勇者「狙撃しろ、魔法使い」 3/11

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女戦士「ったく……私ってどうしてこう。ああもう」

女戦士「……ってあれ」

女戦士「なんか居るけど……んー……遠すぎて、見えない」

女戦士「……でも、あの体格の大きさ……もしかして……」

女戦士「……」

勇者「戻ってくれたんだ」

僧侶「よかったです」

魔法使い「……あの」

女戦士「なんだい?」

魔法使い「さっきは、ごめんなさい」

女戦士「いや、ごめん。私も悪かった」

魔法使い「……」

僧侶「ああぁ……。これも神の与えた試練だったのですね」

勇者「僧侶さんぶっ飛んでるなぁ」

女戦士「そうそう。ちょっとこっちに来て欲しいんだけど」

勇者「どうした?」

女戦士「なぁ、あれが見えるか? あの崖んとこ、変にでかいのがあるだろ」

勇者「確かに」

僧侶「でも、遠すぎて何が何だか……」

女戦士「私の勘じゃあ、もしかするとあのバカでかい化物がキマイラだと思うんだけど」

勇者「こっちから微かに見える程度だし……向こうもほとんど気付いてない距離だな」

魔法使い「……あれ、キマイラ」

僧侶「え!? 魔法使いさん、見えるんですか!?」

魔法使い「うn……。私に、任せて。準備する」

女戦士「な、なんだ? 今から大工でもすんのか?」

女戦士「なんだそりゃ。何の鉄の筒だい?」

勇者「これ? よくわからんけど、拾った。使い方はまぁ、火薬を詰めて、そこに火を灯して、爆発で弾を飛ばす」

女戦士「はい? もうちょっと判る言葉で頼む」

僧侶「そ、そうです。わたくしも今の説明じゃ何がなんだか」

勇者「んーと、投石器や大砲はわかるかな? あとはまぁ、火縄銃とか鉄砲とか」

女戦士「なんだ、それか。私も何度か見たことはあるけど、こんな距離でも届くのかい?」

僧侶「そうですよ。いくら鉄砲でも……。なんか変に筒が長いですけど」

勇者「まぁそこは、彼女の魔法使いとしての技術だよ」

女戦士「なんだかまどろっこしいなぁー」

魔法使い「……黙って」

女戦士「うお? あ、ああ……」

魔法使い「……」

女戦士「(なんであいつ、うつ伏せ姿勢なんだよ)」

僧侶「(どうしてうつ伏せ姿勢なんでしょう)」

勇者「……」

パァンっ!

女戦士「うっせぇ!!」

僧侶「ひぅ!」

勇者「……どうだった」

魔法使い「……ヘッドショット完了。キマイラ、沈黙」

女戦士「……は?」

女戦士「そ、そんなはずないだろ! 魔法の火でも、エルフの弓でもあの皮を貫くのは難しいってのに!」

勇者「一般的にキマイラとか上位の魔物はそうだな」

僧侶「そうです! ましてや、こんな遠距離での鉄砲の弾なんて……」

勇者「その分、反動が凄いんだよ」

魔法使い「手、しびれた」

女戦士「……もしかして、うつ伏せなのは反動を殺すため?」

魔法使い「……」

女戦士「マジかよ……。でも、信じられないね。本当にあいつは死んだのか?」

僧侶「そうです。もし死んでいなければ、麓の町の人たちも危ないと思います」

勇者「そこまで言うなら、見に行くか?」

魔法使い「……」

女戦士「ああ、見に行こう!」

勇者「でも、きっと大変なことになってるからこっそりな」

女戦士「あ、ああ……?」

魔物A「き、キマイラ様がー!」

魔物B「死んでおられる……。額から血を流して……」

魔物C「とととと、とにかく魔王さまに伝令だ!」

女戦士「……嘘だろ」

僧侶「……そんな」

勇者「さぁ、あまり長居しても危ないし……行こう」

――山を越えた先の道――

女戦士「私、あなたを侮ってた」

魔法使い「……」

女戦士「なんだよ、すごいじゃねーか!! そんなすげぇのあんなら、最初っから使えばいいのに!」

僧侶「あ、でも、なんか準備とかごちゃごちゃしてましたね」

勇者「それが欠点の一つなんだよなぁ。だから、奇襲とか突然現れる魔物にはどうしても対抗できない」

魔法使い「……」

勇者「しかし、魔法使いのおかげで此処まで来れたんだけどな」

魔法使い「……勇者」

僧侶「……本当にすごかった」

女戦士「ああ。あのキマイラと対峙せずに勝つなんて」

勇者「たくさんの欠点があるけど、一つの利点がすごく大きいのが魔法使いなんだ」

魔法使い「あ、ありが、とう……」

勇者「さてと、山も無事に越えたし」

女戦士「わ、私って必要だったか?」

僧侶「……」

勇者「なにを! 女戦士さんがいなかったら、後方を守れないし。僧侶さんがいなかったら、回復も支援もなかったじゃないか!」

女戦士「もしかして、私って魔法使いちゃんの護衛だったのか!?」

僧侶「わ、私も……似たような……」

勇者「……」

魔法使い「……ちゃん」

女戦士「あははは! こりゃあいい! なぁ、私も勇者さまのパーティーに入れてくれよ! 私、この子なら守ってあげたい」

僧侶「そんな! 私もお願いします。あなたのその力があれば、魔王だって倒せるのではないかと……」

勇者「……どうする?」

魔法使い「……いい」

女戦士「おお、ありがとよ!」

僧侶「ありがとうございます」

魔法使い「……」

勇者「これでやっとパーティーらしくなったな」

魔法使い「うん」

女戦士「ところで、それがあるなら魔法っていらなくないか?」

僧侶「あ、そういえば……」

魔法使い「えと、その……」

勇者「めちゃくちゃ高度な魔法技術を使ってるぞ?」

女戦士「……は?」

勇者「あの一発のために使った魔法の種類と繊細な調節は、魔法使いにしか判らないよ。その気になれば、飛距離すら調節できるもんな」

魔法使い「褒めすぎ」

女戦士「……難しい話しはよくわかんねーや!」

僧侶「じゃあ、きっと学院などの学び舎でもかなりの優等生だったのでしょうね」

魔法使い「……勇者」

勇者「言ってもいいのか?」

僧侶「えっと?」

魔法使い「うん」

勇者「そうか。こいつ、学院では落ちこぼれの出来損ないって言われてたんだよ」

僧侶「え」

女戦士「そ、そんなばかな!」

勇者「本当。戦闘中でも見たと思うけど、火の魔法でも戦闘として使うにはあまりにも弱いんだよ」

魔法使い「……」

勇者「でもその分、魔法を精密に扱えるからその銃を使えるんだよ」

僧侶「そんなことが……」

勇者「でも、これは魔法使いにとってそんなに良い思い出じゃないから、これくらいでいいか?」

僧侶「すみません」

魔法使い「……いい」

女戦士「さぁて、もうすぐ街が見えるぞ! 港町だ、魚が上手いだろうなぁー」

僧侶「ふふ、女戦士さんって食い意地が張ってるんですね」

勇者「あはは」

女戦士「なんだよぉー」

魔法使い「ふふ」

女戦士「おお、魔法使いちゃんも笑ったな!……あはは!!」

――港町――

女戦士「くぅ~、潮風が気持ちいいな!」

僧侶「あああ、髪の毛がバシバシに……」

魔法使い「……」

勇者「とりあえず、向こうの大陸に渡るから、船の手続きをしてくるよ」

女戦士「船に乗るのか! 私は初めてだ!」

僧侶「……久しぶりです。今、世界各地を巡礼しているわたくしは、再び船へ。神よ、加護を」

魔法使い「……」

勇者「みんなテンション上がってるね、いいことだ!」

勇者「すぐに手続きは終わると思うから、どっかで飯でも食べててくれ」

女戦士「おう、任せろ!」

………

女戦士「そうそう。ずっと聞きたいことがあったんだけど」

魔法使い「……」

女戦士「魔法使いちゃんにだよ!」

魔法使い「わ、わたし?」

女戦士「そうそう。あの勇者さまとできてんの?」

魔法使い「……なんで?」

僧侶「そういえば、わたくしも気になっていました! だって、あの晩いっしょに寝ていたのでしょう?」

魔法使い「……うん」

僧侶「それってやっぱり恋仲ってことなんじゃ」

魔法使い「違う」

女戦士「とは言いつつも? ほら、こういうのはっきりさせておいた方が」

魔法使い「違う」

僧侶「そ、そう……」

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