隊長「な、何を・・・・・・。 そ、そんな事、言わないでください!!」
隊長「呪術師は、倒したのですよね!? なら、あとはもう、あなたの人生を歩むだけじゃないですか・・・・・・っ!! 王もきっと、それをお望みのはずです!!」
王子「あんなことをした私にかい?」
隊長「もちろんです!! 王はいつでも、王子の身をあんじていました! これからだってそうです!!」
王子「そう、だね。 本当に、そうだ・・・・・・。 そう出来たら、本当によかった・・・・・・」
隊長「王子!!」
王子「だけど、今日まで生きてこれただけでも、良しとしなくては、兄さんに申し訳ない」
隊長「やめて下さい!! これからなんです!! 国も、あなたの人生も、あなたの兄君が歩めなかった未来も!! 今日から始まるんです!!」
王子「あぁ。 君の、言う通りだ。 だから・・・・・・。 見られない僕と、兄さんの代わりに、新しく歩みだした国を、よろしく頼むよ」
隊長「やめて、下さい。 そんな、そんなことをどうか、おっしゃらないで・・・・・・」 ポロポロ
王子「どうか、泣かないでくれ。 どんな時も、いつも一緒にいてくれた・・・・・・君には本当に感謝している」
隊長「やめ、て、くださ、い・・・・・・」 ポロポロ
王子「隊長・・・・・・」
―――王子は、自分の腕に巻いていたひとつの組紐を外す。
王子「ずいぶん遅れたけど、どうか、受け取って欲しい。 君に贈れる、最初で最後の男の見栄だよ」
隊長「・・・・・・っ・・・・・・?」
王子「組紐・・・・・・約束だったろ。 ずっと渡せなくて、すまない」
隊長「・・・・・・組、紐?」
王子「女性への贈り物にしては、ムードが足りなかったかな。 これじゃあ、兄さんに、怒られてしまうな」
隊長「覚えて、いらしたのですか?」
王子「もう、ずっと前に完成はしていたんだ。 ただ、贈り物って、したことなくてね。 情けないだろ。 一国の王子が、贈り物一つで臆病になるなんて。 恥ずかしくて、ずっと自分の腕に巻いていたんだ」
隊長「王子・・・・・・」
王子「さぁ、腕をだして」
隊長「・・・・・・ありがとう、ございます」
王子「よかった・・・・・・。 よく似合うよ。 君の願いが、いつか叶うといいね」
隊長「私の願いは・・・・・・っ」
王子「本当に、今まで、ありがとう。 どれだけ言葉を飾っても、僕のこの思いは、全てを表現しきれないだろう」
―――隊長は感極まり、これ以上の泣き顔は見せまいと、顔を俯かせる。
隊長「私も、今日まで良くしていただいた王子には、本当に・・・・・・本当に・・・・・・」
王子「ああ。 ありがとう。 “僕”はそんな君の事が・・・・・・」
―――夜が明けた。
太陽の日差しが国中を、そして、王子の病室を明るく照らし出す。
隊長「・・・・・・王子?」
―――太陽の様な存在と呼ばれた青年の腕から、長年巻き続けてきた組紐が切れ、地面に落ちる。
そして、隊長が顔を上げた時には、王子の体は霧のように・・・・・・幻であったかのように、ベッドの上から消えていた。
隊長「・・・・・・っ、う、ぐ、ぐすっ・・・・・・う・・・・・・っ」
彼は、生涯を捧げた国を、いつまでも照らし続けるだろう。
この先、何年、何十年、何百年と。
いつまでも、いつまでも・・・・・・。
エピローグ
―――王は、王子の死を正式に発表。
国民は王子の死を知らされ、国中が深い悲しみに包まれた。
その際、国の指導者として、王と亡き王子からの宣言により、隊長が任されることとなった。
鍛冶屋は一命を取り留め、長い期間、半ば強制的に騎士によって寝かしつけられ、傷は無事に完治した。
国は鍛冶屋に多大な報奨金を与えるとしたが、店の事が心配だと逃げるようにして自らの家へと帰った。
そして、近頃の鍛冶屋はというと・・・・・・。
失った自分の右腕を腕を作るために、一人、工房にこもっていた。
そして・・・・・・。
鍛冶屋「ったく、やっぱり、片手じゃ勝手が違うな・・・・・・」 カン カン カン
鍛冶屋「それに、構造もなんとなくでしか分からねぇものを一から作るってのは、なかなか厳しいな・・・・・・」 コツ コツ コツ
鍛冶屋「まぁけど、新規開拓になるかもしれねぇし、いっちょ、長い目を見て頑張るか・・・・・・」 カン カン カン
騎士「ほう、なんなら、手伝ってやってもいいんだぞ?」
鍛冶屋「はいはい。 そうするくらいなら、猫の手を借りたほうがまだマシ・・・・・・って」
騎士「久しいな、鍛冶屋」
鍛冶屋「お、おお。 久しぶりだな。 って、あれからそんなに日は経っていないと思うけど?」
騎士「そうか?」
鍛冶屋「ていうかお前。 確か今は、隊長さんの仕事を手伝ってるんじゃ・・・・・・こんな所で油を売ってていいのか?」
騎士「うむ。 少し暇をもらってきた。 今頃どうしているかとな。 そういえば、隊長が今度顔を出せと言っていたぞ」
鍛冶屋「隊長が?」
騎士「ああ。 あれから一度も会っていないのだろう?」
鍛冶屋「そういえばそうだな。 とは言っても、今じゃ国の指導者だからなぁ」
騎士「ふふ、そんな事を気にする人ではない」
鍛冶屋「さようかい」
騎士「で、今何をしているんだ?」
鍛冶屋「何をしているもなにも、本業の合間を縫って、自分の手を“ハンドメイド”しているところだ」
騎士「ほう・・・・・・。 ところで、その腕、いつから・・・・・・」
鍛冶屋「・・・・・・?」
騎士「いや・・・・・・、その・・・・・・、言いにくいことなら・・・・・・」
鍛冶屋「別に、そんな大したことじゃねぇよ」
騎士「そう、なのか?」
鍛冶屋「・・・・・・俺はな、小さい頃の記憶が無いんだ」
騎士「記憶が、無い?」
鍛冶屋「ああ。 朧げには覚えているんだ。 だが、ほとんど無いといってもいい」
鍛冶屋「かすかに親父、のような人の顔は、思い出せ・・・・・・そうで、思い出せないんだ。 あと、兄弟が・・・・・・いたようないなかったような・・・・・・」
騎士「はっきりしないな」
鍛冶屋「そうなんだよ。 けどな・・・・・・」
騎士「けど?」
鍛冶屋「なんとなくだけど、幸せだったような気はするんだ・・・・・・」
騎士「・・・・・・そうか」
鍛冶屋「で、話を戻すが、記憶を無くして、気づいた時にはすでに、腕はなかった。 それで、目が覚めた時から世話をしてくれた師匠が、その後腕を作ってくれたんだ」
鍛冶屋「なんでも、片腕をなくした俺を担いでいた男が、師匠に頼み込んだみたいなんだ。 “こうするしかなかった。 この子を頼む”ってな」
鍛冶屋「師匠はその男と知り合いだったみたいでよ。 俺を引き受けて、鍛冶屋に育て上げた。 ていうか、俺が師匠のものまねをしている間に、のめり込んでいったんだけどな」
騎士「その男、もしかして・・・・・・」
鍛冶屋「どうだかなぁ。 親父なのかもしれないし、そうじゃないかもしれない。 まぁ、今となってはどうでもいいことだ」
鍛冶屋「腕のほうは、年齢に合わせて、幾つもストックを作ってくれていたんだが、あの日、キマイラに食われた腕が最後の腕だったんだ」
騎士「そう、だったのか・・・・・・」
鍛冶屋「だからよ、まぁ、こうして新しい腕を作っているってわけだよ」
騎士「なるほどな」
騎士「・・・・・・そ、そういえば、以前、私に鍛冶をさせてくれると言っていたな?」
鍛冶屋「あぁ? そんなこと言ったか?」
騎士「・・・・・・言った。 絶対に言った」
鍛冶屋「いや、でも、今は・・・・・・」
騎士「さて、じゃあさっそく、鍛冶屋の腕を作るか。 この金槌を使えばいいのか?」
鍛冶屋「あ、ちょっ!? おい!!」
騎士「ふふん、遠慮などするな。 私は貴様に借りがある。 今こそ返すべき時ではないか」
鍛冶屋「いや、それはまた今度でいいから!!」
騎士「初めてだが、手ほどきの程、よろしく頼む」
鍛冶屋「だから待ってって!!」」
騎士「さぁて、貴様の為に、腕を作るぞ!!」
鍛冶屋「やぁめぇてぇくぅれぇぇぇぇぇ!!」
FIN