇者「俺のカッコいいところ、まだお前見てないだろ?」
魔王「…ふ、ふん! お、お前はずっと…カッコよくないわ!」
勇者「ははっ! そりゃ残念だ!」
死を喰らう男「あはは、普通の人間が私に勝てるとでも思ってるのか?」
勇者「俺だって、お前に勝てるかどうかなんて、全然考えちゃいねえよ」
勇者「俺は、こいつを守りたい、それだけだ」
魔王「!」カァァ
魔王「そ、そんなこと、どうでもいいわ! はやくやれい!」
死を喰らう男「ふむ…笑えない冗談ですね」
勇者「そうか? お前はピエロなんだから笑わせるのが仕事だろ?」
死を喰らう男「はぁ…あなたと言う人は…」
勇者「!」ギィン
勇者(なんつースピードだ…! あいつにも劣らねぇぞ!)
魔王「ゆーしゃ!」
勇者「離れてろ! こいつは、俺がやる!」
勇者(くそ、ちょっとばかり動いてないからって、ここまで体って鈍るもんなのか?)
死を喰らう男「それそれそれい!」
ズバッ
勇者「のわっ! いってーな!」
死を喰らう男「遅いですよっ」ヒョイ
魔王「ゆーしゃをいじめるなー!」
勇者「! ばか! 出てくるなって!」
魔王「大丈夫、今の私は…!」バチッ
バチ…シュン
MPが足りません。
魔王「ありゃ?」
勇者「言わんこっちゃねぇ!!」
死を喰らう男「ふふっ!」
魔王「ふぐっ! こらっ! 離せっ…」
勇者「おい、相手は俺だろう!」
死を喰らう男「契約を犯したのは彼女ですよ? あなたはただの邪魔者です」
魔王「ふむーむー!」
死を喰らう男「おっと、ジタバタしないでください」ゴスッ
魔王「んぐっ…」
勇者「! おい、女の子殴るなんて、てめぇどういう神経してんだ!」
死を喰らう男「おや? 悪いですか?」
死を喰らう男「私は子供が嫌いなんですよ。魂も小さいし、栄養も少ないですから」
勇者「…」
死を喰らう男「でもまあ、この方は大きな存在…栄養満点かもしれませんが…」
勇者(大きな存在?)
死を喰らう男「私はこの女を殺せば、あなたには危害を加えません。とてもよい条件だと思いますよ?」
勇者「…どこがだよ」
死を喰らう男「あなたは傷つかずに…いや、死なずにすむのですよ?」
勇者「そいつが死んだら、俺は死ぬことよりつらい」
勇者「だから、やめてくれ…」
死を喰らう男「おやおや、これが人間の『繋がり』というものですか?」
死を喰らう男「面白いですねー! くだらないことこの上ない!」
死を喰らう男「人のために傷つくなんて、考えただけでも身の毛がよだちますよ!」
勇者「早く、そいつを離せ」
死を喰らう男「…代わりは? 代わりに何を、私はいただけるんですか?」
勇者「…俺の命でも、なんでももらっていけ」
死を喰らう男「それは割りに合わないですよ! あなたとこの方ではレベルが違いすぎる!」
死を喰らう男「そうですね…対等にするのでしたら…」ドスッ
魔王「かふっ…」
勇者「! おい!」
死を喰らう男「体をめちゃくちゃにしないと、ダメですねぇ」ドゴッ
勇者「やめろ!」
死を喰らう男「あなたの決めた交換ですよ? なにか問題がありますか?」
勇者(おおありだ…)
魔王「うう、ゆーしゃぁ…」
死を喰らう男「黙ってください」ゴスッ
勇者「やめろぉ!!」
死を喰らう男「だから、あなたが決めたことなのです。私はそれを遂行しているだけですよ…?」
勇者(なんで、こういう時に限ってこいつは…)
勇者(力を発揮しねぇんだ!?)
勇者(…って、あいつに頼っちゃダメだろ)
勇者(俺はこんなんでも、勇者だろ? 嫌がっていても、勇者だろ?)
勇者「うおおお!」
死を喰らう男「血迷いましたか!? ならば、こちらはこいつを…」
勇者「うおおお!」
死を喰らう男「…逃げた?」
死を喰らう男「ふふふ…ふはははははははははははははは!!!」
死を喰らう男「あんな逃げ腰の男が勇者だって!? この世界は平和なものだな…!!」
魔王(…ゆうしゃ…?)
死を喰らう男「魔王様…あなたは見捨てられたのです」
魔王「そ、そんな…」
死を喰らう男「やはり、意味がなかったのですよ…魔王と勇者が、通じ合うことなんて…」
魔王「う、嘘だ…」
死を喰らう男「真実はいつも残酷なものです…それでは、契約を破った罰を、うけてもらいます」