魔王の娘「今日も平和でご飯がおいしい」 2/10

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10

魔王「この量は、私一人分………か?」

側近「勿論、留守中の娘ちゃんの分も入れてっから。ま、死ぬ気でやればいつか終わるんじゃね?」

娘「私も頑張るから、お父さんも頑張ってね♪」

魔王「く……っ!何だお前達その満面の笑みは!」

娘・側近「別にー」

魔王「実の娘と側近にハブられる、だと…?!」

魔王「……娘」

娘「じゃあ、行ってくるね!」

魔王「待て。忘れ物は無いか?」

娘「大丈夫だよ。それじゃ」

魔王「待て、顔色が冴えぬぞ。熱があるのではないか?やはり出張は取り止め」

側近「はいはい。そこまで」

魔王「む………」

娘「大丈夫だよ。そりゃ、私もちょっとは不安だけど…未来の魔王として、色んなことに挑戦して、経験を積まないとね!」

魔王「娘…」

娘「だから、お父さんは私がいない間、ちゃんと現役魔王らしく仕事すること!」

魔王「……分かった。お前がそう言うなら…努力しよう」

娘「約束だよ?」

魔王「ああ。お前も、くれぐれも無茶はするなよ」

娘「約束します!」

魔王「……良いだろう。行け」

娘「…ありがと」

魔王「お前は一度言い出したら、他の言葉など聞かんからな」

側近「娘ちゃん、娘ちゃん」

娘「何?」

側近(…気ぃ使わせちまって、悪かったな)ヒソヒソ

娘(いいよ。お父さんのことよろしくね)ヒソヒソ

側近(ああ……みっちり仕事漬けにしてやんよ)ヒソヒソ

娘(ふふ…これで仕事する習慣がつけばいいね)ヒソヒソ

魔王「あからさまな内緒話をするな。気になるだろうが」

側近「じゃあま…気をつけてな」

娘「うん!」

魔王「本当に共はいらんのだな…?」

娘「私一人の方が人の町に潜り込みやすいしね。そんなに大きな仕事じゃないし、平気だよ」

魔王「そうか……分かった」

魔王「では……行って来い」

側近「行ってらっしゃい」

娘「ありがと!行ってきます!!」

娘はワープの呪文を唱えた!

魔王「本当に、気をつけてなーーー!!!」

魔王「……はあ」

側近「早々に溜め息か。長くても五日で帰ってくるんだから、ちっとは我慢しろよ」

魔王「いや。昔は泣いてばかりいたというのに…大きくなりおったな…と」

側近「………そうだよな。お前にとっちゃ、ついこないだまで娘ちゃんはちっちゃくて…」

魔王「よし、私も負けてはおれんな。リハビリがてら、仕事でもするか」

側近「おおうツッコミ待ちか?」

某国某街─

娘「わあ……(キョロキョロ)」

娘(報告書にもあったけど…本当に大きな街…)

娘(どこを見ても人間ばっかり…当たり前だけど)

娘(人も一杯だけど……お店も一杯…)

娘(平和そうだけど…本当にこの近くで、魔物が暴れているのかなあ……)

娘「……?」

娘「……」

娘「……(パク)」

娘「……♪」

娘「はっ………?!」

娘(違う!何で私観光しちゃってるの?!何で買い食いしちゃってるの?!)

娘(こんな庶民派な魔王は……駄目だよね、そうだよね……)

娘(うう…魔物に認めてもらうため、まず手近な所からポイントを稼ごうっていう緻密な計画が……)

娘(こんなところ誰かに見られたら…もう消すしか)

店主「なあ。お嬢ちゃん」

娘「ふぶっ?!」

店主「何だい、そんなに驚くこたねえだろ…」

娘「ご、ごめんなさい……何かご用でしょうか…?」

店主「いやなに。ちょっと気になったもんだから」

娘「?」

店主「お嬢ちゃんはこの街の人間ってわけでもなさそうだし…ひょっとして一人旅かい?」

娘「はい、そうです…けど」

店主「じゃあ……ここから南の方角に、山脈があるだろ?」

娘「あ、はい…」

店主「あの山脈の奥には、凶暴な竜が住んでいるんだ」

店主「最近、その竜が山を下りて人を襲うようになってね……山近くの街道で出くわすことがあるらしい」

娘「それは…本当なんですか?」

店主「昨日も犠牲者が出たところだ。だから南には行かないほうがいい」

娘「……ご忠告、ありがとうございます」

店主「何、お嬢ちゃんみたいなべっぴんさんを、危ない目に会わせらんねえからな」

店主「しかし物騒な世の中になってきたもんだねえ」

娘「……半年ほど前に滅んだ隣国、ですか?」

店主「王都に残った国王も兵も、一人残らず皆殺しだろ…本当、世も末だよ」

娘「そ、そうですね……」

店主「その上、魔王の封印が解けたとあっちゃ……次に狙われるのは、この国かもしれん」

娘「今のところ、そんな予定は…」

店主「え?」

娘「い、いえ!なんでもありません!」

店主「まあ何にせよ…あの山にだけは近付かん方がいい。命が惜しいならな」

娘「分かりました。そんなに恐ろしい場所があるだなんて、私ちっとも知りませんでした…」

店主「最近の話だしなあ。ま、国王様から直々に討伐隊が派遣されるって噂だし、もう少しの辛抱さ」

娘「……そうですか。貴重なお話、どうもありがとうございました」

店主「いやいや。まあ、気をつけてな」

娘「はい」

娘(………報告書通り)

娘(嘘をついているようには見えなかったし、そんなことをしてもメリットが無い)

娘(討伐隊の話は噂でも…魔物は本当に騒ぎになっている様子……)

娘(これは……やっぱり直接確かめるのが一番か……な)

山─

娘「うっわあ……」

娘「どうやら…人はあんまり来ないみたいだね…手付かずの大自然か…」

娘「はあ…暗いしジメジメするし進みにくいし…」

娘「木とか切り倒しながら進んじゃ駄目……だよねー…」

娘「うう……独り言が多くなる虚しさ…」

娘「……はあ」

娘「……」

娘「………」

娘「……………」

洞窟・入り口─

娘「……この奥、か」

娘「大丈夫。きっと、いい人…いや、いい魔物だよ…」

娘「別に戦いに来たわけでもないんだし……でも城の外に住む魔物に会うのは初めてだし…」

娘「うう…………よし!」

娘「行くか」

洞窟・奥─

娘「………」

竜「………」

娘「お前がここの主か?」

竜「………」

娘「答えろ」

竜「貴様は……人、か?」

娘「違う。もう、人ではない」

竜「…そうか、ならば貴様が…あの偽の王か」

娘「……」

竜「ふん」

竜「陛下が消え……側近殿が救出の算段を立てていると聞いてはいたが……」

娘「………」

竜「真相を知り驚いたよ。人間が魔王を騙るとはな」

娘「………私はもう、魔王ではない。その名は父上にお返しした」

竜「父、か…陛下もお戯れが過ぎたようだ」

娘「その言葉……父上への侮辱と取るが、構わぬな?」

竜「くっくっく………若い。若いな偽の王よ」

竜「与太話はここまでだ。わざわざ訪ねて来るとは、何用だ」

娘「お前が人間を襲っているという話を耳にした」

竜「……ふん」

娘「何故、今頃になって人間を煽るような真似をする?これまで、お前は縄張りである山を出ることは無かったと聞くが…」

竜「言えぬな……」

竜「…貴様には、言わぬ」

娘「………そうか」

竜「どうする、偽の王。従わぬ我を殺めるか?」

娘「そのような無粋な真似は好まぬ。喋りたくなるまで私は待つよ」

竜「…………」

娘「それに、今日は顔を見せに来ただけだ。また明日来る」

竜「……勝手にしろ」

洞窟・入り口─

娘「……ふう」

娘「き、緊張した…」

娘(気難しそうだけど……別に訳ありって感じはしなかったな…)

娘(気長に頑張ろう………きっと、分かってくれるはずだから)

娘「『偽の王』、か……」

娘「私はいつまで経っても…偽物のままなのかな」

娘「………ううん」

娘「こんなこと言っちゃ、お父さんが悲しむよね」

娘「私は私の本物」

娘「それで……いいんだよね」

街─

娘「さてと。宿を探さないと……ん?」

娘「あっちの方が騒がしいな…」

娘「まさか…また人間が襲われたとか」

娘「時間もあるし、見に行ってみよう」

ザワザワ…

騎士「皆の者、長旅ご苦労だった。今夜はゆっくり体を休めてくれ」

騎士「明日からはこの周辺の巡回と、遺族への聞き込みを行う」

騎士「気を引き締めて、任務に臨んでくれ」

兵達「はっ!!」

娘「これは…」

店主「おお、さっきのお嬢ちゃん!見ろよ!すげえ事になったぞ!」

娘「…本当に来ちゃったんですね……兵が」

店主「ああ!国王様も仕事が早いぜ!これでひとまずは安心だな!」

娘「ええ……」

娘(確かにあの鎧に刻まれた紋章は王家のもの……つまり本物)

娘(数は二十ほど。装備を見る限り、今回の目的は討伐ではなく視察)

娘(しかし、事態が悪化したことに変わりはない)

娘(下手をすると……本当に厄介なことになる…!)

娘(とりあえず私は目立たないようにしないと……)

店主「お嬢ちゃんどうした、顔色が悪いようだが…」

娘「あ……すみません。ちょっと考え事をして…大丈夫です」

店主「そうかい?ああそうだお嬢ちゃん、今夜の宿はもう決めてあるのかい?」

娘「い、いえ。まだですけど」

店主「俺は宿屋もやってるんだ。お嬢ちゃんは何やら訳ありみたいだし特別に安くしとくよ、どうだい?」

娘「では……よろしくお願いします」

店主「おう!」

騎士「……?!」

兵「どうしました、隊長殿」

騎士「あの女性は……」

兵「おお…すっげー美人ですね。隊長殿はああいうのが好みで……って聞いてますか隊長殿」

騎士「まさか…いや、そんなはずは……」

兵「もしもーし」

翌日─

娘「ふああ……むう」

娘「一人で寝たのは久々だー」

娘「そしてやっぱり…未だに一人じゃ起きられない私……」

娘「もうお昼か…これじゃ、お父さんのこと馬鹿にできないなぁ…」

娘「お昼ご飯を食べたら、また主の所に行こーっと」

娘「兵に見つからないようにしないとなあ…絶対止められちゃうもの」

娘「とにかく、今日からはなるべく目立たないようにして…」

娘「目を合わせないで、姿を見かけたらすぐ逃げて……って」

娘「私…犯罪者みたいだなあ……まあ、悪いことは色々したけどさ…」

娘「おは……ううん。今日は、おじさん」

店主「お、やっと起きたかお嬢ちゃん」

娘「ははは…お部屋が良くって、ぐっすり眠れましたよ」

店主「そりゃあ嬉しいね。…って、そうだ、お嬢ちゃんにお客さんが来たんだよ」

1 2 3 4 5 6 7 8 9 10