女戦士「ったく……私ってどうしてこう。ああもう」
女戦士「……ってあれ」
女戦士「なんか居るけど……んー……遠すぎて、見えない」
女戦士「……でも、あの体格の大きさ……もしかして……」
女戦士「……」
勇者「戻ってくれたんだ」
僧侶「よかったです」
魔法使い「……あの」
女戦士「なんだい?」
魔法使い「さっきは、ごめんなさい」
女戦士「いや、ごめん。私も悪かった」
魔法使い「……」
僧侶「ああぁ……。これも神の与えた試練だったのですね」
勇者「僧侶さんぶっ飛んでるなぁ」
女戦士「そうそう。ちょっとこっちに来て欲しいんだけど」
勇者「どうした?」
女戦士「なぁ、あれが見えるか? あの崖んとこ、変にでかいのがあるだろ」
勇者「確かに」
僧侶「でも、遠すぎて何が何だか……」
女戦士「私の勘じゃあ、もしかするとあのバカでかい化物がキマイラだと思うんだけど」
勇者「こっちから微かに見える程度だし……向こうもほとんど気付いてない距離だな」
魔法使い「……あれ、キマイラ」
僧侶「え!? 魔法使いさん、見えるんですか!?」
魔法使い「うn……。私に、任せて。準備する」
女戦士「な、なんだ? 今から大工でもすんのか?」
女戦士「なんだそりゃ。何の鉄の筒だい?」
勇者「これ? よくわからんけど、拾った。使い方はまぁ、火薬を詰めて、そこに火を灯して、爆発で弾を飛ばす」
女戦士「はい? もうちょっと判る言葉で頼む」
僧侶「そ、そうです。わたくしも今の説明じゃ何がなんだか」
勇者「んーと、投石器や大砲はわかるかな? あとはまぁ、火縄銃とか鉄砲とか」
女戦士「なんだ、それか。私も何度か見たことはあるけど、こんな距離でも届くのかい?」
僧侶「そうですよ。いくら鉄砲でも……。なんか変に筒が長いですけど」
勇者「まぁそこは、彼女の魔法使いとしての技術だよ」
女戦士「なんだかまどろっこしいなぁー」
魔法使い「……黙って」
女戦士「うお? あ、ああ……」
魔法使い「……」
女戦士「(なんであいつ、うつ伏せ姿勢なんだよ)」
僧侶「(どうしてうつ伏せ姿勢なんでしょう)」
勇者「……」
パァンっ!
女戦士「うっせぇ!!」
僧侶「ひぅ!」
勇者「……どうだった」
魔法使い「……ヘッドショット完了。キマイラ、沈黙」
女戦士「……は?」
女戦士「そ、そんなはずないだろ! 魔法の火でも、エルフの弓でもあの皮を貫くのは難しいってのに!」
勇者「一般的にキマイラとか上位の魔物はそうだな」
僧侶「そうです! ましてや、こんな遠距離での鉄砲の弾なんて……」
勇者「その分、反動が凄いんだよ」
魔法使い「手、しびれた」
女戦士「……もしかして、うつ伏せなのは反動を殺すため?」
魔法使い「……」
女戦士「マジかよ……。でも、信じられないね。本当にあいつは死んだのか?」
僧侶「そうです。もし死んでいなければ、麓の町の人たちも危ないと思います」
勇者「そこまで言うなら、見に行くか?」
魔法使い「……」
女戦士「ああ、見に行こう!」
勇者「でも、きっと大変なことになってるからこっそりな」
女戦士「あ、ああ……?」
魔物A「き、キマイラ様がー!」
魔物B「死んでおられる……。額から血を流して……」
魔物C「とととと、とにかく魔王さまに伝令だ!」
女戦士「……嘘だろ」
僧侶「……そんな」
勇者「さぁ、あまり長居しても危ないし……行こう」
――山を越えた先の道――
女戦士「私、あなたを侮ってた」
魔法使い「……」
女戦士「なんだよ、すごいじゃねーか!! そんなすげぇのあんなら、最初っから使えばいいのに!」
僧侶「あ、でも、なんか準備とかごちゃごちゃしてましたね」
勇者「それが欠点の一つなんだよなぁ。だから、奇襲とか突然現れる魔物にはどうしても対抗できない」
魔法使い「……」
勇者「しかし、魔法使いのおかげで此処まで来れたんだけどな」
魔法使い「……勇者」
僧侶「……本当にすごかった」
女戦士「ああ。あのキマイラと対峙せずに勝つなんて」
勇者「たくさんの欠点があるけど、一つの利点がすごく大きいのが魔法使いなんだ」
魔法使い「あ、ありが、とう……」
勇者「さてと、山も無事に越えたし」
女戦士「わ、私って必要だったか?」
僧侶「……」
勇者「なにを! 女戦士さんがいなかったら、後方を守れないし。僧侶さんがいなかったら、回復も支援もなかったじゃないか!」
女戦士「もしかして、私って魔法使いちゃんの護衛だったのか!?」
僧侶「わ、私も……似たような……」
勇者「……」
魔法使い「……ちゃん」
女戦士「あははは! こりゃあいい! なぁ、私も勇者さまのパーティーに入れてくれよ! 私、この子なら守ってあげたい」
僧侶「そんな! 私もお願いします。あなたのその力があれば、魔王だって倒せるのではないかと……」
勇者「……どうする?」
魔法使い「……いい」
女戦士「おお、ありがとよ!」
僧侶「ありがとうございます」
魔法使い「……」
勇者「これでやっとパーティーらしくなったな」
魔法使い「うん」
女戦士「ところで、それがあるなら魔法っていらなくないか?」
僧侶「あ、そういえば……」
魔法使い「えと、その……」
勇者「めちゃくちゃ高度な魔法技術を使ってるぞ?」
女戦士「……は?」
勇者「あの一発のために使った魔法の種類と繊細な調節は、魔法使いにしか判らないよ。その気になれば、飛距離すら調節できるもんな」
魔法使い「褒めすぎ」
女戦士「……難しい話しはよくわかんねーや!」
僧侶「じゃあ、きっと学院などの学び舎でもかなりの優等生だったのでしょうね」
魔法使い「……勇者」
勇者「言ってもいいのか?」
僧侶「えっと?」
魔法使い「うん」
勇者「そうか。こいつ、学院では落ちこぼれの出来損ないって言われてたんだよ」
僧侶「え」
女戦士「そ、そんなばかな!」
勇者「本当。戦闘中でも見たと思うけど、火の魔法でも戦闘として使うにはあまりにも弱いんだよ」
魔法使い「……」
勇者「でもその分、魔法を精密に扱えるからその銃を使えるんだよ」
僧侶「そんなことが……」
勇者「でも、これは魔法使いにとってそんなに良い思い出じゃないから、これくらいでいいか?」
僧侶「すみません」
魔法使い「……いい」
女戦士「さぁて、もうすぐ街が見えるぞ! 港町だ、魚が上手いだろうなぁー」
僧侶「ふふ、女戦士さんって食い意地が張ってるんですね」
勇者「あはは」
女戦士「なんだよぉー」
魔法使い「ふふ」
女戦士「おお、魔法使いちゃんも笑ったな!……あはは!!」
――港町――
女戦士「くぅ~、潮風が気持ちいいな!」
僧侶「あああ、髪の毛がバシバシに……」
魔法使い「……」
勇者「とりあえず、向こうの大陸に渡るから、船の手続きをしてくるよ」
女戦士「船に乗るのか! 私は初めてだ!」
僧侶「……久しぶりです。今、世界各地を巡礼しているわたくしは、再び船へ。神よ、加護を」
魔法使い「……」
勇者「みんなテンション上がってるね、いいことだ!」
勇者「すぐに手続きは終わると思うから、どっかで飯でも食べててくれ」
女戦士「おう、任せろ!」
………
女戦士「そうそう。ずっと聞きたいことがあったんだけど」
魔法使い「……」
女戦士「魔法使いちゃんにだよ!」
魔法使い「わ、わたし?」
女戦士「そうそう。あの勇者さまとできてんの?」
魔法使い「……なんで?」
僧侶「そういえば、わたくしも気になっていました! だって、あの晩いっしょに寝ていたのでしょう?」
魔法使い「……うん」
僧侶「それってやっぱり恋仲ってことなんじゃ」
魔法使い「違う」
女戦士「とは言いつつも? ほら、こういうのはっきりさせておいた方が」
魔法使い「違う」
僧侶「そ、そう……」