魔王「ふはは、小さいからといって甘く見ていたな!」 7/12

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12

盗賊「私は、お前に、嘘をついた」

勇者「…そうだったのか」

魔王「ふざけるな! 勇者が有り金全部を出して買った来たんだぞ!?」

魔王「それを、今更嘘でしたとは、どういうことだ!?」バチバチ

盗賊「…すまないと思っている」

勇者「もう、謝ってんだから許してやれ」

魔王「でも、お前は…」

勇者「いいよ、それより、俺はお前がムキになったことの方が嬉しい」

魔王「な、なに言って…!」カァァ

勇者「…わかった。でも、砂漠地帯生まれなのは本当だろう?」

盗賊「ああ」

勇者「なら、その薬で、砂漠病のやつらを、治してやってくれ、じゃあな」

盗賊「待ってくれ…」

勇者「あ?」

盗賊「…私は、お前に、礼をしたい」

勇者「されるようなこと、してないぞ」

盗賊「…こんな私を、お前は信じてくれた。助けようとしてくれた」

盗賊「だから、恩返しがしたい」

勇者「いいって。それに、さっきの盗賊達はいいのか?」

盗賊「あいつらは雇われ盗賊だ」

勇者「そ、そうか」

盗賊「しかし、私は今何も持っていない。だから…」

勇者「だから?」

盗賊「私を、私自身を、お前にやる」

勇者「…は?」

魔王「な、な、なに、い、意味分からないこと言ってるのだ!?」

魔王「付き合ってられないな! い、いこう、勇者!」

勇者「あ、ああ。とりあえず、俺はお礼なんていいから、さ」

盗賊「それはダメだ」

勇者「な、なんだよ」

盗賊「…」

チュッ

魔王「!!」

勇者「うおっ!?」

盗賊「私のことは、なんと呼んでもいい、今日から私はお前の『物』だ」

勇者「…」

魔王「な、な、な…」バチバチッ

勇者「え? あれ?」

盗賊「どうした?」

勇者「今、お前、俺になにした?」

盗賊「忘れてしまったか? ならもう一度…」

魔王「やめろーー!」ドンガラガッシャーン

勇者「! お、おい、どうした!?」

魔王「……殺す!」バチチ

勇者「おい、落ち着けって!」

魔王「そこをどけ、勇者!」

勇者「盗賊はお前になにも悪いことはしてないだろ?」

魔王「…私に悪いこと…?」

魔王(したではないか…お前にキスを、したではないか!)

魔王「そこをどかないと…お前も殺す!」バチバチ

勇者「だからやめろって!」

盗賊「勇者を傷つけるのは許さない」

勇者「盗賊! お前も入ってくるなって!」

盗賊「私は勇者を助ける身、ここで助けずいつ助ける?」

魔王「最初からお前が目的だ、殺してやる!」

盗賊「こい、小娘」

勇者(くっそ! 止めるしかない!)

盗賊「!」

盗賊(この雷は…なんだ!?)

魔王「お前はすぐに殺さない! 死にたくなるまで痛めつけてやる!」バチリリ

盗賊(まずい…!)

勇者「うおおおおお!」

魔王「!!」ガッシャーン

勇者「うわああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!」

盗賊「! 勇者!」

魔王「勇者!!!」

魔王「勇者! 勇者!」

盗賊「勇者…! 貴様、よくも勇者を!」

魔王「うそだ…うそだ…」

勇者「」

魔王「いやあああああああああああああああああああああああああああ!!! ゆーしゃああああああ!!!!!! しんじゃやだーーー!!」

盗賊「…」

魔王「ごめんなさい! ごめんなさいぃ…!!」

勇者「」

魔王「ゆうしゃあああああ…」

魔王「うっ…うわあああああああああああああ!!!」ダッ

盗賊「お、おい、どこに…!」

魔王「…」

魔王(もう、ゆーしゃには会えない…)

魔王「…」

魔王(どうして、ゆーしゃはあの間に入ってきたんだ…?)

魔王(盗賊が、そんなに大事なのか?)

魔王(私の方が、あんなやつよりゆーしゃのことを知っているのに…)

魔王(…私が、嫌いなのか?)

魔王(…そうだ、きっとそうだ…だから、何も教えてくれないんだ)

魔王(結局…こうなるんだったら…)

魔王「あんなやつに、会いたくなかった…」

魔王(ふふふ…何を言っているんだ、私は…)

魔王「私は勇者を倒したのだ! これで誰も私を止めることはできない!」

魔王「そうだ! 私は全知全能の魔王様だーーーーーーー!」

魔王「ふははははははは! あっーはははははははははは!!」

魔王「はははははははははははは…」

魔王「…ゆーしゃぁ…」

勇者「…ここでやられてたまるか!! 座布団一枚!」

盗賊「!」ビクッ

勇者「…あれ?」

盗賊「…よかった…」ギュッ

勇者「ぬお、盗賊…!」

盗賊「死んでしまったかと思ったぞ…」

勇者「…ここは?」

盗賊「宿だぞ」

勇者「そ、そうか…あいつは?」

盗賊「…あの小娘か…?」

勇者「ああ」

盗賊「走って、どこかに行ってしまったぞ…」

勇者「! どこに?」

盗賊「…森の方に」

勇者「くそ、また追いかけないといけないのか」

盗賊「…追うのか?」

勇者「ああ、当たり前だ」

盗賊「なら、私も手伝う」

勇者「ん? ああ、ありがとう…いてっ!」ビクビク

盗賊「大丈夫か!?」

勇者「か、体が…シビれやがる…」

盗賊「まだ、体は万全の状態ではない! もうすこし休め!」

勇者「あいつは…俺がいないと、ダメなんだ…」

盗賊「…私が、探しだすから」

勇者「それじゃあ、ダメなんだ」

勇者「俺が、あいつを見つけ出さないと、ダメなんだ」

盗賊「…」

勇者「くっそぉ…体を引きずってでも…」ズリズリ

盗賊「ゆ、勇者…!」

勇者「盗賊、お前はやっぱり待っていてくれ」

盗賊「でも…」

勇者「もうすぐ良くなるはずだから…つぅ!」ビリッ

盗賊「…勇者…」

勇者「…くっそ、なんで動かねぇんだ! くそ! くそ!」

盗賊「そんなことをしても脚は動かない! やめろ!」

勇者「俺がもっと強ければ…あいつの手加減した雷なんかで気絶なんてしなかったんだ」

盗賊「勇者…」

勇者「…やっぱ、無理だ…盗賊、肩貸してくれねぇか?」

盗賊「…ああ」

?「はぁ、まったく、世話が焼けるやつよのう」

勇者「そ、その声は…」

賢者「こんな、ある町の宿の廊下で這いつくばっている勇者がどこにいるんじゃ?」

勇者「賢者さん!」

賢者「本当におまえさんは、もっと勇者としてのプライドを持て!」

勇者「か、かたじけないです…でも、俺は…」

勇者「俺は、あいつを探さないと…」

賢者「…はぁ、やはり、おまえさんはいい度胸をしている…私が初めて好きになった男がお前だと言うのも頷ける」

勇者「え? …あれ…なんだか、体が軽い」

賢者「…行ってこい。そして、あやつと一緒に帰ってこい」

勇者「…はい!」

賢者「ふぅ…まったく…本当にあいつは」

勇者「あ、賢者さん! 盗賊のこと、よろしくお願いします!」

賢者「…!」カァァ

賢者「は、早く行け! 馬鹿者!」

勇者「…」

勇者(本当に、あいつは世話が焼けるぜ!)

勇者「おーい!」

勇者「どこだー!?」

勇者(くそ、どこにも見当たらない!)

勇者(この森はあまり広くないからな…大丈夫だとは思うんだが…)

勇者(この前の盗賊達にあったら…! それはまずい!)

賢者「ふむ…おまえさんが勇者にであったのは五日前…か」

盗賊「はい…気を失ってから、四日間、気を失ったままで…」

賢者「むう、それはすごいのう…」

盗賊「正直、あの雷をうけて、生きている方がすごいと思います…」

賢者「それほどにすごかったのか?」

盗賊「…はい」

賢者「…おまえさんは、あいつとはどういう関係なんじゃ?」

盗賊「…私は勇者の、『物』です」

賢者「…ほう、面白いことを言うのう」

勇者「はぁはぁ…」

勇者「! 魔物の死体…!」

勇者「あいつ、食べ物が無いから…!」

勇者「どこだ!?」

勇者(無事でいてくれ!)

勇者「! いた!!!!」

勇者「お~い!」

魔王「…」

勇者「…おい、なんで倒れてんだよ!?」

魔王「…ゆー…しゃ?」

勇者「大丈夫か!? しっかりしろ!」

魔王「ゆーしゃ…生きて…たんだな…」

勇者「どうしたんだ!? 何があったんだ!」

勇者(衣服には血がついてるだけ、どうしたってんだ!?)

魔王「あのね…ゆーしゃ……」

勇者「もーいい! 喋らなくていい!」

魔王「ゆーしゃ…私、守ったよ」

勇者「え?」

魔王「ゆーしゃが…殺すなって…言ったから…」

勇者「じゃあ、あの死体の群れは!?」

魔王「私は…何も、してないよ…私はただ、逃げただけ」

勇者「お前…殺してないってことは…」

魔王「うん、食べてないよ…。だって、食べたら」

魔王「あの動物に、懐かれないでしょ?」

勇者「待ってろ! 今すぐ町に戻って、うまいもんたくさん食わせてやる!」

魔王「…ゆーしゃ、ごめんね」

魔王「ずっと、いってなかったけど…」

勇者「な、なんだ?」

魔王「私、普通のご飯じゃ、まともな栄養、取れないんだ」

勇者「!?」

魔王「だから、いっぱい…たべ…ても………全然、た…りない…んだ…」

勇者「そんな…!」

魔王「ゆーしゃのごはん、おいしかったよ…」

勇者「死ぬな!」

魔王「…ふふっ……泣かないでよ…」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10 11 12