竜「私も、お前の世界に居ても良いのか?」
娘「もちろん!」
竜「ふっ……ありがとう」
娘「こちらこそ、ありがとう!」
兵1「く、くそ……あの女、本当に強いとは」
兵1「失敗が都に伝わる前に……次の手を打たないと……」
兵1「妹……待っててくれ。これが終われば……お前とまた、暮らせるんだ」
兵1「人質なんて、もう終わりにしてやるからな……」
兵1「……ひとまずここに隠れるか」
洞窟─
魔王「遅い……」
魔王「遅いな……」
魔王「あいつらは一体、どこまで行って、何をしているのだか」
魔王「なあ卵よ。お前の母はまだ帰らんぞ」
魔王「……遅いな」
兵1「?!」
魔王「お」
兵1「ま、ま、魔物?!」
魔王「人間か……まさかこの卵を狙ってか?」
兵1「何だってこんなところに魔物がいるんだ?!」
魔王「違うようだな。しかし、ならば何故こんな場所に」
兵1「う、う、う、うわあああああああああ!!!」
魔王「む」
ガキィッン──!!!!
兵1「あ、あ……!!」
魔王「いきなり斬りかかるとは、不躾な奴だな。折角の剣を無駄にするな」
兵1「く、来るな!来るな化け物!!」
魔王「あれこれと注文の多い奴だな。少し、喧しいぞ」
兵1「ひ、ひぃ!」
兵1「た、た」
魔王「た?」
兵1「助けてくれ!この通りだ!!」
魔王「ほう」
兵1「何でもするから、い、命だけは!!」
魔王「……そうだな」
兵1「た、頼む!助けてくれ助け」
パチン
兵1「っっっああああああああっ!!!」
魔王「悪いな、人間よ」
兵1「あ、ぐ、だ、すけ……」
魔王「別段お前を殺すことに、意味などないのだ」
兵1「い……いもう、と」
魔王「ただ、私は昔決めてしまってな。これだけはどうしても破れんのだ」
兵1「…………」
魔王「私が救う人間は、あいつが最後でいい。とな」
魔王「そうだろう、娘よ」
娘「そうだね、お父さん」
魔王「何をして来たんだ、あちこち血で汚しおって。お前の血ではないようだが」
娘「ちょっと運動。ねー、主」
竜「ああ」
魔王「全く……」
娘「ねえねえ、お父さん。ちょっと聞いて欲しいことがあるの」
魔王「何だ?」
娘「私ね、これからもいっぱい頑張るよ。お父さんの、娘として!」
魔王「そうか。頑張れよ」
娘「だからね、ずっと側で……見ていてね」
魔王「勿論だとも」
娘「うん!」
娘「主も一緒に頑張ろうね!」
竜「ああ」
魔王「ふっ……一体何を始めるつもりだ?」
娘「平和のために、努力するの!」
魔王「平和か。良い言葉だな」
竜「全くだ」
娘「ふふ……いいよねー」
──……
魔王城─
娘「んー。今日もいい天気だねー」
魔王「そうだな」
娘「平和だねー。いいことだねー」
魔王「全くだらけおって……もう少し、しゃんとしろ」
娘「だって……今日は久々のお休みなんだもの。いいじゃない」
魔王「まあ、確かにそうだな……ゆっくりするか」
娘「うん。えへへー……」
バァンッ!
側近「お前は仕事だ馬鹿野郎!!」
魔王「……はあ」
娘「あ、大丈夫。片付けておいたよー」
側近「ああああ?!」
魔王「……ふう」
娘「お父さんと一緒にまったりしたいの!」
魔王「よしよし。よく出来た子だ。褒美に撫でてやろう」
娘「わーい」
側近「……頼むから、これに仕事させてくんね?外聞があるから」
娘「もう構わないじゃない。その分私が頑張るって決めたんだから」
側近「いやまあ……そうなんだけど、釈然としねえ……」
魔王「我が儘な」
側近「うるせえ。お前はこの件に関して口を開くな」
側近「ったく……調子はどうだ?」
娘「もう絶好調だよ」
側近「そうだろうなあ」
魔王「これでもう、あの国の三割を手中に収めたのだったな」
娘「うん。これからもじっくり追いつめていくつもり」
側近「ま、あまり無理はするなよ?」
娘「えへへ。ありがと」
側近「ああ、娘ちゃんにいくつか報告。あそこの主の卵、最近孵ったってさ」
娘「わあ!じゃあ早速、明日にでもお祝いに行かなきゃね!」
魔王「では、一緒に行くか」
娘「うん!」
側近「そしてもう一つ……」
側近「言ってた、隻腕の王族さん?そいつが主体になって、他国と同盟結んでうちに対抗するそうだ」
娘「……ふうん」
側近「如何なされますかな?我らが姫様は」
娘「当然、一網打尽よ」
側近「ふはは……だろうな。頼もしいよ、ほんと」
娘「この戦いが終われば、魔物の勢力は一体どれだけ増すんだろうね」
側近「さあね。ま、好きにやってみろよ。また、俺らがしっかりフォローするからさ」
娘「うん。よろしくね」
魔王「娘。無理はするなよ?」
娘「大丈夫!」
娘「私にはお父さんと、側近と、魔物達がいるんだもの。何だって平気よ」
魔王「そうか……良かったよ」
側近「嬉しいこと言うなあ。褒めてやるよ、よーしよし」
娘「わーい」
魔王「おい、私の許可なくそいつに触るな」
側近「堅いこと言うんじゃねえよ。お前がいない間、誰が面倒見てたと思ってるんだ」
魔王「む……」
娘「あはは」
娘「ねえ。私、頑張るね」
魔王「ああ」
娘「もっともっと平和な、世界のために!」
魔王「頑張ろうな……娘」
側近「嫌というほど協力してやるよ」
娘「うん!」
その昔、人を捨てた娘がいた。
それは理を断ち切る悪しき選択だった。
交わってはいけない縁だった。
取ってはいけない手だった。
愛してはいけないはずだった。
彼女はただ、一つを願っただけだった。
愛する者達が側にいて、共に歩んでいける当たり前の世界。
それは果たして悪なのか。善なのか。きっと誰にも分からない。
ただ一つ言えるのは……。
娘「さーて、まずはご飯にしましょ。お腹減ったよ」
魔王「そうだな、昼にするか」
側近「じゃあ俺もご一緒させて頂こうかね」
魔王「親子の団欒を邪魔する気か」
側近「当たり前だろ。なんか腹立つんだよ」
魔王「くっ……魔王に向かって、何だその言い草は」
娘「あーもう、二人とも喧嘩しないの!」
彼女は平和をこの上なく、愛していた。
それだけだった。
魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」
【終】