勇者「狙撃しろ、魔法使い」 1/11

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勇者「……よく狙え」

魔法使い「……」

勇者「人質を傷付けず、敵に気付かれず……」

魔法使い「……」

勇者「狙撃しろ、魔法使い」

魔法使い「……はい」

パァンっ!

勇者「よし、ヘッドショットを確認した」

魔法使い「……ふぅ」

勇者「幸いして、人質は無事だ」

魔法使い「良かったです」

勇者「んじゃあ、ちょっくら行ってくるわ」

魔法使い「はい。私は銃器の片付けをしておりますので」

勇者「あいよ」

魔法使い「……」

――

村人A「ありがとうごぜーした。これはほんの些細なお礼です」

勇者「いやいや。ありがとうございます」

魔法使い「……」

村人A「それにしても、まさか山賊が立てこもりをするなんざ……」

村人B「ほとんどを勇者さまが退治してくれたけど、一人だけ逃げ延びてあの小屋に逃げ込んだ時はもう……」

勇者「人質が無事だったので、いいじゃないですか」

村人A「ええ、ええ! これも全部、勇者さまと魔法使い殿のおかげでごぜーやす!」

魔法使い「……」

勇者「ちょ、ちょっとは愛想よく」

魔法使い「ども」

村人A「い、いやはや! 今夜はもう遅い、宿をお使いくだせぇ」

勇者「だとさ、魔法使い」

魔法使い「……」

勇者「使わせてもらおう」

魔法使い「……うん」

勇者「じゃあ、そこまで案内お願いしてもいいですか?」

村人A「ええ、ええ! こっちでやす、付いてきてくだせ」

勇者「行くぞ」

魔法使い「はい」

村人A「それにしても、不思議なもんです」

魔法使い「……」

村人A「魔法使い殿は、杖を持たずにそのような長い鉄の筒をお使いになられるんですね」

魔法使い「……」

村人A「それに、美人な女子ときておられる。すごいもんで」

魔法使い「……ありがと」

勇者「照れてるのかー?」

魔法使い「うっさい」

勇者「痛い、蹴らないで」

村人A「な、仲が宜しいようで……」

村人A「ここが宿でございやす」

勇者「ありがとう。今日はゆっくり寝るよ」

魔法使い「感謝します」

村人A「ごゆるりと」

主人「話しには聞いてるよ。今日はサービスだ、泊まっていきなされ」

勇者「感謝するよ」

魔法使い「……」

主人「しかし、申し訳ないんだが部屋が一つしかなくてね。何分小さい宿屋だから」

勇者「どうする?」

魔法使い「……問題ないです」

勇者「じゃあ、利用させてもらいます」

勇者「……はぁ。やっと一息ついたな」

魔法使い「そうですね」

勇者「……なぁ、その人見知りどうにかならないのか?」

魔法使い「……だって」

勇者「難儀だなぁ。とりあえず、今日はお互い疲れたし寝ようか」

魔法使い「……」

勇者「なんだよ」

魔法使い「襲わないで下さいね?」

勇者「襲わないよ!?」

――翌日

勇者「さて、行こう」

魔法使い「はい」

村人A「またうちに寄ってくだせー!」

魔法使い「……っ」

勇者「びびんなよ魔法使い……。はい、機会があれば是非」

勇者「んー、いい天気だ」

魔法使い「そうですねー」

勇者「人前以外だと、性格変わるよなお前……」

魔法使い「……うぅ、すみません」

勇者「なんでだよ」

魔法使い「だ、だって勇者さまも知ってるじゃないですか……」

勇者「やっぱりまだトラウマがあるの?」

魔法使い「……は、はい」

魔物が現れた

勇者「獣型だな。魔法使い、火炎魔法だ!」

魔法使い「は、はいっ……」

ボフ

魔法使い「……ごめんなさい」

勇者「だ、大丈夫! とりゃー!」

魔物にダメージ

魔物はたおれた

勇者「群れじゃなくて、単体でよかった」

魔法使い「うぅ、役立たずでごめんなさい……」

勇者「いやいや。昨日のあれでレベル上がったと思った俺が悪かったよ」

魔法使い「勇者さまに気を使わせてしまうなんて……」

勇者「だ、大丈夫だからね!?」

魔法使い「……出来損ないでごめんなさい」

勇者「ブルーになんなよぉ! 魔法使いが、それで苛められてたのは知ってるけどさ……」

魔法使い「せ、せめて料理くらいはっ」

勇者「えっと、こいつを食うの?」

魔物だったもの

魔法使い「……勇者さまが言うなら」

勇者「言わないよ」

魔法使い「……ですよね」

魔法使い「それに、魔銃も……銃器のセットに時間掛かるし……」

勇者「遠距離支援だからなぁ」

魔法使い「やっぱり落ちこぼれなんですね、私」

勇者「テンションを上げろ! 君だって、魔法の精密性だけなら誰にも負けてないだろ?」

魔法使い「……」

勇者「だから、あんなに精密かつ弓でも届かない距離や、狭い隙間を縫って狙撃できるんだし」

魔法使い「……励ましてくれて、ありがとうございます」

勇者「と、とにかく! 先を急ごう!」

魔法使い「……はい」

勇者「もうすぐ、山を登るぞ。確か、山越えには魔王郡の幹部がいたって噂が」

魔法使い「帰りましょう」

勇者「なんでだよ! 普通は勇者一向なら、蹴散らしましょう、とかだろ!」

魔法使い「無理です、無理っこです。せ、せめてもう一人前衛が、もしくは支援魔法を使える僧侶とか……」

勇者「すごく必死だな魔法使い」

魔法使い「え? あ……」

勇者「……はぁ、わかったよ。あの山の麓の町に、酒場があるって聞いた。だから、そこで傭兵でも雇おう」

魔法使い「あ、ありがとうございますっ」

勇者「……ま、仕方ないか」

魔法使い「……すみません」

勇者「いや、謝らなくてもいいよ。じゃあ目標は変更だ、あの麓の町に行こう」

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