勇者「昼から、隣町まで作物を届けることになってるんだが、お前も行くか?」
魔王「なぜ私が行かなければならない? めんどくさい」
勇者「いや、なら別にいいんだけどさ。そうなると、俺、明日まで帰ってこれないから」
魔王「えっ…それは…いやだ」
勇者「お前の飯も作らなきゃならないから、お前も来てくれたら嬉しいんだけど」
魔王「ふ、ふん! お前の飯はまずいが、腹を膨らせることはできるからな、ま、まあ、行ってやらんでもない、ぞ?」
勇者「そうか、よかった」
魔王「でも、なぜお前が行くのだ?」
勇者「男手が足りないことと、護衛をするためにさ」
魔王「護衛ねぇ…」
勇者「そうだ、この前食った野菜くれたじいさんも来るから、お礼言っとけよ」
魔王「なんでこの私が!」
勇者「じゃあ、もう飯は作ってやらん」
魔王「いいもん! 私はまもの……」
勇者「ん?」
魔王「…なんでも、ない…」
魔王(魔物は食べない! 魔物は食べない!)
勇者「とりあえず、もう用意はできてるから、そろそろ行くぞ」
魔王「む? まだ昼ではないぞ?」
勇者「作物を荷台に置く仕事があるんだ」
魔王「私も手伝うのか?」
勇者「いんや、それは俺とか、男でなんとかするよ」
魔王「私も手伝う」
勇者「え? さっきめんどくさいとか言ってたじゃないか。それに、お前が持てるようなもんはねぇよ」
魔王「なにおう! ならば、絶対に運んでやる!」
魔王「うう…重いぃ」
「嬢ちゃん、もういいよ、手伝ってくれてありがとさん」
魔王「うるさい! 私はなにがなんでも運ぶ! うぬぅう!」
勇者「邪魔になるからそろそろやめとけ!」
魔王「くそうぅ! なんでだぁ!」
勇者「お前の体重より何倍も重いんだ。無理に決まってるだろ」
魔王「勇者よ…私を甘く見ているようだな…」
勇者「ほう?」
魔王「私はまだ本当の力をみせていない! 見ておけ! ふおおおおおお!」
MPが足りません。
魔王「うわぁぁん!」
勇者「はいはい、ごくろうさん。隣町に着いたらアイスでもおごってやるよ」
魔王「え! アイス? アイスとはなんだ?」
勇者「アイスは、アイスとしか言えないだろ」
魔王「むう、もったいぶるな!」
勇者「町に着いたらな」
魔王「うむ、楽しみにしているぞ」
勇者(…こいつも、最近やっと素直になってきたな)
「そうだ、勇者さん、お城に外出許可を取りに行ってくれませんかね?」
勇者「ああ、わかりました」
魔王「私も行く!」
勇者「おう」
勇者(どうか、姫に会いませんように…!)
勇者「すいません、王様に会わせていただけませんか?」
兵「少々お待ちを」
勇者(ふう、これなら会わずにすむな)
姫「勇者様!」
勇者「げっ!」
魔王(! あやつは…)
姫「勇者様、会いとうございましたぁ!」
勇者「ひ、姫様…元気で何よりです…」
姫「昨日は余韻に浸って、何も手がつけられませんでしたわ!」
勇者「そ、そうですか…」
魔王「おい」
姫「? はい?」
魔王「勇者が嫌がってるだろ。やめろ」
姫「あら?」
魔王「勇者から離れろ」
姫「あらあら、怒っていますの?」
魔王「離れろという言葉が聞こえないのか?」バチバチ
勇者(バカ! ここで問題起こしたら洒落になんねーぞっ)
兵「王様の準備が整いました。どうぞこちらへ」
勇者(おっ! ラッキー)
勇者「はい、すぐに行きます」
姫「あら、父上に何を?」
勇者「外出許可を頂きに来たんですよ」
姫「そうでしたか…。なら、私はお邪魔ですわね。それでは…」
勇者「はい、さいならー」
勇者「…ったく、おい! こんなところで問題起こしてどうすんだよ!」
魔王「だって…お前が…嫌そうだったから…」
勇者「ま、まさか、心配してくれたのか?」
魔王「し、してない! お前の心配なんて、誰がするか!」
勇者「そうか、ちょっと残念」
魔王「え?」
勇者「お前が俺のこと、気にかけてくれたのかと思った」
魔王「そ、そそそ、そんなこと、あるわけないだろう!?」
勇者「ま、それでも、助かったよ。ありがとな」
魔王「ふん、礼を言われる筋合いはないわ」
勇者「そうですかい」
勇者「とってきましたよ、ほら、許可書も」
「はい、ありがとさん」
魔王「こ、この荷馬車に乗るのか?」
勇者「俺は護衛だから馬だけどな」
魔王「私も馬がいい!」
勇者「なんでだよ」
魔王「馬、かっこいいから」
勇者「つっても、馬は一頭しかないんだぞ。それ以外は荷台用の馬だし」
魔王「やだやだ! 乗りたい!」
勇者「やれやれ…わかったよ」
魔王「やったー!」
勇者「よいしょっと」
魔王「む、なんでお前も乗るんだ」
勇者「お前一人じゃ心配だからな」
魔王「むぅ…前が見えないではないか」
勇者「我慢しろ。ちゃんと、俺の体につかまっとけよ?」
魔王(あれ? これって、もしかして…勇者と二人?)
魔王「はわわ…」カァァ
勇者「あ? どうした?」
魔王「な、なんでもないわ! バカ!」
勇者(いきなり貶された…)
勇者「よっし、それじゃあ出発しましょう」
「あいよー!」
パカラパカラ
魔王「…」ムッスー
勇者「ん? どした、機嫌悪いな」
魔王「ふんっ、眺めが悪すぎる、それに、鈍い」
勇者「仕方ないだろ。護衛が仕事なんだから。護衛だけ先走ったら意味ねぇだろ」
魔王「ならばこの眺めだけでもどうにかしろ」
勇者「それなら、できるけど、お前がいいのか?」
魔王「どういうことだ?」
勇者「俺の前に行けば、眺めは良くなるけど…」
魔王「…けど?」
勇者「俺に抱かれるみたいなことになる」
魔王「…」ボンッ!
勇者「うお!? 顔がなんかすごい真っ赤!?」
魔王「な、なな、ながめが良くなるなら、そお、そんなこっ、こと、どーでもいいっ!」
魔王(む、むしろ…そっちの方が…嬉しい)
勇者「いいのか?」
魔王「いいと言っているだろうが! は、はははははあ、はやくしりょ!」
勇者「わかった…よいっしょっと」
魔王「はわわわわわ…」カァァァァァ
勇者「どうだ? ちょっと馬の頭が邪魔かもしれないけど、いい眺めだろ?」
魔王「ま、まあ、じぇっけいだな…」
勇者「はは、絶景、な?」
魔王「噛んだだけだ!」
勇者「わりーわりー」
魔王「それにしても、高いな…」
勇者「お前の身長から見えるものなんかたかが知れてるもんな」
魔王「お前なんかだいっきらいだ!」
勇者「あはは、冗談だよ」
魔王「ふんっ! 冗談であろうがなんであろうが、だいっきらいだ!」
勇者「…」
魔王「…?」
勇者「…」
魔王「ど、どうしたんだ?」
勇者「いや…普通に傷ついた」
魔王「そ、そこまで落ち込まなくてもいいだろう!?」
勇者「俺もひどいこと言っちまったから…嫌われても仕方ないよな。悪かった」
魔王「うぅ…」
魔王「そ、そうだ! 勇者! あれは冗談だ! ははは! だまされよってー!」
勇者「え? そうだったのか?」
魔王「はっはっはー! バカめー」
勇者「じゃあお前は俺のことが好きなのか!?」
魔王「へ…」カァァァ
魔王「そ、そんなこと言っておらんだろう!」
勇者「俺は好きだぞ」
魔王「!」ボーンッ
勇者「お、おい!? 気を失ってる!?」
「どうしやした? 勇者さん?」
勇者「あ、こいつが、気絶しちゃって…」
「ありゃ、そうですか」
勇者「すみません、ちょっと先に隣町まで走りますね」
「はい、そろそろですし、大丈夫ですよ」
勇者「ありがとうございます。それじゃあ。はいっ!」
パカラパカラ
魔王「むぅ…」
勇者「お、目が覚めたか?」
魔王「む、ここは?」
勇者「宿だ。ったく、びっくりしたぞ、いきなり気ィ失うから」
魔王「…え? 私は、気を失ったのか?」
勇者「おう、それにしても、まだ、体調は万全じゃないのか?」
魔王「いや、そんなことはないはずだが…」
魔王「というかお前があんなこと…!」
勇者「あんなこと?」
魔王「…な、なんでもないっ」プイッ
「勇者さん、作物無事に届けましたよ」
勇者「あ、すいません、手伝えなくって」
魔王「?」
「お、嬢ちゃん、大丈夫かい?」
魔王「う、うむ」
勇者「はい、安心してくださって、ありがとうございます」
「いいよいいよ、またおじさんの野菜、食べてね」
魔王「う、うむ! …礼を言う、ありがとう」
「ははは、嬉しいよ! それじゃあ」
勇者「はい、さよなら~」
勇者「よくお礼言ったな。偉いぞ」
魔王「…それより、勇者よ」
勇者「あん?」
魔王「…お前は、作物を届けに行かなかったのか?」
勇者「え? ああ、そのことか。そうだけど」
魔王「なんでだ?」
勇者「そりゃ、お前が心配だからに決まってるだろ。それ以外に理由はないよ」
魔王「そうか…」
勇者「?」
魔王「あ、ありが、と」
勇者「…どういたしまして」
勇者「体調はもういいのか?」
魔王「ま、まあな」
勇者「それじゃあ、ちょっと連れて行きたいところがあるんだが」
魔王「…ついていってやっても、いいぞ?」
勇者「そうか、それじゃあ行こう」
魔王「うむ」
魔王「どこに行くつもりだ?」
勇者「ついてくればわかる」