騎士「私のために剣を作れ」 鍛冶屋「いやだ」 7/10

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王子「この国の法を整備し、人を育て、役職を見直し、長い年月を経て政に対しての総合的なポテンシャルをあげてくることが出来た」

王子「王がいなければ何も出来ない、何も決まらないこれまでとは違う。 民が国を動かす時代の始まりです。 そこには、呪われたしきたりも・・・・・・存在しない」

王子「王はもう、必要ない。 王家などいらない・・・・・・。」

王子「だから・・・・・・だから、私がこれから行うことにより、国が傾くことも、ない」

王子「全てはこの時のため。 王がいなくとも、この国が変わらずに存在できるように心血を注いできた」

王「・・・・・・王子?」

王子「私達の冒険は、ここでお終いです。 父上」

―――王子はどこからともなく、抜き身の剣を取り出した。

王子「私の代わりに存在を消された兄さんの元へ、二人で参りましょう」

王「・・・・・・そう、か」

王子「あまり驚かないようですね」

王「十分に驚いている。 しかし、どこか当然のように受け止めている自分がいるのだ。 いつか、このような日が来るのではないかと、思っていた・・・・・・」

王子「そうですか」

王「だが、私はお前の兄にしたことを弁解する事はない。 全て覚悟の上で行なった事だ」

王「あの日の選択の下に、今日がある。 私にとっては、それが全てだ」

王「しかし、まさか王家のしきたりを知っていたとは・・・・・・」

王子「私も、出来ることならあんなもの知りたくはなかった」

王子「そうしたら、生きていたのは兄さんだったかもしれないのだから」

王「・・・・・・私を殺したあとで、その後、お前はどうする?」

王子「死んだ後のことなど、気にする必要がありましょうか?」

王「たとえ今こうして刃を向けられていようとも、私はお前の父なのだ」

王子「・・・・・・」

王子「・・・・・・ご安心を」

王子「先に申し上げた通り、私もそう時をおかずして朽ち果てることでしょう」

王「(朽ち果てる・・・・・・? 自ら命を絶つわけではなく、朽ち果てるというのは、どういう言い回しなのだ?)」

王子「毒を、飲むのか?」

王子「毒? ・・・・・・ああ、そうではありません」

王子「私の命は、今日一日を持って幕を閉じるのです。 それが、呪術師との約束」

王「・・・・・・呪術師!? あの呪術師か!?」

王子「・・・・・夜が明ける頃には、私は兄さんの元へと召されるでしょう」

―――聖堂前 廊下

隊長「・・・・・・・・・・・・え?」

鍛冶屋「あ~っと・・・・・・盗み聞きは良くないと思うが、なんか、中で話してる会話の内容が聖堂には似合わなくないか?」

騎士「状況から察して、謀反というわけではないみたいだが・・・・・」

鍛冶屋「これ、今中に入ったらまずいんじゃない?」

騎士「しかしこのままでは王の命が危ない。 黙って聞いているわけにはいかないだろう」

隊長「王子の命が・・・・・・今日で・・・・・・? 何故・・・・・・」

鍛冶屋「こっちはこっちで心此処にあらずか」

騎士「隊長、しっかりしてくださいっ」

隊長「・・・・・・あ、あぁ」

騎士「鍛冶屋、私と隊長は王子の行いを止めねばならない。 万が一にも聖堂に人が入ってこないよう見張っていてくれ」

鍛冶屋「た、確かに。 こんな場面誰かに見られるわけにはいかないからな。 よし、任せろ」

騎士「隊長も、よろしいですね?」

隊長「・・・・・・」

騎士「隊長!!」

隊長「き、聞いている。 大丈夫だ」

隊長「(・・・・・・王子っ)」

―――王城内 聖堂

王子「父上は、兄さんが居なくなってから数日後に。 私が町外れの修道院へ連れて行かれ、治療を受けたのは覚えていますか」

王「・・・・・・もちろんだ。 あれほど衰弱したお前を見たのは、後にも先にもあの時だけだからな」

王子「そうですね・・・・・・。 診てもらった人物は、高名な修道士だった。 医学、魔法にも長けた優秀な修道士だった」

王子「修道士は、後に呪術師と呼ばれる男でしたが・・・・・・」

王「うむ。 今では考えられないが、多くの者に尊敬され、良く出来た人物だった」

王子「はい。 その呪術師の見立てでは、私の寿命は精神的な影響と、生まれ持った体の弱さ、無理な運動で、そう長くはないと診断されました」

王子「その時の私は、死にたくないという思いで剣術や勉強を取り組んでいた時とはうってかわり、兄さんを死なせてしまった後悔の念から生きる意味を見いだせず、いつ死んでも構わないと思っていた」

王「・・・・・・」

王子「今思い出しても、愚かな考えです。 そんなことを思うくらいなら、私が死ねばよかったのに・・・・・・」

王子「しかし、そんな事を考えていた私に、呪術師はこう言ったんです」

―――このまま君が死んだら、何の為に君の兄は身代わりとなって死んだんだい?

王子「その時呪術師に言われた事で、確かに自分の中に、生きる目的が生まれた」

王子「私の代わりに死んだ・・・・・・私が殺した兄のために、自分がこの国の行先を見届けようと」

王子「そして同時に、同じような事が二度と起こらないようにしようと。 兄を殺したしきたりなど、王家ごと消し去ってしまおうと・・・・・・」

王子「だから私は呪術師に言った。 どんな手段でもいい。 生きていたいと」

王子「呪術師は、そのころから既に魂を操る術を心得ていた」

王子「そして、契約の内容を聞き、私は寿命を伸ばしてもらうことと引き換えに、あるものを差し出すことになった」

王子「二人の間に交わした契約は、誰にも話してはいけないという決まり。 でも、今となってはもうどうでもいいこと」

王「・・・・・・お前は、一体・・・・・・あるものとは何だ?」

王子「寿命を延ばす契約の代償に差し出すことになったのは・・・・・・私の魂。 “器”の寿命を延ばす代わりに、“中身”を毎日少しずつ、呪術師に支払い続けることでした」

王「・・・・・・っ!?」

王子「その支払いも、満期に達したという事です」

王子「これで、ご理解いただけましたか? だから、私のことは気にしないでください。 時を置かず、兄さんとあなたの下に参ります」

王「・・・・・・まさか、そんな・・・・・・」

王「我が子が、そんな事に・・・・・・。 今の今まで気づく事も出来なかったとは・・・・・・。 だが・・・・・・いや・・・・・・しかし・・・・・・」

王子「ええ、それも仕方の無いこと。 私も父上も、互いのことを気にかける時間すらなかったのですから」

王「これが、神の与えた運命なのか・・・・・・この様な・・・・・・」

王子「そうです。 そして、私とあなたは、愛する家族を手にかけた罪によって、今裁かれる宿命なのです」

王「私が裁かれることで罪が精算されるというのなら、甘んじて受けよう。 だが、お前までその罰を受ける必要はない」

王子「王家である私が残っていては意味がないのです。 それに私は、優秀な者が選ばれるということを兄に知らせず、自分だけが勤勉に励んだ。 そして私は兄を見殺しにした。 殺されに行く兄を、黙って見送った。 それだけの事をしたんです。 もう、十分すぎる理由がある」

王「それは違う!! お前の兄は・・・・・・っ」

王子「もういいでしょう。 これ以上、話すことはありません。 その資格もない」

王「聞くんだ!! あの日、私と兄は・・・・・・!!」

王子「さようなら、父上。 あなたといた仮初の平和で綴られた日々は、決してつまらなくはありませんでしたよ」

―――王子は振り上げた剣を勢い良く王へと振り下ろした!!

―――ガキン!!

隊長「・・・・・・いけません、王子」

王子「隊、長・・・・・・?」

―――王子の振り下ろした剣は、隊長の剣によって受け止められた!

隊長「あなたがどのような思いで、覚悟でいるのか、私には想像もつきません」

隊長「ですが、例え何であれ、あなたに親殺しの業を背負わせる訳にはまいりません!」

騎士「王よ、ご無事ですか?」

王「う、うむ・・・・・・。 お主達、討伐に赴いていたはずでは・・・・・・」

騎士「そのことも含め、ご報告にあがるため、一足早く城に戻ってきたのです」

王子「そう、か・・・・・・。 よく無事に戻った。 大儀であったな」

隊長「王子、これは一体、どういうことなのです」

王子「・・・・・・」

隊長「私には、何が起こっているのか・・・・・・。 国の終焉を目の当たりにしているかのようです」

王子「それは違う。 逆だよ隊長。 これから始まるんだ。 新しい体制の、各々が作り上げる国家。 古いしきたりなどない、真の国作りが」

隊長「そこに、指導者はいらないとおっしゃるのですか」

王子「王家に変わる指導者として、候補はすでに決めてある。 明日には満場一致で受理されるだろう。 心配する必要はない」

隊長「今の王は希代の手腕を持つ優れた王です。 それ以上の方がいるというのですか?」

王子「王家のしきたりで我が子を殺す王を、謀略は王家の常とはいえ、私は許せない。 だから王族のいらない国を治めるシステムを長い年月を掛けて作り上げてきたんだ。 この日のために」

隊長「・・・・・・兄君がお喜びになるとお思いですか?」

王子「兄さんの為じゃない。 これは、私の自己満足だ」

隊長「では!!」

隊長「あなたの命が、今日で尽きるというのは・・・・・・本当なのですか?」

王子「・・・・・・本当だ」

王子「呪術師に支払う魂を、この先支払い予定の分も合わせて全て精算した。 そうすることで、こうして今、健康体の様に動き回れるんだ。 そうでなければ、私は今もベットの上だろう」

隊長「もう、どうにもならないのですか?」

王子「どうしようというんだい? もう、選択肢なんてないんだ。 ここで父上を殺して、僕は呪われた命に幕を引くんだ」

隊長「私と騎士を前に、出来るとお思いですか?」

王子「・・・・・・」

王子「いや、君達に勝つことは出来ないだろう」

隊長「っ! では・・・・・・」

王子「・・・・・・それでも、やらなくてはいけないんだ!!」 グン!!

騎士「なっ・・・・・・!?」 ググッ

―――王子は隊長の剣をなぎ払い、さらに、一歩踏み込んで隊長の体をはじき飛ばした!!

隊長「っく・・・・・・」

騎士「隊長が、競り負けた・・・・・・!?」

隊長「(これが、本来の王子の力・・・・・・!?)」

王子「どうだい? 昔のように、剣を合わせようか・・・・・・」

隊長「王子、どうか、思い直してください・・・・・・っ」

王「隊長、騎士よ、前をあけよ」

隊長「王!?」

王「王子、それほどまでにこの命が欲しいのなら、わしは差し出しても構わん」

騎士「何を!?」

隊長「おやめ下さい!!」

王子「・・・・・・なんのつもりです?」

王「私とて、過去に犯した罪から逃れようなどとは思わぬ。 加えて、お前にそれほどの思いをかせ、その手によって裁かれるというなら、喜んで受けよう」

王子「・・・・・・」

王「だから、その前に、最後に一つだけ聞かせて欲しい」

王子「・・・・・・何ですか?」

王「確かにお前は、幼少の頃より体が弱かった。 無理な運動に、精神的負担が重なり、寿命が縮むということもあるだろう」

王子「それがどうしたのです?」

王「・・・・・・しかし、それで、寿命がまもなく尽きるなど、ありえんのだ。 ありえん、はずなのだ・・・・・・」

王子「どうしてそのような事があなたに分かるのです。 人の寿命など、それこそ人の道を外したものでなければ分からないことなのに」

王「お前の寿命は、まだまだ尽きないはずなのだ。 これからも生きて、何年も何十年も生きて、国の行く末を見届けるはずなのだ!!」

隊長「・・・・・・王?」

王「では聞こう、王子よ。 ここ十年以内に、呪術師は、お前がもう生きられない体だと、言ったのか・・・・・・? それに近い事を、一つでも言われたのか?」

王子「・・・・・・だったらどうだというのですか? それがあなたに、何の関係が・・・・・・」

王「関係ならある。 なぜなら・・・・・・なぜなら、お前の寿命を伸ばすために十年前、私は呪術師に魂を差し出したのだから!!」

王子「・・・・・・父上が、呪術師に? 魂を差し出した・・・・・・?」

呪術師「いやはや、なかなか上手くいかないものですね~。 クックックック・・・・・・」

騎士「誰だ!! どこにいる!?」

隊長「!? そこか!!」

―――隊長は突然現れた呪術師に斬りかかる!! しかし、その刃には何の手応えもない。

騎士「攻撃が、効かない!?」

隊長「というより、通り抜けた。 幻影か!?」

騎士「本物は・・・・・・」

王子「まだ、地下牢ということか」

呪術師「早々に舞台の幕が降りていれば、こうして演出家が出てくることもなかったのですが・・・・・・」

呪術師「どうやら、時間内に終わりそうもないようですね~」

王子「・・・・・・どういうことだ?」

呪術師「は~い~?」

王子「先ほどの話、本当なのか? 父上が・・・・・・父上が、魂を貴様に差し出していたというのは」

呪術師「クククだとしたら、どうなのです?」

王子「何?」

呪術師「別に関係ないではないですか。 あなたの行動を阻害す要因にはならないでしょう」

王子「確かに貴様の言う通りだ。 しかし、私は自らが短命であると知らされ、今日まで生きてきたのだ」

呪術師「ええ、そうでしたね・・・・・・」

王子「呪術師よ、ならば冥土の土産として聞こう。 父上が魂を差し出したのに、私の体調が一向に回復しなかったのは、何故だ?」

呪術師「その点は別におかしなことなど何もない。 いたってシンプルな答えです。 いえ、誰だって思いつくのではないでしょうか? ックックック」

王子「何・・・・・・だと・・・・・・?」

王「貴様・・・・・・まさか・・・・・・!?」

呪術師「ええ、王の魂は全て私のエネルギーへと転換していきました。 素晴らしく高純度の魂でしたよ!! ハッハッハッハッハ!! ア~ハハハハハ!!」」

王「っく、おのれぇ!! 図りおったか!!」

呪術師「フッ、ククク・・・・・・図る? 何を今更・・・・・・私にとってはまさに筋書き通りですよ」

王子「どういうことだ」

呪術師「私にとっての始まりはね、王子。 あなたが幼少の頃、私の前に現れた時からなのですよ」

―――当時、修道士として名の売れていた私の前に、あなたは現れた。

心身ともに疲れ果て、目には活力がなく、屍同然でしたね。

恐らく、このまま放っておけば、間違いなく衰弱死する。 聞けば、王に子は一人のみ。

私はその時、職務に忠実に、王子に生きる希望を与えたのです。 幼い子は何があっても救おうという、修道士としての職務を。

私の話す言霊に力をのせ、王子に“生きる活力を語り聞かせたのですよ。

その時でしょうか、私の頭の中に、この長きに渡るプランが思いついたのは・・・・・・。

私は慈善というものでは到底のし上がることの出来ない、さらなる高みに至りたかった。

そこに、国の跡取りとなる王子が現れたのは。 これはもはや、天啓といっていいでしょう。

私は王子の寿命を延ばすという契約の下、魂を少しずつ分けてもらう事になった。

“そんなことをせずとも”、回復すれば十分に、末永く生きることができたであろう王子の魂をね。

生きる目標を得た時点で、王子の体調が回復に向かうのは分かっていた。

けどねぇ~。 長く生きられすぎても困るんですよ。

私は呪術師、命の旋律者。 魂の技師。

器の中身たる魂を操作すれば、そのものに成り代わることも十分可能。

顔も、声も、癖も、記憶も!! 全てを模倣し、やがては誰一人、本当の私を知る者は居なくなる。

そこに、オリジナルは必要ない。 邪魔なだけです。

そして、時が来たら本来の私に戻ればいい。

この国の指導者として。

嬉しい誤算だったのは、王が私のもとに訪ねてきたことだ。

息子の命を助けて欲しいと、命を奪い続ける張本人に願い出てくるとは、滑稽でしたよ!! さすがの私もポーカーフェイスが崩壊するところでした。

模倣する対象は地位が高ければ高いほどいい。

当然、王の魂も遠慮なく頂戴しました。 いや、現在進行形だから、頂いているといったほうが正しい。

クックック・・・・・・。

王「踊らされていたというのか・・・・・・この男に・・・・・・」

王子「・・・・・・全て、仕組まれていた・・・・・・と・・・・・・」

王子「私は・・・・・・私の決意は・・・・・・呪術師の国取りの手伝いをしただけだったのか・・・・・・」

呪術師「そう悲観なさらないでくださいよ。 別に貴方達に責任はないのですから」

呪術師「安心して眠りについてください。 この国のことは、私に任せて!!」

―――幻影である呪術師の体から漆黒のオーラが迸る!!

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