王「ぐ、あぁぁ・・・・・・!!」
王子「ごふっ! かっ、あ・・・・・・っ!!」
―――王と王子は崩れ落ちた!!
隊長「王子!? 王!?」
呪術師「さぁ、残りの魂もいただきましょうか!! そして、己の不幸を呪いながら死んで行きなさい!!」
―――聖堂が突然、炎に包まれる。
隊長「っく、呪術師!! 貴様ぁぁ!!」
騎士「炎が、強すぎる・・・・・・」
隊長「(王子と王を避難させなくては・・・・・・っ)」
―――ドガァン!!
―――突然、聖堂の入口が吹き飛んだ!! それと同時に、聖堂を被っていた炎が消えた。
騎士「っ!? 鍛冶屋か!?」
隊長「炎も、幻術だったか・・・・・・」
鍛冶屋「おい!! 何がどうなってやがる!?」
騎士「鍛冶屋! 王と王子が危ないのだ!! 私はこれから、その原因を絶ちに行ってくる!!」
鍛冶屋「あぁ!? なんだってそんな事に・・・・・・って、話してる場合でもなさそうだな」
隊長「待て騎士! それなら私が・・・・・・っ!!」
騎士「隊長はお二人を安全な場所へお連れしてください!!」
隊長「し、しかし・・・・・・っ」
鍛冶屋「何だかよく分からねぇが、気をつけてな」
騎士「ああ!!」
―――騎士は聖堂を突風のように走り去った。
隊長「そうだ、しまった!! 鍛冶屋、これを騎士に!!」 ヒュン
鍛冶屋「・・・・・・っと!? 」 パシッ!
隊長「鍛冶屋の物ほどではないが優れた業物だ。 騎士に渡してくれ」
隊長「騎士の剣では、人は切れないのだろう? 頼む」
鍛冶屋「・・・・・・解った。 任せろ」
隊長「すまない。 また危険な目にあわせてしまって」
鍛冶屋「いや、こういう事態だし、そんな時に、やることがあるってのはいいことだと思うぜ」
隊長「そうか・・・・・・」
鍛冶屋「それじゃ、行ってくるぜ!!」
―――鍛冶屋は騎士を追って聖堂を出て行く。
王子「・・・・・・目が霞んで、よく、見えなかったが、誰かいた、のか?」
隊長「は、はい。 兵士ではないのですが、頼れる男です」
王子「っぐ、そう、か・・・・・・」
王子「(どうしてだろう。 なぜか、とても懐かしい感じがしたのは・・・・・・」
隊長「王子、お気を確かに!! すぐに医者の元へ連れて行きますから!! 王も・・・・・・っ」
王「っぐ、わしは王子ほどではない。 急いで、医者の元へ連れて行ってやるのだ」
隊長「何を言うのです!! 王も私と一緒に!!」
王「頼む、隊長よ。 今急がねばならんのは、私の命ではなく、未来ある希望の光を守ることだ」
隊長「・・・・・・王」
王「頼んだぞ。 わしのことは、兵にでも知らせてくれれば大丈夫だ」
隊長「・・・・・・わかり、ました。 どうか、王も体をご自愛ください。 あなたたち二人は、こんな所で死んではならないのですから」
―――王城 地下牢
騎士と鍛冶屋は最新部に向けて走り続ける。
鍛冶屋「騎士!!」
騎士「鍛冶屋!? どうした?」
鍛冶屋「はぁ、はぁ、お前走るの速すぎ。 ほら、隊長さんから」
騎士「これは、隊長の剣・・・・・・」
鍛冶屋「騎士の大剣じゃ、人とは戦えないって事でな、渡してくれって頼まれたんだ」
騎士「そうか。 ありがとう」
鍛冶屋「なぁ、さっき言ってたの、あれはどういうことなんだ?」
―――騎士は、鍛冶屋に事の詳細を簡潔に説明した。
鍛冶屋「呪術師が、王と王子を?」
騎士「そうだ。 どうやら、今まで王子の体調が優れなかった理由や、此度の騒動の発端はそいつにあるらしい」
鍛冶屋「・・・・・・マジかよ。 とんでもねぇ話だな」
騎士「今お二人は呪術師に魂を奪われつつある状態だ。 このままでは、お二人の命が危ない」
鍛冶屋「・・・・・・そうか。 なら、急がねぇとな」
騎士「恐らく、一筋縄ではいかない相手だ。 何せ、この国をたった一人で乗っ取ろうとする男だ。 手強いに違いない」
鍛冶屋「・・・・・・なるほどな」
騎士「だが、私は必ず呪術師を倒し、王と王子、国を守ってみせる」
鍛冶屋「・・・・・・それなら、少しでも勝率を上げる為に、尽くせる手は尽くしておかないとな」
騎士「なんだ、私の力だけでは不安か?」
鍛冶屋「いや、王国最強の騎士がいれば大丈夫だろうとは思うけどよ。 それでも、万が一ってあるだろ」
騎士「・・・・・・?」
鍛冶屋「だからさ、戦いに関しちゃ門外漢だが、俺がついていってやるよ。 何かの役にたつかもしれないだろ?」
騎士「だ、駄目に決まっているだろう!! あの時の話をもう忘れたのか!?」
鍛冶屋「覚えてるよ。 けど、今はそんなこと言ってる場合じゃねぇだろ? 俺一人がいるだけで、もしかしたら勝率が1%でも上がるかもしれない。 けど上がらないかもしれない。 それでも、国の一大事に黙って何にもしないままあんた一人を行かせるなんてのは、性分以前の問題だ。俺には出来ない」
騎士「・・・・・・死ぬかもしれないぞ」
鍛冶屋「そん時はそん時だ」
騎士「・・・・・・」
鍛冶屋「・・・・・・」
騎士「・・・・・・貴様の機転の働かせ方、度胸は搦手で来る相手には有効かもしれない。 期待しているぞ。 国の未来がかかっている」
鍛冶屋「・・・・・・っ!? おう!! まぁそんな能力俺にはないんだけどな」
騎士「・・・・・・すまない。 あんなことを言った矢先、巻き込んでしまって・・・・・・」
鍛冶屋「俺から言い出したことだろ。 それに、あんたとは短い付き合いだけど、なんかほっとけないんだよ」
―――王城 地下牢 最深部
鍛冶屋「(兵士がいない・・・・・・)」
騎士「(何かの力が、働いているのか・・・・・・?」
呪術師「お初にお目にかかります。 あなたがかの有名な騎士様ですか。 たった一人で、大隊クラスの力を持っているという王国一番の手だれ」
―――そこには、ローブを深くかぶった呪術師が牢の外に出て佇んでいた。
騎士「分かっているのなら無駄な抵抗はやめろ。 と言っても無駄だろうな」
呪術師「で、そちらの方は・・・・・・?」
鍛冶屋「俺か? ただの鍛冶屋だ」
呪術師「ほう、それにしては、随分と高位の魂をお持ちのようだ」
鍛冶屋「へ、外面を褒められるより内面を煽てられる方が照れるな。 ま、そういうあんたは両方気に食わねぇけど」
呪術師「そうですか? なら、こういうのはどうです?」
―――呪術師は自らの顔に、手を重ねた。
騎士「なっ!? それは・・・・・・王子の・・・・・・」
呪術師「そう。 王子の顔ですよ。 もうほとんどの魂を頂いたのでね。 少し加工してやれば、こういう事も造作ないのですよ。 クックック」
鍛冶屋「・・・・・・なるほどな。 そうやって、この国の他の奴らは騙されちまうってことか」
騎士「なんの違和感も無く、誰一人として、国の主が変わったことに気づかない・・・・・・」
呪術師「クックック、もしかしたら、何か思い違いをなされているのかもしれませんので、ひとつ言わせて頂ければ・・・・・・」
呪術師「私は別に、混沌の世界や破壊の世界を王国にもたらそうなどとは考えていませんよ」
呪術師「ただ、日々の実験材料が手に入ればいいのです。 他の事はそれ程興味はありません。 まぁ、国主になったらなったで、また考えが変わるのでしょうけどね」
騎士「貴様の言う実験材料は、人々の魂だろう。 そんな事、この私がさせない!!」
呪術師「ええ、そうでしょうね。 だから、こんな展開になる前に、はやく王子には動いていただきたかったのに」
呪術師「・・・・・・いえ、これは手早く討伐を終えた貴方がたの功績によるものでしょうね」
呪術師「これでは、一体何のために魔族達を操り、国境付近に攻め入らせようとしたのか・・・・・・」
鍛冶屋「おい、それじゃあなにか? あの魔族達の進行は、お前がやったっていうのか?」
呪術師「フッフッフ。 ええ、そうですよ。 わたしが差し向けたものです。 魔族のフリをしてね」
騎士「という事は貴様、魔族ともつながりがあるのか・・・・・・」
呪術師「人間の常識では先に進むことができないことが多々あるのですよ。 そこで、時に魔族の力を借りることもあります」
騎士「貴様の操った魔族たちのせいで、国境付近の人々がどれだけ亡くなったか・・・・・・っ」
呪術師「ああ、その事ですか。 それならご心配には及びません」
鍛冶屋「な、に・・・・・・?」
呪術師「ほとんどの住人は私と共にあります。 “私の魂と共にねぇ”!!」
騎士「き、きっさぁまぁぁぁぁぁぁぁ!!」
―――騎士の最速で振るわれた隊長の剣を、呪術師は片手に顕現させた剣で受け止めた。
呪術師「流石ですね。 踏み込みの速度は、常人では知覚すら難しいでしょう」
騎士「馬鹿な・・・・・・受け止めた、だと?」
鍛冶屋「マジかよ・・・・・・どうなってんだ一体? 」
騎士「貴様、剣も使えるのか!?」
呪術師「私が、というよりも、私の糧となった魂の持ち主が使えるのですよ。 何人もの腕利きが、私に力を与える。 クックック」
呪術師「だから、こんな事も出来るのですよ!!」
―――呪術師の手のひらに魔力が集まる!!
騎士「何!? ぐはぁっ!!」
鍛冶屋「騎士!!」
呪術師「魔法使いの魂も大勢頂いています。 そして、魔力が尽きることもない。 今の私には、魂という精神エネルギーの塊が無尽蔵にあるのですからね」
騎士「っく・・・・・・。 どこまでも腐った男だ」
呪術師「何を言うのです。 私はもはや万能の人間。 全知であり、全能である私はもはや神に等しい」
鍛冶屋「ふざけた事ばっかり言いやがって。 ただ自分に酔ってるだけじゃねぇか」
呪術師「ええ、そうですね。 なにせ、本当に楽しいのですから、仕方ありません。 全ての生き物、人間、社会はいずれ、私の前に頭を垂れるでしょう」
騎士「そんな事、私が絶対にさせん!!」
呪術師「フフッ。 あなたに私は止められない。 私はもはや誰にも、止められないのです」
鍛冶屋「余裕じゃねぇか。 今にその鼻っ柱をへし折ってやるぜ」
呪術師「あなたは一般人とはいえ、なかなかに油断ならない気がする。 そう、ですね・・・・・・こういうのはいかがですか?」
―――鍛冶屋の背後に、魔方陣が現れる!!
騎士「鍛冶屋!! 後ろだ!!」
鍛冶屋「何!? ぐぁぁ!!」
―――魔法陣より現れたキマイラの前足で、鍛冶屋は吹き飛ばされた!!
呪術師「あなたには馴染みのあるこいつをあてがいましょう」
鍛冶屋「こいつ、っぐ、あん時倒したやつじゃねぇか・・・・・・」
騎士「貴様、召喚士の魂も・・・・・・」
鍛冶屋「だから、急に砦内にこいつが出てきたのか・・・・・・っ」
呪術師「ええ。 そして、高位の魔物を召喚するための代償は、勿論・・・・・・ックックック」
騎士「おのれぇ!!」
呪術師「さぁ、始めましょうか!! この国を賭けた戦いを!!」
―――王城 病室
王子「・・・・・・隊長」
隊長「お気づきになりましたか王子。 今、騎士達が呪術師を倒しに向かっています。 もう少しの辛抱です」
王子「・・・・・・私は、どこで道を誤ったのか・・・・・・」
隊長「王子・・・・・・」
王子「あの日、父の部屋へと引き返した時だろうか・・・・・・。 それとも、兄さんが城を出る際に、何も言わなかった時だろうか・・・・・・」
隊長「おやめください。ご自分を責めるようなことはないのです」
王子「呪術師の下に行った時だろうか・・・・・・。 生きる目的を、刷り込まれた時からだろうか・・・・・・」
隊長「王子!!」
王子「きっと、どれもが正しい。 全て、自分の身から出たことだ」
隊長「・・・・・・たとえ」
王子「・・・・・・」
隊長「たとえそうであったとしても、あなたはこの国を良くしようと人一倍頑張ってきたではありませんか。 国中の民の心を、王子は太陽のように照らしてくれました。 それは、まごう事なき事実です」
王子「それが、親殺しを目的とした過程であってもか?」
隊長「あなたは、殺してなんかいないじゃないですか。 いえ、そうであったとしても、その時は私がまた止めます。 何度でも、あなたが過ちを犯そうとするなら、止めてみせます」
王子「・・・・・・そうか」
隊長「はい」
―――王城 地下牢 最深部
―――魔術師と騎士の激しい攻防は続く。
呪術師「素晴らしい! 矢を切り払う者は何人もいますが、魔力の結晶である魔弾を弾き、さらに切り込んでくるとは・・・・・・!!」
騎士「っく、切り込める間合いまでがこれほど遠く感じるとは・・・・・・」
騎士「(鍛冶屋とも分断された。 向こうは無事だろうか・・・・・・)」
呪術師「さぁ、次は炎にしましょうか。 それとも氷? 雷、風、毒、光、闇、無・・・・・・。 全て同時がお好みでしょうかねぇ?」
騎士「(まずい、このままでは隊長から渡された剣がもたないっ)」
騎士「(点でくる攻撃、線で走る攻撃、面で迫る攻撃。 球で飲み込む攻撃・・・・・・。 戦いが長引いたところで、奴には疲弊という文字はない。 それどころか、かえって長引くことで、王子と王の命が危険にさらされる)」
騎士「急がなくては・・・・・・っ!!」
呪術師「クックック。 考え事ですか? 思考する時間すら、死に直結する事を教えてあげましょう」
鍛冶屋「やべぇ、騎士と分断されちまったか・・・・・・っと、うぉ!?」
キマイラ「ガァァァァ!!」
鍛冶屋「強さは相変わらずみてぇだな。 ていうか、こんな奴普通の人間が勝てる相手じゃねぇぞ」
キマイラ「ガァウ!!」
鍛冶屋「くっそがぁ!!」
鍛冶屋「(そう何どもかわしきれるもんじゃねぇ。 それに、口から吐く炎も、遮蔽物が少ないここじゃよけきれない・・・・・・)」
キマイラ「ガァァァ!!」
―――キマイラが口から灼熱の炎を吐き出す!!
鍛冶屋は手に持った巨人の金槌で地面を抉り振り抜くように叩き、即席の土嚢兼石壁を作り上げる!!
鍛冶屋「このままじゃやばい。 早いとこ次の手をうたねぇと・・・・・・っ」
キマイラ「ガァァァ!!」
―――キマイラは再び咆哮をあげ、アギトを大きく開いた!!
鍛冶屋「(周りに使えるものはねぇ。 頼りになるのは師匠の金槌と自分の体だけかっ)」
鍛冶屋「・・・・・・ま、なるように、なるか!!」
―――バキン!!
騎士「しまったっ!!」
―――甲高い音を立てて、隊長から受け取った剣が折れた!!
呪術師「剣を気遣いながら、よくもまぁここまでもったものですよ」
騎士「(気づかれていたか・・・・・・)」
呪術師「そろそろ本命を抜いたらどうですか? それとも、“人を切れない”剣では戦えませんか?」
騎士「そんなことまで知っているのか・・・・・・」
―――騎士は背中に背負っていた大剣を抜いた。
呪術師「これから国を動かそうというのです。 情報戦は重要ですよ。 しかし・・・・・・」
騎士「・・・・・・」
呪術師「戦えるのですか? 自傷行為はお勧めできませんよ。 クックック」
騎士「いくらでもやりようはある。 いざとなったら、ガントレット(手甲)で貴様の顔面を砕いてやろう」
呪術師「フフ。 その前に、今度はその剣をへし折ってあげましょう」
騎士「いくら貴様とて、それだけは絶対に無理だ」
呪術師「ほう・・・・・・」
騎士「この剣は、国一番の鍛冶屋が作った特別性だ。 それに・・・・・・」
騎士「そんな事、私が決して許しはしない!!」
―――呪術師は騎士に向けて膨大な数の魔弾を放つ!! 騎士はそれを全てはじき飛ばし、数発は呪術師に向けて跳ね返した!!
呪術師「確かに、あなたの能力とその剣が合わされば、何が起こるかわからない。 いかに全能な私としても、神殺しに匹敵する者には油断できません」
騎士「早々に終わらせてもらうぞ、呪術師!!」
呪術師「どうでしょうね。 そう簡単に終りますかな?」
―――突然、地下牢中の壁が淡く赤色に輝きだした!!
騎士「あ、な・・・・・・何だ・・・・・・力が・・・・・・」