魔王「ふはは、小さいからといって甘く見ていたな!」 1/12

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魔王「お前の負けだ勇者~!」

勇者「はいはい、とりあえずお家に帰ろうね」

魔王「私は魔王だぞー!」

勇者「お家どこなの?」

魔王「このお城だ!」

勇者「ああ…小さい時からここに監禁されていたのか…かわいそうに」

魔王「だから違うって!」

勇者「よし、俺がお前を育てる。だから、俺の家にこい」

魔王「え…」

勇者「こんな薄暗い城にいてもいいことなんてないぞ?」

魔王(…ふふ、バカめ! お前の家をぶっ壊してやるっ)

勇者「魔王も見当たらないし、帰ろう。ほら、行くぞ」

魔王(ちょっと腹が立つが、まあいいだろう)

王の城

勇者「というわけで王倒しましたよ」

王「おお! さすがは勇者だ! む、その少女は誰じゃ?」

魔王「私はまお…」

勇者「どうやら魔王の城に監禁されていたようだったので、連れてきました」

王「ふむ…そうか。それで、その子はどうするのだ? よければ私が引きとっても良いぞ」

勇者「いや、いいです。俺がちゃんと世話しますから」

魔王「なんでお前の世話にならなきゃならないんだ!」

勇者「そう怒るなよ」

魔王「私は帰る!」

勇者「どこに?」

魔王「城に!」

勇者「おいおい、さっき出たばっかりだぞ?」

魔王「違う! 私の城にだ!」

勇者「あんなところがいいのか?」

魔王「うるさい! かまうな」

勇者「なんでだよ」

魔王「勇者のくせに、なまいきだぞ!」

勇者「お前もガキのくせに生意気だ」

魔王「…ほほう…私の本気を知らないな?」

勇者「え?」

魔王「しょうがない…それなら私のとっておきを見せてやろう…」

勇者「…?」

魔王「はぁぁぁぁ…」

勇者(! 手が光って…)

魔王「どりゃ~!」

MPが足りません。

魔王「あれ?」

勇者「おいおい、MP0のお前が何をするかと思えば…」

魔王「えええええ!? MPはたくさんあったはず…」

勇者「ほら、とっとと俺の家に帰るぞ。もう疲れた」

魔王「おまえなんかー!」ボコッ

勇者「あたっ、いきなり何すんだ!」

魔王「お前の家なんかに行きたくない!」

勇者「なんでだよ!」

魔王「お前が勇者だからだ!」

勇者「俺だって、なりたくてなったわけじゃねぇよ」

魔王「え?」

勇者「勇者の血を受け継いだ家系かなんかって、いきなり王様に呼び出されて…」

勇者「そのせいで小さい頃に両親が魔物に襲われて、死んじまって…」

勇者「正直、なりたくなかった」

魔王「…」

勇者「悪かったな。お前にはまだこんな話は早すぎたかもしれないな。意味わかんねえよな」

魔王「…」

勇者「じゃあな」

魔王「まて」

勇者「あん?」

魔王「お前の家、案内しろ」

勇者「なんで?」

魔王「ゆ、勇者の家がどんな感じなのか、調べたい」

勇者「え…」

魔王「勘違いするな! 私はいずれ世界を滅ぼす! お前も、この国もな」

勇者(何を言ってるのかわからんが…)「じゃあ、ついてこい」

ガチャ

勇者「あれ? なんでお前がいるんだ?」

女戦士(以下、戦士)「やっほー勇者。魔王討伐お疲れ様」

勇者「あ、ああ。ありがとう」

魔王「ここがお前の家か?」ヒョコ

戦士「ん? 誰、その子」

勇者「ああ、こいつは…」

魔王「私は泣く子も黙る魔王さまだー!」

戦士「クスクス…、可愛らしい子ね」

魔王「可愛いとかいうなー!」

魔王「それと、女!」

戦士「ん、なあに?」

魔王「魔王はまだ殺されてないからな!」

戦士「えっ」

勇者「実はさ、城にはこの子しかいなかったんだ」

戦士「あら、そうなの」

勇者「魔王はこんな小さな子をひとり残してどこか行っちまったのか…許せん!」

魔王「だから私が魔王だってばー!」

勇者「はいはい、魔王様な」

魔王「え」

勇者「女戦士、こいつは俺が世話することにした」

戦士「へえ」

魔王「世話になるつもりはない!」

勇者「お腹すいてるだろ? 何食べたい?」

魔王「無視するなー! 全然すいてない!」

勇者「それは腹の虫を抑えてから言え」

魔王「…うぅ」

戦士「それじゃあ、私は帰るわ」

勇者「え? もっとゆっくりしていけよ」

戦士「いろいろ話を聞こうかと思ったけど、また今度にするわ」

勇者「そうか、じゃあな」

戦士「じゃあね、勇者、魔王ちゃん♪」

魔王(絶対にバカにされてる…)

勇者「ほい」

魔王「…これは?」

勇者「野菜炒め。近所のじいさんからもらったとれたての野菜で作った」

魔王「ふん、こんな飯、いらんわ!」

勇者「いいから食べてみろって。栄養もあって、おいしいぞ?」

魔王「…」パクッ

勇者「どうだ?」

魔王「ふん、やはりたいしたことないではないか」パクパクパクパク

勇者「おお、見事完食だな」

魔王「はっ! 体が勝手に!」

勇者「よく野菜食べれたな、偉い偉い」

魔王「こら! 撫でるな」

勇者「照れるな照れるな~」

魔王「うぅ…」

勇者「さて、俺も食べようかな。もう少しいるか?」

魔王「いらん」グゥ

勇者「わかった」

魔王「こら! いらんと言っただろう!」グゥ

勇者「よだれを垂らすな」

魔王「垂らしてない!」

勇者「ははは、嘘つくなって」

魔王「うぅ! むかつく! 家ごと吹き飛ばしてやる!」

勇者「おお、やってみろ」

魔王「やってやる! うおりゃー!」

MPが足りません。

魔王「ぬわー!」

勇者「ははは! 面白いやつだな~」

魔王「なにがおかしい!」

勇者「いやあ、こんな賑やかな食事久しぶりだなって」

魔王「え?」

勇者「両親が死んでから、俺、ずっとひとりだったからさ」

勇者「それに、昨日まではずっと野宿とか繰り返してたからきつかったぜ」

魔王「…」

勇者「それに魔王もいなかったから相当落ち込んだぜ」

魔王(こいつ、馬鹿か? 私が魔王だと言っておるのに!)

勇者「でもま、お前に会えたから、プラスマイナスゼロだな」

魔王「え」カァァ

勇者「お前がいれば、俺は寂しい思いをしなくてすむ」

魔王「な、なにをいっておる!」

勇者「お前もあの城で一人ぼっちだったんだろ?」

魔王「…まあ、そうだが…」

勇者「これからは二人だ。よろしくな」

魔王「まだ私はお前の家に世話になるとは一言も言っておらんぞ?」

勇者「…」

魔王「ふはは、言葉も出ないか!」

勇者「スースー…」

魔王「こ、こいつ…私が話しているというのに寝るとは、なんというやつ!」

勇者「…むにゃ」

魔王「…ふん、この隙に逃げてやる、ふはははははは!!」

勇者「…」

魔王「…」

魔王「風邪引いちゃうぞ、まったく」

魔王(まさか、勇者がこのような職業だったとは…)

魔王(みなに愛され、みなに信頼され、みなに心配されるものだと思っていた)

魔王(しかし、その分ひとりでいる時間が多い…)

魔王(私とおなじではないか)

勇者「おーい、起きろー」

魔王「ふにゃ! 敵か!?」

勇者「は? なに寝ぼけてんだよ」

魔王「なんだ、勇者か…」

勇者「とりあえず、起きろって」

魔王「ふん、指図するな」

勇者「動けないから」

魔王「え?」

勇者「お前が俺の上に乗ってるから、動けない」

魔王「うわわわ!? 一体何をした!」

勇者「知るかよ、起きたらこうなってたんだから」

魔王「変態!」

勇者「なんでだよ!」

魔王「ふん、お前がやったんだろう!」

勇者「記憶にねえよ!」

魔王「まったく、勇者のくせに…」

勇者「悪かったな」

魔王「ふん」

勇者「どこ行くんだよ?」

魔王「帰る」

勇者「ええ! なんでだよ」

魔王「こんな変態と一緒にいたくないわ!」

勇者「なんだと! ああ、わかったよ! どこにでも行けばいいじゃねえか!」

魔王「言われなくてもそうするわ! バーカバーカ、ベーだ!」

勇者「っち、なんだよあいつ…」

魔王「うわー、外の世界はこうなっているのか!」

魔王「太陽がまぶしいっ! 人が多い!」

魔王(ふふふ…ここにいるやつらを一人残らず殺してやる…ひひひひひひ)

戦士「あら、魔王ちゃん」

魔王「!」ビクッ

戦士「やっぱり魔王ちゃんだ。おはよー」

魔王「お、お前は…」

戦士「女戦士よ。こんなとこで会えるなんてね」

魔王「…」

戦士「ちょっとちょっと、無視しないでしょ」

魔王「気安く話しかけるな。殺すぞ」

戦士「え…」

魔王(私はこやつらと仲よくなるわけにはいかんのだ)

戦士「魔王ちゃんに殺されるんだったら私とっても嬉しいわ~」

魔王「ふぎゃ!」

戦士「そんなつれないこと言わずに、ほら、一緒にいろんなところ回りましょ?」

魔王「しょうがない…女戦士よ、貴様に私の全てを見せてやる」

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