騎士「私のために剣を作れ」 鍛冶屋「いやだ」 6/10

12345678910

弟「もういいです」

兄「いいじゃねぇか。 その後自分でもう一つ作ったんだろ?」

弟「やむを得ずですけどね」 ジトッ

娘「綺麗ですね~!! 手作りなのですか?」

弟「うん、そうだよ」

兄「こいつ、手先は本当に器用だからな」

娘「模様も丁寧に編み込まれてて・・・・・・ステキです!!」

弟「そ、そうかな・・・・・・。 よかったら、君にも作ってこようか?」

娘「え!? いえ、そんな・・・・・・私なんかが・・・・・・」

弟「遠慮しないでいいよ。 難しいものでもないし」

娘「そ、そうなんですか?」

先生「作ってもらったらいいじゃないか。 将来どんな付加価値が付くか・・・・・・」

娘「・・・・・・トウサン?」 ギロリ

先生「なんていうのはもちろん冗談で、せっかくのご好意だし、頂いたらどうだい?」

兄「ちなみに、この組紐は切れた時に願いが叶うそうだぜ」

弟「まぁ、ジンクスってやつだよ。 結ぶ時に願をかけるんだ」

娘「そう、ですか・・・・・・。 あの・・・・・・っ」

弟「ん?」

娘「組紐・・・・・・お願い、出来ますでしょうか?」

弟「うん、もちろんだよ!」

―――王城 王の私室

弟「兄さん、ここはさすがにまずいんじゃ・・・・・・」 コソコソ

兄「何言ってんだよ。 だからスリルがあって面白いんじゃないか」 コソコソ

弟「だからって、父上の部屋に無断で入るなんてまずすぎるよっ。 干肉背負って虎穴に入るようなものだよ。 もしもこんなことがバレたら・・・・・・」

兄「弟・・・・・・」

弟「兄さん・・・・・・」

兄「その時は・・・・・・」

弟「その時は・・・・・・?」

兄「笑ってごまかそうぜ」 キラン

弟「全然笑えないよ」

兄「にしても、何にもね無ぇな。 お宝の一つでもあったらそれらしくさまになるんだが・・・・・・」

弟「いやいや、ゲットしても持ち帰れないよ。 それこそ大目玉だ」

兄「別に何だっていいんだけどな。 親父の部屋にしかない、これだっ! って感じのものなら。 けどまぁ、本当に何もなさそうだな」

弟「父上は私室に仕事を持ち込むのを嫌うみたいだね」

兄「う~ん、ダンジョン最深部に何もなかった時の虚しさか・・・・・・」

弟「行ったこともないでしょ」

兄「けどよ、もう少し何かあってもよさそうじゃないか。 生活感がなさすぎるぞ」

弟「もしあったとしても、誰かの目につくような場所には大切な物を置かないんじゃないかな」

兄「・・・・・・かもな」

弟「ほら、何も無いって分かっただけでも収穫だよ。 早く戻ろうよ」

兄「・・・・・・へぇ~い、ビビっちゃってるのかい弟よ」

弟「兄さん!」

兄「分かった分かった。 そう声を張り上げると本当に見つかるぞ」

弟「はぁ・・・・・・」

兄「それじゃ、しっかりついてこいよ。 生きて帰るまでが冒険だ」

弟「これスパイ活動じゃ・・・・・・」

―――王城 廊下

弟「あ、あれ?」

兄「ん? どうした?」

弟「・・・・・・無い」

兄「髪が?」

弟「それはまだまだ大丈夫」

兄「じゃあなんだよ?」

弟「・・・・・・組紐が無いんだ」

兄「お、とうとう切れたのか」

弟「あれはまだ作ってそんなに経ってないし、多分、腕からすっぽ抜けたのかも」

兄「落としたのか?」

弟「そう、なるね」

兄「心当たりは・・・・・・って、今日行ったのはあそこ位だもんな」

弟「ああ、そんな・・・・・・」

兄「お宝が見つからないのに貴重品を落としてくるなんて・・・・・・やるじゃん」

弟「最悪だよ。 もう、最悪に“輪”をかけて最悪だ」

兄「組紐だけにか? ってうまいこと言ってる場合じゃねぇぞ。 今ならまだ親父のやつ会議中だろうし、急げばまだ大丈夫じゃないか?」

弟「かなぁ・・・・・・」

兄「くくく、やっぱりビビっちゃってるな」

弟「そんなことないよ!!」

兄「ふふん、俺がとってきてやろうか? 我が弟よ」 キリッ

弟「っ!。 もういい!! 兄さんは先に戻ってなよ!!」

兄「ははは!! ちゃちゃっと見つけて戻ってこいよ~!! 」

―――王城 王の私室

弟「まったく、どうして兄さんはああも意地悪なんだろう・・・・・・」

弟「でも、それ以上に頼りになる時があるから、結局はプラマイゼロかな」

弟「将来は王になるんだから、もう少ししっかりしてくれても・・・・・・」

弟「あ、あった!! よかったぁ、そんなに時間は経ってないからすぐに出れば・・・・・・ん?」

弟「本と本の間に・・・・・・なんだろう? これは、羊皮紙・・・・・・こんな所に?」

弟「(・・・・・・そうだ! これを持って帰れば、きっと兄さん悔しがるに違いない!)」

弟「(こんな所に挟まっているような紙だし、それほど重要なものじゃなければ、父上も気にしないはず)」

弟「(ようやく僕にも兄さんを見返すチャンスが来たぞ!!)」

弟「(にしても、この走り書きみたいなもの、何が書かれているんだ? 宛名もないし・・・・・・)」

弟「ええっと・・・・・・期限の・・・・・・」

―――期限の日は、刻一刻と迫っています。

これ以上の先延ばしは、政務官達も黙ってはいないでしょう。

むしろ、今日まで何も起きなかったことが奇跡に等しい。

それも、王子達の存在が城の者達に好意的に受け止められているからでしょうが・・・・・・。

弟「な、何・・・・・・これ・・・・・・」

―――今日まで、心の蔵を焼かれるほどの葛藤があったかと思います。

しかし、もはや決めねばなりません。

何ども進言しておりますが、“王家の双子は忌み子”なのです。

必ず、どちらかはこの国の未来に影を残すこととなるでしょう。

“優れたものを王子とし、選ばれなかったものは死ななければならない”。

この代々受け継がれてきたしきたりは、例外なく守らねばなりません。

災いより多くの民を救うため、より繁栄へと国を導くために、お早いご英断を待望しております。

悔いの無きよう・・・・・・。

―――王城 中庭

弟「はっ!! やぁ!!」 ブン! ブン!

先生「す、すごいな。 先日とは別人のようだ」

兄「ああ。 最近じゃ走り込みも自主的にやっているみたいだしな」

先生「それで、勉強も欠かさずやると・・・・・・何かあったのかい?」

兄「いや、思い当たることは何も」

先生「ふむ・・・・・・」

兄「ま、引きこもってるよりは、こうして体を動かすようになったのはいいことじゃん」

先生「それにしては、なんだか鬼気迫るものを感じるが・・・・・・」

弟「はぁ、はぁ・・・・・・はぁ!! たぁ!!」

娘「・・・・・・」

弟「・・・・・・ふぅ。 先生、ちょっと休んでもいいでしょうか?」

先生「ああ、ちゃんと汗を拭くんだよ。 風邪をひいてしまうからね」

弟「はい」

娘「あ、あの・・・・・・」

弟「ん? なにかな?」

娘「い、いえ・・・・・・なんでも、ないです」

―――数日後 王城 廊下

兄「なぁ、今日のこと親父から何か聞いてるか?」

弟「今日のこと? 何だろう・・・・・・?」

兄「そうか、じゃあ俺だけなのかな・・・・・・」

弟「どうかしたの?」

兄「いや、実はな、今日は城外に出て、連れて行きたい所があるって親父に言われてさ。 久々に親子だけでって話だから、お前も聞いてるのかと思ったんだけど・・・・・・」

弟「え? 僕はこの後座学が・・・・・・」

“優れたものを王子とし、選ばれなかったものは死ななければならない”

弟「っ!?」

兄「護衛も殆ど連れずにらしいんだよ。 おかしいと思わないか?」

弟「そう、です、か・・・・・・」

兄「・・・・・・お前、顔色悪いぞ? 大丈夫か?」

弟「っ、だ、大丈夫だよ・・・・・・本当に・・・・・・」

兄「まぁ、あれだな。 お前最近頑張りすぎなんだよ。 ちょっとは息抜きもしないと、へばっちまうぞ? 元々俺よりも体力がないんだからよ」

弟「気を付け、るよ」

兄「それとな、お前ちゃんと娘に組紐作ってやれよな。 でないと、先生仕込みの剣術でボコボコにされるぞ」

弟「組、紐・・・・・・?」

兄「ていうかよ、今度は娘も誘って三人で冒険に行こうぜ。 やっぱ冒険のパーティーには花がないとな」

弟「あ、あの・・・・・・」

兄「今度は宝物庫の鍵をゲットして・・・・・・くくっ、スリル満点だな」

弟「に、兄さん、実は・・・・・・」

兄「っと、そろそろ時間かな。 じゃ、行ってくるぜ!」

弟「あ、の、父上は・・・・・・兄さんを・・・・・・っ!!」

兄「土産を期待して、おとなしく待ってろよ!!」

―――それが、兄さんとの最後の会話だった。

その日の夜。 僕は父上の私室に呼ばれ、淡々と兄さんが死んだことを伝えられた。

他人事のように、何かの間違いだと虚しく口が動く。

どこで? どうやって? どうして?

王家の者が、そう簡単に死ぬのか? なぜ兄だけが死んだのか?

頭の中には溢れかえる程の疑問が次から次へと湧き上がってくる。

しかし、心の底では、その事実を吐き気を催すほど冷徹に受け止める自分がいた。

兄さんは、あの羊皮紙に書かれていた通りに、父上に選ばれ、殺されたんだ。

・・・・・・僕はあの羊皮紙の内容を、兄さんに語らなかった。

僕は、死にたくなかった。

・・・・・・死にたく、なかった。

すっと黙って、自分だけ、父上に選ばれるように、死に物狂いで努力し続けた。

だから、兄さんは、自分が殺したようなものだ。

・・・・・・ようなものだ?

・・・・・・違う。

僕が、兄さんを殺したんだ。

後日、自分の編んだ組紐が巻かれた腕だけが、山岳地帯で発見された。

葬儀は内々的に、参列者もなく行われた。

その後、城内の者には兄さんに関する情報、会話などは禁忌とされ、まるで存在自体が封印されたかのようだった。

それからの事は、正直あまり詳しく覚えていない・・・・・・。

娘が兄さんのことを聞いてきた気もする・・・・・・。

自分は肉体、精神共に疲弊し診療してもらったのは覚えている・・・・・・。

あとは、ひたすらに勉学の日々だった・・・・・・。

文字と政で、頭の中を満たしていった。

全てを、忘れるように。

忘れ去りたいかの様に。

ただ、後になって知った事といえば・・・・・・。

城外の国民は、王子が兄弟だった事実を、誰一人として知らなかったということだ。

民は知らないのだ。 現王子に、仲の良かった双子の兄がいたことなど・・・・・・。

―――現代 王城内 聖堂

王子「兄さんの亡骸など無い、形だけの墓・・・・・・」

王「最後にここへ来たのは、いつのことだったか」

王子「私は来る度にいつも思います。 こんな・・・・・・それも隠れるように、奥深くに・・・・・・」

王「うむ・・・・・・。 形だけの墓。 思い出が眠る場所だ」

王子「悩み事や嫌な事があると、よくここへ来て、兄さんに愚痴を聞いてもらっていました」

王「そうか・・・・・・。 お前達二人は本当に仲が良かったからな」

王子「私は振り回さればかりでしたけどね」

王「ああ。 本当に、元気でやんちゃな、優しい子だった・・・・・・」

王子「・・・・・・はい。 ですが、それも今日で最後です。 もう、ここに来る事は二度と無いでしょう」

王「・・・・・・?」

―――王城内 聖堂前 廊下

鍛冶屋「お、ここか?」

隊長「ああ。 とても王族の墓があるようには見えないだろう?」

鍛冶屋「まぁ、そう、だな。 というか、王子に兄がいたのか・・・・・・初めて知ったぞ」

騎士「それも当然だ」

隊長「ああ。 国家の最重要機密といってもいいな」

鍛冶屋「ちょっ!?」

隊長「しかし、私は王子より、“信頼出来るものには話してもいい”と許可を頂いている。 少しでも、兄君の事を知って欲しいとな」

鍛冶屋「はぁ・・・・・・。 肝が冷えるからやめてくれ!! マジで焦った!!」

騎士「ん? 中から声が・・・・・・。 誰か先客がいるのか?」

隊長「先客? ここは普段魔法で施錠されて、誰でも入れる様な場所ではないんだが・・・・・・」

鍛冶屋「ていうか、この辺、全然人がいないな」

騎士「人払いでもしているのでしょうか?」

隊長「ん? この声は・・・・・・・・・・・・え、王子?」

―――王城内 聖堂

王子「長かった・・・・・・」

王子「この日をどれだけ待ち望んでいたか」

王子「それも、ようやく報われる」

王「・・・・・・一体、何の事だ?」

12345678910