姫「勇者様! 帰っているのでしたら、私に一言おっしゃってくださればよかったのに!」
勇者「いや、あなたのお綺麗なその耳に雑音を入れたくなかったので…というより離れてください…」
姫「あら! 勇者様の帰還を一番私が待ち望んでいたことですわ! 雑音だなんて、とんでもない!」
魔王「…」イライラ
魔王「ちょっと、出かけてくる」
勇者「え!? お、おいちょっと…!」
姫「誰ですか? あの方は」
勇者「ああ、王様は教えてくださらなかったのですか?」
姫「? はい」
勇者「魔王の城で監禁されていたみたいで、俺が世話してるんです」
姫「ほう…」
勇者「申し訳ございません、ちょっとあいつを追うので、そろそろ離れていただけませんか?」
姫「いやですわ! 勇者様の体から、離れたくないですっ!」
勇者(胸が当たってるから、ドキドキするんだが…しかし、この人、めんどくさい!)
勇者「今日は、どういったご用件ですか?」
姫「はい、えっと、今日は…その…」
勇者「はい」
姫「昨日のことについてお伺いしたいのですが…」
勇者「き、昨日?」
姫「はい。酒場であったあのことなのですが…」
勇者「ああ、あれですか。大丈夫です。壊したものとかはきちんと払うことにしましたから」
姫「そうではなくて…その…昨日の、バニーガール…」
勇者「ああ、さっきのあいつですか?」
姫「ふむ…やはり…」
勇者「?」
勇者「姫様、お腹は空いておられますか?」
姫「あ、大丈夫ですわ。今日は早起きして早めにとりましたから」
勇者「そ、そうですか」
姫「それでは、そろそろ…」
勇者(ほっ)「はい」
姫「今日は一日中余韻を楽しむことにしますっ」
勇者「は、はあ…」
姫「それでは、ごきげんよう…」
勇者「さようならー」
勇者(ふぅ、すこししたら、追いかけよう)
姫「じい」
執事「はっ」
姫「さっきの小娘の事を、調べて」
執事「かしこまりました」
姫「ふふふ…必ず正体を暴いてみせますわ…」
魔王「まったく…勇者というやつは…」
魔王「あんな胸に脂肪があるやつが好きなのか…」
魔王「…」ペタペタ
魔王「って、なんで気にしているんだ! 私は!」
賢者「む、お前は…」
魔王「ん?」
賢者「おお、お前は勇者の…」
魔王「む、貴様は…」
賢者「もう体調は良いのか?」ボイーン
魔王「う、うむ」(許せん、その胸!)
賢者「それはよかった。とりあえず、お大事にな」
魔王「…何をしておるのだ?」
賢者「ああ、今、募金を募っていたのだ」
魔王「む? 募金?」
賢者「最近、魔物が群れになって村を攻撃するらしくてな。その復旧のための資金にしようと思っての」
魔王「それはお前になにかいいことはあるのか?」
賢者「むう、それは、正直に言うと、ないのう」
魔王「なら、なんで…」
賢者「私は人が大好きなのじゃ。だから人のために動きたいと、強く願っておるのじゃ」
魔王「…」(私には理解できん)
賢者「どうじゃ、お前さんもやってみんか?」
魔王「いや、いい」
賢者「そうか、では、また今度気が向いたら参加してくれ」
魔王「うむ…」
勇者「あっ、いたいた!」
魔王「むっ!」
勇者「ったく、探したぞこのやろう」
魔王「ゆ、勇者…まさか、私を追って…?」
勇者「当たり前だろ。お前体調崩してたんだから一人で出歩くなよ」
魔王「ふ、ふん! お前に心配される筋合いなどないわ!」
賢者「おお、勇者ではないか」
勇者「あ、け、賢者さん!」
魔王「…」ムッ
勇者「きょ、今日はここで何を?」
賢者「募金を募っておるのじゃ」
勇者「そ、そうですか、いいですね、募金」
賢者「おお、そうかそうか。なら、どうじゃ? 一緒に募金を募ってくれないか?」
勇者「も、もちろんです!」
魔王「!」
賢者「ありがとう、助かる」
魔王「お、おい!」
勇者「ん?」
魔王「わ、私も…する!」
勇者「い、いいよ、家でゆっくりしとけよ」
魔王「いやだ!」
賢者「はっはっは。仲がいいのう」
勇者「い、いやそんなことはないんですよ!?」
魔王「な、なにおう!」
賢者「それでは、張り切って行こうではないか」
勇者「は、はい!」
魔王「…」(デレデレしおって…)
勇者「募金にご協力くださーい」
「おや、勇者様じゃないですか!」
「魔王討伐、おめでようございます」
勇者「いやいや、それほどでもないですよ」
魔王「…ふんっ」
「それじゃあすこしだけ」
チャリン
勇者「ありがとうございまーす!」
賢者「そういえば、討伐したのだったな、勇者よ」
勇者「は、はい! そうなんですよ。あはははは」
賢者「すまんかったな、私もお供できればよかったのだが…」
勇者「いえいえ、賢者さんの手を煩わす事なんてできませんよ」
賢者「しかし、ひとりで魔王討伐とは、なかなかの大役を一人でこなすとは、すごいのう」
勇者「お褒めに預り、光栄です」
魔王「…」バチッ
勇者「気を取り直して…募金にご協力おねがいしまーす!」
そして…
賢者「そろそろ、おしまいにしよう、どうじゃ? お昼をご馳走しよう」
勇者「え、本当ですか?」
賢者「うむ、あまり上手くないが、料理でも…」
勇者(手料理…!)「はい、いただきます!」
魔王「…」バチッバチッ
勇者「おい、行くぞ」
魔王「私はいい」
勇者「は? なんで」
魔王「そんなことを言いながら、お前は私のことを邪魔者だと思っているのだろう?」
勇者「は、はぁ?」
魔王「ふん、私はいい。まずい飯など食べたくもないわ」
勇者「お、おい! 賢者さんに謝れ!」
魔王「ふんだっ! バーカバーカ!」
賢者「勇者よ、あいつの言うとおりじゃ。私の飯は決して美味くはない」
勇者「それでも許せませんよ…」
賢者「あの子はまだ未熟じゃ。おまえさんがやつを熟成しないといけないのに、お前さんが未熟でどうする?」
勇者「は、はい…すいませんでした」
そして
勇者「ただいま」
魔王「…」プイッ
勇者「…賢者さんの飯、普通に美味かったぞ」
魔王「そんなこと聞いとらんわ」
勇者「…」イラッ
勇者「あのな…お前そろそろいいかげんにしろよ?」
魔王「…」
勇者「なにが気にくわないのか知らないけどな、このさいはっきりさせろよ」
魔王「…」プイッ
勇者「おい! 目をそらすなよ!」
魔王「…」
勇者「…お前…泣いてるのか?」
魔王「な、泣くわけがなかろう!」
勇者「で、でも…」
魔王「目にゴミが入っただけだ!」
勇者「そんなに涙でたらとりあえず病院行かねえとダメだろ」
魔王「…」ダッ
勇者「お、おい!」
勇者「…ったく、もうあたり真っ暗だぞ?」
勇者「くそ、追いかけるかっ」
勇者「おーい!」
勇者「くそ、あいつ早すぎるだろ…もうどこにもいねえじゃねぇか…」
遊び人「あら、勇者じゃんやほー」
勇者「おお、遊び人。また今日も朝までお遊びかい?」
遊び人「まぁね。伝説の勇者様がこんな時間にどうしたんだい?」
勇者「いや、実はな、さっき…」
遊び人「ああ、あの子か」
勇者「知ってるのか?」
遊び人「たりめぇよ、もう街では相当有名だぜ?」
遊び人「さっき、あっちの森に突っ走ってったけどあの森、夜は相当危険だぜ?」
勇者「そうか、ありがとう」
遊び人「どーいたましてー」
勇者「あとな、遊び人」
遊び人「あん?」
勇者「お前は可愛いんだから、口調を改めた方がいいと思うぞ。絶対損してるからな」
遊び人「な、なにいってんだよ…」カァァ
勇者「じゃあな!」
遊び人「…イメチェン、してみよっかな…」
勇者「はぁ、はぁ…」
勇者(あの森は、凶暴なやつが多い。夜行性の魔物ばかりだから、この時間帯は本当に危険だ)
勇者「恩に着るぜ、遊び人!」
魔王「…はぁ…はぁ…」
魔王「ここなら、あいつもこれまい」
魔王「…いつまで、涙を流している」
魔王「流す必要がどこにある…」
「グルルルル…」
魔王「!」
「グアウゥ!」
魔王「…やれやれ、仕方がない…」
魔王「今の私は加減ができんぞ?」
勇者「! いた! おい…」
勇者「…!?」
勇者(魔物を…食っている?)
魔王「ふぅ…ひさしぶりにまとも飯を食べた」
勇者「…」
魔王「…む、まだたくさんいうようだな…」
魔王「一匹残らず食ってやる!」
勇者「…帰ろう」
勇者「俺がここで出ていっても、何も起こらないだろうし」
勇者「…」
勇者「…はぁ」
勇者「やなもん見ちまったな…」
勇者「くそ、俺の予定では、アイツを襲っている魔物をぶった斬る…だったのに!」
勇者「…あいつ、このまま帰ってこないのか?」
勇者「…もういっかい、森に行こう」
魔王「…」
勇者「おい!」
魔王「む、勇者…」
勇者(う、口が血まみれ…)
魔王「ふむ…見ていたのか」
勇者「…ああ」