騎士「私のために剣を作れ」 鍛冶屋「いやだ」 9/10

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呪術師「フフフ。 あなたがここに来る前に、既に手はうっていたのですよ」

騎士「トラップ、か・・・・・・っ」

呪術師「似たようなものです。 ああ、ご安心ください。 なにも、魂を奪うような類ではありません。 これは、単純に力が弱まるという簡易的な結界です」

騎士「力が、弱まるだと・・・・・・」

呪術師「ええ。 もとよりあなたの実力は十分に把握していましたし、これぐらいの備えは必要でしょう」

騎士「・・・・・・っ」

呪術師「難点といえば、私の力も同じような影響下に置かれてしまうことですが・・・・・・」

―――呪術師の周りに、魔力の結晶体がいくつ浮かび上がる。

呪術師「魔力に関しては一切の干渉はないので、実質ノーペナルティーというやつですよ」

騎士「っち、それでも・・・・・・っ。 私は貴様を必ず倒す!!」

鍛冶屋「な、何だ!? 急に力が・・・・・・」

キマイラ「グゥゥゥ」

鍛冶屋「どうしたっていうんだ・・・・・・。 コイツの動きまで、鈍くなっているのか?」

キマイラ「ガァゥ!!」

―――キマイラの突進を受け、鍛冶屋は壁に吹き飛んだ!!

鍛冶屋「ぐあぁ!?」

キマイラ「ガァァ!」

鍛冶屋「それでも、人間一人を殺せるだけの力はあるってか・・・・・・」

鍛冶屋「(やべぇ、今ので肋骨を何本かやっちまったか・・・・・・)」

キマイラ「グワァァァァ!!」

―――キマイラは鍛冶屋の目と鼻の先まで歩み寄る。

鍛冶屋「こ、いつ・・・・・・っ!!」

―――キマイラの喉の奥から、低い唸り声と共に紅蓮の炎がせり上がってくる。

鍛冶屋「・・・・・・ったく、このにゃんころ!!」

鍛冶屋「そんなに俺が食いたけりゃ、腕の一本ぐらい分けてやるよ!!」

―――鍛冶屋はキマイラの開いた口に、右腕を突き入れた!!

鍛冶屋「その代わり、吐き出すんじゃねぇぞ!!」

―――鍛冶屋は突き入れた右腕・・・・・・鋼鉄の義手をキマイラに食いちぎらせ、強引に引き抜く!!

キマイラ「ガガグゥ!!」

鍛冶屋「オラァァァ!!」

―――鍛冶屋は左手に持った金槌でキマイラの鼻っ柱を叩きつけた!!

キマイラの口の中で吐き出すはずであった炎が暴れまわり、喉の奥にあった義手が高温によって溶け出し、キマイラの喉を塞ぐ!!

鍛冶屋「はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・はぁ・・・・・・」

キマイラ「・・・・・・ッ、ギ・・・・・・っ・・・・・・」

―――キマイラは呼吸が出来ず悶え苦しみ、やがて、その巨体を沈ませた。

鍛冶屋「はぁ・・・・・・。 くそ、高い代償払っちまったぜ。 師匠が作ってくれた義手が、こんな形で役に立つなんてな・・・・・・」

鍛冶屋「騎士は、うまくやってるか・・・・・・?」

騎士「はぁっ!! てやぁ!!」

呪術師「力を抑えられて、幾度も魔法をその身に受け、まだこれだけの速さを維持できるとは・・・・・・流石ですね」

騎士「(ダメだ、このままでは・・・・・・。 ガントレットで呪術師を倒すのは、体力的に厳しくなってきた」

騎士「剣で、打倒するしかない・・・・・・」

呪術師「しかし、被弾が増えてきていますね。 限界が近いのですか? まぁ、本来であれば、もっと前に勝負がついていてもおかしくないのですがね」

騎士「舐めるな。 まだまだこれからだ!!」

騎士「(・・・・・・全力を出して、あと三回が限界か。 正直、まさかここまでやる者だったとは思わなかった)」

騎士「(私もまだまだだな。 だが、負けぬ。 剣で斬った反動の事など、考えている余地もないし・・・・・・な)」

呪術師「さて、そろそろ終わりにしましょう。 国を任される身として、時間はいくらあっても足りません。 クックック」

騎士「・・・・・・参る!!」

呪術師「フッ、この後に及んで、真正面から突撃ですか!!」

―――呪術師の周囲、そして手のひらからあらゆる属性の魔法が飛び出す!!

騎士は紙一重で全てをかわし、一瞬にして呪術師の懐へと飛び込む!!

呪術師「なっ!?」

騎士「取った!!」

―――騎士の剣が呪術師の体を捉える!!

呪術師「・・・・・・フフフ」

―――しかし、呪術師の体は霧散し、陽炎のように消えた!!

騎士「幻・・・・・・術・・・・・・!?」

―――無防備となった騎士の背中に、雷の魔法が放たれる!!

騎士「うっ、あぁぁぁぁっ!!」

呪術師「惜しかったですね・・・・・・」

―――呪術師は騎士のすぐ近くで実体となった。

騎士「あ、あぁ・・・・・・」

呪術師「さて、今度こそ、終幕といきましょうか。 その魂、ここで失うには惜しい。 せっかくです。 この私が頂きましょう。 そしてあなたは我が魂となり、共にこの国で生きていこうではないですか!!」

鍛冶屋「そういうセリフは、もっと色気のある場所で言うもんだぜ」

呪術師「・・・・・・おや、生きていましたか」

鍛冶屋「ああ。 危うくローストされるところだったがな」

呪術師「ほう、痛々しい腕で、よくもまぁその様な軽口を叩けるものです」

鍛冶屋「別に、コレくらいで命を拾ったと思えば安いもんだ。 だが、あれでも愛着がある腕だったんだ。 落とし前は付けさせてもらうぜ」

呪術師「クックック。 ただの人間に何ができるというのです・・・・・・」

鍛冶屋「俺がやるんじゃぇねよ。 城の問題は、城の人間が解決してもらわないと・・・・・・な、騎士様よ」

騎士「と、当然、だ・・・・・・」

呪術師「あれを浴びて、まだ動けるのですか・・・・・・」

鍛冶屋「そりゃあ国一番の騎士様だ。 インドア派のあんたとは鍛え方が違うだろうよ」

呪術師「フッ。 しかし、何度やろうと同じこと。 貴方たちは絶対に私には勝てません。 さぁ、これ以上の劇は予定されていません。 ご退場願いましょうか!!」

―――呪術師の周囲に、再び魔力が幾つも収束し、殺意という方向性を持って鍛冶屋と騎士に狙いを定める。

鍛冶屋「さ、せ、る、かぁぁぁ!!」

―――鍛冶屋は地面を片手で持ったハンマーで抉るように振り抜き、大量の礫を作り出し、それは矢の様に呪術師へと飛んでいく!!

呪術師「無駄です!!」

―――呪術師に向かう礫の全てを、生み出した魔法で迎撃していく。

騎士「はぁぁぁぁぁ!!」

―――剣を引きずるように走る騎士。 火花を地面に散らせながら、再び魔術師の懐へと飛び込む!!

呪術師「何度やっても同じですよ、ハハハハハ!!」

―――騎士は呪術師に斬りかかり、しかし、先ほどと同じように幻影のごとく消えてしまう呪術師。

呪術師「同じ轍を踏むとは愚かな!! もういいでしょう、あなたはここで死になさい!!」

―――背後に現れた呪術師の手のひらから、氷の礫が大量に現れ、騎士の背中に放たれる!!

鍛冶屋「女性の背後にはスマートに近づけよ、マナーがなってないぜ!!」

―――鍛冶屋が騎士と呪術師の間に割って入り、騎士の盾となった。 鍛冶屋の体には氷の礫が幾つも突き刺さり、その部分が凍結していく!!

呪術師「なに!?」

鍛冶屋「っが!!」

騎士「鍛冶屋ぁっ!?」

鍛冶屋「ぐ、貸し、一つだぞ・・・・・・」

騎士「・・・・・・っ、ああ!!」

―――騎士は即座に反転し、倒れつつある鍛冶屋の横をすり抜ける!!

騎士の踏み込み速度は、呪術師に魔術の発動を許さず、幻影を作り出す間も与えない。

渾身の力で跳躍した騎士は稲妻の如く呪術師に肉薄し、下から邪魔者を払いのけるように、神速をもって“制約の刻まれた大剣”を振り上げた!!

―――ズッバァァ!!

呪術師「が、は・・・・・・そんな、馬鹿な・・・・・・」

―――物音一つしない地下牢に、鮮血の飛び散る音が、“二つ”。

騎士「・・・・・・」

呪術師「こんな・・・・・・事が・・・・・・。 こんな事が、あっていいはず、無いんだ・・・・・・。 こんな終幕、私は・・・・・・認め・・・・・・な・・・・・・」

騎士「・・・・・・」

呪術師「・・・・・・フ、 ックク・・・・・・何だ・・・・・・そう、いう・・・・・・事でした・・・・・・か・・・・・・」

呪術師「そ・・・・・・の、剣の・・・・・・制約は・・・・・・に、担い手などでは・・・・・・なかった・・・・・・のか・・・・・・」

騎士「・・・・・・え?」

―――騎士は、自分の体を見回した。 そこには、呪術師につけたような体を大断するほどの傷は無かった。

騎士「・・・・・・そんな。 なぜ・・・・・・」

呪術師「・・・・・・あの、男・・・・・・に、私は・・・・・・」

騎士「・・・・・・・・・・・・?」

呪術師「お、思えば・・・・・・あの、魂・・・・・・を、持つ・・・・・・事を、疑う・・・・・・べき、だっ・・・・・・た」

騎士「・・・・・・ま、まさか」

―――カラン、と騎士の手から大剣が滑り落ちた。

呪術師「あの男さえ・・・・・・い、いなけれ、ば・・・・・・」

騎士「・・・・・・か、鍛冶屋・・・・・・。 鍛冶屋!!」

呪術師「あ、の・・・・・輝き・・・・・・は・・・・・・あの、輝き・・・・・・は・・・・・・」

―――それ以降、呪術師の口から・・・・・・二度と、言葉が発せられることはなかった・・・・・・。

騎士「鍛冶屋!!」

鍛冶屋「・・・・・・」

騎士「っ! 鍛冶屋!! 目を醒ませ!!」

―――騎士は鍛冶屋の体に目をやる。 そこには、氷の礫によってできた傷とは別に、体を斜めに走る様に、大きな傷があり、服には大量の血液が滲んでいた。

鍛冶屋「・・・・・・き、騎士。 やった、か?」

騎士「あ、ああ!! やったとも!! 鍛冶屋のおかげだ!! お前が国を救ったんだぞ!!」

鍛冶屋「・・・・・・へ、へへ。 そう、か」

騎士「そんな事より、制約の大剣・・・・・・あれは、どういうことなんだ? 説明してくれ」

鍛冶屋「別に、お、おかしな事はない。 あそこ、には、担い手じゃなく・・・・・・“作り手が、反動を、受ける”って刻んであるん、だ、よ」

騎士「ば、バカ者!! 何故、何故そのようなことをした!!」

鍛冶屋「せ、制約ってのは・・・・・・対象、同士が、離れすぎても・・・・・・まずいんだ・・・・・・。 ち、近くにいないとな・・・・・・

騎士「だから・・・・・・討伐に着いてきていたのか」

鍛冶屋「それに、な・・・・・・」

鍛冶屋「自分が作ったもので、あんたが傷つくってのは・・・・・・。 ちょっと、なんか、めんどくせぇって・・・・・・思ったんだよ」

鍛冶屋「人の、生き死にに対する、代償は・・・・・・剣を作ったお、俺が、払わないと・・・・・・な・・・・・・」

騎士「・・・・・・頼んでない。 頼んでないぞ!! そのような事!! 私が勝手に押しかけて、無理を言って作らせたんだ!! 貴様がその様な目にあうことなんて、おかしいんだ!! 馬鹿げている!!」

鍛冶屋「・・・・・・ああ。 そうだ。 これは、俺の自己満足だ。 お前が気にするような事は、ない・・・・・・」

騎士「・・・・・・うぅ、ぐっ・・・・・・」 ポロポロ

鍛冶屋「お、おいおい。 別に、泣くほどのことじゃ・・・・・・」

騎士「私は、自分の不甲斐なさが・・・・・・悔しい・・・・・・」

鍛冶屋「何、言ってやがる。 自分の役目を、無事に果たしただろう。 ここは、誇るべきだぜ」

騎士「誇れるか!! 貴様がその有様で、どうやって誇ることができる!!」

鍛冶屋「・・・・・・誇ってくれよ」

騎士「・・・・・・」

鍛冶屋「そうでなきゃ、体張った意味がないだろうが」

騎士「鍛冶屋・・・・・・」

鍛冶屋「それに、な」

騎士「・・・・・・なんだ?」

鍛冶屋「実は、血は盛大に出たが、傷は、それほど深くはないみたいなんだ・・・・・・これが」

騎士「・・・・・・・・・・・・え?」

鍛冶屋「どうやら、制約がうまく働いたみたいだな」

騎士「どういう、ことだ?」

鍛冶屋「あの呪術師、魔物を操れたってことは、魔物の魂も取り込んでいたはずなんだ」

騎士「・・・・・・!? そ、そうか。 そういう事か!!」

鍛冶屋「魔物の魂に、制約が半分反応してくれたんだろう・・・・・・」

騎士「し、しかし、重傷である事には変わりない!! すぐに医者のところへ連れて行くぞ!!」 グイッ

鍛冶屋「お、おいおい。 そんな、乱暴に扱わないでくれよ。 こう見えて、体は丈夫には出来てないんだ・・・・・・」

騎士「ふっ。 こんなところで貴様に死なれては、私が面白くない。 ほら、肩を貸してやる」

鍛冶屋「ああ・・・・・・っぃてて」

騎士「これで、貸し借りなしだな」

鍛冶屋「そこはまだ借りとけよ」

―――王城 病室

空は徐々に白み始ていた・・・・・・。

王子「・・・・・・あの二人が、やってくれたみたいだ」

隊長「王子?」

王子「・・・・・・体が、いや、まるで、魂が・・・・・・楽になったようだ」

隊長「そう、ですか・・・・・・よかった。 本当に・・・・・・」

王子「すぅ・・・・・・。 はぁぁ・・・・・・。 すごく、体が軽い・・・・・・。 息をするだけなのに、こんなに・・・・・・生きている感じがする」

隊長「でも、まだ安静にしていてください。 まだ、体にどんな影響があるか・・・・・・」

王子「分かったよ。 隊長は、昔から心配症だな」

隊長「当然ですよ。 あなたのお目付け役でもあるのですから」

王子「ふふ、本当に、君は変わらないな・・・・・・」

隊長「・・・・・・王子」

王子「・・・・・・そう言えば、あの時・・・・・・」

隊長「あの、時?」

王子「聖堂を打ち破った、彼・・・・・・どこか、懐かしい感じがしたんだ。 あれは、誰だったんだい?」

隊長「あの男は鍛冶屋といって、騎士が連れて来た者です。 魔物討伐の際には、とても助けられました」

王子「そう、か・・・・・・。 鍛冶屋だというのに、凄いな・・・・・・」

隊長「ええ。 なんというか、見かけによらず、・・・・・・いえ、雰囲気通り、無茶をする男なのです」

王子「はは・・・・・・まるで、兄さんのようだ」

隊長「ええ、本当に・・・・・・ふふふ」

王子「“話してみたかったな”。 その男と・・・・・・」

隊長「話せますよ。 もうすぐ、騎士と二人で一緒に、戻ってきます。 その時に、幾らでも話せばいいではないですか」

王子「ふふ、そうだね。 けど・・・・・・」

王子「どうやら、私の体は・・・・・・もう時間切れのようだ・・・・・・」

隊長「・・・・・・・・・・・・え?」

王子「どうやら、私の魂は、もう全て消費されてしまっていたようだ。 自分でも分かるんだよ。 今、私の中にあるのは、既に消えかけている篝火のようなものだということが・・・・・・」

隊長「そんな・・・・・・嘘ですよね?」

王子「もう、中身がないんだ。 ここにあるのは、器にに残った、残滓だけで・・・・・・」

王子「鍛冶屋と・・・・・・話してみたかった・・・・・・」

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