勇者「狙撃しろ、魔法使い」 5/11

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魔法使い「勇者さまが、敵の動きを封じている」

魔法使い「……息を吸って、止める」

魔法使い「すぅー……んっ」

魔法使い「(敵の羽の動きを見て、羽ばたきの上下幅を予測して……)」

魔法使い「(――……いまっ!)」

パァンッ!!

魔法使い「……ターゲット、沈黙。状況、終了」

魔法使い「あと、ちょっぴり寂しかった」

勇者「これで、もう勇者が旅に出ているってバレてしまった」

女戦士「おお、指揮官を失った魔物どもが慌てふためいて逃げて行くぞ」

僧侶「はぁ……。これで終わり、ですよね」

勇者「おう! とりあえず、ちょっと休もう」

村人A「うおおおお、勇者さまだったのかーーーー!!」

村人B「街が守られたぞーーー!!」

勇者「ゆっくり休めそうに無い……。だから、勇者って名乗りたくないのになぁ」

村人A「いやぁ、ありがとうございます! まさか勇者さまであられたとは」

勇者「いいや、盗賊だ」

村人B「またまた。ほら、こっちに来てくださいよ!」

勇者「でも、船が」

船長「船なんざいつでも出してあげます。今は、とにかく宴です!」

勇者「魔王討伐っていう大事な」

村娘「勇者さま」

勇者「抱き付かないで!」

女戦士「……なにあれ」

僧侶「勇者さま……。わたくしどもは宿屋に戻りましょう」

――宿屋――

勇者「死ぬかと思った」

女戦士「お疲れ様ー」

僧侶「よくぞご帰還されました」

魔法使い「……」

勇者「君たちというのは……」

女戦士「流石にあれはちょっと……」

僧侶「わたくしも」

勇者「でもまぁ、支援金やら食料やらは大量に手に入った」

魔法使い「そう。よかった」

勇者「でも金輪際、名乗りたくない」

女戦士「なんでさ。それだけ食い物と金が手に入るなら、どんどん名乗った方がいいじゃねえのか?」

勇者「魔法使いが怖がる」

女戦士「ああ」

僧侶「お優しいのですね」

魔法使い「……勇者さまだもの」

僧侶「あらあら、ふふ」

女戦士「熱いねぇ」

魔法使い「そんなんじゃない」

勇者「とにかく、明日こそ出航だからな!」

――船――

女戦士「おお、揺れる揺れる! あはは!」

勇者「はしゃぎすぎだろ。楽しいけどな!」

僧侶「あの方たちは元気ですね」

魔法使い「うん」

僧侶「ところで、今の間にお聴きしたいことがあるのですが」

魔法使い「……?」

僧侶「あなたはどれほど精密に魔法を使えるのですか?」

魔法使い「……火の魔法だと、これくらい」

僧侶「……なんと、これは可愛い。まさか火でウサギができるなんて」

魔法使い「でも、これが最大出力」

僧侶「……」

魔法使い「……」

僧侶「あ、あとそうそう。鉄砲を打つときってどんな魔法を使っているんですか?」

魔法使い「色々」

僧侶「えっと、ですのでその色々をご教授願えればなと」

魔法使い「色々は色々。……視力上げたり」

僧侶「……あの、わたくしもそれを使えれば戦闘で役に」

魔法使い「……」

僧侶「……分かりましたのでそんな泣きそうな目をしないでください、心が痛みます」

 

勇者「おーおー、あの人見知りがあんなに他人といっしょに……あ」

女戦士「どうした? 人見知りが何かあるのか?」

勇者「あの、このことは秘密に」

女戦士「でもこの前、魔法使いちゃんに教えてもらったよ? 自分が人見知りだって」

勇者「そうだったんだ……」

女戦士「そんなに隠すことなのか?」

勇者「いや。魔法使いはなんか知らないけど、人見知りを恥ずかしがって隠したがるから」

女戦士「なんでだろうなー」

勇者「わからない」

僧侶「えと、どうすれば精密に魔法を使えますか?」

魔法使い「……気合いと根性」

僧侶「色々とお話しを聞かせて頂けて、勉強になりました」

魔法使い「そう」

僧侶「ちょっと風に当たってきます」

魔法使い「気をつけてね」

勇者「あ、僧侶さん」

僧侶「そんな、他人行儀です。呼び捨ててください」

勇者「そうかな?」

女戦士「じゃあ私も女戦士って呼んでくれよな!」

勇者「わかった。これからはそうするよ!」

勇者「ところで、魔法使いとどんな話しをしていたんだ?」

僧侶「はい。魔法の精密さを少々。あと、あの鉄砲ではどのような魔法を使っているのかなど」

女戦士「おお、おお、勉強熱心だね」

勇者「それで、どうだった?」

僧侶「それが……。鉄砲で使う魔法を聞いたら泣かれそうになりました」

勇者「あー」

僧侶「何故でしょうか……。もしかして、自分の立場がなくなるからと思って」

勇者「それは違うよ。魔法使いの鉄砲を使うときの魔法を聞いたことあるけど、3時間くらいは掛かったなぁ」

僧侶「なんともそれは」

女戦士「おい、よだれよだれ」

勇者「だから、それくらい喋らなくちゃと思ったら泣きたくなったんじゃないかな」

僧侶「……いつか、聞きだして見せます」

女戦士「そんなに難しいこと知りたがらなくてもいいんじゃないかなぁ」

魔法使い「私もそう思う」

僧侶「あ、魔法使いさん! でも、わたくし諦めませんから!」

――夜 船上――

勇者「……」

魔法使い「勇者さま?」

勇者「なんだ、眠れないのか」

魔法使い「……はい」

勇者「じゃあちょっと風に当たるか?」

魔法使い「いいんですか?」

勇者「ああ、いいよ」

魔法使い「……やったぁ」

勇者「本当に人前以外だと変わるね」

魔法使い「うぅ、言わないで……」

勇者「最近はどうだい? 仲間も増えたけど」

魔法使い「はい。こんな出来損ないの私でも仲良くしてくれます……」

勇者「だからさ、魔法使いは出来損ないじゃないよ」

魔法使い「……はい、ふふ」

勇者「少しは自信がついたかな」

魔法使い「……そ、それは……うぅ」

勇者「少しずつ付ければいいさ。それに、仲間たちともゆっくりと打ち溶け合えばそれでいい」

魔法使い「ありがとうございます」

勇者「頼りにしてるからね」

魔法使い「……はい」

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