魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」 1/10

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この世界には、魔王がいました。

侵略や虐殺を繰返す魔王に、人間達は遥か昔から苦しめられていました。

ある時どこかの国の王様が、遂に魔王を封じることに成功します。

これで人々には、平和が約束され……──たかに思われました。

その後少しの時を経て、魔王の封印が解かれてしまったのです。

再び世に現れた魔王は自身を封じた国を滅ぼし、魔王城へと戻っていきました。

こうして振り出し。こうして元の木阿弥です。

ですが少しだけ、以前と異なる点がありました。

魔王の部屋─

魔王「………またか」

娘「………」

魔王「自分の部屋で寝ろと言うのに……年頃の娘が全く…(ブツブツ)」

娘「むー……にゃふ」

魔王「こら、起きろ」

娘「ふぁあ……おとーさんだ」

魔王「ああ父だ。お早う」

娘「おはよー」

魔王に、娘ができていました。

魔王「お前、いい加減にしろよ」

娘「えー……」

魔王「えー、ではない。いつまで私と寝所を共にする気だ」

娘「半永久的?」

魔王「…改める気が全くないという事が理解できた」

娘「いいじゃない、減るもんじゃなし」

魔王「お前の何かが着実に磨耗されているのだが」

娘「お父さんは良い人でもいるの?」

魔王「いいや」

娘「そして、私にもそんな人はいません!」

魔王「ふっ…そんな者、存在を確認した次点で消炭だ」

娘(…自分も大概だって、自覚ないんだろうなー)

娘「ま、まあ。こういう次第で何も問題はないのです!以上!」

魔王「……腑に落ちん」

娘「ほら、早く食べないと朝ご飯が冷めちゃうよ」

魔王「…ああ」

娘「おいしいねー」

魔王「そうだな、美味いな」

ギイッ

側近「よーっす」

魔王「側近か」

娘「側近おはよー」

側近「今朝も娘ちゃんは魔王と一緒か。物好きだねー」

娘「競争相手が少なくていいもんだよ!」

側近「なるほど」

魔王「待て、お前達」

側近「さて、気を取り直して……今日こそ仕事をしてもらうぞ、魔王」

魔王「む……本日は体調が優r」

側近「うるせえ!お前はいつになったら調子が良くなるんだ!復活してもう何月経った?!!」

娘「気が向いたら元気になるんだよねー」

魔王「そうだな。気が向けばな」

側近「うっぜえええ…」

側近「ったく…娘ちゃんは毎日自分の分片してから、お前と遊んでるっつーのに…」

魔王「うむ。よく出来た、自慢の娘だ」

娘「えへへ…」

側近「娘ちゃんが出来る分、お前のダメさが目立つんだがなあ……」

娘「お、お父さんは駄目じゃないよ!」

娘「そりゃ…お父さんはちょっと魔王っぽくないし、ニートだし、取り得といえば園芸くらいだけど…」

娘「それでも、私の自慢のお父さんなの!」

魔王「………ありがとう、娘よ」

娘「……お父さん」

側近「帰りてえ」

側近「駄目かどうかはもういい…とりあえず、今日こそ仕事しやがれ」

魔王「ふっ………愚かな。この机の山に挑むと言うのか」

側近「山を作ったのはてめえだろうが。今日だけと言わず終わるまで監禁して」

娘「あ、それなら全部私が終わらせておいたよ?」

側近・魔王「何、………だと?」

娘「昨日、夜ご飯の後暇だったから…つい」

魔王「………どうだ」

側近「(パラパラ)……完璧。相変わらず憎たらしいほどチートだねえ」

娘「今日の分も、私がついでにやっておいたの!これで今日も一日遊べるよ!」

魔王「……すまんな、お前に頼ってばかりで」

娘「そんな…っ!いいんだよお父さん!」

娘「お父さんと一緒にいれるなら、私は何だって頑張るんだから!」

魔王「娘……それほどまでに私を…」

娘「だって……親子でしょ?」

魔王「ああ…ありがとうな(ナデナデ)」

娘「えへへー…」

側近「………」

夜─

コンコン

娘「はーい」

側近「…俺だけど、ちょっといいかな?」

娘「もしかして夜這い?」

側近「んな死に直結するような真似誰がする?!入るぞ!」

娘「はいはーい」

娘の部屋─

娘「すぐお父さんの部屋に行くから、手短にね」

側近「すぐ済む。ちょっと魔王のことで話があるんだ」

娘「お父さん?お父さんがどうかしたの?!」

側近「……どうにか、なるかもしれないと言うか…」

娘「?」

側近「あいつが不在の間、形式的に魔王は娘ちゃんだっただろ?」

娘「う、うん。側近や城の皆のお陰で、魔王ができたんだよ」

側近「いいや、娘ちゃんが頑張ったからだろ。俺達はちょっと背中を押しただけさ」

娘「…ありがと」

娘「……でも、お父さんが戻ってきた今、私の身分はただのお付き。側近と大して変わらないよ」

側近「ああ…でもそれが問題なんだ」

娘「……私、何かやっちゃった?」

側近「とんでもない。娘ちゃんは完璧だ」

側近「ただ、完璧すぎる」

娘「完璧、すぎる……?」

側近「あいつは…魔王は元々仕事が出来るというよりも…その人柄で、それなりにまあまあの支持を得ていた」

娘「先代様がやり手な魔王だったから、逆にお父さんが魔物の皆に受けたんだっけ」

側近「ああ……先代様は魔物に対しても無慈悲なお方だった…だから皆、疲れてしまった」

側近「だが、魔王の支持が今後揺らいで来るかもしれない」

娘「……私が、出しゃばるから? やっぱり元々が人間だと…皆嫌なのかな……」

側近「城の魔物は皆娘ちゃんの味方だ。誰も文句は言わんし、応援してるよ」

娘「な、なら別に……」

側近「世界中に、魔物は数多く存在している。城にいる魔物なんざ、ごく僅かだ」

娘「あ…」

側近「率直に言おう。大半の魔物たちは未だ、娘ちゃんのことを快く思ってはいないんだ」

娘「………」

側近「最近噂になってるんだよ。魔王が復活したのに、偽の魔王が実権を握ったままだ…って」

娘「偽……か。私はまだ、本物にはなれないのかな…」

側近「無責任な話だよ。あんまり気にすんな」

側近「しかし、このまま娘ちゃんが活躍して、魔王がニートのままだと……城にいる奴等は娘ちゃん、それ以外は魔王を立てるだろう」

娘「対立の火種になるかもしれない……か」

側近「ああ。どれくらい大きくなるかも分かんねえし、あくまで可能性の話だがな」

娘「ごめんなさい…私、何も考えてなかった……」

側近「いや…娘ちゃんが謝ることはねえよ。十割方あいつが悪いんだし」

娘「……どうすればいいのかな」

側近「娘ちゃんには少しの間休んでもらって…あいつにみっちり仕事をさせようと思う」

娘「そ、それは……どっちも無理だよ」

側近「おお。言い切ったか」

娘「だって…私がやった方が確実で正確だと思うと……ついつい手が」

側近「だからそれが駄目なんだって」

娘「うん、分かった。心を鬼にして…お父さんを頑張らせる」

側近「難しく考えなくても、娘ちゃんが言えばあいつはやる気を出すと思うぞ」

娘「ふふ……そうだったね。あの頃はお父さん、私が見てるからって、一生懸命お仕事してたなあ」

側近「大体娘ちゃんは働きすぎだ。たまには気分転換でもしたらどうだ?」

娘「うーん…それも難しいよ…」

娘「私、ずっと魔王だったから……お休みって、何をやればいいのか分からないよ…」

側近「好きなことをして時間を潰せば…ああ、駄目だな……」

娘「私の趣味は仕事とお父さんだからね!」

側近「まあ…その辺は明日考えようか…じゃあ、お休み」

娘「うん。お休みなさい」

魔王の部屋─

娘「……」

魔王「全く、また今夜もか…………どうした」

娘「え」

魔王「顔色が優れぬ。何かあったのか」

娘「何でもないよ!この通り、ピンピンしてるよ!」

魔王「…そうか」

魔王「まあいい。ほら、こちらに来い」

娘「……うん」

魔王「お前が言いたくなるまで、私は何も聞かんよ。さあ、眠れ」

娘「お父さん…」

魔王「何だ?」

娘「私ね、お父さんを守るの」

魔王「ほお…」

娘「昔お父さんが私を攫って守ってくれたみたいに…今度は私が守ってあげるの」

魔王「………私も、お前を守って…共に生きたい」

娘「同じだね」

魔王「ああ。同じだな」

魔王「心配はいらん。私はもう、どこにも行かない」

娘「うん……ねえ、お父さん」

魔王「何だ?」

娘「私ね、魔王やってる、お父さんが見たいなあ…」

魔王「……分かった。お休み、娘」

娘「お休みなさい、お父さん」

娘(……お父さんは仕事…なら、私は何をすべきなんだろ)

娘(私は私で…魔物の信頼を築かなきゃいけない……)

娘(元人間の私が、そう簡単に受け入れてもらえるとは思わないけど…何とかしなきゃ)

娘(あ…)

娘(そうだ。あれ…あの仕事、私が片付けちゃお……)

次の日─

魔王「お早う……今朝は、早いんだな」

娘「おはよ。ちょっと準備があるから、早起きしたんだ」

魔王「準備?」

娘「うん。ちょっとの間、出張します」

魔王「な……………………?!」

魔王「側近!側近!!」

側近「朝からうるせえよ…」

魔王「一体どういうことだ?!!」

側近「何がだよ」

魔王「娘が出張すると言い出した!!」

側近「……あ、ああ…なるほどね」

娘「報告書によると……この地域に住む魔物が、最近暴れてるみたいなの」

側近「最近、近くの人間を食い散らかしてるようだ…ってあれか。討伐隊が出るって噂もあるみたいだな」

魔王「そんな所に何をしに行くと言うのだ?!」

娘「報告の事実確認と、今後の対策を練るために現地調査をしに行くの」

魔王「だ、だが別にお前が行かずとも…」

娘「ううん。私が行くよ」

娘「私、ずっと城の中でばかりお仕事してたから…たまには外の仕事もいいかな、って」

魔王「しかし、外は危険だ!お前にもしものことがあれば…私は……私は!」

側近「国一つ余裕で滅ぼす魔王後継者に、何を言ってんだお前は」

娘「そうそう。私のことなら、心配いらないよ!」

魔王「くっ………!!」

魔王「側近!」

側近「何だよ」

魔王「魔王直々に命ずる!お前が代わりに行け!!」

側近「あー、それ却下」

魔王「何故だ?!!!!!」

側近「娘ちゃんは仕事がもう他に無い。俺とお前にはある」

魔王「何を言うか私も無いぞ!昨日娘が片付けてくれたからな!」

娘「お父さん、威張れることじゃないよ」

側近「残念。今日の分がほれ、この通り山と」

魔王「な、ん………だと?」

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