魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」 10/10

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竜「私も、お前の世界に居ても良いのか?」

娘「もちろん!」

竜「ふっ……ありがとう」

娘「こちらこそ、ありがとう!」

兵1「く、くそ……あの女、本当に強いとは」

兵1「失敗が都に伝わる前に……次の手を打たないと……」

兵1「妹……待っててくれ。これが終われば……お前とまた、暮らせるんだ」

兵1「人質なんて、もう終わりにしてやるからな……」

兵1「……ひとまずここに隠れるか」

洞窟─

魔王「遅い……」

魔王「遅いな……」

魔王「あいつらは一体、どこまで行って、何をしているのだか」

魔王「なあ卵よ。お前の母はまだ帰らんぞ」

魔王「……遅いな」

兵1「?!」

魔王「お」

兵1「ま、ま、魔物?!」

魔王「人間か……まさかこの卵を狙ってか?」

兵1「何だってこんなところに魔物がいるんだ?!」

魔王「違うようだな。しかし、ならば何故こんな場所に」

兵1「う、う、う、うわあああああああああ!!!」

魔王「む」

ガキィッン──!!!!

兵1「あ、あ……!!」

魔王「いきなり斬りかかるとは、不躾な奴だな。折角の剣を無駄にするな」

兵1「く、来るな!来るな化け物!!」

魔王「あれこれと注文の多い奴だな。少し、喧しいぞ」

兵1「ひ、ひぃ!」

兵1「た、た」

魔王「た?」

兵1「助けてくれ!この通りだ!!」

魔王「ほう」

兵1「何でもするから、い、命だけは!!」

魔王「……そうだな」

兵1「た、頼む!助けてくれ助け」

パチン

兵1「っっっああああああああっ!!!」

魔王「悪いな、人間よ」

兵1「あ、ぐ、だ、すけ……」

魔王「別段お前を殺すことに、意味などないのだ」

兵1「い……いもう、と」

魔王「ただ、私は昔決めてしまってな。これだけはどうしても破れんのだ」

兵1「…………」

魔王「私が救う人間は、あいつが最後でいい。とな」

魔王「そうだろう、娘よ」

娘「そうだね、お父さん」

魔王「何をして来たんだ、あちこち血で汚しおって。お前の血ではないようだが」

娘「ちょっと運動。ねー、主」

竜「ああ」

魔王「全く……」

娘「ねえねえ、お父さん。ちょっと聞いて欲しいことがあるの」

魔王「何だ?」

娘「私ね、これからもいっぱい頑張るよ。お父さんの、娘として!」

魔王「そうか。頑張れよ」

娘「だからね、ずっと側で……見ていてね」

魔王「勿論だとも」

娘「うん!」

娘「主も一緒に頑張ろうね!」

竜「ああ」

魔王「ふっ……一体何を始めるつもりだ?」

娘「平和のために、努力するの!」

魔王「平和か。良い言葉だな」

竜「全くだ」

娘「ふふ……いいよねー」

──……

魔王城─

娘「んー。今日もいい天気だねー」

魔王「そうだな」

娘「平和だねー。いいことだねー」

魔王「全くだらけおって……もう少し、しゃんとしろ」

娘「だって……今日は久々のお休みなんだもの。いいじゃない」

魔王「まあ、確かにそうだな……ゆっくりするか」

娘「うん。えへへー……」

バァンッ!

側近「お前は仕事だ馬鹿野郎!!」

魔王「……はあ」

娘「あ、大丈夫。片付けておいたよー」

側近「ああああ?!」

魔王「……ふう」

娘「お父さんと一緒にまったりしたいの!」

魔王「よしよし。よく出来た子だ。褒美に撫でてやろう」

娘「わーい」

側近「……頼むから、これに仕事させてくんね?外聞があるから」

娘「もう構わないじゃない。その分私が頑張るって決めたんだから」

側近「いやまあ……そうなんだけど、釈然としねえ……」

魔王「我が儘な」

側近「うるせえ。お前はこの件に関して口を開くな」

側近「ったく……調子はどうだ?」

娘「もう絶好調だよ」

側近「そうだろうなあ」

魔王「これでもう、あの国の三割を手中に収めたのだったな」

娘「うん。これからもじっくり追いつめていくつもり」

側近「ま、あまり無理はするなよ?」

娘「えへへ。ありがと」

側近「ああ、娘ちゃんにいくつか報告。あそこの主の卵、最近孵ったってさ」

娘「わあ!じゃあ早速、明日にでもお祝いに行かなきゃね!」

魔王「では、一緒に行くか」

娘「うん!」

側近「そしてもう一つ……」

側近「言ってた、隻腕の王族さん?そいつが主体になって、他国と同盟結んでうちに対抗するそうだ」

娘「……ふうん」

側近「如何なされますかな?我らが姫様は」

娘「当然、一網打尽よ」

側近「ふはは……だろうな。頼もしいよ、ほんと」

娘「この戦いが終われば、魔物の勢力は一体どれだけ増すんだろうね」

側近「さあね。ま、好きにやってみろよ。また、俺らがしっかりフォローするからさ」

娘「うん。よろしくね」

魔王「娘。無理はするなよ?」

娘「大丈夫!」

娘「私にはお父さんと、側近と、魔物達がいるんだもの。何だって平気よ」

魔王「そうか……良かったよ」

側近「嬉しいこと言うなあ。褒めてやるよ、よーしよし」

娘「わーい」

魔王「おい、私の許可なくそいつに触るな」

側近「堅いこと言うんじゃねえよ。お前がいない間、誰が面倒見てたと思ってるんだ」

魔王「む……」

娘「あはは」

娘「ねえ。私、頑張るね」

魔王「ああ」

娘「もっともっと平和な、世界のために!」

魔王「頑張ろうな……娘」

側近「嫌というほど協力してやるよ」

娘「うん!」

その昔、人を捨てた娘がいた。

それは理を断ち切る悪しき選択だった。

交わってはいけない縁だった。

取ってはいけない手だった。

愛してはいけないはずだった。

彼女はただ、一つを願っただけだった。

愛する者達が側にいて、共に歩んでいける当たり前の世界。

それは果たして悪なのか。善なのか。きっと誰にも分からない。

ただ一つ言えるのは……。

娘「さーて、まずはご飯にしましょ。お腹減ったよ」

魔王「そうだな、昼にするか」

側近「じゃあ俺もご一緒させて頂こうかね」

魔王「親子の団欒を邪魔する気か」

側近「当たり前だろ。なんか腹立つんだよ」

魔王「くっ……魔王に向かって、何だその言い草は」

娘「あーもう、二人とも喧嘩しないの!」

彼女は平和をこの上なく、愛していた。

それだけだった。

魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」

【終】

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